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Real のすべてのチャプター: チャプター 31 - チャプター 40

146 チャプター

31話

 §「はぁっ、はぁっ、やっべぇこれっ、めっちゃ疲れる、んぐっ――」 真冬だというのに、パンツ以外全てを脱いだ東条が、滝の様に汗を流しながら荒い息を吐く。 気付けば夜の帳が下りていた。点々と差し込む月明かりが、幻想的に木々を照らしている。 彼の行っていた肉体強化の修練は、過酷を極めるものであった。 原理としては、大気中に漂う魔素を己の身体の中に取り込み、限界の腹五分目くらいで止め、外に漏れださないよう気を引き締め、体内に循環させる。これの繰り返し。 自分の魔力許容量は感覚で分かるのだが、溜めようとすればするほど、薄ら寒い悪寒のようなものを感じる。限界はまずいという本能の警鐘だろう。 そしてこれは彼の知らない事だが、風や火などの属性魔法は、体外の魔素を自分を通して色を付け、そのまま外に出す行為だ。身体の中に留め、循環させるという過程がない。 一手間も二手間もある肉体強化は、それだけに高難易度の魔法なのだ。 余談だが、凜が見た赤や青の魔力や、東条が感じた気配や覇気などは、身体中に定着した操作不可能な魔力だ。 これが素の身体能力を向上させ、魔法に色を付ける変換機構の役割を果たしている。 これらを動かすことは、人間が神経や臓器を動かすことと同義。故に無理。 力を抜いた東条は、ぐで~と木に凭れる。 朝から比べれば大分様になったと感じるが、それでも二分程度が限界。ここに戦闘中の集中力が加わるのだから、実戦になれば一分弱の切り札としてしか使えない。「……要練習だな」 夢のある鍛錬に、目を閉じた。
last update最終更新日 : 2026-07-13
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32話

  蒸気を上げる身体を冷ます為、冷たく心地いい空気を肺に流し込む。「ごめんやすぅ……東条はん!?」 丁度夕飯を一緒に食べようと訪れた紗命が、瀕死のスライムの如くグデグデになった彼に驚き、駆け寄る。「どないしたん?凄い汗やで?具合悪いの?」「黄戸菊?あぁ……悪い、気付かなかった。特訓してただけだから心配すんな。……ご飯持ってきてくれたのか?」「う、うん」「ははっ、ありがとな。これじゃぁ完全に引き籠りだな」 怠い身体を叱咤し、「よっこらせっ」と立ち上がる。「ぃつつ。悪い、先シャワー浴びてくるから少し待っててくれ」「え、あ、うん。分かった」 痛む頭を抑えヨタヨタ歩く彼を、ほけー、と見つめる。「あ、ちょい――っ……」 彼の姿に気付き言及しようとするが、そこで背中に刻まれた大きな裂傷が目に入った。 肩口には無数の歯形もあり、正に修羅場を潜り抜けてきた身体だ。 紗命はかける言葉も忘れ、熱っぽい視線を只向けるだけだった。::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
last update最終更新日 : 2026-07-13
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33話

 ――東条はお湯を頭から被り、壁に手をついて項垂れる。「……やっちまった」 ようやく冴えてきた頭で思い返すも、羞恥に顔が熱くなる。 初日の過ちをまた繰り返してしまった。これで自分のあだ名は、露出狂か変態パンツの二択になったことだろう。 身体を拭く物もなく、水の滴るままたった一つの服を着て、出口からそっと顔を出す。「ふふっ、なに泣きそうな顔してはるんですか。これ、持ってきたで?」 出口に立っていた紗命が、彼にタオル用のシャツと掛布団を渡した。「……どうやって」 シャツは枝の上に干していたのだ。まさか登ったのか?「魔法を使えばお茶の子さいさいやでぇ」 彼女は東条の身体に付いている水滴を、指の一振りで空中に集めた。「あぁああ、貴女は神だ。この恩はいつか返すぞっ」「ふふっ、期待してるわぁ」 服を着る為引っ込んだ彼を確認する。 ……紗命は集めた水を手の上に置いた。瞬間、魔法の解かれた水玉は、彼女の手を介してビチャビチャと地面に落ちる。 彼の水で濡れる自分の手を見て、ニッタリと微笑んだ。:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
last update最終更新日 : 2026-07-13
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34話

「うし、お待たせ」「えぇ。紹介したい友人がおるの、夕飯はその子と一緒に食べましょ?」「いいぜ。黄戸菊の命令は絶対だからな」「ふふっ、命令なんてしてへんわぁ」 歩く彼女の手は、すっかり乾いていた。 ――二人が座る前には、幼女と赤子を抱く母親がいる。「……おい、こんな格好の奴、幼女の前に連れてきちゃダメだろっ(ボソッ)」「くれぐれもバレへんようにね?(ボソ)」 優しく微笑む彼女に恐怖し、布団の繋ぎ目を強く握りしめる。 これ以上失態を晒すわけにはいかない。未来ある幼女にトラウマを植え付けるわけにはいかない。「初めまして。先ずは数々の御見苦しい姿を見せた事、深く謝罪します」 とりあえず母親に頭を下げておく。和気藹々はそれからだ。「いえいえ、お気遣いなく。紗命ちゃんが連れてきたのだから、いい人なのは分かりますよ」「有難うございます」「……ねぇねぇ、なんでおふとんにくるまってるんですか?」 東条の奇怪な見た目に、当然かな幼女が興味を示してしまう。「ん?俺寒がりなんだよ。こうしてないと動けないんだ。お名前なんていうの?」「はるの 花です。八歳です」「綺麗な名前だね、俺は東条 桐将。二十二歳です。よろしく」「よろしくおねがいします」 器用に繋ぎ目から手を出し握手をする。「私は春野 蕾。この子は娘の蕣です。よろしくお願いします」「こちらこそ」 ――「……あったかそう。花も入れて?」 他愛もない会話をしていると、突然花氏がとんでもないことを言い出した。「え、いや、すまない。これは一人用なんだ。無理なんだ」「えーいじわるー。お兄ちゃんだけずるいー」 花が掛布団に手をかけようとし、東条は必死にそれを躱す。「ダメだっ。この下には無限の宇宙が広がっている、君にはまだ早いっ」「あははっ、まてー」 風圧で翻らないようにぎこちなく走る彼を、面白可笑しく幼女が追いかける。「……最初見た時はびっくりしたけど、良い人だね」「はい。半裸ですけど、根はええ人なんです」「ふふっ」「ふふっ」 冷えた夜に笑いを届ける二人を、女性二人だけでなく、屋上の皆が温かく見守っていた。
last update最終更新日 : 2026-07-13
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35話

  ――「おはようさん、……何しとるん?」 朝早くからストレッチをする東条に、彼女が疑問の眼差しを送る。「おう、おはよ。今から中に行こうと思ってな」「……一人で?」「勿論。試したいこともあるし」 平然と言ってのける彼には、恐怖心というものが無いのか。紗命は呆れよりも不安が勝る。「あと一日は食料も持つし、もう少し後でもええんちゃう?そうや、特訓はもうええの?」「その特訓の成果を試しに行きたいのさ」「……怖ないの?」「怖いってより、強くなってくのが楽しいんだよね。……男だから」 良い笑顔には一切の混じり気が無い。彼の闘争本能を理解することは、並の人間では無理だろう。「そんなん、あんたくらいやでぇ」 彼女の口から、今度こそ溜息が出た。「ちょっと身体動かしたいんで中行ってきます」「……随分軽く言うんだな、君は」 一応報告しておこうと三人に声を掛けた東条だが、散歩でもするのかというノリに案の定驚かれる。 だがそう言えども、彼等に東条の行動を抑制する権利はない。「俺達が口を挟む事ではないが、気を付けろよ」「うっす」 それだけ言うと東条は防火扉に向かって歩き出す。しかし、その背中に待ったが掛かった。「東条はん、うちも連れてってくれへん?」「え?」 紗命の言葉に全員が振り返る。「もう少しで食料も無くなるし、ええ機会や思うねん。東条はんは強いし、中も知ってるさかい安全やん?」 確かに一理あることはある。彼が返答に困っていると、「確かにそうだな、なら俺が行こう。正直まだ心の準備ができてなかったが、紗命の言う通り良い機会だ」 葵獅自ら名乗り出た。「……葵はんはここで皆を守っとぉくれやす」「それは紗命の方が適任だろ。残るなら壁を造れる紗命と、一番強い佐藤だ」「……むぅ」 ド正論にぐうの音も出ない。彼女にしては珍しいことだ。 そこに、止めとばかりに東条も追撃を入れた。「俺も筒香さんに賛成ですね。そもそも荷物持ち帰る前提なら、黄戸菊より断然筒香さんでしょ」 はち切れんばかりの筋肉が重量を欲して哭いている。荷物持ちにこれほど適任な者はそういない。「決まりだな。よろしく頼む」「こちらこそ」 新たなコンビは握手を交わし、冒険の扉へと向かった。
last update最終更新日 : 2026-07-14
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36話

 歩く葵獅の背中を、恨めしそうに見つめる者が一人。凜がその顔を覗き込む。「どうしたの?らしくないじゃない」「……別に、そないなことあらへんです」「……それにしても、あのフレンドリーな紗命が、彼には名前で呼んでくれって言ってないんだ」「え?…………だって、恥ずかしいし……」 顔を赤くする彼女に、的を射たりと凜がニヤつく。「へー、あー、ふーん、なるほどねー」「なっ、別に他意はあらへんですっ」「良いのよ良いのよ?恋は女を成長させるのだから!」「ちょっ!?黙っとぉくれやすっ」 両手を天に広げる彼女の口を、必死に抑えようとする紗命であった。 ――「鍵は閉めますので、帰ってきたらノックを三回して下さい」「分かった」「ではお二人共、ご無事で」「あぁ」「うす」 扉を潜った二人は、鍵の閉まる音を後ろに聞く。人工的な光と、温かい室内が彼等を迎えた。「さて、行くか」「了解です」 葵獅はコートを脱ぎ、東条は布団を剥ぐ。久しぶりの包丁とフライパンの感触に手をなじませた。「先ずは十階でバッグを拾って食料諸々を詰めましょう。健康雑貨売り場も併設されてるんで、同じ階で済むはずです」「分かった」 運の良い事にここは九階。入ってすぐ隣にあった階段を慎重に上る。「……あれがゴブリンか」「三匹っすね。どうします?」「俺が左の二匹を殺る、右を頼む」「……了解」 腰を低くし、脚に力を込める。「……三、ニ、一、「――ッ」」 ゴブリンの耳がピクリと動き、此方を見るや、牙を剥きだし向かって来た。 大地を踏みしめる力が、以前よりも増しているのが分かる。脚が地を蹴るごとに加速し、風が横を通り過ぎていく。 東条は互いの間隔が一m弱になった所で、漆黒をゴブリンの顔前に顕現させる。先行した身体部分に、スピードを落とすことなく突っ込み、刃を突き立てた。 心臓を一突きされ動かなくなったゴブリンを後目に、葵獅の戦闘を見学する。 既に一体は黒焦げになり転がっている。ナイフ持ちを警戒して膠着しているところだった。「ギアッ「――ふんっ」グゥえっ」 葵獅は突き出されたナイフを見送って躱し、ガラ空きの腹に重い一撃をめり込ませる。 悶えるゴブリンの頭を掴み、燃やし尽くした。「お見事です」「ふっ、流石に速いな。次は君の戦いも見てみたいな」「機会はあると思いますよ?」
last update最終更新日 : 2026-07-14
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37話

 ――「紗命とは上手くやれているか?」「そう思いたいっすね。……色々打算的に動いてるみたいっすけど、まぁ美女に振り回されるなら本望です」 二人はキャンプ用のリュックを幾つも拝借し、雑談しながら必需品を詰めまくっていた。 東条は消化のよさそうな物や、オムツを物色する。「ハハハっ、君も大概だな」「女性は黒に近いグレーくらいが丁度良いんすよ」「間違いない」 一つ気付いている事があるとするならば、昨日の食事会は、あの親子に対する自分の同情心を誘う目的があったのだと思っている。 娘達は元気そうに見えたが、母親は見るからにやつれていた。きっと食事を殆ど摂っていないのだろう。 近い内中に行くことが予想できる自分の同情心を煽っておけば、その時物資を補給してくれるかもしれない。 そんな考えが見えてしまうのは、自分の心が汚すぎるせいか。「……ま、どうでもいいか(ボソ)」「何か言ったか?」「そろそろ詰め終わったし、一旦戻りません?」「そうだな」 葵獅は前後左右、加えて片手に四つずつリュックをぶら下げて立ち上がる。 東条は四つで戦える限界だというのに。「凄いっすね」「すまんが咄嗟の戦闘は任せていいか?」「まぁ、そりゃそうっすよね」 体積が膨れ上がった二人は、収穫物を手に拠点へと戻っていった。
last update最終更新日 : 2026-07-14
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38話

  ――「凄い量ですね、」 ノックに鍵を開け、佐藤は彼等の姿に目を見張る。 階段の下に物資を下ろし終え、「俺まだ用事あるんで」 東条はもう一度扉を出ようとする。「用事?」「ズボン欲しいんですよ」「「「あぁ……」」 その切なる願いに同情せざるを得ない二人。「分かった。俺も行こう」「了解っす。次行くとこちょっとヤバいかもしれない場所なんで、筒香さんもリュックは二つまででお願いします」「葵獅でいいぞ。何処に行くんだ?」「八階です。奥のレストラン街にモンスターが屯してるかもしれません。様子見ておきたいし、スポーツ用品店もその階なんすよね」「分かった。慎重に行こう」 再び中へ入った。 ――「……見えます?」「あぁ、あれはヤバいな」 一番端の階段を下り、徐々に目的地へと近づく二人。以前より強化された彼等の視力は、ずっと奥に見える悍ましい光景を捕えていた。 緑色の身体が蠢き、レストラン街を埋め尽くしている。ここから見えるだけでも、数は優に四十を超えている。 東条は感じていた。その中にヤバいのが複数いる。数は分からないが、恐らく今の自分では勝てない。「東条、急ごう」 気付けば、握りしめた手が白く変色するほど力を込めていた。葵獅に促され、目についたラックに掛かっている品物を手当たり次第に詰め込む。 距離は充分に開いているが、音を立てないよう最善の注意を払わずにはいられなかった。
last update最終更新日 : 2026-07-14
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39話

 ――「それじゃぁ、もう一度行ってきます」 戻ってきた東条はスポーティなズボンを履き、又もや中に行こうとする。緊張に休んでいた葵獅は驚きに顔を上げた。「な、あそこにか?」「違います違います、今度は十一階です。俺が今日一番やりたかったのは特訓の試運転なんすよ。あの場所から一番遠い所でやりたいし、運が良ければ実験台もいると思うんで」「なるほど、紗命の言っていたやつか。……興味がある」「それじゃ、」「ああ、」 荷物を手放し軽くなった身体をほぐし、どんな特訓なのかを話し合う二人。「……アグレッシブな方達だなぁ」 再び嬉々として出ていく彼等を、佐藤は呆れ半分尊敬半分といった目で見送った。 十一階に到着した彼等は、物陰から三匹のゴブリンを見ていた。「基本スリーマンセルなのか」「多分そうっすね」「どうする?」「俺が殺ります。見てもらった方が早いんで」「分かった」 東条は一度深呼吸し、身体中に魔力を循環させる。「……行きます」 クラウチングの姿勢を取り、眼前を見据えた。「あぁ、――っ‼」 葵獅は彼の姿を追い、急いで視線をスライドさせる。目の当たりにしたその初速は、凡そ人間の出せる限界値を軽く超えていた。「――ッハハっ」 走る上で感じたことのない速さで景色が流れる。 ヒュゴゥッ、と風を切る中、迫るゴブリンが驚きに目を見開き、咄嗟に武器を構えようとするが、「ッ!?グギぇ――」 遅い。勢いに任せて喉を掻っ切り、そのまま直線状にいる一体に突っ込む。「グゲェッ‼」「ゲアッ‼」 二体がそれぞれ、正面、右斜め後ろから殴りかかってくる。 跳躍し棍棒を振り被ったゴブリンを前に、武器を持ち替え、走行からステップを踏み投球のフォームに移す、「フッ‼」 ぶん投げたフライパンが棍棒と衝突、へし折り、ゴブリンの顔面を陥没させた。 すぐに反転。跳躍寸前の三体目をあえて待ち、包丁を右手に持ち替え、漆黒を出し空中で受け止める。と同時に横へ回り込み、脇腹を突き刺し斜め上に切り上げた。 広がっていく血溜まりの上で藻掻く一体を後に、白目を剥いた陥没ゴブリンへと向かう。 牛刀を逆手に持ち、喉に突き刺し止めを刺した。「ふぅ……」 自分の起こした惨状を前に、軽く息を抜く。 東条が思ったことは一つ、(……慣れたな) 血の臭いに。 肉を貫く、骨を断つ感
last update最終更新日 : 2026-07-14
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40話

「……途轍もないな」 近づいてくる葵獅が、彼の特訓の成果に舌を巻く。「あと三十秒が限界ってとこかな。上手くできて良かったですよ」「動体視力には自信があるんだが……、体感、時速六十前後か?よく身体がついていくな」「それなんですけど、この魔法使うと、判断、伝達、ブレーキ、身体の機能全てが速さに対応できるようになるんすよ。肉体強化ってより、身体強化の方が合ってますね」 そう、これこそがこの魔法の真価である。 筋力向上に留まらず、五感の強化、果てには細胞の活性化や、神経系統にまで、魔力に見合った影響を及ぼす。 モンスターと戦う上で、必須とも言っていい魔法。「葵獅さんちょっと俺のこと全力で殴ってみて下さい」「……大丈夫なんだろうな?」「えぇ」 両手を広げる東条に狙いを定める。「ふんッ」「ぶグっ」 顔面にクリーンヒットした拳はそのまま彼を押し飛ばした。「いや、顔面て。躊躇なさすぎでしょ」 東条は倒れた先でむくりと起き上がる。「む、すまん。……凄いな、防護性もあるのか。固い粘土を殴った様だ」「俺の魔力が葵獅さんの魔力を上回った証拠ですよ。 普段なら今のところ差は筋力で埋められると思いますけど、ここまで開くと傷すら負わせられなくなるんです。 自身の魔力量は、そのまま物理的な鎧と思ってもらって間違いないです」 彼は、これが自衛隊が手こずっていた銃の効かないモンスターの秘密だと考えていた。 要するに、魔力に対抗できるのは魔力しかないのだ。「紗命の言っていた通り、勉強になることが多いな」「そうっすか?照れますね」「……不躾ではあるが、その技、教えてはくれないか?」「勿論ですよ。てかその為についてきたんじゃないんですか?」「ハハハっ、そうだな。断られたら見て盗もうと思ってたが、これは無理だ。是非ご教授願う」 頭を下げる葵獅には、格闘家らしい潔さが見て取れる。「交換と言っちゃなんですけど、俺にも格闘術教えてくれませんかね?ずっと頼もうと思ってたんです」「勿論だ。ならば今日からは互いに師だ、敬語はいらないぞ?」「……慣れねーけど、了解」 獰猛に口角を上げる二人。「おっしゃ。気張ってこうぜ」「おう」 心の底に戦闘慾を持つ者同士、彼等は互いに通ずるものを感じ合った。
last update最終更新日 : 2026-07-15
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