付き合ってからの平日は。思ったより普通だった。劇的に。何かが変わるわけではない。朝から会議があって。期限ぎりぎりの資料に追われて。有田さんの細かいレビューを想定しながら。PPM前の資料を整える。タイ撮影まで。もう時間がない。ストーリーボードの修正。商品露出の秒数。SNS展開の見せ方。媒体フォーマットとの整合性。一つ決めれば。別のところで。また調整が必要になる。仕事は相変わらず。こちらの事情なんて気にせず。流れていく。正人とも。相変わらず仕事の話をする。クリエイティブの方向性。媒体との整合性。タイ撮影の尺感。予算の説明。仕事中の空気は。今までとほとんど変わらなかった。だからこそ。不思議だった。ちゃんと。付き合っているのに。会議室では。普通に議論する。資料の赤入れで。少し言い合う。どちらも。簡単には引かない。「そこ、媒体視点だと弱くない?」正人が。資料に目を落としたまま言う。私は。すぐに返した。「いや、でも世界観崩したくないじゃん」「世界観を残すのはいいけど、最後の想起が弱いと有田さん絶対言うよ」「分かってる。だから最後に商品寄せてる」「もう少しだけ早めてもいいと思う」「早めると急に広告っぽくなる」「そこを違和感なくやるのがクリエイティブでしょ」「正人、今日ちょっと媒体側に寄りすぎ」「愛子が世界観側に寄りすぎ」そんなやり取りをしながら。結局。二人で一番よさそうな落としどころを探す。仕事の時の正人は。やっぱり手強い。優しいけれど。甘くはない。彼氏になったからといって。私の意見を。何でも通すわけではない。むしろ。仕事では今まで通り。ちゃんと突っ込んでくる。そこが。少し安心した。もし。急に遠慮されたら。たぶん。私は困ったと思う。彼氏になっても。正人は。仕事の正人だった。でも。会議が終わる頃には。ほんの少しだけ違う。エレベーターを待ちながら。正人が。資料から目を離さないまま。小さく聞く。「昼、ちゃんと食べた?」私は。少しだけ顔を上げる。「食べたよ」「何?」「おにぎりとスープ」「野菜は?」「スープに入ってた」「それ、野菜にカウントしていいやつ?」「厳しい」正人は。少しだけ笑う。その笑い方は。仕事
Last Updated : 2026-10-07 Read more