翌朝、出社してすぐ、朱音に顔を見られた。「昨日、ラーメンだった顔してる」「どんな顔?」「普通に楽しかった人の顔」「ラーメンはおいしかったよ」「ラーメンだけ?」「……味噌だった」「味の話に逃げた」 朱音はにやにやしながら、自分の席へ戻っていく。 否定したいのに、できない。 昨日の夜のことを思い出すと、胸の奥がまだ少し温かい。 券売機の前で真剣に悩む玲央さん。 写真の湯気がおいしそうだったから、という選び方。 次も、と自分から言えたこと。 それは、思っていた以上に私の中に残っていた。 けれど、浮かれてばかりもいられなかった。 午前中、上司から声がかかった。「朝比奈さん、少しいいですか」「はい」 会議室へ入ると、事業推進室の担当者も同席していた。 テーブルの上には、結和ケア試験導入の中間共有資料が置かれている。「来月の部内共有で、朝比奈さんから短く話してもらいたいと思っています」「私が、ですか」「はい。成功報告ではありません。現場の声を受けて、どう修正しているか。その過程を共有したいんです」 成功報告ではない。 その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。「まだ完成していませんが」「だからです」 上司は淡々と言った。「完成した資料より、途中で何を削り、何を残したかの方が、他の案件にも参考になります。特に、現場向け資料を作る部署には意味があると思います」 途中の判断。 その言葉は、最近何度も私の周りに出てくる。 完成していないことは、以前なら弱みに思えた。 でも今は少し違う。 迷ったからこそ、説明できることがある。 直している途中だからこそ、話せることがある。「分かりました。準備し
Last Updated : 2026-09-01 Read more