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All Chapters of Real: Chapter 171 - Chapter 180

198 Chapters

42話

「おいおいおいおい、何だ問題か?」 先頭に立つガタイのいい男が叫ぶ。 髪はドスの効いた紫色。身長は百八十程、東条よりデカい。 一目見て分かる悪人面だが、無邪気さが残っているというか、ガキ大将という表現が一番しっくりくる。「あ、毒島!このおっさん早く追っ払ってよ!」「あ?」「で、では」 毒島の姿を見た大人達は、そそくさとその場から去ってしまった。(何だ?そんなに影響力がある人間なのか?……それに……)「またあいつ等か。そろそろシメっか」 物騒なことを口にする彼を、東条はじっくりと観察する。 その視線に気づいた彼はニヤリと笑い、手を差し出した。「|毒島 剛毅《ぶすじま ごうき》だっす。会えて光栄だぜっす」「あ、ああ。まさでもカオナシでも、好きな方で呼んでください」 案外フレンドリーなのか?それにその語尾はなんだ?頑張って敬語を話しているのか?「あははっ、何それ。あんたが下手に出るとか珍しいじゃん」「うるせぇな!俺は強い奴には敬意を払うんだよ!」 ケラケラと笑うJK達に怒鳴り散らす彼だが、軽口を許しているところを見るに、顔程怖い人間じゃないのかもしれない。「カオナシ、ちょっと場所変えて話さねぇか?っすか?」「え?別にいいですけど」 突然のお誘いにビックリする。「なになに?告白?」「うるせぇっ‼散れ女ども!」「ハハハっ。カオナシっち、そいつバカで顔恐いけど、悪い奴じゃないから安心して」「おう」「じゃねー」「じゃねー」 高年集団が来た頃から寝ているノエルを起こして、二人は毒島率いる戦闘集団についていった。 使われていない教室に案内された東条とノエルは、適当な椅子に座り毒島と向き合う。 二人の前にはお茶と少量の菓子まで用意される丁寧ぶりだ。 十数人ほどの部下なのか舎弟なのかが全員出ていくのを確認して、毒島が口を開いた。「いきなり連れてきてわりぃなっす」「別にいいですよ、暇でしたし。あと普通に喋ってもらって構いませんよ」 努力は伝わるのだが、逆に気になってしまう。「そうか?そりゃ有難ぇ。実は敬語ってのを使ったことなくてな、ややこしくてしょうがねぇ」「そ、そうか」 現代日本に生きてきてそんなことがあり得るのだろうか?見た目通り世紀末からタイムスリップでもしてきたのか?「で、俺達に何の用?」「おう。あんた達
last updateLast Updated : 2026-08-31
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43話

「あんた等の動画、最近視聴者爆増してよくフリーズすんだよ。アクセスすらできねぇこともある。知ってたか?」「え、そうなの?」 初耳だ。ノエルを見ると、真剣な顔をして席に座り直している。どうやら本当らしい。 自分もそっと席に座った。「続けて」「あんた等の動画、内容はスゲェと思うが、正直サイト重すぎて見るのにクソ時間かかんだよ。 加えて殆どカットしてねぇだろ? 飛ばさずに見るとしたら丸二日かかるなんてざらだぜ?」 何だその面倒臭すぎる動画は。視聴者はよくそんなの見れるな。「そのせいであんた等の動画じゃなくて、無断でアップされてんだろう纏め動画しか見ねぇ奴もいる。 これはあんた等にとっても大きな損失だと思うぜ?」 ノエルの眉間に僅かに皺が寄る。 彼女を悔しめる二つの要因。 一つは毒島の言っている事が図星だった件。 もう一つは、侮っていた相手の言葉を、いつの間にか待っている自分がいるという事実。「で、結局何が言いたい?」 ノエルの言葉に毒島がにやりと笑う。「俺が持ってるカードは、それを解消できる人間とのパイプだ。そいつに頼めば契約金もなしに話纏まると思うぜ。 悪い話じゃねぇと思うが?」「……」 確かに悪い話ではない。話を聞くに、今後必ず解決しなければならない問題だ。 しかし言い換えれば、それは今後でも間に合うという事。「ここを出る」という彼の発言から、行き先は安全地帯、特区の外だという事が容易に判断できる。 動画の改善とそこまでの護衛だと、やはり天秤にかけるまでもないのが現実。「まだ行ってない場所もあるからなぁ。やっぱ行き先を指定されんのは面白くねぇな」 今回この場所に来たことで分かったのだ。狭い区域内でも、全く違う景色が見れるということを。 冒険と称しておいてそれを見逃す事などできない。 ノエルも同じ意見なようで、背凭れに背中を預けている。 交渉も終わりかに思えたが、結局この問題に戻ってくるのを見越していた毒島は、指を上げある提案をした。「そこで考えたんだがよ、あんた等が特区を出るのに合わせて、俺達もそれについていくってのはどうだ? 動画を見るに、池袋から文京区を通って千代田区に、そっから青山に行って、直線でここまで来たろ」「あ、ああ」「残りは精々港区らへんと、新宿周辺だろ。 見る事に意味があるのは分かるけ
last updateLast Updated : 2026-09-01
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44話

 「こんな所で何をしてたんだ?」「あ?何もしてねぇよ。テメエ等こそ何の用だ?」 新にガンを飛ばす毒島を、嶺二が押しのけお返しとばかりにガンを飛ばす。 どれだけ仲が悪いのか、全面的に毒島に原因があるのは明白なのだが。「まさに用があってね。君達が連れて行ったと聞いたから探していたんだよ」「俺?」「ああ」 今日は色んな奴に話しかけられる。そろそろ疲れてきたから開放してほしいというのが本音なのだが。「時間貰ってもいいかい?」「別にいいけど」「それじゃあ移動しよう」 毒島とその部下にガンを飛ばされながら教室を出ていく二人に、東条とノエルもついていく。 その去り際、ニヤリと笑う毒島が東条の背中に囁いた。「明日、昼頃ここで(ボソッ)」「お、おう」 無駄に含みのある言い方。行動一つ一つが悪役なんだよな~、と思わずにはいられない東条であった。 ――ノエルの蹴る石がコロコロと廊下を反響する。「彼が何か迷惑をかけなかったかい?」「いや別に?」 安心したように溜息を吐く新から、日頃から毒島一派に手を焼いている彼の姿が窺える。「彼の素行不良には悩まされていてね。暴力で全部解決するし、夜な夜な女性を部屋に連れ込んでるみたいだし、上げたらキリがないよ。 ……性事情はまぁ分かるから、合意の限り何も言わないけどさ」「何であいつが俺達の言う事聞いてんのか、不思議なくらいだぜ」「ははっ」 そんな彼等の愚痴に付き合っている内に、目的地に到着する。 東条が教室に入ると、既に中には三人が集まっていた。「あっ、おはようございますノエルちゃん!まささんっ」「おはー」「おはー」 小走りで向かって来る胡桃がノエルに抱き着こうとし、手を払われた。「よう」「おざっす」 手を上げる馬場に、手を上げて返事する。 そして、「……(ペコ)」「(ペコ)」 例の朧君と簡単に会釈を交わす。 東条とノエルが適当に座ると、壇上に立った新が此方を見て話し始めた。「ここにいる五人が主に全体を纏めてる人間だ。四人はもう面識あると思うけど、正宗、君は初めてだろ?」「え、ああ」 いきなり振られた朧が驚いて顔を上げる。「一応挨拶しといてくれ」 新の強引な友達作りに、気まずい視線が交差した。「……(ペコ)」「(ペコ)」 本日二度目の会釈。「よし。単刀直入に言う
last updateLast Updated : 2026-09-02
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45話

  教室を後にした二人は、リュックと洗濯機を回収し、周辺の全景を眺める為屋上の扉を開いた。 朝から色々な事があって疲れた身体を伸ばす。 仄かに潮の香りがする空気を肺いっぱいに溜め、思いっきり吐き出した。「うまい!」「うまい!」 排気ガスから解放された大気イオンは、身体に纏わりつくいらない物から東条を解放してくれる。「ふぅ~。さて、何処行く」「東京タワーー」 遠くに聳える赤い塔を、ノエルがビシっ、と指さす。「距離は……三㎞くらいか。だらだら歩いても余裕だな」 スマホを弄る東条は、ついでに近くに良いホテルが無いか検索をかけた。 流石首都、高級ホテルがそこら中にある。全て無人だが。「おし、ホテルはザ・プリンスパークタワーだ。俺らに相応しい」「うしゃ」 目的地も決まり、準備体操の屈伸をしていた。その時、「お、まだ行ってなかったね」「?馬場さん、どうしたんすか」 屋上のドアを押して馬場が姿を現した。「何、一つ依頼をしようと思ってね」「……何です?」「明日また顔を出すんだろ?」「はい」 そう言う東条に、一枚の丸められた地図が投げ渡される。「これは?」「ここ近辺で、強力なモンスターがいて私達が近づけなかった場所が書いてある。 今日その付近を通るなら、近くの食料を持ってきてほしいんだよ」 地図を開いてみれば、所々にモンスターの絵が描いてある。これから向かおうとしていた東京タワーまでの道中にも、二匹。「それで、俺達は何を得られるんですか?」 その言葉を聞いた馬場は色っぽく笑い、東条の前で腰を折り、胸元を指で引っ張った。「私の体を好きにしていいよ」「ぐぅっ‼」「おい……」 前のめりになる東条に、ノエルがジト目になる。 似た様な前例がつい最近あった。この先の結果など目に見えている。 しかし彼の次の一言は、以外にもノエルの予想に反したものであった。「ぅう……魅力的な条件だけど、断らせてもらいますぅ。くっ」「あら」 血涙を流し、抗い難い自身の欲求を精神で抑え付ける。 その姿を見た馬場も、当てが外れたか、と一歩引いた。「……俺は好きになった女と、あと今は、そーゆー事を商売にしてる女と以外寝ないって、決めてるんです。だから」「そうかい。いいと思うよ、線引きは大事だ。……でも困ったね。これ以外私が出せるもん
last updateLast Updated : 2026-09-03
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46話

 「よっっせい!」「にぇい!」 空の散歩から一気に急降下し、盛大に水飛沫をぶちまける。のではなく、水源に水滴が静かに落ちる様に、ポチャン、と着地した。 広く大きく遠くまで続くのは、水没した麻布通り。 のんびりと泳いでいた魚モンスターが慌てて散っていく。 東条は苔に埋もれた廃車に飛び乗り、ノエルを下ろした。「確かこの通りにも……」「見して」 貰った地図を開けば、麻布通り全域が赤く塗られ、ワニっぽい絵が描いてある。 この一本道を縄張りにしている主といったところか。「運良かったらこいつ見れるかもな」「ん。ワニは美味いって聞く」「マジかよお前」 既に食う気のノエルにドン引きするが、彼女はそんなこと気にも留めず、リュックから自家製の釣り竿を取り出した。 次いで漆黒により宙に浮かんでいる洗濯機に飛び乗り、目で合図する。「……結局俺が運ぶのかよ」「当然」 彼女は足をぶらつかせ、楽し気に釣針を放った。 ――東条はパシャパシャと水面を揺らしながら、足元に生える水草や、点在する丘、驚いて水に飛び込むモンスターを見て楽しむ。 脚は漆黒で濡れもしないし、見通しもいい為大した警戒もせずに済む。 ピクニック特有の長閑な時間に、彼は充分満足していた。「今度は何釣れたんだ?」 後ろから絶えず聞こえる、ボォー、という音に話しかける。「ん」 すると齧りかけの魚が、横から、ぬっ、と出てきた。 ノエルは釣れたそばからバーナーで直接炙り倒し、かっ食らっているのだ。 断面をよく見ればほぼ生。こいつは腹の足しになる物なら何でもいいのかもしれない。「ピラニアみたいだな」「名前はピラーニャ。そこら中にいる」 常に何匹か自分の脚に噛みついているのだ。それは知っている。「この前の掃除機みたいな奴は?」「ヴァックリン。さっき一匹釣れた。あれ美味い」「変な名前だな」「ヴァキュームクリーナー」「なる。後で釣れたら一口くれよ」「ん」「ちゃんと焼けよ」「ん」 他愛もない会話をしている最中、遠方で何かの衝突音と共に水飛沫が上がった。「……何だ?」 車を跳ね飛ばし、丘を踏み潰し、全速力で駆ける胴長の巨体。 目を凝らし徐々に判明するその全容に、東条とノエルは一瞬戸惑い、そして理解した。 全長は十五m前後、水色の鱗に覆われた、口が異様に細長いワニだ。
last updateLast Updated : 2026-09-04
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47話

 「バラルァ!」「ッぶねっ」 鞭打つ尻尾を屈んで躱し、低姿勢で突貫。 振り抜かれる前足に手を掛け、飛び上がった。 瞬間、「――ッ」 瞬きの間に首を持ち上げたワニが、大きく口を開き左右から顎を閉じた。 一本一本が鋸《のこぎり》状の鋭利な歯は、触れただけでも肉を削ぎ落す。加えて魔力を纏うそれは、生半可な身体強化では豆腐の様に切り裂かれてしまうだろう。「何だよ、強ぇのもいんじゃねぇか」 両腕を開き押し止める東条が、この地一帯にそぐわない殺傷力の高さに乾いた笑いを浮かべる。 衝撃波を放ち脱出を試みようとした途端、今度は景色が逆転した。「なっ、お⁉」「バラララララッ‼」 道路が剥げ、近隣のガラスが砕け散り、建物が吹き飛ぶ。 ワニ特有の絶技。自らの身体を高速で回転させ、肉を食い千切って殺す、デスロールと呼ばれる技だ。 只でさえ強力無比なこの技を、モンスターの力で行えば、それは最早災害である。 一分間ワニが暴れ転がった後には瓦礫すら残らず、ただ汚れた水が揺れるだけであった。「バフシュルルル」 ワニは荒く鼻息を立て、ズタズタになったであろう口に挟まった獲物を咀嚼しようとする。 しかし、顎が動かない。 開くことが出来ない。 焦り頭を振っている途中、聞こえてくる笑い声にビクリ、と固まった。「いや~ビシャビシャになるとこだった」 水に叩きつけられる寸前で全身武装した東条は、首を鳴らし、再度腕と脚に漆黒を集結させる。「おぅおぅ暴れんな」「バっ⁉」 東条は一番太い牙を引っ掴み、ワニを強引に上に持ち上げた。 重量差が逆になり、彼が地に落ちると同時にワニの半身が持ち上がる。「今度はぁ、俺の番ッ‼」 天に向けて伸ばした両腕を、思いっ切り振り下ろす。 轟音と共に水が割れ、衝撃のあまりワニの鱗に罅が入った。「まだまだァッ‼ハハハハハッ――」 身動きの取れない敵を、滅茶苦茶に振り回し、叩きつける。 撒き散らされる破壊の痕跡は、デスロールの比ではない。 衝撃に耐え切れなくなり、ビルが一つ倒壊した。 全身の鱗が砕け血が吹き出すのを確認し、「オウルァッ‼」「バファっ」 最後に民家にぶん投げ生き埋めにした。 濛々と立つ土埃を背に、東条は腕を回しノエルにピースする。「どうだ!いい絵撮れたろ!」「最高!」 ニパっ、といい笑顔で笑
last updateLast Updated : 2026-09-04
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48話

  §「……化物だな」 彼は姿を消し、遠くの物陰からワニが振り回される様を見ていた。 先程いつも通り散歩に行こうとしていたところ、飛んでいく二人を見て興味本位でついてきたのだ。 何をするのかと見ていれば、自分からモンスターに突っ込んでいき、怪獣バトルを繰り広げ始めた。 誰がどう見ても常軌を逸している。 彼は、東条とノエルが初めて大学に来た時の事を思い出す。 あの時は姿は消していなかったが、発散される魔力は極限まで消していた。 にもかかわらず、入ってきた来たと同時に目が合ったのだ。 勿論驚いたが、それよりも、二人が纏う魔力の密度が、今まで邂逅したどんな強者と比べても桁違いだった。 加えて藜組の組長を遠目から見た時と同じ様な、本能的な恐怖を感じてしまった。 格が違う。 並ぶことも許されない圧倒的な差。 自分も強者の中の一人だという自覚を、根こそぎ毟り取られた様な感覚。 あの時は正に蛇に睨まれた蛙であった。 目を逸らすだけで精いっぱいだった。 ――二人がワニの足を一足切り、先に進んで行く。 彼もそれを見て、慎重に丘から丘へと飛び移っていく。 しかし言い換えれば、自分もあのレベルまで強くなれる可能性があるということだ。 それは何ともウキウキで、ワクワクな事だろうか。 強くなりたくば見て学べ。そんな気持ちを胸に、彼は二人を追うのだった。 §
last updateLast Updated : 2026-09-05
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49話

 「友達って何?」「いきなりどうした」 洗濯機の上にリュックを置き、その上に座るノエルが、ワニ足を担いで釣糸を垂らす。「新が言ってた。まさは友達って」「あー」 そういえば言っていた気がする。友達の頼みがどうとか。「友達の定義ってムズイよな。どっからが友達なのか、俺も未だに分からんわ」「……友情の有無は、自己犠牲が払えるかで決まるんだって」「Wiki?」「Wiki」 東条は落ちていた瓦礫を蹴っ飛ばす。「じゃあ俺友達いないじゃんっ」「心配ない。ノエルがいる」「Yeah~」「Yeah~」 後ろに向けた拳に、小さな拳がぶつけられた。「ノエルとまさは友達なの?」「相棒じゃなかったっけ」「ペットと主人でもある」「複雑だな」「一緒にいて楽しかったら何でもいい」「間違いねぇ!」「グララララ」「ゼハハハハ」 呑気な笑い声と共に、針に掛かったヴァックリンが大きく跳ねた。 ――それから二人は暫くのんびりと大通りを進み、途中で斜めにズレ、直線で東京タワーを目指した。 建物の屋根を跳躍し、ビルを突き抜け、丘に着地する。 ミノタウロスと戦った時に気付いたことだが、漆黒の移動が遅くなるのは、あくまで自分が纏う漆黒と切り離して操作する時。 今で言えば、頭部の漆黒と洗濯機を運ぶ漆黒を連結すれば、同じ速度で移動できるということだ。少々不格好にはなるが。 自分の身体と接触している漆黒に繋がっている限り、それは自分の一部という認識になるのだろう。 そんな事を考えながらピョンピョンし続け、タワーまであと五百mちょっとというところ。 支えが折れ崩れ落ちた首都高速の辺りから、何やら不思議な音が聞こえてくる。 確かここら辺には……。「これ何の絵だ?」「エビ?」 開いた地図に沢山描かれているのは、エビの様な恐らく甲殻類の生物。 響いてくる音が一種類ではないのが気になる。 とりあえず確かめようと瓦礫をに飛び乗り向こう側を覗き、「うぉっ」 その光景に目を見開いた。 何匹いるのか数えるのも嫌になる、視界を埋め尽くす程の赤。 ざらついた甲殻に細長い十本の足。特徴的なのは、一際長く発達した第一脚だ。 うぞうぞカチカチと鳴る喧《やかま》しい音は、こいつ等の仕業。 ならもう一つの不思議な音は。「……あれか」「可愛い」 化けザリガニに追い
last updateLast Updated : 2026-09-05
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50話

  サンショウウオは焦っていた。  このままでは全員食われてしまう。 サンショウウオは嘆いていた。 自分達の運命を。 元からこの周辺に沢山の巣を持っていたサンショウウオ達は、突然現れたザリガニ軍団に襲撃され、瞬く間にその数を減らしてしまった。 同じ場所をテリトリーにしたのが運の尽き。 最早これまでかと目を瞑った、 その時であった。 爆音が響くと同時にザリガニ集合地帯のど真ん中が吹き飛び、赤い殻の雨が降った。「ヒュ~」「汚ねー花火だ」 ロケットランチャーを構え、仁王立ちするノエルがザリガニ共を見下す。 その隣に並ぶ、自分の背丈程の長さを誇る、折り畳み式アンチマテリアルライフルを担ぐ東条。 なんと二人は、藜一派から自分の好みの武器を数個貰っていたのだ。 存分に暴れられる環境、殺しても湧いてきて、且つ適度に弱いモンスター。 二人がどれだけこの機会を待ち望んでいたかは、その無邪気な笑みが示している。 百はいるだろうザリガニ共の、黒い目が一斉に此方を向く。 次の弾を装填するノエルが、ニヤリと笑った。「勝負」「乗った!」 開始の合図にジャンパーを脱ぎ捨て、東条が駆ける。 銃を持つ右手を武装、ロケランが着弾した位置に飛び降り、目の前のザリガニの口に銃口を突き刺した。 瞬間、腹の底に響く様な轟音が鳴り、ザリガニが縦に爆散する。 数千m先の敵をも仕留める銃弾がその程度で止まるわけもなく、直線状にいる数十匹の命を纏めて刈り取った。 揺れる空気に、飛び出る薬莢、本来片手で扱えるはずもない兵器を支配している感覚に、「んぎもぢぃぃぃぃいいいいいいいッ‼」 東条は絶頂した。「あはははははははっ‼」 連続する爆殺音と、音を越える銃弾が奏でる死の戦慄。 宛ら二人は血に塗れた奏者。 観客は飛び散る肉片である。 五発を撃ち終えた東条は、一度退避してポケットから自分の手よりも大きい弾を取り出し、一つずつマガジンに装填していく。「セミオートなのは良いんけど、五発ってのがなー。そっちあと何発残ってる⁉」「四発ー」 叫ぶノエルの声が爆音にかき消される。 彼女の弾数も残り僅か、速めに数を稼いでおこう。 東条は再びザリガニの海に身を投じた。 ――ロケットランチャーの弾を使い切ってしまったノエルは、その余韻と焦げ臭い香りを存分に堪能し、ポ
last updateLast Updated : 2026-09-05
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51話

  § 遠方で繰り広げられる蹂躙を、彼は内心興奮しながら見ていた。(あんなもん、あの人達に渡しちゃダメでしょ) 只でさえヤバい二人が、現代兵器という分かりやすい危険を手に入れてしまった。 皇居で拾った武器を使っていることはあったが、動画のコンプラ的に大丈夫なのだろうか?そんなこと気にし無さそうではあるが。(絶対藜組から買ったよな。……俺も欲しくなってきたな。……でも金ないな) 二人に触発され、武器類の魅力に引き付けられる彼であった。 § ――三十分後。「……終わったか」「ん。満足」 赤い殻とぷりぷりの肉片が散乱する、毒々しい程青くなった一帯。 ライフルを運ぶスベスベサンショウウオを除いて、そこに生存を許された生物はいない。 夥しい数の屍の上に立つ二人は、頬についた返り血を煩わし気に拭った。「殺ったね~」「疲れた」 改めて辺りを見てみれば、広がっているのは正に虐殺の跡だ。 少々殺りすぎた感が否めない。「六十四。まさは?」「負けた~っ。五十八」「よしゃ」 勝負はノエルの勝利。 ライフルは貫通力が高いが、頭部付近を粉砕しないと生命活動を停止しないザリガニ相手には、分が悪かった。「……お、ありがとな」「ヌムィ~」 ズボンを引っ張られて下を向けば、可愛い彼等がライフルを持ってきてくれていた。 受け取るとすぐに散開し、そこらに散らばるザリガニを食べ始める。相当お腹が空いていたらしい。「先ホテル行かね?シャワー浴びてぇ」「ん。海鮮臭い」 自分の臭いを嗅いで顔を顰める東条とノエルは、荷物を纏め再び歩き出した。 そんな二人の足に彼等が密集し、ヌムヌムと身体を擦り付ける。まるで別れを惜しむ様に。「おーよしよし、お肌スベスベだなお前ら」「ぷにぷに、ぷにぷに」 二人にとっては遊び半分、只の気紛れでも、彼等にとっては正真正銘の救世主なのだ。 今日という日を、彼等は忘れないであろう。「ヌムゥウ」「ヌミィウ」「ヌゥゥゥ」「ヌゥ~ヌムヌム」――「じゃーなー死ぬなよ~」「なよー」 一通り撫で終わった後、立ち上がった彼等に見送られ、東条は悠々とホテルを目指すのであった。 ――ホテルに到着し、使われた痕跡のない空き部屋に荷物を置く。 拾ったザリガニの肉片とワニの足を冷凍庫に入れた後、ノエルはそこで、東条は別の部屋でシャワ
last updateLast Updated : 2026-09-07
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