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Real のすべてのチャプター: チャプター 21 - チャプター 30

146 チャプター

21話

  両者が力なくその場に崩れ、水飛沫みずしぶきを上げた。「葵っ‼」 佐藤は凜が走っていくのを見届けてから、強引に身体を起こし、半ば引きずるように歩く。 生き残った人達は、泣き、笑い、喜びを分かち合っている。 その光景に久方ぶりの温かさを感じ、自然と口が綻ぶ。 彼等を通り過ぎ、少し行ったところで脚を止めた。 見つめる先には、今も母の命令を守る三十羽の黒鳥。 佐藤は満身創痍の身体で、敵であった者達の前に立ち塞がった。 ――黒鳥は理解していた。 自分達の長が死んだことを。 自分達が負けたことを。 ……自分達が、恐怖を抱いていることを。 今、目の前に立つ男はボロボロで、見るからに死にそうだ。 もし襲いかかれば勝てるのだろう。 しかし、動かない。 脚が進むことを拒否している。「……早く、行ってくれませんかね、」 男が何を言ったかは分からなかった。 分からなかったが、この場を離れたくてしょうがなかった。 一羽、また一羽と、夜の闇へ飛び立っていく。 もはやこの者達は敵ではない、生存競争に敗れた只の敗者である。「……助かります、」 佐藤は眼鏡を正そうとして、 ……視界が暗転した。 時間にすれば、一時間にも満たない。 失った命は計り知れない。 それでも、彼らは勝った。 襲い来る命のやり取りに、彼らは勝ったのだ。
last update最終更新日 : 2026-07-09
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22話

  ――頬を撫でる冷たい風。 嗅ぎ慣れていない濃い緑の香り。 目を開けるも、ぼやけていて何も見えない。緑色の何かしか見えない。(眼鏡、眼鏡……) 佐藤は身体を動かそうとし、「あぅ」 全身をを蝕む筋肉痛に顔を顰めた。「あ、佐藤さんっ起きたんすね!今眼鏡かけます!」 溌溂とした声が自分の名前を呼ぶ。眼鏡が佐藤に装着され、本来の彼が戻ってきた。 身体がゆっくりと起こされ、水を手渡される。「有難うございます。……君は?」 一口啜すすり、自分を介護してくれている少年を見る。「因幡 恭祐っす!十七っす!佐藤さんっ、めっちゃかっこよかったっす!あと、今自分がここにいれるのは佐藤さん方のおかげっす!本当に!有難うございましたっ!」「い、いえ、こちらこそ有難うございます」 ぐいぐい来る少年にたじろぎながら、佐藤は改めて辺りを見回す。 屋上に広がっている景色は、彼の知っているものと違う。 佐藤と葵獅が黒鳥を惨殺しまくった場所など、小さな林の様になってる。 自分の真上にも茂るそれを見て、当然の疑問を投げかけた。「因幡くん、これは何でしょうか……、」「自分達にも分からないんす。寝て起きたら生えてました。何もしてこないんで危険ではないと思うっす。……近くにいると何かほんわりして落ち着くんすよね」 枕元に生える一本を見る因幡に、言われてみればと佐藤も同意する。 嗅いだことのないほどに濃い自然の香りは、安らぎと同時に戦意の低下を誘発されている気がする。 もしかしたらこれも自衛手段の一つなのかもしれない。 少し不信が募ったが、やめた。今はあまり頭を使いたくない。 佐藤は彼等の安全だという言葉を信じることにした。 再び目を閉じようとして、一番大事なことを思い出す。「そうだっ、葵獅さんと凛さん、紗命さんはっ!」「全員無事っす。葵獅さんと紗命さんは身体が動かないらしくて、それぞれ凜さんと花ちゃん家族が介抱してるっす」「花ちゃん?」「優しい女の子っす」「あぁ、……そうですか、何より三人とも無事で良かったです」 彼は敷かれたコートに再び横になろうとして、腹筋に力が入らず危うく頭を打ちそうになる。 慌てる因幡に笑って誤魔化し、もう少し休むと伝えた。 皆と会うのは、動けるようになってからでいいだろう。 § ――木漏れ日差す森の抱擁が、東条
last update最終更新日 : 2026-07-10
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23話

 大半が静かに休んでおり、加えて大量の葉擦れの音で全く気付かなかった。 彼の身体が硬直し、寒いはずなのに汗が出てくる。(……まずいぞ、これはまずすぎる) 何も言わず方向転換し、一旦林に戻ろうとしたところで……、「あー、……おはようございます」 自衛用にか、鉄パイプを持った老人とバッチリ目が合った。「……」「……」「……年の暮、ご多忙の中にも活気溢れる日々をお過ごしのことと存じ」「分かった分かった、挨拶はそれくらいでええわ」「……ます」 老人は呆れたように東条の言葉を遮り、次いで、その人間として大事な何かを落としてきた様相に目を向ける。「……新手の変態か、物の怪の類か?」「れっきとした人間です。唐突で悪いんすけど、水浴びれるとこありますかね?」「ん?あぁ、向こうのテナントに水道がある。お湯も出るからの」「有難いです」 彼はここまで来たら羞恥心など捨てろと自分に言い聞かせ、堂々と歩く。「っ……その傷、平気なのか?」「?あぁ、こっからじゃよく見えないんすけど、そんなに酷いですか?」 背中を見つめる老人は険しい顔をして頷く。「傷は塞がっているようじゃが、真新しい、何があったか教えてくれぬか?」 道中真剣な顔で尋ねてくる老人に、彼は少し考える。「構わないんですけど、……ここってリーダー的な人います?」「リーダー……、うむ。先に激しい戦闘があっての、今は寝てる。……そこで大分人数も減ってしもうた」 老人は、悲しそうな、悔しそうな表情を浮かべ、振り払った。「それは、ご愁傷様です」「有難う。儂は慣れているからいいんじゃがな、若人には辛い経験だったろう。……それで、リーダーがどうしたのだ?」「正直後でまた聞かれると思うんで、全員集まってる時に話しちゃいたいんですよね」「ほっほっ、それもそうだ」 要するに面倒臭い、と言われた老人は笑って同意する。 東条も気難しい人でなくて良かった、と安心した。「浴び終わったら彼女の所に行くと良い。怪我人は彼女が見てくれている」 老人の視線の先の女性は、既に目を見開いて自分を見ていた。 言っても血達磨の自分は今、起きている全員の視線に晒されているわけだが、医療従事者の目から見れば尚更ヤバい人間であることだろう。「分かりました。それじゃぁリーダーが起きたら呼んで下さい」「うむ、分かった
last update最終更新日 : 2026-07-10
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24話

 「……服無いんですか?」「残念ながら」 掛布団を身体に巻いて先程言われた場所に来た彼を、女性は半眼で見つめる。 彼女の名は瀬良 希海、黒鳥襲撃の際、凜と共に怪我人の手当てを最前線で行っていた現役看護婦だ。「防寒の手段があるならまぁいいです、傷見せて下さい」「はい」 背中を向け肉体を晒した東条を見て、絶句する。 何故これ程の傷を負っていながら、この男は飄々としていられるのか。彼女には理解できない。「――っ……血は、止まってますね。……申し訳ないのですが、消毒液もなく、包帯も代用で補っている現状です。 今は他の怪我人の止血を優先したいんです。化膿している部分もありませんし、骨に異常も見られません。今は安静にしてとしか……」 申し訳なさそうな瀬良だが、彼はあくまで自分は大丈夫だと笑いかけた。「あぁいいですいいです、気にしないで下さい。痛みもほぼ無いんで。有難うございました」 彼は頭を下げ、去り際に怪我人が寝かされた一角を見る。(……) 寄り添って寝ている男女と、少女に、細身の男性。 ……他の者とは違う何かを感じた。 彼の練度ではまだ他人の魔力を計ることはできないが、その片鱗くらいは感じ取れる。 彼はこれからどうするかと頭を悩ませながら、林の中へ戻っていった。 §「おはようございます」「あ、おはようございます!」 因幡は目を開ければ必ず近くにいる。きっと、ずっと面倒を見てくれていたのだろう、と佐藤は感謝する。「丸一日、本当に有難うございます」 立ち上がり、謝辞を述べた。「やめてください、命の恩人なんすから当然っすよ。誰が看病するかでもめたほどっすよ?」「……ははっ」 ヒーローの様な扱いに乾いた笑いが出てしまう。「それより身体の方は大丈夫なんすか?」「……、はい。大丈夫みたいです」 佐藤はストレッチをしてみるが、驚くほど全快している。前よりも身体が軽くさへ感じる。 彼が因幡と話していると、様子を見ていた人達がぞろぞろと集まり口々にお礼を述べてきた。 嬉しかった。自分の行ったことは正しかったのだと再確認できた。 一通り話し終えると、佐藤は庭園に見える彼等の元へ向かうのだった。 ――「お、来たみたいよ?」 凜が最後の一人の到着を二人に知らせる。「……よく眠れたか?」「はい、おかげですっかり回復しました、
last update最終更新日 : 2026-07-10
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25話

  分かっているのか分かっていないのか分からない顔で佐藤が頷く。「ネットでなんぼ調べても、うちら四人とおんなじレベルの魔法やら異能を使える人、出てきいひんのです。 こら、ここみたいな危険地帯の方がそのモヤモヤ多くて、一定量体内に取り込んで、且つ運良かった人だけが、強い魔法を発現できるんちゃうかおもうわけです」「……なるほど」「……まぁ、これを知ったさかいどうって訳でもあらへんのですけどなぁ。……かんにんなぁ、考察やらになるとすぐ力入ってまうんです」「いえいえ、興味深い話でしたよ」 もしそうなら、強い魔法を使える人は自分達と同じような状況にあると言える。そりゃ動画なんて上げてる暇ない。「まぁ、凜はんも凄い力手に入ったちゅうことです」「佐藤さんには負けるけどね。物体の制止なんて無敵よ無敵」「全くだ」 盛り上がる三人に、佐藤が申し訳なさそうに手を上げる。「それなんですが、万能というわけでもないみたいなんです。 この能力、発動する前に座標を決めなくてはいけないらしくて、つまり、目で追えない敵が現れたりしたら全く使えないと思います」「……せやったら、佐藤はんの課題は目ぇ良うすることやなぁ」「ぜ、善処します」 紗命の言葉に、耳に掛かる視力矯正器具が力なく光った。「あんまり難しい事でもあらへんみたいやで?モンスター倒すと身体能力上がるみたいやし」「そうなんですか?」「……佐藤は起きてから身体の調子が良いとか思わなかったか?」「あぁ、確かに」「確実に上がっていると思うぞ。……俺も以前出来なかった小指での腕立てができるようになっていた」 小指で腕立てなど聞いたこともないが……。 女性陣が半眼で見つめる中、佐藤だけは目を輝かせる。「はぁ、あんたは何になりたいのよ……」「……お前を、守れるようになりたい」「っ……ばか、」 いきなりぶちこんできた葵獅に、凜の頬が染まりそっぽをむく。 最愛の彼女が危機に陥ったことが相当ショックだったのか、起きてからの葵獅は、それはもう激しく凜を求めた。 嘗てないほどに動揺する彼に悪かったと思いつつも、向けられる愛欲を心地よく思ってしまうのが女の性。 今回の件で、二人の繋がりはより一層深くなったのだった。 しかし二人以外にとってはそんなの知ったことではない。場の空気がピンク色に染まりかけたところで
last update最終更新日 : 2026-07-11
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26話

  佐藤と若葉の二人は、最後に小さな林へ辿り着いた。「勝手に入るのも悪いしの、外側からにしよう」「……?誰かいるんですか?」「ん?聞いとらんかったか?いや、頼まれたのは儂じゃし、儂が悪いな。 実は佐藤さんが寝ている間に住人が一人増えてな、リーダーが起きたら呼んでくれと言われたんだ」 佐藤は木々の中に入っていく若葉を見送る。 「筒香さん以外はまだ会ってないと思うから、呼んで来るから先に戻っておいてくれ」「そ、そうなんですか。分かりました」 鬱蒼と茂る木々に手を合わせてから三人の元へ帰る。「……リーダーか」 佐藤は何かむず痒いような、慣れない感覚に空を見上げた。 ――「……戻ったか、」「はい、遅くなって申し訳ありません」「構わん」「あの、新しく来た人の事って何か知ってます?」「ん?何だ、聞いたのか。サプライズにしようと思っていたんだが」 葵獅がつまらなそうに肘をつく。「あたしと紗命もまだ会ってないのよ。何でも初見のインパクトが強すぎて、皆目が点になったらしいわよ」「楽しみやわぁ」 散々な言われように興味と共に不安が湧いてくる佐藤。「なかなか凄い青年だったな。「話したい事も多いでしょう」と、俺達四人の意も汲んでくれた。悪い人ではないと思うぞ? 身体も鍛えているようだったしな」「別にそれは関係ないでしょ」「大いにある」 自前の筋肉論を展開する葵獅だが、彼が言うのだから間違いないだろうと佐藤は安心した。 ――「え、……あれ?」「あれだな」 若葉の隣を、直立した等身大の芋虫が歩いている。 服を持っていないのだから仕方ないが、何とも様にならない格好であった。「確かに、インパクトはあるわなぁ」「最初は下着だけ穿いて身体中血だらけだったらしいぞ」 普段であったら関わってはいけない類の人物との邂逅に、四人共々ソワソワする。「こんな格好で申し訳ありません。服が無いもんで」「気にしなくていい。さっきも一度会ったが、此方から自己紹介させてもらう。俺は筒香 葵獅だ」「私は佐藤 優と申します」「うちは黄戸菊 紗命いいます……凜さん?」「あ、うん。あたしは月島 凛。……よろしくね」 彼は相手方の名前を必死に頭に叩き込む。「俺は東条 桐将です。こちらこそよろしくお願いします」「よろしゅう。武将みたいな名前やなぁ」「は
last update最終更新日 : 2026-07-11
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27話

  ――「とまぁ、こんな感じですね」「……いや、有難う。……しかし、大変だったな……、」「ふふっ、それでズボンがのうなったんやなぁ、ふふっ」「あざっす、……そんなに笑わんといて下さいよ」「かんにんなぁ、ふふっ」「……ゴブリンに狼か、厄介そうだな」「うちはその漆黒とやらが見てみたいなぁ」「分かりました」 突然現れた球体に、凜がギョッとする。「……確かに魔法には見えへんなぁ」「……話を聞く限り、私の能力と似てますね」「え?」 まさか、特別ではなかったのか?東条は佐藤の言葉に驚く。「いや、能力の効果自体は全く違うんですが、何かこう、概念的なものが」「詳しく聞かせて貰っていいですか?」 ――「……強いですね。それに魔法も使えるのか、……羨ましい」 一通り自分達の境遇を話し終わり、次いで彼は屋上の一角に居を構えていいか聞く。 正直東条自身は、食料も自らで調達する気の上、来たくて来たわけではない。 何処に誰が住もうが関係ないと感じているのだが、もめるのも嫌なので体裁的に振る舞っていた。 しかしそんな彼に、「あの、そのことなんですが、此方で寝床もプライベートも御用意するので、木から降りて頂くことはできないでしょうか?」 佐藤が低姿勢に頼み込んだ。「……なぜです?」「ここに来たということは、ここにいた人達も食べてるんですよね」「確かに、新しい服が沢山張り付いてたんで、そうなりますね」「あの木々は仲間達の墓でもあるんです。せめて私達の元にあるまでは、大事に扱ってあげたいんです」「……あぁ、……なるほど」 東条の目が力なく細まり、本心から謳っているのだろう佐藤を見据える。「今まで大変な思いを共に過ごしてきた、大事な住居だとは思いますが、どうか「断ります」……」 鋭い一言が空気を凍らす。四人の視線が東条に向いた。「……佐藤さんの言い分も分かります。 けど、俺があの木を選んだのは、姿を隠せて、且つ快適に過ごせるからです。 別にそんな思い入れはありませんし、あの木を越える良物件があるならすぐにでも移ります。 ですが今や四方を木々に囲まれて、防御もプライベートもいっそう固くなりました。そちらにあれ以上を用意することはできないと思います。 勝手で申し訳ないですが、俺は情より自分の命を取ります。……すみません」 東条は申し訳
last update最終更新日 : 2026-07-12
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28話

 「どう見る?」 東条の姿が見えなくなり、葵獅が口を開く。「一人が好きなんやろうなぁ。……笑顔でゆうとったけど、用がある時以外は好きにさせろってことやろぅ?」「……彼を当てにすることはできないのでしょうか?」「まぁ、利己的ってだけで排他的ちゃうお人やさかい、協力はしてくれはるんちゃいますか?ねぇ凜はん?……凜はん?」 今まで一度も発言しなかった凜に話を振るが、蛇に睨まれた蛙の様に動かない。 その手には汗が滲んでいた。「どうした凜?具合でも悪いのか?」「ううん。……ちょっと、怖くなっちゃって」 大きく息を吐く凜に、紗命が興味深い視線を向ける。「……どないな風に見えはったん?」 凜は自分の能力を隠していた。東条が聞かなかったのも幸いして、最後まで言わずにすんだ。 その理由は、「……真っ黒だったのよ、顔も見えないくらい」 赤でも青でもない、どす黒いほどの黑。 まるで人間の罪を有色化したかの様な色が、彼の全身を形作っていた。 人+黒で好印象を持つ者はいない。加えて、人は完成されたグループに異物が入るのを嫌う。大人も子供も差異はない。 ――誰もが黙る中、見計らったように紗命が口を開いた。「……彼のこと、うちに任せて貰えへんやろか?」「危険じゃないか?」「能力なんて分からへんことだらけ、無駄に考えてもしゃあないです。それに、殿方の扱いには慣れてるし、拘束には水が一番やからなぁ」 正論ではあるが、幼気な少女に任せていいものか、と男二人は思案する。「そんな難しい顔しいひんで下さい。悪い人には見えへんかったし、いざとなったら皆で袋叩きにすればええんよ」 三人とも、酷いことを快活に言う少女に絆されてしまう。「……分かった、頼めるか?」「おおきに」 トコトコと花ちゃんの元へ向かう彼女に念を押す。「……紗命、何かあればすぐに言ってくれ」 紗命はクルリと振り返って敬礼のポーズをとった。「がってん承知のすけぇ」「む」「む」「……おい」 男二人の体たらくに、呆れるしかない凜であった。 § それから四人は皆を集め、話し合い、互いの生を喜んだ。 生き残った人数は三十四人。大半が喰われてしまった。 しかし、団結力は以前と比べ物にならない。 見張りの当番表を作り、武器になりそうな物を搔き集め、一人一人に配る。女子供関係なく。
last update最終更新日 : 2026-07-12
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29話

  ――東条はハンモックに横になり、枝葉から差し込む光を見つめる。 布団を被っていてもやはり外は冷える、中の人工的な温かさが恋しい。「……なぁ、そろそろ戻ろうぜ?」 どっかりと腰を下ろすマイホームに語り掛けるも、悲しきかな伝わらない。それどころか周りの木に根を絡ませ、我が物としようとしている節まである。これでは動くのもままならない。「……はぁ、」 溜息を吐く東条の耳が、何かが自分に近づく音を拾った。「どないしたん?溜息なんてついて。幸せが逃げてまうで?」「えっと、黄戸菊さん?どうしたんですか?」 木の間から現れる彼女に目を丸くする。その手には配給されたのであろうフランクフルトが握られていた。「一緒に食べよう思てなぁ。東条はんのも持ってきたで?」「え?いやいや、俺はあるんで大丈夫ですってっ。他の人に分けてあげて下さい」 リュックからお菓子類を取り出して見せる。只でさえ少ないと言っていたのだ、持っている者が貰うのは悪い。 自分は食料があるからと断っておいたはずなのだが。「そんなん言うても、持ってきてもうたし。……追い返されたって聞かはったら、きっと葵獅はん怒り狂うてこの林ごと焼き払うてまうやろなぁ」「どんな脅しですか……」 物騒なことを言う彼女に根負けし、漆黒の上に乗りゆっくりと下りていく。 スカートの中を隠す女子とはこういう気分なのだろうか、などと下らない事を考えている内に地面についた。「ほぇーそないな事もできるんやぁ」「色々便利な能力ですよ」「羨ましいわぁ。はい」「有難うございます」 根元に腰掛けようとすると、紗命がハンモックを指さす。「……下りてきてもろうたとこ悪いんやけど、上で食べへん?」「いいですけど、景色もクソもないですよ?」「構わへん構わへん、おおきになぁ」 紗命が用意された円の上に丁寧に座ると、東条は縁に手をかけた。何とも不格好に彼をぶら下げたまま、漆黒は浮上していく。「なんか、ごめんなぁ」「構わへん構わへん」「ふふっ」 二人してハンモックに移り、バランスを取って座る。「ほんまや、葉っぱしか見えへん」(……いやかわいっ) クスクスと笑う彼女に見惚れてしまい、隠すようにフランクフルトを齧る。口の中で弾ける肉汁、久々の肉の味は確かに美味かった。「東条はんはこの力、なんや思う?」 足をぶら
last update最終更新日 : 2026-07-12
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30話

  ――紗命は三人を集め、バレていた事やその他諸々を話した。「そりゃぁ、警戒もするわね」「一人好きなのは人柄や思うけど、距離は縮めれた思いますわぁ」 彼女は思う。話してみれば何てことはない、気さくな青年だった。「同居人だ、俺達も歩み寄らないとな」「そうですね」 話も終わり、去り際、紗命は男二人に聞いてみる。「お二人は他人の魔力、感じれる?」「いや、俺は無理だ」「私も。確かに五感が鋭くなったような気はするんですが」 両者共にノーだ。しかし欠片は掴んでいる気がする。「……東条はん的に言うたら、経験値の分散てとこやろか。聞いただけなら、狼の方があの鳥より強そうやったし(ブツブツ)」 思考の海に潜る紗命に、三人は置いてけぼりを喰らう。「魔法とかcellって、奥が深いんですね」「そりゃそうよ、あたし自身よく分かってないもの」「ああ」 そっちに関しては点でダメな三人だった。::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
last update最終更新日 : 2026-07-13
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