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Real のすべてのチャプター: チャプター 11 - チャプター 20

146 チャプター

11話

  東条は慎重に下の枝に降りながら、手を伸ばし、ギリギリ射程に収める。 この際だからと、モンスターを使って自分の能力の実験をすることにした。 頭上に漆黒を飛ばすと、怒り狂っている鼻折れは大した確認もせずに噛みつく。 ......彼から一定以上離れられない漆黒は、狼をぶら下げた状態で浮遊した。(ん?……) 噛みつかれた瞬間、自分の、いや漆黒の中に、何かが『溜まった』のが分かった。 正体不明の感触は、今もなお継続して続いている。 能力の手掛かりに思考を傾けようとした、直後「がッ!?―」 背後からの衝撃と共に空中に投げ出された。 「―ッグっ‼ゲホッげほっ――ッ」 地面に叩きつけられそうになった彼は咄嗟にフライパンを手放し、タイミングよく前に転がり落下の衝撃を流す。 肺を打たれた反動でまともに息が吸えず咳込むが、相手が悠長に待ってくれるはずもない。「「ガルァッ」」 待機していた二匹が同時に走り出す。 牙が狙うのは隙だらけの敵、落とした武器を取ろうとしているようだが、こちらの牙が届く方が早い。 東条は今まで動かなかった二匹が走り出すのを見て、落とした盾を拾おうとするが、遠い。 早すぎる展開に舌打ちをし、拾うのを諦め、左腕を後ろにやり左右同時に飛びかかってくる狼の右に狙いを定める。「ジィッ‼」 下顎を刃でぶち抜き、同時に、犠牲に差し出した左腕に逆側の狼が牙を突き立てた。「ッテぇなクソがァッ‼」 東条は串刺しになった狼が足掻くのを見て、牙が突き立ったままの左腕を強引に振り両手で牛刀を逆手に持つ。 痛みを気合でねじ伏せ、万力をもって引き下ろした。「ッらァッ‼」 腹の下まで裂けた一匹を後に、左腕で暴れる狼の目を突き刺す。狼は「ギャウンッ」と悲鳴を上げ後方に飛び、彼を睨みつけた。「はぁっはあっはあっはあっ――」 左腕の感覚を確かめながら、残る三匹を視界に入れる。 正直腕は痛みで力が入らない。ちらりと背後のトイレを確認するが、遠すぎる。 逃げの選択肢は、無い。 盾も木の近くだ。 彼の額を汗が伝った。
last update最終更新日 : 2026-07-07
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12話

  漆黒が彼についていこうとした反動で一緒に飛んでった鼻折れが、片目の横についたところで、 ボスが低く唸り、二匹が同時に駆けた。 さっきの攻撃が来る。そう身構えた東条の横腹に、「ぐッ!?」 横腹を背中に食らったものと同じ衝撃が走る。 右に飛ばされながらも、見逃すまいと自分を飛ばした犯人に目をやり、 しっかりと見た。 空気が揺らぎ散っていく瞬間を。(風魔法‼) 彼が見たものは動画のそれと同じ現象。 恐らく使っているのはボス。自分は全体を見れる位置に立ち、サポートに回る。危険な雑務は手下にやらせる。合理的な戦い方だ。 彼は横に転がりすぐに二体に目を向けるも、既に回り込まれている。 飛びかかってきたところで全力で後ろに飛び、二匹を無理やり視界に入れた。 鼻折れに狙いを定め突進。 飛びかかってきたところを下顎から蹴り抜く。すぐさま襲いかかり脇腹を引き裂いた。 急いで振り返るも、そこまで牙が迫っている。「くッ」 やむを得ず左腕でガードしようとしたところに、 ――漆黒が現れる。 漆黒が片目の顔を遮り、勢いを『完全に』止めたところで、東条は正体不明の感触を感じながらその場を離脱する。 それも束の間、真横から違和感を感じ振り向くが、ボスの攻撃の方が速い。 空気の揺らぎと共に風の塊が直撃……するところで、又もや漆黒が間に割って入った。 漆黒の範囲外から残風が顔を叩く。 しかし来るはずの衝撃は訪れない。代わりにあの感触が東条の中に溜まっていく。 彼はここで、ようやく自分の能力の秘密の一端に気付いた。 一つ、視界に入っている場所なら反射並の速さでガードが可能。 二つ、『衝撃の吸収』。ガードを可能にしているであろう能力。 そして三つ、―― 東条は獰猛な笑みを浮かべ、二度の攻撃を防がれ様子を見ていた二匹に向かって地を蹴る。(吸収が可能で、あの感触の正体が今まで溜めた『衝撃』なら) 片目が先陣を切って正面から飛びかかってくる。 彼は漆黒を片目の眼前に出し、衝撃を『吸収』。瞬間、お返しとばかりに今までため込んだ全てを『放出』する。「ぶッ飛べやァッ‼」 動きを止められ、落下途中だった片目が、刹那、面白いくらい簡単に後方へぶっ飛んだ。 錐揉みしながら空中を散歩した後、激しい音を立て商品棚に突っ込んでいく。 片目は血混じりの泡
last update最終更新日 : 2026-07-07
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13話

 「グルアァァアッ‼」「うるせぇえッ‼」 両者同時に風を切る。 東条は牛刀を逆手に持ち、漆黒を盾代わりに真正面から突っ込む。 突如、ボスの周りの空気が歪んだ。(くるかッ) ゴウッ、と唸りをあげ風の砲弾が正面から飛んでくる。明らかにさっきまでと威力が違う。(ッ野郎っ) ボス狼は音を消す為に威力を抑えていたのだ。 しかしこちらにあるのは絶対防御(仮)、どこから来るかさえ分かっていれば何も怖くない。 東条が漆黒を正面に出し威力を消す。が、範囲に収まりきらなかった豪風が、彼の前進を僅かに鈍らせた。「ガルァッ」 ボスは歩が緩んだすきに距離を詰め、喉を噛み千切ろうと大口を開ける 「グギャンッ!?」 も顎下からの凄まじい衝撃に無理やり閉じられた。牙を折られバク転の形で後ろに飛んでいく。「……えぐいな」 片目でストックは全部使ってしまった、今の威力は風の砲弾単体のものだ。食らったら一溜りもない。 ボスが起き上がり、唸り駆けだす。 思ったよりダメージがないように見える。 その時、 駆けるスピードが目に見えて変わった。「――ッ!?」 距離が一瞬で詰められ、東条は繰り出された爪を漆黒で受ける。 通り過ぎたボスを前に、彼はその秘密に瞬時に気付いた。 これは常日頃からファンタジー小説を読み漁っていた彼だから気付けたことだ。 加えて、彼は魔法を使うことはできないが、初めから魔力を感じることはできた。狼との戦いで魔法を被弾したことも大きい。 それらの要因が全て繋がり、彼に超速の理解をもたらした。 狼の身体からは多量の魔力が感じ取れる。要するにこれは、俗に言う肉体強化だ。 魔力を全身に流し、肉体の強度を著しく上昇させる技。 やっぱりできたのかと気分が高ぶるが、今はそれどころではない。 ラノベ界隈では肉体強化に属性は必要ない。東条はならば自分も、と魔力を意識しようとするが、それを許すボスではない。 ボスは空気を歪ませながら、かろうじて目で追える速さで突っ込んでくる。 彼は魔力制御を中断し、漆黒を構え初撃の砲弾を防ぐ。「なッ!?」 しかし体勢を崩される中、ボスが、右は牙、左は爪の二方向から攻撃してくるのが微かに見えた。 東条は咄嗟に右の攻撃に漆黒をぶつけ、全力で身体を捻って回避をするが、左の肩口から背中にかけて大きく裂かれてしま
last update最終更新日 : 2026-07-07
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14話

  § 避難警報が鳴り、非常口から屋上への非難を試みるも、大型の鳥の様な生物の群れにより階段が全壊。 室内に戻るも、下の階から訳のわからない生物が押し寄せてくる。 店内では今、外と同じく人間が逃げ惑う構図ができていた。「皆さんっ、こちらですッ‼」 八階にいた客を直通の階段で屋上に避難させた後、防火扉を半分閉めて声を張り上げる店員がいた。 彼の人一倍強い優しさは、ギリギリまで逃げてくる人を救おうとしている。 下階の人を何十人も迎え入れ、次の一団に目を向けた時、人に混じって何十匹もの獣が見えた。「――ッ、っ!?」 彼が迷わずもう半分の扉に手をかけ、勢いよく閉めようとしたところに人の手が挟まった。「頼むっ‼入れてくれっ‼頼むっ‼――」 こじ開けようとする手が二本、三本と増え、彼が冷汗を滲ませた直後、 叫び声と共に腕がズルズルと引き抜かれ、代わりに狼が頭を捻じ込んだ。 突然のことに腰が引け、あわやという所で、「引けッ‼」 後ろで見てくれていた客が狼の鼻っ面を蹴り飛ばし、店員に合図を送る。 彼は力いっぱいドアを引き、二匹目が飛びかかってくる寸前でドアを閉め鍵をかけた。「はぁ、はぁ、ありがとう、ございます、」「あぁ……」 店員はズレた眼鏡をくいっと上げ、落ち着きを取り戻す。 しかし、直前まで助けを求めていた腕が脳裏をちらつく。 仕方なかったとはいえ、自分が切り捨てた事に変わりはない。「おい」「は、はい?」 自分を睨みつける男に一瞬たじろぐ。 確かに、自分のせいで避難した人まで危険にさらした。怒るのも無理はない。「……あんたはよくやったよ」「へ?」 思いがけない称賛に虚を突かれ、店員の喉から変な声が出た。「……俺も上の奴らもあんたに救われた。感謝している」 自分が救った人も大勢いる。自分のしたことは間違っていない。この人はそう言ってくれている。「有難うございますっ」「……あぁ」 勢いよく頭を下げる店員に、客の男は照れ臭そうにそっぽを向き屋上への道を歩いていく。 よく見ると男の左上腕、はち切れそうな筋肉も凄いが、服が破れ血が見えていた。「あのっ、怪我してますけど大丈夫ですか?」 追いかけ横に並ぶが、返ってくるのは気にもしていないという不愛想な返事だけ。「……あぁ、噛まれただけだ」「噛まれ…それは、大丈夫
last update最終更新日 : 2026-07-08
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15話

  端で身を寄せ合って固まっているのが大多数。フェンスに近寄り下の光景を見ている好奇心旺盛な若者が少数。合計八十六人の大所帯だ。 九階にいた人はもう一つある直通の連絡通路を通り、十、十一、十二階の人は非常口からの避難が間に合った。中には元からこの場所にいた運のいい人達もいた。 佐藤が店員を集め、今後の動きを話し合う。 しかし起こっていることが前代未聞。マニュアルなどなく、何をどうしていいか皆目見当がつかない。 とりあえず下には下りれないということで、一番の問題、食料の話になる。 ここは屋上、もといビアガーデンだ。幾つかのテナントがあるため、食料もあるにはある。だが、「分けるとしても、この人数ではもって四、五日でしょうか」 それも最大限節約して、だ。現状では助けを待つほかないのだ。先のことを考える前に、今のことだ。「皆さん、少し耳を傾けてください」 佐藤の言葉にざわめきが少しだけ落ち着き、彼に視線が集まる。「現在私達は屋上に籠城している形になります。下の様子を見れば分かる通り、助けがいつ来るのかも分かりません。この屋上にある食料は、一日一食にして最大限節約すれば四日は持ちます。生き延びる為に、皆さん、どうかご協力をお願い致します」 丁寧に頭を下げた。 ちらほらと賛同の意見が上がり、やがては伝播し総意となる。「有難うございますっ」 ――皆に了解を取り、鳥型のモンスターを警戒して明かりは全て消した。 各々が時間を潰す中、同じ理由で驚愕に目を見開くものが少なくない人数いた。「……佐藤」「筒香さん、どうしましたか?」「葵獅でいい、……これ見たか?」 葵獅は自分のスマホを操作して、佐藤の目の前に置いた。「これは……マジックですか?」 移っていたのは、人間が火や水を自在に操っている動画。 見せられた佐藤は励ましにでも来てくれたのだろうか、などと見当違いなこと考えていると、「……俺も信じられんが、現実で魔法が使えるようになっているらしい」 まさか、佐藤はそう口に出そうとして、周りから続けざまに聞こえる小さなどよめきに振り向いた。 その中心には揺らめく火や小さな光が見える。「どうやら、本当らしいですね、……ところで、そちらのお方は?」 佐藤は先ほどから葵獅の横にいる女性へ目を向ける。「あぁ、俺の女だ」「あたしは|月島 凛《
last update最終更新日 : 2026-07-08
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16話

  ――「ぁははははっ、貴方、なかなかの子悪魔っぷりねっ」 凛がお腹を抱えて先ほどの光景を笑う。 丸テーブルの向かい側に座る少女は、パンをチビチビ食べながらすました顔で反論した。「彼らに慈悲はありません、……服の趣味も悪いとくれば尚更やでぇ」 自分の着ているモコモコの成金かぶれのような服を睨み、さらに毒を吐く。 女の武器を使い服を奪った上にいちゃもんをつける少女を見て、同じテーブルを囲む男二人はただ黙々とパンを食べることしかできなかった。「あたしは月島 凛、よろしくね」「黄戸菊 紗命申します、よろしゅうお頼申します」「あ、佐藤 優です、よろしくお願いします」「……筒香 葵獅だ、よろしく頼む」 佐藤も自己紹介が始まったので慌てて参加する。 ある意味怖い人ではあるが、良い人には変わりないのだ。それはあの女の子の笑顔を見れば分かった。「ところで、黄戸菊さんは京都出身なんですか?」「紗命でええですよ。……生まれが東京で、育ったのが京都なんです。実は東京弁の方が喋れるんですけど……京都弁、可愛いじゃないですか」 いきなりはんなり口調を止めた紗命が、花が咲いたように無邪気に笑う。 大人っぽかったキャラからの急なギャップに、男二人がまたもたじろぐ。「なははっ、紗命は自分の武器が分かってるねえっ、それと葵、他の女に見惚れてんじゃないよ」「……すまない」(……否定はしないのか)「ふふっ、面白い方達やわぁ」 ――緊張も解け、雑談が盛り上がる。「へぇ~、葵はんは総合格闘家なんですか、道理でその筋肉やわぁ」「こう見えて何度か大会で優勝もしてるのよ?」「こう見えても何も、そうとしか見えませんよ」 佐藤は笑う凜の言葉に、初見からただ者でない雰囲気を出していた男への納得と確信をする。「……凛、止めてくれ」 恥ずかしそうにそっぽを向く巨漢だが、その表情は満更でもなさそうだ。「……そないな葵はんにお願いがあるんやけど、明日あの男達と昼食を一緒に食べなあかんの、なんかされそうになったら助けてくれまへんか?」 少女がした笑顔での唐突な告白に、三人の目が点になる。「……はぁ~やっぱり交換条件だったのね。自分でやったことだし何も言わないから聞かなかったけど、あんまり危ないことしちゃダメよ」「はい、かんになぁ凜はん、次からはち
last update最終更新日 : 2026-07-08
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17話

 「何か分からんもんが分かったやろ?それを外に出してみてください」 三人が言われるがまま魔力を現界させる。「んぐっ!?」 すると、一人は正面からの突風に椅子ごと持っていかれ、「むっ……」 一人は両腕が突如炎上し、慌てて消そうと振り回す。「……しょぼ……」 そして最後の一人は、目の前に漂う水滴を見て項垂れた。「葵はん、落ち着いて、熱うはあらへんはずやで?」 炎で風を切り厳つい音を出している葵獅を、彼女は落ち着いた声で宥なだめる。 冷や汗をかいた顔がこちらを向き、彼は改めて自分の腕を見た。「……確かに、熱くない」「消したいと思えば消えますよぉ」「あぁ、……助かった」「いえいえ」 お礼を言う葵獅に、紗命はくすくすと笑いながら返事をする。「ぃつつ、それにしても紗命さん色々知ってますね」 起き上がった佐藤が尻を摩りながら椅子を立てる。「昨日色々調べたさかいなぁ」 葵獅が席に戻ると同時に、項垂れた頭頂部から残念そうな声が発せられた。「紗命と被った上に、水滴って……」「ドンマイです、凜はん」「……元気出せ、凛」「葵は凄そうでいいじゃないよぉっ」 葵獅の無言で掲げた腕が炎上する。「……はぁ、まぁ仕方ないわね。佐藤さんはどうだったの?いきなりぶっ倒れたけど」「それが、私もなにがなにやらで……」「多分、佐藤はんが使うたのは風魔法や思う」 紗命の見た動画にも似た現象が起きていた。「見た感じ葵はんと佐藤はんの二人も、うちとおんなじで他の人より魔法が使えるっぽいなぁ……もし戦うことになったら頼りにしてるなぁ?」「……戦い、ですか……」 戦い。先日の惨状を見れば誰でも分かる。ここでの戦いは、それすなわち殺し合いと同義だ。 一人の女子高生が発した生々しい発言に、逃げ惑う人々の光景が蘇る。 暗い顔をする三人に、一息ついた紗命が言い聞かせるように語りだした。「……今はたまたま平和な時間を過ごせてるけど、うちらはこの状況がいつ地獄に変わってもおかしない場所にいてはる。ここにいる皆知ってると思うけど、池袋は嬉しいことに、日本一危険な場所になってもうた。――」 スマホくらいしかやることのないこの中で、危険区域指定の情報は何よりも早く彼らに絶望を与えていた。「正直助けが来るなんて思てへん、せやけど易々と死ぬ気もあらへん。 今一番欲
last update最終更新日 : 2026-07-08
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18話

 「ギェェェェエエエッ‼」「ひっ」「逃げろぉッ‼」 バカデカい鳥型のモンスターが男達に突っ込み、同時に待機していた中型の鳥が一斉に屋上へ降り立った。「……は?」「ぎゃぁぁっ」「いやぁッ‼来ないでぇっ」「ギェェエッ‼」「ギエッ」「グゲェッ‼」「来るなぁッ‼」「助けてぇッ‼」 一瞬何が起こったのか分からなかった人間達は、デカい鳥に隣の同族が食われる様を見て我に返る。 寝起きドッキリも甚はなはだしい。「ッ‼」 ライトのスイッチの下で寝ていた佐藤は、急いで全てオンにした。 ライトアップされた目の前に現れたのは、恐ろしい速度で広がっていく地獄だ。「佐藤ッ‼」 彼と同時に起き、明かりがつくのを待っていた葵獅が叫ぶ。「後ろを頼むッ‼凛ッ、絶対離れるなッ‼」「うんっ‼」「分かりましたっ‼」 顔を歪め周りを見回す葵獅は、すぐに少女の姿を見つけた。「池に向かうッ」「うんっ」「はいっ‼」 葵獅が先頭に立ち、凜が二人の背中の服を掴み、佐藤が後ろ向きに立つ。「速足で行くぞっ」「佐藤さんっ脚を大きく上げながら、転んじゃう」「はいっ」 葵獅は襲ってくる黒鳥を両腕の炎で迎撃しながら。 凜は後ろの見えない佐藤に指示を出しながら。 佐藤はぎこちない後ろ走りで、襲ってくる黒鳥を迎撃し、尚且つ近場の人を襲っている黒鳥を吹き飛ばしながら。 目的の少女まであと少しの所に迫る。「紗命ッ‼」「ッ‼皆はんっ‼」 彼女は十数人を背に、池の水を操り大きな天蓋を作って空と地、両方の敵の侵入を阻んでいる。 天蓋は回転し、黒鳥が体当たりしても流し押し返している。 紗命の近くにいる黒鳥を燃やし殴り飛ばし、天蓋を挟んで紗命を中心に葵獅と佐藤が並んだ。「頼む」「はぁい」 天蓋に穴が開き、凜が飛び込む。すぐに再び穴が閉じた。「葵っ、頑張ってっ‼」「あぁッ」 凛は大きな背中にありったけのエールを送る。「ふふっ、佐藤はんもきばりや」「応援っ、痛み入りますっ‼」 そう言って笑う紗命の額には、玉の汗が浮かんでいた。「走れる奴はこっちへ来いッ‼」「こちらへ逃げてきて下さいッ‼」 外の二人が黒鳥を蹴散らしながら大声で叫ぶ。 真ん中に道を作り、逃げてきた人を素早く中に入れる。「見せてくださいっ」 凜が傷を負った人に呼びかけ、コートを脱ぎ、自分の服を引き裂
last update最終更新日 : 2026-07-09
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19話

  ――「ふぅッふぅッふぅッ、無事か佐藤っ‼」 攻撃の勢いが弱まったのを認め、葵獅が敵から眼を逸らさずに叫ぶ。 しかし彼の声音の中に心配の色はない。 今の今まで後ろから敵が来ないのは、信頼する仲間が背中を守ってくれているからだ。 そんなことは分かっている。分かっているが、仲間の無事は返事で持って確認したい。「――っ‼はいッっつぅ」 後ろから聞こえた力強い声に佐藤の身体が反応する。 直後頭の中を走る激痛に顔を歪め隙ができるも、なぜか敵も襲ってはこなかった。「紗命はっ‼」「お陰様でぇ」 いつもと変わらぬ口調に葵獅も思わず笑ってしまう。「あと何匹いるっ‼」「……三十弱ってとこやろかぁ、」「……多いな、……持つか?」「どうやろ、うちん前に佐藤はんが倒れそうやけどなぁ」「……怪我したのか?」「いんや、恐らく魔力の使い過ぎちゃうやろか。くたばってる敵はんの数で言えば、葵はんの倍近くはあるわぁ」「……ほぉ」 一瞬の驚きの後、葵獅の口角が獰猛に持ち上がる。 これは競争ではない。命がけの防衛戦だ。 しかし、元より戦いの職についていた自分が、まさか倍の差をつけられてるとは思わなかった。 称賛と同時に、葵獅の闘争心に薪がくべられる。「佐藤ッ‼返答はいらん‼敵はあと半分だ‼絶対に倒れるなッ‼終わったら飲むぞ‼」 葵獅とて頭痛に侵されていないわけではない。常人なら頭を抱えて蹲うずくまる程度にはきている。 声を上げれば当然痛む。無理やり筋肉で押さえつけているに過ぎない。 しかし、既に限界を超えて戦っている仲間へエールを送らずにはいられなかった。 そこに発破が加わったのも、彼らしいと言えば彼らしい。 ――佐藤の脳は極限の痛みと集中力に、不必要な情報をカットしていた。 今は目の前の敵のことだけで精いっぱいだった。 気を抜くとすぐにでも倒れてしまう。確信できる。 佐藤は考える。 今までこれほど頑張ったことがあるだろうか、ないだろう。これからですらない気がする、いや、もしかしたらあるのかもしれない、こんな世界だ。 あぁ、(……つらい) もういいじゃないか、そんな弱音が持ち上がって来た時、 仲間からの声が届いたのだ。 不思議とその声は彼の極限を邪魔することなく、暗い気持ちを優しく燃やしていった。 ――少し経つとまた声が届いた。
last update最終更新日 : 2026-07-09
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20話

「あっ」「花ッ‼」 その中には紗命と仲良くしていた女の子の姿もあった。 母親の悲痛な叫びが響く。 彼女は怪我人を庇おうとして、風に身を許してしまったのだ。 紗命の腕は植物用のネットに絡みつけられている。 ぼやける思考の中、必死にしがみついて耐えていた。 しかし彼女を救った張本人は、「凛ッ‼」 葵獅が叫び駆けだす。 しかし、遠い。「ッ……!っ」 宙に投げ出された凜は共に飛ばされた幼女を見つけ、空中で腕を伸ばし胸に抱き寄せた。 「グゥっ……大丈夫かい?」 「うん……ありがとっ……」 「ふふっ、強い子ね」 ――凜は幼女が前を見ないように、抱いたまま起き上がり、 羽を広げ構える巨鳥を見据えた。 落ちた場所が驚異的に悪かった。五mも離れていない。 加え、強風は一瞬しか吹かなかった。 自分達が宙を舞っている間に、突進のチャージは完了している。 逃げる時間などない。 ――不思議と凛の心は穏やかだった。「ふぅ」 一息つき、彼女の目つきが変わる、 自慢の三白眼で敵を睨みつけ、彼氏譲りの獰猛な笑みに中指を添えてやる。「くたばれクソ野郎」「ギィェェエッ‼」「逃げろォッ‼凛ッッ‼」 肉弾が打ち出された。 ――折れた嘴が目の前まで迫る、 愛しい彼の声が聞こえる、 泣きそうな声だ、 彼の泣くところなんてめったに見れない、 (……見たいなぁ  いっぱいいじって、いじった後に一緒に笑うんだ、 ……私、良い彼女だったかな、 ……まだ、一緒にいたいなぁ)「……ごめんね、葵」 ――「やめろぉ」 佐藤はその光景を、ただただ横から見ていることしかできなかった。 風には巻き込まれなかったが、攻撃をした後から身体が動かない。 人が埃の様に飛び、塵の様に殺されそうになっているのに、身体が動かない。 大切な人が倒れたまま動かない。 大切な人が泣きそうになりながら走っている。 大切な人が死を前に笑っている。(やめろ) 一番大事な時に、何もできない、(やめろ) 一番立たなければいけない時に、立つことができない、(止めろ) 私は……私は、何の為にここにいる、(止めろ) 私は彼らと何を約束した、(止めろ) 守れ、守らなきゃならないんだ、これ以上、失ったらダメなんだ、 これ以上はッ、 止めろ、(止めろ、やめろ、)
last update最終更新日 : 2026-07-09
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