東の空がうっすらと白み始めた、夜明け前。 デストーロ邸の裏門には、最小限の荷物を背負った二人と、それを見送る私とお父様が立っていた。 「……シーラ様。今まで、本当にありがとうございました」 「一ヶ月後にまた戻ってくるけどね。永遠の別れみたいに言わないで。……本当に」 ネモが深々とお辞儀をする。その目にはうっすらと涙が浮かんでいたけれど、もう迷いの色はなかった。 隣に立つライト様は、まだ鼻目を真っ赤に腫らしているものの、その表情は近衛騎士団副隊長らしい引き締まった男の顔に戻っている。 「ネモを、頼みましたわよ。もし北のシュヴァルツランドに迷い込んだら――」 「わかってる。迷わず北の国境前でネモを逃がして、僕は毒を飲む。……絶対に、そんなことにはさせないけどね」 ライト様は胸ポケットに忍ばせた二つの小瓶を上からそっと叩いた。 よし、覚悟は完璧ですわね。 「あはは、ライト様、道中気をつけてね〜!もし駆け落ちはダメだったな〜って思ったら、いつでも戻ってきていいからね? 二人の『縁』、綺麗に切り直してあげるから!」 「ひぃっ……! ぜ、絶対に無事に辿り着いて見せますから!!」 お父様の悪意のない(しかし研ぎ澄まされた)笑顔に、ライト様が背筋をピシッと伸ばして叫ぶ。 まったく、うちの父は最後まで容赦がありませんわ。 「……行きなさい。ちゃんとドルトブルクに着いてヴァレン神官に会うのよ?仮に、駆け落ちがバレても、西のヴェストライヒ帝国に入れば、この国の法律もゼクス王子の権限も届きません」 「「はいっ!!」」 二人は一度だけ力強く頷き合うと、朝もやが煙る通りへと駆け出していった。 一度も振り返ることなく。 ……さて。 「行っちゃったねぇ、シーラ。……で、これからどうするんだい?」 お父様がのんびりとした口調で尋ねてくる。 私は小さく息を吐き出し、背後の屋敷――そしてその先にある王宮の方角を仰ぎ見た。 「どうするもこうするもありませんわ。ライト様は『恨みを買った令嬢とその家族の怒りが収まらないため、ほとぼりが冷めるまでどこかへ逃亡した』、ネモは『溜まった有給の消化』。これで押し通します」 「ゼクスくん、納得してくれるかなぁ?」 「大丈夫ですわ。あのクソ王子は『僕の権限で休暇を許可する』と
آخر تحديث : 2026-07-21 اقرأ المزيد