毎晩、店に来る彼に会うのを楽しみにしていた。だから、毎日シフトに入りたがって、神木さんに『7連勤とかしなくていいから』と断られるほどだった。まぁ、これだけわかりやすくウキウキと接客しているのだから、向こうは自分が好意を持たれていることにはすぐに気づいただろう。「チケットがあるから、もし、嫌じゃ無かったら、一緒に行かない?」そう言って、都内のギャラリーで開催される『現代建築家展』のチケットをカウンターに置かれた時には、ついに来た!と感じた。建築について、造詣が深いわけでもないが、ここ最近、彼の話をよく聞いているので、それなりに興味もあった。それになんといってもデートのお誘いだ。飛びつかない筈が無かった。待ち合わせ場所にしていた駅前のカフェに現れた彼は、夜にバーで出会うよりも年相応に若い印象で、それも自分の胸にはキュンキュンときた。「建築家って、建物を考える人だと思ってましたけど、周りの環境とかも考えるんですね」ギャラリーの展示物とその解説を見ながら聞いてみる。「もちろん、そうだよ。例えば、個人の家の場合は、住む地域、周辺の形状、暮らし方を考えて設計するね。僕の専門は公共建築なんだけど、その場合は、もっと考える必要がある。人がどこから流れてくるか。どういう人たちを集めたいのか。周囲の住環境やそこに根差す文化も考慮しないと建物だけ浮いてしまうからね」自分の専門分野について話す時、彼は生き生きとしている。自分の好きなことにオタクな感じもいい。「時々、田舎の図書館とかでものすごく奇抜なやつあるじゃないですか。あ、ほらほら、こんな感じ」目の前の、高名な建築家が設計した建物の模型を指さす。それはクジラが泳いでるように見える形の建物だった。「水族館かと思ったら、多目的ホールって。こういうのもちゃんと考えられて作ってるんですか? ただの目立つ建物って感じしますけど」蒼也が口に拳を当てて、声を押さえて笑う。朱莉はその姿に心を撃ち抜かれた。なんだよ!可愛いかよ!反則!「確かに、建築家の得意な設計をアピールしたものや、人目《ひとめ》を集めるためだけのものもあるよ。でも、それも、それ自体が訪れる目的になって建てられているってこともあるんだ。まぁ、すべてがそうでないこともあるんだけどね」ギャラリーを出て、良かったら、と昼食に誘われた。そんなの断る訳ない。誘っ
Last Updated : 2026-07-03 Read more