六本木にあるビルの最上階、『Kurose Web Security』本社。 数日振りに出社した、代表取締役CEOである理玖は、広大な社長室の革張りの椅子に深く腰掛け、PCモニターを睨み付けていた。 キーボードを力任せに叩く音だけが反響する。『もう一度、club Estrellaで働かせてください』 一時間前、自宅のリビングで凜の放った言葉が、頭の中にこびり付いて離れない。 理玖は舌打ち混じりに、エンターキーを強く押し込んだ。乾いた音が、やけに耳障りに残る。「……ふざけるな」 低く、地を這うような呟きが漏れる。――金なら俺が出すと言っているのに。凜の父親の莫大な治療費も、溜まりに溜まった借金も、生活費すらも、全て俺が肩代わりしてやるというのに。――これ以上、一体何が不満なんや。「……よりによって、クラブに戻るやと?」 机の下で、右足が小刻みに床を打ち始める。 理玖はネクタイを乱暴に緩め、深く息を吐き出し、目を閉じた。 凜が他の男に笑いかけ、酒を注ぐ。 あの夜の光景が蘇るだけで、胃の腑が焼けるようだった。「そんなこと、俺が許すわけないやろが……!」 机を拳で強く打ち付けた。「何かトラブルでもありましたか?」 その声に、理玖ははっと我に帰る。 いつの間にか入室し、デスクの前に立っていたのは、秘書の高遠希美だった。「ノックしろと、言ってあっただろう」 理玖の声がかすかに上擦る。「何度もノックしましたが、社長が唸っていらっしゃったので」 希美は理玖の様子を気にも介さず、淡々と告げた。 理玖は小さく舌を打った。「それで、一体何の用だ」「お休みになられていた間の、書類の確認をお願いします」 希美はそう言いながら、分厚いファイルを机の上に置い
Last Updated : 2026-08-11 Read more