別部署からの相談は、少しずつ増えていた。 増えていたと言っても、一日中呼ばれるほどではない。けれど、資料の構成で迷った時、住民向けの文言が固くなりすぎた時、現場向けと管理者向けの説明が混ざった時に、「朝比奈さんに一度見てもらおう」という声がかかるようになっていた。 頼られることは、嬉しい。 でも、嬉しいだけでは済まないことも、私は少しずつ分かってきていた。 その日、相談されたのは事業者向けの説明資料だった。 最初に見る約束だったのは、説明会の冒頭で配る一枚だけだったはずだ。けれど会議室に入ると、机の上には分厚いファイルが置かれていた。「すみません、朝比奈さん。ついでにこの想定問答も見てもらえますか。住民向け案内ともつながるので」 担当者は急いでいる様子だった。 月末の説明会に間に合わせたいのだろう。焦りは分かる。私も、以前ならその焦りを見ただけで、引き受けなければと思っていた。 けれど、私はファイルに手を伸ばす前に一度止まった。 想定問答には、制度の判断が入る。 問い合わせ対応には、担当部署としての責任がある。 私が言葉の順番だけを見ているつもりでも、うっかり内容に踏み込めば、後で誰かを困らせるかもしれない。
Last Updated : 2026-09-11 Read more