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146 チャプター

51話

 「……普通に好きになってくれよぉ」「ふふっ、否定しなさいよ」 後ろ手をつき天を仰ぐ東条を見て、紗命は可愛らしく笑った。「……お淑やかな京都美人はどこ行った?」「京都弁、可愛いから使ってるけど……実際ノリなのよね、合ってるかも分からないし」 理想の女神像がガラガラと崩壊していく。「……その様子だと、やっぱり惚れてはくれなかったかぁ、秘密ばらすの早ったかなぁ。 ……でも抱きしめられた時耐えられなかったしなぁ。……ふふっ」 トリップする紗命を横目に、東条は頭を抱える。「……いや、あぁ、どうしよ、でもここで渡さないと男として……(ボソボソ)」「何よボソボソと」「…………ぅしっ」 決意したように、服の内ポケットに手を入れた。「これ、お前に似合うと思って……今渡さないと男として負けた気がするから」 差し出された掌の上にあるのは、美しい紫色の、菊の花を模かたどったブローチ。 何日も前に葵獅との探索の際、偶然見つけた物だ。 タイミングが分からず、ずっと渡せずにいたのだ。「……綺麗、……私に?」「あぁ」「嬉しい、……ん」「?なん……あぁ、後でセクハラとか言うなよ」 突き出された鎖骨辺りに、ブローチを止めた。 朱い襟元に、本紫色が良く映える。「……ほれ。これ制服だけど良いのか?」「良いの、ふふっ、似合う?」「当たり前だろ」「……ふふふっ、やっぱり桐将も私の「断じて違う」早いわよ」 間髪入れずに一刀両断された紗命が、不満に頬を膨らませる。「だってこのタイミングで渡してくるなんて、そういうことでしょ!?」「いつか普通に渡そうと思ってたんだよ!したら何か良い感じの雰囲気になったからっ! ここで渡さなきゃ男が廃るだろっ!」「責任取りなさいよ!」「重いよ!?」「そんなのさっき分かったでしょ!」「そうだった‼」 一進一退の攻防を繰り広げ、互いに息が切れる。 言い合い、罵り合う二人の姿は、場違いなほどに青い春がよく似合う。 ――未だ彼等は死地の中。 血生臭く泥臭い、戦場の中。 されど恋する乙女は、この一時を菊色に染めた。 「……でも、どうしてこれを?……」 プレゼントは嬉しい。自分の事を考えてくれていたことも嬉しい。 そこに潜む、一抹の違和感。 ……ただ、口でこそ疑問を投げるが、紗命には分かっていた。 ず
last update最終更新日 : 2026-07-19
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52話

 「――っ無事か‼」 額から血を流す葵獅が階段から顔を出す。 敵がいないのを確認してから、隣合って座る二人に駆け寄った。「葵獅はん」「紗命、無事で良かった。……お前は、大丈夫なのか?」 包帯をグルグル巻きにされ、左腕に添木をされた東条に視線を移す。「だいじょばない」「だろうな」 全身からだいじょばないオーラを出す彼を、葵獅はひょい、とお姫様抱っこした。「すまないが急ぐぞ。下もマズいことになってる、紗命は動けるか?」「えぇ」「着いたら水でバリアを張ってくれ」「分かった」 走る二人に後は任せ、東条は上目遣いで懇願する。「優しくしてね?」「黙ってろ気色悪い」 葵獅は腕の中の大きな赤子を睨みつけつつも、その運搬には最善の注意と敬意を払う。 彼がいなければ、間違いなく紗命は死んでいたのだから。「……ありがとうな」「……自分のためだよ」 きっと本音なのだろう言葉を、葵獅は正直な奴だと笑って流した。  ――「佐藤殿っ、マズい、右が抜かれる!」「――ッ」 若葉が焦りフォローを頼む。 ゴブリンの残数は二十程度、しかし此方も戦える人数は半分まで減ってしまっていた。 壁を背に戦ってはいるが、疲労に傷に、一人また一人と倒れていく。(崩れるっ) 若葉が諦めかけたその時、 大量の水がゴブリンを吊るし上げ、火炎放射が視界を燃やした。 水壁が人とゴブリンを分断する。「――ッ葵獅殿っ‼紗命嬢も、無事で良かった!」「遅くなった」「後ろは任せて下さい」 攻撃が途切れ、張り詰めていた空気が解ける。 佐藤を筆頭に、限界だった多くの者がその場にへたり込んだ。「彼を頼む。休ませてやってくれ」 瀬良に東条を引き渡した葵獅は、若葉と共に前線へ並んだ。「彼は無事なのか?」「生きてはいます」「……頭が上がらんな」「全くです」 若葉が槍を握り直し、葵獅が腕に炎を纏う。「二人で行かはるん?」「あぁ、皆よくやってくれた。後は任せてくれ」「ほっほっ、少し暴れんと気が済まんわい」「ほな、いってらっしゃい」 前が開けたと同時に、二人が駆ける。 後ろを気にしなくて良くなった今、彼等を止められる者はもういない。「好き勝手しおってからに、冥途で詫びな」 槍の一振りで三体のゴブリンの首がへし折れ、次の一瞬で二体の心臓が穿たれた。 若葉
last update最終更新日 : 2026-07-19
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53話

 § ――そして二日後。「……ん、おはよぅ、桐将。なんか食べる?」 横で休んでいた紗命が、東条が起きた振動を感じ取る。 彼女の目の下には、心配と睡眠不足からか、濃いクマが浮かんでいた。「……おはよう。心配かけたな」「ちょ、まだ動いたらあかんてっ」 自力で起き上がる東条を、慌てて制止しようとする。「なんかもう大丈夫っぽい」「寝言は寝て言い。ほら、無理しいひんで」「いやマジで」 ギプスを振り回す東条に目を見開き、おでこを合わせる。「熱は……あらへんみたいやね。骨折と、火傷の痛みは?」「お、おう。ないぞ?」「……包帯外すな?」 言うが早いか身体中の包帯を取っていく紗命の顔が、みるみると驚愕に染まる。「こら、凄いわぁ……」 見るも無残だった焼け爛れた傷は、凄惨な痕は残したものの完全に治癒していた。「今回ヤバいの二体殺したからな。それだけ治りも早かったんだろ」「……とりあえず、良かったわぁ」 身体を伸ばす東条の前で、張り続けていた緊張から解放された紗命が、ぐで~、と溶ける。 その姿に微笑み、毛布をそっと掛けた。「ありがとうな、紗命」「妻として当然のことやでぇ」「残念だが人違いだ。夢は眠ってから見てくれ」「ふふっ、……」 限界だったのか、彼女はそのまま可愛らしい寝息を立て始めた。 周りで寝ている怪我人を起こさないように、そっと外へ出る。 冷えた空気を肺に流し込み、寒空の太陽に目を窄めた。「む?東条殿?もう動いて大丈夫なのか?」 通りがかった若葉が驚きに目を丸くする。「はい。心配かけました」「いや、無事で何よりじゃが……。そうだ、お主の家、入口前に移動しておるぞ」「分かりました。ひとっ風呂浴びてきますわ」 揚々と去って行く彼に、若葉も呆気に取られてしまう。「……会う度に傷が増えていくのぉ」 その後ろ姿に、戦慄に似た何かを感じた。 ――「お、英雄のご帰還だぞ」「うぉっ、なんすか」 シャワールームから出てきた東条は、盛大なお出迎えにビックリする。 彼の前には、休んでいる者を除いた全員が集結していた。「起きたなら何か言ってけ」「まぁまぁ、東条さんの気持ちも分かりますよ」 先頭の葵獅と佐藤が困った笑みを浮かべる。「葵さんも佐藤さんも、元気そうで何より」「「……こっちの台詞だ」です」 今度こそ呆れ
last update最終更新日 : 2026-07-20
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54話

 § 曇天の夜空の下、色とりどりのネオンに照らされる、豪勢に盛り付けられた食の数々。 グラス片手に手を伸ばす彼等を、今この時だけは誰も咎めない。 東条が起きてから更に二日後、全てのメンバーが自力で生活を送れるまでに回復した。 その間に東条と葵獅の二人が念の為にとレストラン街へ偵察に赴くも、大将首を取られ逃げたのかゴブリンの姿は無かった。 今ここに並ぶ食事の数々は、荒らされずに保管されていた物を集めてかっぱらってきた結果だ。 ならば死ぬ前に存分に楽しんでしまおう、と早速パーティーが開かれた。 完全な自己責任で、死んでも悔いなしという者だけアルコール類も許可された。 今宵は暗闇の中、強引に空けた光の時間。 真に今を生きる者達を祝福する時間だ。 ――「希海は気になってる人とかいないの~?」「別にいないって。少し飲みすぎよ凜?」 酒臭い息を吐く彼女を軽くあしらい、瀬良はグラスに入ったリキュールを傾けた。 大人の女性二人の会話を聞きながら、紗命もクスクスと笑う。「まったく、貴女は人のこと言う前に自重しなさいよ。最近夜遅くテントから声漏れてるわよ?」「な!?」 唐突の暴露に、凜の酔いが一瞬で覚める。「イチャイチャするのは構わないけど、周りのことも考えてほしいわ?」「べ、別にイチャイチャなんて!」「そういえばカップルが増えているらしいわよ? ……種を残そうとするのは私達の本能。環境のせいもあるのでしょうけど、貴女達の夜の囀《さえず》りも関係あるんじゃない?」「ないわよ!」「まぁ、医療従事者として言わせてもらうけど……今は避妊しときなさいよ?」 こっそりと発散しているつもりだった彼女は、羞恥に顔が真っ赤になる。 公衆の面前で事をしているのと変わらない、野生の所業。 何処かのAVタイトルにありそうな、恥辱の蛮行。「――っそ、そんなこと言ったら紗命だって避妊しなさいよ!」「――ッ何でうちに飛び火するん!?」 強引に逃げ道にされた紗命が慌てて反抗する。「巻き込まんといてや!一人で死んどぉくれやす!」「いいえ道連れよ!どうせ毎晩木に隠れて獣の如く「わーわー!そないなことしてへんです!まだ手かて繋げてへんのに!」「嘘よ!」「嘘ちゃう!」 見るに堪えない、醜い傷の擦り付け合い。「……はぁ、淑女がはしたないわよ?」 この争い
last update最終更新日 : 2026-07-20
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55話

  ――「桐将、もう寝るん?」「ん?あぁ。お前も?やけに盛り上がってたけど」 問われた紗命が一瞬硬直する。「……聞こえとった?」「内容は知らんけどな」「……ふぅ。凜はんのバカ(ボソッ)」 露骨に安心する紗命を横目に見る。「なんだ、聞かれたらマズい事でも話してたのか?」「……わりと」(……あの声の大きさなら大体聞かれてるだろ) 突っ込みは心の中に留め、木々を抜けていく。 マイホームに着くと、此方を窺う紗命がモジモジしだした。「……今日は、一緒に寝ちゃおっかなぁ?」 紗命の顔が赤く染まる。 凜との言い合いで、自分も少し中てられてしまったのかもしれない。 言った傍から恥ずかしくなってくる。「……いきなりどうした?」 彼女は半眼で見つめる東条から、居た堪れなくなり眼を逸らす。「お前なぁ、色々噂立っちまうぞ?」「うちは構わへんけど?」「それに幼気けな少女が付き合ってもない男と寝たりしちゃいけません。 そーゆうのは性の何たるかを知ってからにしなさい」「ほなうちらは大丈夫やなぁ。恋人やもん」「……たまにお前が本当に怖くなるよ」 溜息を吐き、漆黒から降りてハンモックに横たわる。 一度天を仰ぎ、不満気な顔をする紗命を見下ろした。「……俺は好きだと言われたからには真摯に向き合うし、前も言ったが紗命への気持ちも満更ではない。 自然の流れからのあれやこれやは俺が惚れたと認めるとして、強引な既成事実の創作は全力で避けさせてもらうからな。 外に出たら命を預け合うんだ、中途半端は御免被りたい」 東条の言葉は最もだ。 彼の軸にあるのは、未だ『冒険』ただ一つ。 紗命はそこに割り込むことになるのだから、へたな想いは文字通り命に直結する。 俯く紗命を見て、東条は頬を掻く。「……ただまぁ、俺も最近目で追っちゃうし、成果は出てるぜ」 照れ隠しにサムズアップする彼に、紗命の口角が上がった。「ふふっ、あれやこれやをする日も近いんやなぁ?」「おうよ。その暁には、それはもう滅茶苦茶に愛してやる」「――ッ滅茶苦茶にっ、愛っ、ふふっ、ふふふっ」 瞳孔が開き、三日月に口が裂け、内から出る何かを抑える様に彼女は自身を抱きしめる。 自分の前でしか見せないその狂笑にゾッとしつつも、美しいと思ってしまう自分は、既に相当毒されているっぽい。「ふふっ
last update最終更新日 : 2026-07-22
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56話

 「師匠、ちょっといいっすか?」 神妙な面持ちの三人に、若葉、葵獅、佐藤が首を向ける。「ん?なんじゃ」「明日、あの男と決闘がしたいっす。審判やってくれないっすか」 唐突の申し出に目が点になる。「あの男というのは?」「勿論東条のクソ野郎だ!」 因幡の後ろにいた一人が、声を荒げて林を睨んだ。 怒りの出所に佐藤と葵獅は疑問に思うが、常日頃から彼等を扱き倒している若葉だけは、見当がついたのか呆れかえった。「お主等なぁ、それは八つ当たりってやつじゃぞ?」「んなこと分かってらァ、これはケジメだ。……夢破れた俺達のな」 涙ぐむ三人は夜空を見上げ、過去を思い出す。 屋上に避難して、運よく生き残り、槍の才能を見出され、三人で強くなろうと誓ったあの時を。…… 違う違う、そんなことどうでもいい。 それ以上に、介護してくれた天使の如き少女を。 この世の物とは思えない程の可憐さを。 儚げでいて、どこか悪魔的な美貌を。 そう、彼等は恋していたのだ。 黄戸菊 紗命に。 始めは誰がアタックするかで殺し合った三人だが、決着のつかない戦いに虚しさを感じた。 その結果、三人の内誰が彼女と結ばれようと、残りの者は血の涙を流して祝福するという協定が結ばれた。 そうしてアタフタと時が流れていく中で、気付くと、いつの間にかポッと出の変態に彼女は取られていた。 彼等は茫然とした。 世界の残酷さを知った。 怒り、震え、そして哭いた。 暗殺しようにも、彼女に嫌われないかと一歩を踏み出せなかった。 彼女が攫われた時、命を顧みず助け出したのは奴だった。 何より、彼女の『女』の顔を見てしまえば、嫌でも気付かされる。 彼等は決めたのだ。 己の夢物語に終止符を打つと。滂沱の涙を流す彼等に、テーブルの三人は引き気味に応対する。「……いやまぁ、主等の気持ちも分からなくはないが「分かってくれるかジジイっ!」ええぃ鬱陶しいっ」縋り付く一人を、若葉は汚汁が付かないように振り払った。「……東条は強いぞ?」「分かってるぜ葵獅の旦那。でもこれは、あくまで俺達の枷を壊す戦いなんだ。勝ち負けじゃねぇんだ」「……それに巻き込まれる東条さんは堪ったものじゃないでしょうけどね」苦笑する佐藤に、因幡は不思議そうな顔をする。「何言ってんすか佐藤さん、あの変態は当事者っすよ?」彼
last update最終更新日 : 2026-07-22
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57話

  ――「おはようさん」「ん、おはよう」 紗命の挨拶で起きる東条は、欠伸をしながら戦闘服に着替える。(自分の為に、優しいなぁ)などと思っている東条だが、実のところそんな善意は欠片もない。 東条の起きる時間を完全に把握している紗命は、彼の寝惚けた顔を見る為だけにこうして毎日通っているのだ。「はいどーぞ」「あばばばば」 地面に飛び下りた東条は、強制的に洗顔されながら歩いていく。「ぷはっ、水魔法マジ便利よな」「ふふっ、できた妻やろ?」「母性に擽られるのは間違いない」 いつも通り仲睦まじく林を抜けてくる二人に、しかし今日はいつもと違う視線が三つ向けられていた。 席に着き朝食を手にしたところで、東条は三人が近づいてくるのに気付く。 若葉の弟子筆頭の三人だ。 知らない顔というわけではないが、話したこともない上に、何かと殺意を感じるので距離を取っていた。「おはようございます黄戸菊さん、少々お時間宜しいでしょうか?」「はい、おはようさん。どないしたん?」 やけに丁寧な口調で話しかける因幡に、紗命は笑顔で応対する。 そこで、我関せずを貫いていた東条に、これでもかとガンが飛ばされた。「彼に話がありまして」「……え、俺?」 殺意剥き出しの三つの目にパチクリする。「そうっす、あんたに決闘を申し込むっす」「断るっす」 瞬きも許さぬ一瞬の攻防、一考の余地すらない問答無用の返答。 今度は三人がパチクリした。「……なっ」「テメェッ」「落ち着け、黄戸菊さんの御前だぞ」 勝手にワイワイと言い合う彼等を、東条は不審な目で見る。 いきなり来て決闘などとぬかされれば、そりゃ断るだろう。「そもそも何で決闘よ?」「テメェがそれを言うのかッ!」「だから落ち着けっ!」 食って掛かるヤンキーを、落ち着いた風体のヤンキーが地面に抑える。もう何が何だかさっぱりだ。「……まぁいいっす。断られるのは予想してたし」 因幡の一声で残る二人も立ち上がった。「俺は因幡 恭介っす」「……萩 刀祢だ。ぶっ殺してやる」「荒木 海」「あ、東条 桐将です」 名乗り出したので一応流れに乗っておく。「では黄戸菊さん、お騒がせしました」「「お騒がせしました」」「ええよ~」 一礼し去って行く彼等を、東条は唖然と見送った。
last update最終更新日 : 2026-07-22
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58話

 「マジで何だったんだ?」「ふふっ、おもろい人達やろ?」「どちらかと言うと怖かったな」 説明の無さがエヴァQのヴィレと比肩するレベルである。あれから何を読み取れと言うのか。 ――とりあえず理解できない彼等の事は忘れ、食事を済ませて席を立った。「んじゃ中行ってくるわ」「もう?えらい早いなぁ」 いつもなら、これから二人で能力の練習や他愛のない会話をして過ごすのだが……。 紗命の名残り惜し気な表情に後ろ髪を引かれる。「悪いな。何かまた突っかかってきそうな雰囲気がプンプンしてよ……」 離れてからもずっと自分の背中に浴びせられている殺意に嘆息する。「昼頃には一旦帰ってくるから」「分かった。待ってるなぁ」「おう」 一時の別れを告げ、数歩進んだところで足を止める。「……今の会話、夫婦っぽかったな」「ふふっ、奇遇やなぁ。うちもおんなじこと思うとった」 二人してニカッと口角を上げた。 三バカが聞いていたら血を吐いて悶絶しそうな会話を平然とし、東条はその場を去った。 ――身体を動かしていると、時間の流れは早いものだ。 時計の針は午後一時を指している。 後から合流した葵獅との模擬戦闘を中断し、水分補給がてら瓦礫の一つに腰を下ろした。「――んぐっ、ふぅ。……悔しいが、魔力ありだとついてすらいけなくなったな」 息の上がった葵獅が水を被り、乾いた笑みを浮かべた。 対する東条は、汗はかいているものの平然とした様子。「まぁ、だいぶ色々と上がったからな」 先の二体との殺し合いは、彼の身体に膨大な影響を及ぼしていた。 肉体の強度はより強く、傷の治りはより早く、扱える魔力量も倍近くになった。 最早素の戦闘力だけでプロの格闘家に善戦するほどだ。「もうこの建物の中では一番強いんじゃないか?」「そうだと安心なんだけどなー」 ゴブリンが消え、内側から攻めてくる敵は殆どいなくなった。 レストラン街にも行ける様になったため、多くの食料を手に入れることもできた。 万々歳に思える結果だが……。 東条は自分の火傷跡を撫でる。(こんなにも音沙汰なく消えるものなのか?)という懸念が、どうにも消えなかった。「心配するに越したことはないからな。……そういえばあの三人には会ったか?」「ん?あぁ、いきなり決闘しろとか言われたぞ?」 話は変わり、今朝の事を
last update最終更新日 : 2026-07-22
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59話

 「「「――ッ」」」 身体強化を纏った三人が一斉に飛び出し、東条を三角に囲む。「シッ!」「喰らいやがれッ」「死ねッ」 容赦なく貫かんとする三槍は、しかし、三つに分かれた漆黒が完璧に受け止めた。「……⁉︎」「なっ⁉︎」「んだそれっ⁉︎」「あー、これ見んの初めてか」 今のは、後ろの二人が死角をとれていなかったから出来た事だ。すぐに包囲陣から抜け出し、全員が視野に入る位置に移動する。「逃げんなっ!」 東条は突き出される槍の悉くを、漆黒で受け止め続けた。 ――「……完全に遊ばれておるなぁ」「……ですね」 予想通りの展開に驚きすらしない葵獅と若葉。「それはそうと翁、あの三人は最近どうです?」「ん?そうじゃな、……明日死ぬかもしれないこの環境もあるんじゃろうが、要領は良い、吸収も早い、むかつく奴らだが、良い槍士になるぞ。中でも因幡は才能が抜きん出ておる、……あれは強くなる」「……今度うちのと模擬戦やらせてみますか。今よりはいい勝負になると思いますよ」「ほっほっほ、違いない」 弟子を持つ者同士、雑談に花を咲かせる彼等であった。 ――「はぁっはぁ……」「ちょこっまかッ逃げやがってぇ」「ふぅ、ふぅ、――」「おいおい十分も経ってないぞ?」「……二人とも、なるべく彼の目から遠い位置を攻撃してください」「「……了解っ」」 常に三人を視界に捉えようと動く東条を、怪しく思っての指示。(……頭いいなあいつ) 東条は因幡の高い洞察力を認め、少しだけ警戒を引き上げた。 ――「オラッ、オラッ、オラッ、――」「フっ、フっ、フっ、――」 三人揃って足首より下をチクチクと攻撃してくる。たまに因幡が胴や顔を攻撃し、またチクチクに戻る。常に下から目が離せない。「う、うぜぇ」 たまらず大きく後ろに飛ぼうとした瞬間を、因幡は見逃さなかった。「――ッ詰めろ!」 丁度足が地面を離れると同時に、三人が一気に距離を詰める。「――っ」 東条は敵の槍を注視し、次の攻撃箇所を予測する。 槍の穂先は全て下を向いていた。(着地点かっ) しかし、その決めつけが仇となる。「なッ⁉︎」 一つの槍が、あろうことか軌道を直角に曲げ、東条の顔面に迫った。(取ったッ‼︎) 因幡は足元に打ち込んだ直後、軸の手で槍をおもっきし下に押し、強引に軌道を上に変えたのだ。常人にこ
last update最終更新日 : 2026-07-22
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60話

  部屋の隅、瓦礫の裏には、二人の覗き魔が身を潜めていた。 その一人である紗命は、先の言葉に心を蹂躙され、足腰が立たなくなっていた。「……俺は紗命を愛してる」「――ッ」 呟かれた一言を遮るものは何も無く、風に乗り一直線で彼女に届いた。 紗命は待ち望んだ告白に瞳を潤ませ、漏れ出る狂笑を必死で手で隠していた。「凄かったぁー。まったく、モテモテねぇ紗命はっ」「……」 彼女を弄る凜だが、いつもの反応が返ってこないのを不思議に思う。「紗命?おーい」「……ふふっ、ふふふっ、ふふふふふふふふふふふふっ」「……ひっ、さ、先行ってるね!」 足早にその場を去る彼女。 笑い続ける少女の顔には、依然影が落とされたまま。 覗き込んだ先で何を見てしまったのか、それは誰にも分からない。♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡
last update最終更新日 : 2026-07-22
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