冬月朱莉は、目の前にあらわれた人物を信じられない思いで見つめていた。どうしてこんな所に彼がいるの?この会社で働き始めて8年、秘書室の中では結構な古参に入る。この4月から秘書室長の推薦を受けて代表取締役の水無瀬社長の専属秘書となった。今夜開催される新しいリゾート開発プロジェクトのラウンチパーティに、社長が同行すると言って連れて来た代表設計士は、朱莉が忘れようとして、いまだに忘れられない元カレだった。秘書カウンターのこちら側で驚いた顔をしている自分を見つめて、向こうも一瞬目を見張ったが、その後すっと目を外された。まぁ、そうでしょうね。今さら私を見たところで......朱莉は、心の中で苦々しくそう思った。でも、私はそうじゃないのよ。ずっと忘れられなくて苦しかった。これだけ時間が経って、ようやく忘れられそうだったのに。社長室に入っていく男の後姿を見つめながら、過去を振り返った。◇◇◇篠宮蒼也と朱莉が出会ったのは、朱莉が大学1年の時だった。その頃、朱莉は、弟の聖と都内で2人暮らしをしていた。母が残してくれた保険金のおかげで大学への進学が叶い、朝夜アルバイトをすることでなんとか生活をすることができた。特に夜のバイト先のバーは、店の雰囲気もとても良く、オーナーでバーテンダーの神木さんもとてもいい人で本当に大当たりのバイトだった。特に、客のいない時間には、事務所のPCで大学の課題をすることを許してくれるという神対応にまさしく“神木だけに神!”だった。蒼也とは、客と店員としてバイト初日に出会った。「珍しいね。神木さんが女の子のアルバイトを雇うなんて」目の前に座る人の良さそうな笑顔が、人たらしな感じでちょっと警戒してしまったのは、もう自分が彼に惹かれ始めていたからだったのだと思う。「朱莉ちゃん、蒼ちゃんにはジントニと一緒にラスクとシチューを出してあげて」そう言われて、店の隠れた売りでもあるバターラスクとシチューをカウンター越しに置いた。「ありがとう。ほぼ毎日この店に来てるから、これからもよろしくね」蒼也は、同じ大学の建築学専攻の大学院3年目で、1級建築士でもあった。 実はこのバーのリフォームの設計をしたのが初めての仕事だったのだそうだ。「もともと、このバーのある建物が、古く
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-07-03 อ่านเพิ่มเติม