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Real のすべてのチャプター: チャプター 41 - チャプター 50

146 チャプター

41話

  ――「バカっ、どんだけ心配したと思ってんの!」「……すまない」 上半身裸で汗だくの男二人が、女性二人の前で正座している。 夢中になりすぎた東条と葵獅は、連絡を入れるのも忘れ陽が落ちるまで鍛錬に耽っていた。 残留組は気が気ではなく、人員を絞り、彼等の救出作戦が持ち上がったほどである。 その中に「良い汗を流した」、と笑顔で帰って来たものだから、凜のこの剣幕も納得できるというもの。「……あんたもよ?桐将はん」「はい。ごめんなさい」 葵獅の影に隠れていた彼も、少女の怒気によって炙り出される。「……帰りを待ってる人がおること、忘れんといて」「……それは、どういう」「……蕾はん達がお礼言いたいって心配してはったって意味や」「あぁ、……」 ――解放された二人は、何はともあれ道中沢山の人に礼を言われた。 東条自身驚く人の集まり様だったが、彼はそれだけの事を行ったのである。 加えて昨夜の微笑ましい光景も、彼の取っつき難さを緩和していたりするのだが、心汚い東条がそのことに気付くことはない。「本当に有難うございます」「いえいえ、必要な物があったら言ってください。無理しない程度に取ってくるんで」 中くらいのバックを抱えた蕾が、頭を下げて礼を言う。「お兄ちゃん、ありがとうございます」「良いってことよ。沢山食って沢山寝ろよ?バイバイ」「バイバーイ」 手を振り、その場を後にした。「……ズボン、おめでとさん」「おう、これでようやく人らしい生活が出来るってもんだ」「ふふっ、てるてる坊主と大差なかったもんなぁ?」「違ぇねぇ」 二人して東条が人になった喜びを讃える。 軽口を言い合う彼等の間には、探る様な、付かず離れずの空気が流れていく。「……黄戸菊さ、さっき俺のこと名前で呼んだよな?」「……うちのことも紗命って呼んどぉくれやす。……皆そう呼んではるさかい」「……分かった」「……」「なんか恥ずいな」「あんただけや」「そりゃ悲しい」 笑い合い、消えゆく白い吐息は、寒さなど気にならないほどに温かかった。
last update最終更新日 : 2026-07-15
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42話

§ 八階、レストラン街にある肉料理専門店。 奥のソファーに、どっかりと腰掛ける者がいた。 体長は三mはあろうか、丸太の様に太い腕と脚に、脂肪で丸々とした腹。しかしよく見ると分かる。脂肪の下には、装甲の如く筋肉がこれでもかと張り巡らされている。 体色はどす黒い緑。醜悪な顔に、半身を出した装い。 そして、壁に立てかけられた大戦斧。 彼は肉塊を骨ごと噛み砕きながら、跪く二匹を睥睨する。 この二匹も普通のゴブリンとは違った。 一匹は体長二m弱、筋肉は盛り上がり、より人型に近い形をしている。 もう一匹はそれほど大きくないが、体色が赤みがかっている。 ゴブリンなのであろう巨漢が、つまらなそうに食べかけの肉を投げ、二匹が恭しくそれを拾いその場を去った。 そこら中に蠢くゴブリンは、自分達で狩ってきた魔物を食ったり、食べ粕や骨を取り合っている。 並び立つ部屋にある食料に手を出すのは、たとえ上位種の二匹であろうと許されない。全てが王の食料なのだ。 それでもゴブリンとは、元来自分のことしか考えない生き物である。食料に手を出す者も当然いる。 そういった者に待つのは、死、のみ。ゴブリンの社会は、完璧なまでの恐怖政治。上位者に従えぬ者は、容赦なく殺される。 二匹ともこの程度の食料で足りるはずもなく、普段は下層階で狩りをしていた。 上層に見張りを出してはいるが、もれなく殺されている。先日登って行った獣のこともある。安全を考慮して、上層に自ら手を出すのは控えていた。 しかし、と筋肉ゴブリンは思う。 ここまでくる間も、この階層を巣にすると決め根絶やしにした時も、蔓延っていた種は異常に弱かった。 加えて、ここに来てから、沢山殺し、沢山強くなった。 王を殺し、自分が王になることはまだできないが、 ……そろそろ上層に手を出してもいい頃だろう、と。 §
last update最終更新日 : 2026-07-15
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43話

  ――「ほれ来たぞ?構えぃ!」 若葉の号令で数十人が鉄パイプを天に向ける。削られ鋭利になった切っ先が陽光に煌めいた。「ゲェッ」「ゲェェッ」 十数匹の鳥型モンスターが、屋上に狙いを定め滑空してくる。 しかし誰一人として慌てることなく、慣れたようにタイミングを見計らい横に飛び、隙ができた胴体に二人がかりで槍を突き立てた。「葵獅殿っ、落ちた分は任せる!」 若葉が突進してきた一匹の首を叩き折り、返す手でもう一匹を貫く。その華麗さは槍を持つ者の中でも群を抜いていた。「分かった!よしお前ら、行ってこい」「「「うっす!」」」 葵獅の号令に三人の男が走り出す。その身体に稚拙ながらも身体強化を纏って。「おラァッ」「おラァッ」「おラァッ」 手にそれぞれ電気、石片、風の刃を纏わせ、ひたすらに敵を撲殺する。その蛮勇さは、ある種の人間的狂気を想起させるほどだ。 葵獅と若葉は、己の弟子達の戦いぶりに満足気に頷いた。 愚問ではあるが、屋上にいるのだから、空を飛べるモンスターが襲来することも多々あった。 最初の襲撃以来、多くの者が槍術の免許皆伝者であるという若葉と、格闘のプロである葵獅に師事を仰いでいた。 最近ようやく初心者の動きも様になり、加えて東条の教えた身体強化の影響も大きく、ここ数日は実戦を交えた鍛錬を行っているのだ。 と言っても身体強化は至難の業、コツを掴んだ者は東条、葵獅、凜、佐藤、紗命、若葉を含めた十二人足らずであり、その練度もまちまちである。危険を冒すことはできない。 ――粗方片付け終わり、死体を木々の根元に集めていく。怪我人を瀬良率いる医療班が手当てし、他の者は反省会や鍛錬に戻る。 今や見慣れてしまった光景である。 凜は少し早い昼食を葵獅に投げ渡す。「なかなか良い戦闘集団になってきたわね」「有難う。あぁ、皆の意識が高いから成長が早い」「あんたの生徒は筋肉のダークサイドに落ちつつあるけどね」「自慢の生徒だ」 より葵獅にに近づく為、筋肉を敬愛する彼等を育てるのは葵獅自身楽しいものであった。「身体強化のおかげであたしも戦えるようになったし、後で一試合付き合ってよ」 凛は残りを口に放り込み、クシャッとゴミを丸める。「いいぞ、中に行く前の準備運動には丁度いい」「……へぇ、言ってくれるじゃん」 挑発的に笑う葵獅を、凜は同じ笑
last update最終更新日 : 2026-07-15
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44話

 「今日も行くのか?」「あぁ、ここのラブコメ主人公は毎日モンスターを殺さないと気が済まないんだ」「一話打ち切りですね」 東条は立ち上がり、身体を伸ばしストレッチを始める。「俺なら買うぞ?」「貴方達くらい血に飢えてないとファンは付きませんよ」「じゃあミリオンセラー待ったなしだ」「一冊で人間の欲を全て満たせるしな」「……三大欲求って知ってます?」「戦闘欲、勝利欲、性欲」「人間が滅びましたよ」 葵獅論に人間の輪廻が破綻する。 彼は自分達とは違う進化を遂げた人類なのかもしれない、そう佐藤は思った。 ――いつも通り二人で中に行き、物資を補充し、十一階で鍛錬をする。 しかし彼等のそれは到底手合わせと呼べるものではなく、炎と漆黒以外なら何でもありのガチの戦闘である。 真っ先に身体強化を習得し、レベルも高い二人の本気の殴り合いは、周りの物を破壊しながら行われる。 屋上ではできない理由だ。 今日も今日とて内装をベコベコにし、一休みと腰を下ろす。 ――「ふぅ、……やっぱ強化した同士じゃ力負けするな」「速さはお前の方が上だ。別に格闘センスがあるというわけじゃないが、戦闘の才はある」「……俺センス無いのか、」 格闘術を学んでいる上で言われた言葉に、地味にショックを受ける東条を葵獅は笑う。「世の中には天賦の才を持つ者が多くいる。プロと呼ばれる中のトップにいる奴は大体そうだ。 格闘でも、東条が幾ら努力しようがそんな奴らには届かないだろう」「めっちゃ言うじゃん……」「だがこの世界、人間の限界が外れた中、圧倒的力の前では天賦の才に意味はない。 もしCellを使ったら、俺はお前に手も足も出なくなるだろうしな」「そう考えたら、俺も天賦の力を受け取った才有る者じゃね?」「ハハハっ、それもそうだな。お前は考えて戦うより本能で我武者羅に戦った方が強いタイプの奴だ。 殴り方や蹴り方、受け身は教えたが、そっからはお前次第だ」「分かった。要するにハルクだな」「そうだ」 マーベルの怪物を想起する。彼の前では神ですら対等となる。 ペットボトルを傾け、乾いた喉を潤した。「そろそろ戻るか」「おけ」 ズガァァァンッッ‼ 立ち上がる彼等の耳を、突如破砕音が貫いた。
last update最終更新日 : 2026-07-18
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45話

  二人は驚愕し、臨戦態勢に入る。しかし音の出どころはここではない。恐らく、下階。「東条!」「分かってる!」 嫌な予感が過り、すぐに駆けだす。もし防火扉をこじ開けられるような奴が相手なら、今の屋上の戦力ではまずい。 逸る気持ちに地を蹴り、身体強化の準備をした。 § 穏やかな日常に響いた轟音が、皆を一瞬凍り付かせる。 次いで汚い叫び声の様なものが近づき、大量のゴブリンが入口を殴り壊し飛び込んできた。「――ッ武器を持て‼一か所に集まれ‼」 若葉の怒号に、事のヤバさに気付いた戦闘員が現実に引き戻される。「佐藤さん、すぐ彼等に連絡を」「分かりまし――ッ……」「……なんじゃあれは」 二十数匹のゴブリンの後ろから、二m後半はある筋骨隆々のゴブリンが姿を現した。 その手には巨大な六角棒が握られている。 有象無象とは違う、圧倒的なまでの存在感。誰もが例外なく恐怖に固まった。「……紗命さん、連絡をお願いします。あれは私が見ます」「あい分かった」 水の壁を展開し、防御態勢を整える。スマホを取り出し、震える手で電話を掛けた。「……グルァッ」 筋肉ゴブリンが低く唸り、一斉にゴブリンが動き出す。「雑魚共は任せろ」「はい」 若葉率いる部隊が正面から衝突する。佐藤は緊張に汗を流すが、奴が動く気配はない。「っ桐将はんっ」『もう着くっ』 電話が繋がったのか、紗命が安堵し、束の間、筋肉ゴブリンの立っている場所を見て彼女の血相が変わる。 入口はそのまま階段に繋がっている、下から見てもすぐそばに奴がいることが分からない。 もし二人が飛び込んできたら、至近距離で鉢合わせることになる。「っダメや!別のとこ「「――ッ!?」」 間に合わず。 東条と葵獅の目が驚愕に染まる。「――ッ」「ぐぉっ」 東条は躊躇わず葵獅を蹴り飛ばす。同時に六角棒が豪速で振り抜かれた。 強化中だというのに、目で追うのもギリギリの速度。 だが、見えているなら問題ない。「?ガっ!?ゴぁッ――」 漆黒を殴った力がそのまま筋肉ゴブリンの腕を弾き飛ばす。 ガラ空きになった腹に、今まで地道に溜め込んできた全てのエネルギーを放出。 巨体が軽々吹き飛び、九階と屋上を隔てる壁を爆音を上げてぶち抜いた。 あまりの破壊力にゴブリンですら動きを止める中、しかし、(……まるで手応え
last update最終更新日 : 2026-07-18
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46話

  倒壊した商品棚を殴り飛ばす筋肉ゴブリンを、二人は遠目に見る。「……あれはゴブリンなんですか?」「多分ホブゴブリンて言われるやつです。上位種ですね」「作戦は?」「取り合えず不足分を溜めます。ヤバそうな時は止めて下さい」「了解」 三者が同時に地を蹴った。「グルゥァッ‼」 振り抜かれた六角棒を漆黒で受け止め、通り抜けざまに包丁で脇腹を切り付ける。 薄皮が切れる程度の感触に苦い顔をし、すぐさま飛び退いた。「グッ、ガ!?」 振り返ったホブは強制的に止められた身体に驚愕し、次いで風の刃を顔面に叩きつけられる。 巨鳥に傷を付けたその攻撃はしかし、血を滲ませはすれダメージにはならない。 ……後手に回る自分。……飛び回る蠅。ホブの中に苛立ちが募る。「……グルㇽㇽㇽッ」 怒りで目を充血させたホブの身体に魔力が流れ始める。 素の身体能力で五分の相手。 二人の間に緊張が走った。「グラァッ‼」「――ッ」 ――速い‼。 一足飛びで東条に接近したホブは、辺り構わず狂った様に暴力を浴びせ掛ける。 床が抉れ、天井が崩落し、棚、柱、木、触れた物全てが吹き飛ぶ。 詰めが速すぎて距離を取れない東条は、霞む攻撃を必死に目で追い隙を探る。 グングンと嘗てないほどに溜まっていくエネルギーを、ぶつける機会を血眼で探る。 しかし直接的な攻撃は防げているものの、その身体には飛び散った無数の石片が刺さり血が垂れていた。 早急にけりをつけなければ、 焦る気持ちの中、攻撃を受けた直後、 パァンッ――――漆黒が弾けた。「なっ!?」「――ッ‼」 佐藤が咄嗟にホブの動きを停止させ、六角棒を東条の寸前で止める。が、「グルァァァアッ‼」「グふぅッ」 一秒も待たずして拘束を解き、東条をガードの上から蹴り飛ばした。「東じょっ――ッ‼」 商品棚を突き抜ける東条から、猛進してくるホブに注意を移す。 相対して分かる強大なプレッシャー。正面からでは勝ち目はない。 全力で逃げ回りながらも座標をセットし、発動、発動、発動ッ――。 ストップモーションの様な動きをするホブだが、その距離はあっという間に縮まる。 目前に凶器が迫り、近づいて、近づいて、 ――間一髪、漆黒が割って入った。「グぶガっ!?」 同力で跳ね返った六角棒が顔面にぶち当たり、ホブが仰け反って倒れる。
last update最終更新日 : 2026-07-18
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47話

  ――「……向こうは終わったみたいやで?」 大穴から中の様子を見ていた紗命は、詳細は分からないが雰囲気が落ち着いたことで、固く握りしめていた手を解いた。「はやっ、流石あの二人、ねッ」「あぁッ」 凜と葵獅がゴブリンを蹴り飛ばし、殴り飛ばし、二人の勝利を讃える。 ゴブリンの残数もあと数匹。怪我人は出たが、此方も大事無く片付きそうだ。「……ごめん、あたし魔力切れ。残り頼んだわ」「あぁ、休んでろ」 紗命は水の天蓋を開き、凜を中に招き入れる。 軽く痛む頭に保冷剤を当て、医療班による手当てが始まった。「お疲れやす」「ありがと。紗命は魔力多くて羨ましいよ」「やけど、うちは凜はんみたいに直接戦えるわけちゃうさかい」「今度教えたげよっか?」「……ふふっ、ほな、お願いしよかな」 唐突に訪れた緊急事態も、着々と刈り取られ終わりが見えてくる。 彼等は自分達が成長しているのを実感し、再び欠けることなく生活を迎えられることに安心した。 ――そうしてできた空気の弛緩を、奴等は見逃さなかった。「「「ギゲァッ‼」」」「「「――ッ!?」」」 入口から溢れる約三十匹の増援。 まるで機を見計らったかのようなタイミングに、屋上の誰もが一瞬の虚を突かれた。「狼狽えるな‼隊列を組み直せ‼」 若葉の掛け声で槍隊が一列に並ぶ。彼等一人一人、まだ体力には余裕がある。葵獅もその援護に向かった。 ……そう、突如現れた大群に目が行くのは自明の理。忍び寄る敵意になど、誰も気付かない。 紗命の真横から、物凄い速さで影が飛びかかった。「――ッ、えぅっ――」 水壁で防ぐ、が、赤い肌をしたゴブリンが両手を水に突っ込む。 途端、魔力の反発が強くなり、一気に押し返された。 (ッ奪われたっ!) そう分かった時にはもう遅い。「――っ紗命ッ‼」 凜の叫び虚しく、少女は水球に囚われてしまった。 凛は咄嗟に跳ね起き、赤肌に殴りかかる。しかし、「テメェっ‼ぐっ」 ゴブリンとは比べ物にならない速さと力で蹴り飛ばされ、凜の身体がくの字に曲がる。「っ凜!?」「ゲホっ、紗命、を」 地面を転がる凜に、葵獅が驚愕。次いで曝け出された非戦闘員に、若葉が瞠目した。 一瞬で形成をひっくり返した赤肌は、紗命を水で閉じ込め既に逃走を図っている。 その速さは普通はでなく、間違いなく身体強
last update最終更新日 : 2026-07-18
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48話

  外が一段と騒がしくなり、何か起きたのか、と重い腰を上げる。「佐藤さーん、何か「――っ東条さん‼紗命さんが連れ去られました‼上です‼」――ッ」 地面を蹴り抜き、エスカレーターに直行。駆け上がる。 首を振り、見つけた。 窓際、水球の中、必死に口を閉じて我慢している少女の姿がある。 その横に、赤い肌のゴブリン。「クソがッ‼」 不味すぎる状況に、今は考える時間ではない。全力で敵へ突っ込んだ。「ギィアアアァッッ‼」 苦い顔をする赤肌は雄叫びを上げ、待機している手下に突撃命令を下す。 赤肌は女が死ぬまで待つつもりだったが、想定外の東条の姿に作戦を繰り上げた。 § 呼応して、バラけた総勢二十匹の増援が、階段やエスカレーターを使い屋上に這い出してきた。 佐藤その他は更なる想定外に目を剥き、行く手を遮られる。 東条は意図的に孤立させられたのだ。 § ――「チィッ!?」 突っ込んだ途端、真下から炎が噴き出す。 後ろに飛びそれを躱し、炎を突き抜け飛んでくる三発の水の銃弾を漆黒で受け止めた。「……マジかよ」 初めて見る、二属性使い。 対策を講じようにも、止まっていると真下から炎が噴き出す。動き続けながら水の玉を捌かなければならない。 身体強化の酷使で、いよいよ激しさを増してきた頭痛に顔を顰める。 魔力の打ち止めも近い。 焦る気持ちが早鐘を打つ。 (――ッ近づけねぇっ) こうしている間にもタイムリミットが迫っている。二分も経てば彼女がどうなってしまうか分からない。「――っ」 漆黒を敵の前に出そうとするも、何故か射程距離が分かっているかのように、炎と水弾を放って一定の距離を保ってくる。 事実赤肌は、筋肉と彼等の戦闘も見ていた。 漆黒の現在の可動域は半径四、五m。 赤肌はそれも理解し立ち回っているのだ。 そして遂に、「ッ、!?紗命ッ‼」 囚われた少女の限界が来てしまった。 ボコボコと泡の息を吐き出し、苦しそう身をよじる。 碌に視界も定まらない中、彼女は助けを求め、目を動かす。 最後、 悲痛に染まった瞳は、一人のシルエットを映し、 ……力なく暗転した。 苦しい目だった、悲しい目だった、縋すがる目だった。 ……絶対に、助けなければならない、「待ってろ」 四肢を床につけ、獣の様な姿勢になる。 漆黒を両足に纏
last update最終更新日 : 2026-07-19
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49話

  赤肌は炎に呑まれ、見えなくなった敵に安堵する。 ずっと待っていたのだ、仕掛けてくるのを。 前々から練っていた魔力を、全てぶつけてやった。 タイミングも最高だった。 完全に仕留め―― ダアァンッッッ‼「っ……」 赤肌が破砕音を聞いたと同時に、途轍もない速さで炎をぶち抜く何かが見えた。 驚く暇もない。 気付いた時には、側頭部を牛刀で串刺しにされ、吹き飛ばされていた。 赤肌はホブゴブリンの中でも特別頭が良く、実力も頭抜けていた。 今まで失敗したことが無く、数々の敵を抵抗も許さず謀殺してきた。 全てが自分の下であると確信し、そして、 慢心していた。 故に彼は知らなかった。 覚悟を決めた生物の、恐ろしさというものを。  東条は二度目の加速をし、その勢いのまま水球に飛び込み破裂させながら、貫通して紗命を救助する。「紗命っ!紗命っ‼」 少女を抱き留め、頻りに腕の中で揺らす、……すると、「ぇほッげほッっ――」 咽むせながらも、その目を覚ました。「……ふぅ~~~~……」 安心してその場にへたり込む彼を、朧おぼろげな目で見つめる紗命。 段々と焦点があってきて……、「――っ、」 絶句した。 彼の垂れ下がる左腕、右掌、そして首から下の左半身が、赤々と焼け爛ただれていた。「桐っ、手当てをっ!」「ん?……こりゃひでぇ、また男らしくなっちまった」 東条は炎柱に打たれた際、折れた左腕を強引に曲げ頭部を庇い、どうしても空いてしまう手首と力瘤こぶの間を右掌で埋めた。 そしてなけなしの魔力をガードに固め、左半身を犠牲にする代わりに、再度加速したのだ。 ケラケラと笑う彼から視線を外し、急いで自分のリュックを漁る。(軟膏と、ガーゼと包帯っ、あと添木も、あとは、あとはっ――…………) そこで、 ふ、と何かが視界に入った。 ……だらりと転がる、赤肌の死体。 既にこと切れた、赤肌の死体。 彼女の黒い部分が噴き出した。 水を操り死体を空中につるし上げ、ぎちぎちと首を絞めていく。「……死ね……死ね、死ね、死ね、死ねっ、死ねッ、死ねッ、死ねッッ――」 繰り返される怨嗟えんさが語るのは、仲間を傷つけた怒り、 ……などではない。 自分を危機に晒さらした、怒り、憎悪、嘲あざけり、殺意、……恐怖。 彼女を彼女たらしめるものが、一気に
last update最終更新日 : 2026-07-19
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50話

  ――「……落ち着いたか?」「……ぅん」 胸から離れた少女の顔は、泣いていたからか、若干赤らんでいる。「……」 無言で薬を塗り包帯を巻いていく彼女に、何を話していいかも分からず、なすが儘にされる東条。 そのまま何分か経ち、 ――「……私ね、……」 先に沈黙を破ったのは彼女だった。「……本当は、他人とかどうでもいいの」「……」「……私と、大切な人……私を守ってくれる人がいれば、後はどこで誰が死のうがどうでもいい。 ……さっき知り合った奴の為に命を懸けるなんて、クソくらえよ。 ………………でも、私が仲間にした人達は、進んで他人を助けに行く。 …………正直、きつかったわ。 ……私以外、皆が光って見える。 私だけが、間違っているように思えてくる……。 他人の為に自分をなげうつのが善で、自分の為に他人を利用するのが悪だと、……」「……そん「そんな時、……桐将が現れたの」「最初は、邪魔にしかならない奴だったら、傷の悪化に見せかけて殺してやろうと思ったわ」 (……ヒェっ)「……でも、違った。面白くて、すぐに皆とも仲良くなって、……何より強かった。 ……私は、桐将を手に入れる事にしたの。 ……私の盾として。 幸い近づくのは簡単だったわ。可愛い女の子にデレデレだったしね、ふふっ」 (……顔に出てたのか?)「……桐将といる時は楽しかった。 一緒に話して、一緒にご飯食べて、一緒に笑って、 ……不思議と、桐将といる時は心が窮屈じゃなかった」 (……シンプルにうれしい)「……何日も桐将と一緒にいてね、……それでね、私気付いたの、…… あぁ、この人は私と同類なんだ、って」「……」「だから、一緒にいて窮屈じゃないんだって。 それで、もっと桐将が欲しくなった。 ずっと私の傍で戦って欲しいって思った。 恋とか愛とか分からないけど、そんなのじゃなくて、私の為に、私の為だけにっ、戦って欲しいって思ったの。 ……ふふっ、……引いた?」 ――こちらを見る紗命の目は、狂気に蕩け、口は甘ったるいほどの恋慕に緩んでいた。
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