瑛子のもとに鑑定結果が届いたのは、詩乃が朔弥を拒絶した翌日の朝だった。 鷹宮家本邸の応接室には、磨き上げられた銀の盆と、湯気の立つ紅茶が置かれている。窓の外では庭師が無言で枝を整えていた。すべてがいつも通りだった。人の人生が紙一枚で揺らぐ朝でさえ、鷹宮家の空気は乱れない。 瑛子は封筒を開いた。 芽衣が怜司へ見せた鑑定書ではない。鷹宮家が独自に進めていた、別経路の正式な結果だった。検体管理、採取記録、照合手順。すべてが整えられている。 奏音と怜司の親子関係。 その結論は、疑いようのない形で記されていた。 瑛子は紙面を見下ろし、ゆっくりと微笑んだ。「やはり、鷹宮の子だったのね」 声には、祖母としての温かさなどなかった。 見つけたのは子供ではない。価値ある血筋。使える証明。鷹宮家の正統を補強する札。その程度の熱しか、彼女の目には浮かんでいない。 一方、芽衣の腹の子に関する鑑定は保留となっていた。 サンプルの不備。 鑑定経路の不自然さ。 担当者の退職扱い。 書類の署名と管理番号の不一致。 整っていたはずの嘘が、端から静かに崩れ始めている。 瑛子はその報告書を横へ置いた。 芽衣をすぐに切る気はなかった。あの女にはまだ使い道がある。怜司の感情を揺らし、詩乃を追い詰め、世間の目を逸らすには便利な駒だった。 だが、鷹宮の血筋に手を出した代償は、いずれ払わせる。 瑛子はベルを鳴らし、使用人へ怜司を呼ぶよう命じた。 同じ頃、怜司もまた、別室でその結果を受け取っていた。 奏音は自分の娘。 その文字を見た瞬間、胸の奥に湧いたものを、怜司はすぐには名づけられなかった。喜びか。安堵か。怒りか。喪失か。 父親だと証明された。 そのはずだった。 だが同時に、その紙は怜司へ突きつけていた。お前は五年間、父親ではなかった、と。 奏音が初めて泣いた夜も、初めて笑った日も、熱に苦しんだ朝も、薬を嫌がって詩乃を困らせた時間も、怜司は何も知らなかった。詩乃の育児記録には、奏音の五年が詰まっていた。そこに自分の名前は一度もなかった。 血は証明された。 だが、父親であった時間は、どこにもなかった。 怜司は鑑定書を握りしめた。 紙の端がわずかに歪む。 その頃、詩乃は奏音の病室にいた。 奏音は眠っている。昨夜より呼吸は落ち着いていたが、顔色はま
Last Updated : 2026-08-02 Read more