――康を抱えて外周のトレントを飛び越え、少し進むと、目的である発電所が目に入った。 康と同じく黒いスーツに赤のバッヂを付けた男女が、入口の前で待っている。「ちびるなよノエル?」「はっ、まさなんてもう漏らしてるくせに」「漏らしてねーよ」「あまり怖がらなくても大丈夫ですよ」 入口を通され、大きなソーラーパネルの間を抜け、管理室の様な場所に案内される。 康がドアをノックすると、「入れ」という、凛とした女性の声が中から響いた。「失礼します。姉御」 彼に続いて二人も入室すると、途端に充満したヤニの臭いが鼻を突いた。 室内には大量の空き缶が転がり、灰皿の上には吸い殻の山が形成されている。「姉御、お客呼ぶならもう少し片付けたらどうすか」「それはお前の仕事だろ」「初耳ですけど……」 テーブルから脚を下ろす彼女が、康を無視してすっくと立ち上がる。 身長は百七十以上あるだろうか、東条と殆ど変わらない。 黒いスーツに身を包み、赤いバッヂも他と変わらず。 ただ違うのが、はち切れそうな胸元に差された真赤なポケットチーフ。 そして最も目を引く、腰付近まで伸びた燃える様な深紅の長髪。 獣の様に鋭い目が細められ、銜え煙草の火が燻った。「……挨拶遅れて申し訳ない。が、ノエル殿、先ずはそのカメラを止めてくれないか?」「ダメ?」「ダメ、だ。こいつと会った時から今までの動画を、今ここで削除してくれ」 部屋の掃除をする康を首で指す。(おぉ~何か映画っぽい) 東条の関心を他所に、しょうがないと言った風体でノエルは動画を消し始める。「貴殿等の動画は面白いが、うちの組の内部まで流されては流石に堪らないのでな」「ん。理解」「ハハハ、感謝する」 一瞬ピりついた空気が流れたものの、許してくれたみたいで良かった。 そんなことを考えていた東条と、姉御の目が合う。「……しかしまぁ、本当に頭部だけ黒いな」「セルフモザイクですね」「便利だな。確かに貴殿の名前も、動画内ではモザイクが入っていたな。隠しているのか?」「動画内では一応。普段はまさと呼ばれています」「まさ殿か、ならば私は紅とでも呼んでくれ」「分かりました。……一つ聞きたいのですが、ここをずっと守っていたのは紅さんですか?」 改めてこの質問を、本人だろう人にぶつける。「そうだな」
最終更新日 : 2026-08-14 続きを読む