「てかさ」「何」「あの人」少し間。「確実に愛子のこと好きだよね」私の指が少し止まる。画面の中のカートが、壁にぶつかった。「……急だね」「いや」楓は普通に言う。「だってあれ、普通に分かるじゃん」画面から目を離さないまま、アイテムを投げる。「あれもう、告白されてる感じの距離だったし」血縁、恐ろしい。何も言っていない。なのに、ちゃんと見抜く。正人の距離感。待ち方。言葉の選び方。明日、時間ある?と聞いた時の空気。「あけるよ」の声。全部。たぶん、外から見ても分かるくらいには本気だった。「……まあ」私は視線を画面に戻した。「そうかもね」楓が少しだけ決まり悪そうに言う。「あのさ」「うん」「俺、普通に姉ちゃんには幸せになってほしいんだよね」思わず、指がまた止まる。画面の中で、またカートがコース端に擦れた。楓はそれを笑わなかった。「だから」肩をすくめる。「人紹介しようかな、とか思ってた」「……え?」「いや、ほんとに」少し困った顔。「仕事ばっかだし。自分で会う人探す気ないのかなって思ってたし」「余計なお世話」「まあ、そうなんだけど」楓は少しだけ笑う。でも、声はいつもより優しかった。「でも、もういいかなって思った」私は小さく首を傾げる。「今日の人なら?」率直だった。「ちゃんとしてそうだし」「品あるし」「普通にイケメンだし」「母さんと同じこと言ってる」「え、やだ」「ひど」楓は少し笑って、それから真面目な声に戻った。「愛子にちゃんと向き合ってそう」胸の奥が、静かに揺れる。ちゃんと向き合ってくれている。それは、私も分かっている。正人は逃げない。聞きすぎないけれど、見ている。押しつけないけれど、待っている。不器用でも、ちゃんと言葉にしてくれる。そういう正人の誠実さを、私はちゃんと受け取っている。受け取っているからこそ、苦しい。「ただ」楓の声が少しだけ低くなる。私の指が止まる。「……何」楓が少し言いづらそうな顔をした。「あの人、愛子のこと好きなの、めっちゃ分かる」「うん」「でも」コントローラーを軽く回しながら、楓は言葉を探す。「愛子が、好きになれるのか?」その一言が、胸の奥へまっすぐ落ちた。「っていうのは、ちょっと疑問だった」血縁、恐ろしい。
Last Updated : 2026-09-21 Read more