Todos los capítulos de 冷酷CEOは没落した初恋相手を逃がさない~8年越しの誤解から始まる、愛憎の契約結婚~: Capítulo 51 - Capítulo 60

76 Capítulos

第五十一話 逃げ道を塞ぐ

「よぉ姉貴。はよ金くれよ」 凜に気付いた大雅が席にやってくるなり、それだけを言って右手を差し出した。 当時中学二年だった彼は身長も伸び、体格も良くなっていた。 けれど、締まりのないニヤケ顔と、間延びした話し方は変わっていない。 八年ぶりの再会にも、懐かしさは微塵も湧かなかった。「遅れてきたのに謝罪もなしか」 理玖が低い声で、溜息混じりに呟く。「あぁ? 誰やそいつ。なんで一人やないねん」 大雅は一瞬だけ理玖を見たものの、すぐに凜へ視線を戻した。「そう言うお前も、一人じゃないだろうが」 理玖の視線が、大雅の隣に立つスーツ姿の男へ向けられる。 三十代ほどだろうか。 濃紺のスーツを着た男は大雅の横で黙ったまま、店内の壁掛け時計を見ている。――この人が、山下……? 玲奈から聞いた名前が頭を過る。「そんなん、お前に関係ないやろが」「なら、俺がここにいても関係ないよな」 大雅が大袈裟に舌を鳴らした。「とりあえず、はよ金よこせや」 大雅に睨まれ、凜は反射的に身を縮こませる。「座れ」 理玖の低い声が響いた。「はぁ? なんでお前の言うことを、俺が――」「金を受け取りに来たんだろう。なら、まず説明しろ」 理玖が向かいの席を指差す。 大雅は隣りにいるスーツ姿の男へ視線をやったが、男は何も言わない。 再び舌を打って乱暴にソファに腰を下ろし、男もその隣に座った。「何を説明せぇっちゅうねん」「百万円を要求する根拠だ」 大雅が眉を寄せる。「はぁ? 姉貴のせいでこっちは苦労しとるんや。その詫びとして当然やろが」「苦労?」「姉貴が縁談をぶち壊したせいで、こっちは散々なんや」「白鳥家が没落した責任を、凜一人に押しつけるつもりか。当時高校生だった凜に全責任があると?」「そらそうやろ
last updateÚltima actualización : 2026-09-05
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第五十二話 断ち切る言葉

「私は――」 続く言葉が喉の奥で詰まって、うまく出てこない。 凜は一度、息を吸った。 口の中が乾いている。 胸の鼓動がうるさくて、自分の声すら掻き消されてしまいそうだった。 それでも、俯かなかった。「お金は、もう渡せません」 自分の口から出たとは思えないほど、はっきりとした声だった。 大雅が目を瞬かせる。「……は?」「百万は渡しません。これから先も、あなたにお金を渡すつもりはありません」 大雅の口元から、引きつった笑みが消えた。 隣に座るスーツ姿の男が、組んでいた腕をわずかに動かした。 けれど何かを言う様子はない。「な、何言うてんねん」 大雅は凜を見つめたまま、乾いた笑い声を漏らした。「姉貴が金を渡す言うたから、わざわざ来たったんやろが」「それは、あなたと話をするためです」「嘘ついて呼び出したんか?」「……そうです」 大雅の眉が大きく吊り上がる。 凜の握っていた拳が、小さく震え始めた。――怖い。 大雅の目元に、義母の麗華の顔が蘇る。 機嫌を損ねれば、何をされるか分からない。 それでも、隣に座る理玖の存在を確かめるように、凜は一度だけ右手を開き、再び握り締めた。「ふざけんなや!」 大雅の怒声が店内へ響く。 離れた席にいた客たちが、一斉にこちらを振り返った。 店員も異変に気づいたのか、レジの前からこちらを窺っている。「声を抑えろ」 理玖の言葉にも、大雅は耳を貸さなかった。「姉貴のせいで、こっちは全部めちゃくちゃになったんやぞ! 家も潰れた。親父も病気になった。母さんかて苦労しとる!」「それを全部、私のせいにするんですか?」「当たり前やろが!」 大雅が身を乗り出す。「お前がおとなしく結婚しとったら、何もか
last updateÚltima actualización : 2026-09-06
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第五十三話 最後の味方

「悪いが、俺は帰る」 それまで黙っていたスーツ姿の男が、初めて口を開いた。 大雅の口元に浮かんでいた笑みが、一瞬で消える。「……は?」 男は大雅を見ようともせず、テーブルの上に置いていたスマートフォンを手に取った。「金を受け取るだけだと聞いていた。警察沙汰にまで付き合うつもりはない」「ちょ、ちょっと待てや」 大雅が慌てて男の腕へ手を伸ばす。 男は伸びてきた手を、煩わしそうに払いのけた。「触るな」 低く言い放たれ、大雅の動きが止まる。「話が違うやんけ。金持ちと結婚して金持ってるはずやから、貰えるはずやって言ってたやろが! あんたからも、こいつらに金出すよう言うてくれたら――」「勝手に話を捻じ曲げるな」 男は冷ややかな目で大雅を一瞥した。「自分で交渉できると言ったのはお前だろう。店で騒ぎ、病院の写真まで送りつけろとは言っていない」「そ、それは……」「もうこれ以上付き合っていられない。相手は証拠を握っている。病院にも店にも手を回されている。これ以上ここにいれば、俺まで面倒に巻き込まれる」 男の言葉に、大雅の顔から血の気が引いていく。 凜は二人のやり取りを聞きながら、男の姿を改めて見つめた。 濃紺のスーツは身体にきれいに馴染み、立ち上がっても肩や襟元の形が崩れていない。 理玖が普段着ているスーツとは違うものの、安物ではないことくらいは凜にも分かった。 腕には、余計な装飾のない銀色の時計が嵌められている。 大雅の派手な服装とは、あまりにも釣り合っていない。――この人は、一体何者なんやろうか。 けれど、確かめる術はない。 これまで男は一度も名乗らず、凜と理玖にはまともに目も合わせなかった。「待ってくれや。俺はどないしたらええんや!」 大雅が立ち上がり、男の前へ回り込む。「百万入ったら、あんたにも――」
last updateÚltima actualización : 2026-09-07
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第五十四話 決別の証明

「理玖!」 大雅の拳が理玖の顔へ届く直前、理玖が身体を横へずらした。 空を切った腕の手首を摑み、その勢いを外側へ逸らす。「離せや!」「これが、お前の答えか」「黙れ! 全部お前のせいや!」 大雅が腕を振りほどこうともがく。 理玖が手を離すと、その勢いで大雅は蹌踉めき、テーブルへ手をついた。「大丈夫ですか!」 竹山が背後の席から駆け寄ってきた。「白鳥大雅さん。これ以上の行為はやめてください」「誰や、お前!」「弁護士の竹山です。黒瀬さんから相談を受け、あなた方が店に入ってきたところから全て見ています」 竹山は大雅との距離を保ったまま、静かな声で続けた。「店員の方や、周囲のお客様も目撃しています。今の行為も含め、言い逃れはできません」 大雅が周囲を見回す。 その目は落ち着きなく左右を何度も往復していた。 家族連れの客たちは横目でこちらを窺いつつも、大雅と視線を合わさないよう顔を伏せている。 若い客の中には、スマートフォンをこちらに向けている者もいた。 先ほど大雅に怒鳴られた店員は、レジで受話器を耳に当て、誰かと話している。「こ、こんなん、ただの姉弟喧嘩やろ。なにを大袈裟に……」 大雅の声が裏返っていた。「姉弟喧嘩で、金を払わなければ入院中の父親のもとへ行くと告げ、金銭を要求するんですか?」 竹山の問いに、大雅が息を詰まらせた。「金を要求するなんて言うてへん! 見舞いに行く言うただけや!」「それが金銭の支払いを迫るための言葉だったことは、これまでの凜さんとのやり取りから見て取れます」「そんなん、そっちの勝手な思い込みやろが!」「では、警察で説明してください。既にこちらからも連絡しています」 竹山の言葉に、大雅の顔色が変わった。「警察……?」 遠くから、複数の足音が近付いてくる。
last updateÚltima actualización : 2026-09-08
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第五十五話 見せられなかったネックレス

 病院を出た頃には、六本木の街はすっかり夜に染まり、通りは多くの人で賑わっていた。 仕事帰りらしい会社員たちが飲食店の呼び込みに足を止め、明るい看板の下へ吸い込まれていく。 いつの間にか、左耳の奥を塞いでいた耳鳴りも消えていた。 夜間外来の医師は気怠さを滲ませながらも、凜の首元を丁寧に診察してくれた。 幸い大きな怪我はなく、軽い打撲で済んだ。「この程度で来て、迷惑やったやろうか……」 病院を出てから凜が呟くと、隣を歩いていた理玖の眉間に深い皺が刻まれた。「暴行を受けたんだ。診てもらうのは当然だろう」「そんな大袈裟にしなくても……」「男に摑まれたんだ。たとえ家族だとしても立派な暴行だ。それに、弁護士の竹山も診断書を取るように言ってただろ」「うん……」 凜は小さく頷く。 大雅を警察へ連れていかせる以外に、もっと穏便な方法があったのではないか。 今更になって、そんな考えが頭の中を巡り始める。「まさか、後悔してるのか?」 半歩遅れて歩く凜に気付いた理玖が足を止めた。「後悔、というか……」「悩んでるのか」「もう少し、話し合えたんやないかなって。警察にまで突き出さんでも、うちがもっとうまく――」「凜」 低い声に遮られ、凜は上目で理玖の表情を窺う。 病院のときと同じ、険しい表情だった。「あいつは話し合いに応じなかった。金を渡さないとお前が言った途端、襟元を摑み、俺に殴りかかった」「うん」「暴力を選んだのは大雅だ。お前じゃない」 言い切られても、胸にこびりついた重さは消えなかった。「でも、いざ家族が警察に連れていかれたと思うと、やっぱり……」「気持ちは分からなくもない。だが、これまで散々悩まされてきたんだろう」「それはそうやけど&hel
last updateÚltima actualización : 2026-09-09
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第五十六話 優しさの理由

 二人の背後で玄関の扉が閉まり、施錠音が廊下に響く。 凜は靴を脱ぎ、そのままキッチンへ向かおうとした。「休まなくて平気なのか」「お茶でも淹れようかと思って」「いらない。座れ」 理玖がソファを指さす。「でも、理玖も疲れてると思って」「お前が心配することじゃない」 有無を言わせない声に、凜は言われるままソファへ腰を下ろした。 キッチンに入っていった理玖は、しばらくして二人分のマグカップと保冷剤を手にリビングへ戻ってきた。 手渡されたマグカップからは細い湯気が立ち、ほのかにレモンの香りが漂っている。「レモンバームだ。少しは落ち着くだろう」 保冷剤をタオルで包みながら理玖がソファに腰を下ろす。「ハーブティーなんて飲むんだ」 生活感のなかったキッチンからハーブティーが出てきたことに、驚きを隠せなかった。「たまにな。それよりも、これを当てとけ」 そう言ってタオルに包まれた保冷剤を差し出してきた。「病院でもただの打撲だって言ってたし、もう痛くないよ」「いいから」 理玖は凜の返事を待たず、タオルに包んだ保冷剤を首元へ当てた。「冷たっ……」「少し我慢しろ」「自分でできるってば」 茶化すように笑いながら、保冷剤を持つ理玖の手首をそっと押し返す。 理玖は尚も心配そうな目をしていたが、やがて眉間の皺を緩めた。「そこまで動けるなら、大丈夫そうだな」「理玖は心配しすぎだよ」「別に普通だろ」 さっきまで大雅と険しい表情で言い合っていた理玖がむっとした表情を見せ、思わず小さく吹き出してしまう。「なんだよ」「あんなに怖い顔して、大雅とやりあってたのに」「誰のためだと思ってるんだ」「うん。お金のことも、今日のことも、本当にありがとうございます」 凜は笑みを収め、理玖へ向き直って頭を下げた。
last updateÚltima actualización : 2026-09-11
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第五十七話 八年間、忘れられずに

 翌朝、目を覚ました凜は、真っ先にスマートフォンの通知一覧を開いた。 誰からのメッセージも届いていない。 昨夜、大雅が警察に連れていかれたことが、まだ現実味を帯びてこない。 昨夜の騒ぎが記事になっていないか、ニュースサイトで検索する。 けれど、結局大雅について言及した記事は見付からなかった。 試しに、首元に右手を添える。 痛くない。 指先でそっと押すと、皮膚の奥から鈍い痛みが返ってきた。――やっぱり夢じゃない。 凜はほっと息を吐き、隣の理玖を見た。 切れ長の目が今は閉じられ、小さく寝息を立てている。 あんなに、大雅に対して冷静に言葉を返していた人が、今は無防備な姿を晒している。 今更になって、胸の奥が熱を持った。 そっと理玖の顔に近付く。「ほんとに、ありがとう」 理玖が目を覚まさないよう、声を潜めて囁いた。「……ん」 返ってきたのは、寝言のような低い声だった。 いつもの時間なら、理玖ももうすぐ目を覚ます。 先に朝ごはんの準備をしようと、音を立てないようにベッドを抜け出した。 冷蔵庫から卵と豆腐を取り出す。 出汁の香りが広がる頃には、昨夜まで胸に居座っていた重苦しさも、少しだけ薄らいでいた。 だし巻き卵を皿へ移したところで、背後から足音が聞こえる。「朝から随分まともなものを作ってるな」「まともって何よ」「首は大丈夫か?」「うん。もう殆ど痛くないよ」「そうか。なら、いい」 理玖が背後で二人分のマグカップを用意してくれている。 ローテーブルに朝食を並べると、ようやくいつもの日常が戻ってきたような気がした。「大雅のことは、これで終わったんだよね」 思わず零れた言葉に、理玖が「ああ」と返す。「少なくとも、もうお前が一人で対応する必要はない」「…&hell
last updateÚltima actualización : 2026-09-12
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第五十八話 昔の恋と、今の愛

 午後二時前。 定食屋のアルバイトを終え、更衣室でスマートフォンの電源を入れると、玲奈からメッセージが届いていた。『それなら、今日の夕方はどう? 銀座で美味しいお店見付けたんだよね。Estrellaに入る前だからあまりゆっくりはできないけど』 突然の申し出だったが、今朝、理玖は誰とどこへ行くのかだけ伝えれば、わざわざ許可を取る必要はないと言っていた。『今日の夕方、玲奈と銀座で食事をしてもいいでしょうか。玲奈がEstrellaへ出勤する前なので、遅くはならないと思います』 ただ予定を伝えるだけでいい。 そう分かっているのに、指はいつもの言葉を打ち込んでいた。 送信してから、定食屋の制服を脱いで私服へ着替える。 髪を整え終えた頃、ロッカーの上に置いていたスマートフォンが震えた。『分かった。帰る時に連絡しろ』 短い返事だった。 凜は玲奈へ『大丈夫です』と返信し、スマートフォンを鞄へしまった。 バックヤードを出たところで、厨房から顔を出した店主に呼び止められる。「凜ちゃん。知り合いの人が来てるよ」「私の、知り合いですか?」 玲奈が来るには、まだ早すぎる。 首を傾げながら客席へ出た凜は、入口のテーブル席に座る人影を見付けて足を止めた。 アイボリーのワンピースを纏った女性が、窓の外を眺めている。 背後で、板前の店員が「あの人、前も一度来た人じゃない?」と囁く声が聞こえる。 堂島電気主催のパーティーで、帰ろうとしていた理玖と凜に声をかけてきた人。――白川紗夜さんが、どうして……? 凜の足音に気付いた紗夜が振り返り、微笑みを浮かべた。「お久しぶり。黒瀬さんの奥様」 声は柔らかいが、凜を射抜くような視線はどこまでも冷ややかだった。「以前こちらにお邪魔したときは、お話もできなかったものですから」「……あの時も、私を訪ねて来たんですか
last updateÚltima actualización : 2026-09-13
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第五十九話 忘れられない言葉

 アルバイト先から一度マンションへ帰り、定食屋でかいた汗をシャワーで流す。 Estrellaで働いていた頃から、この時間は嫌いじゃなかった。 昼間の自分から少しだけ離れて、いつもとは違う場所へ向かうための時間。 理玖と一緒に暮らすようになってから、いつの間にか忘れていた感覚がぼんやりと蘇ってくる。 シャワーを終え、ドレッサーの前に座った。 髪を整えて口紅を手に取る。 そこでふと、以前なら触れるだけでも緊張していた高級な化粧品が、いつの間にか手に馴染んでいることに気付いた。 理玖に連れられて百貨店でまとめて買ったものも、今ではどれを使うか迷うこともない。 鏡を見ながら、唇に薄く色を乗せる。 化粧を終え、鏡に映る姿を眺める。 シルクのワンピースを着て、高価な化粧品で身支度を整える自分なんて、ほんの少し前までは想像もできなかった。 ふと紗夜の言葉が蘇る。『人は時間とともに変わっていくものでしょう?』――うちも、変わったんやろうか。 鏡の中の自分が、少しだけ知らない人に見えた。 まだ新品の硬さを残すハイヒールに足を通す。 歩くたび、カツ、カツと軽やかな音が響く。 そのまま電車で銀座へ向かった。 待ち合わせ場所として玲奈から送られてきたのは、Estrellaから歩いて十分ほどの場所にある小さな洋食店だった。 まだ夕食には少し早い時間だったが、店内にはちらほらと客の姿がある。「凜、こっち!」 奥の席から手を振る玲奈を見つけ、凜は小さく頭を下げた。「ごめんなさい。少し早めに来たつもりだったんですけど。待ちましたか?」「全然。私も今来たとこ」 向かいの席へ座ると、玲奈が早速メニューを差し出してくる。「ここのオムライス美味しいんだって。たまには普通の料理も食べたくて」「相変わらず、同伴ばっかりなんですね」「そう。いい加減胃もたれしちゃってさ。凜も、こうい
last updateÚltima actualización : 2026-09-14
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第六十話 自分の気持ち

「もしかして、旦那さんのことで何かあった?」 玲奈の言葉に、凜の心臓が跳ねた。「さっきから私が三回くらい話振ってるのに、全部曖昧な返事だし」「ご、ごめんなさい」「別に怒ってないけど」 玲奈は頬杖をつき、凜の顔を覗き込む。 心の中まで見透かされそうで、思わず背中を椅子の背もたれに押し付けた。「何かあった?」「何も……」「嘘ばっかり。前から、凜はすぐ顔に出るんだから」 否定しようとして、言葉が止まる。 玲奈は急かさず、グラスの縁を指先でなぞりながら続けた。「話したくないなら聞かないよ。でも、せっかく久しぶりに会ったのに、ずっとそんな顔されたら気にはなっちゃうな」「そんなに変な顔してますか?」「してる」 玲奈は短く言い切った。 思わず苦笑すると、玲奈も合わせて笑う。「旦那さんと喧嘩した?」「してないです」「じゃあ、女だ」 こんなとき、玲奈の勘は鋭い。 吐こうとした息が喉につっかえた。「その反応、当たり?」 凜は小さく頷く。「で?」「で、って……」「何があったの?」 凜はスプーンを握ったまま俯いた。――どこまで話すべきなんやろう。 理玖との結婚が、普通の結婚ではないこと。 契約結婚の条件や、既に多額の援助を受けていること。 全部を説明しようとすれば、あまりにも長くなる。「……今日、バイト先に女の人が来たんです」「定食屋のバイトのこと?」「はい」「まだ続けてたんだ。それで?」「前に、連れられたパーティーで会った、黒瀬さんの仕事関係の人なんですけど……」「ふーん」 玲奈がスプーンを止めた。「その人に、何か言われた?」
last updateÚltima actualización : 2026-09-16
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