『次』は、思いのほか早く訪れた。週明けの月曜日、終業後にビルのエントランスを出たところで蒼也に出会った。「朱莉。久しぶりだね」どうやら、自分が出てくるのを待っていたようだ。「蒼也、久しぶりね。こんな偶然があるなんてびっくりしちゃった」ドキドキとしていたけれど、小さなプライドが『落ち着いて見せろ』とがんばってくれている。「もし、時間があるなら、少し話ができないかと思って」昔と変わらない。緊張すると口元に拳がいく、その様子にふっと気持ちが柔らかくなる。「じゃぁ、どこかでお茶でも飲みながら話ししましょうか」近くにチェーンのコーヒーショップもあったが、会社の人がなるべく来ないところがいいと思って、駅と反対方向に通り二つ分離れたコーヒー店に向かった。「朱莉、今も聖ちゃんと2人暮らしなの?」「ううん。聖は今、仕事で大阪にいるの。アパレルのバイヤーをやってて」「すごいね。夢を叶えたんだな」「ふふ、天職だって言ってる。まぁ、私もそう思ってる」コーヒーを手にして席に着く。改まると会話の糸口を見つけにくい。「朱莉がリゾート会社にいるって、正直、驚いた。てっきり金融系に行くと思ってたから」「でしょ? しかも秘書課よ? 私が秘書なんて、想定外でしょ」そう言って笑いかけると、目の前の蒼也が優しい笑顔を浮かべる。「でも、蒼也だって。建築士にはならないって言ってたのに、なんかすごいことになってるし。開発プロジェクトの設計リーダーでしょ?」「以前コンペに出していたものが、水無瀬社長の目に止まったみたいで。声をかけてもらったんだ」本当に聞きたいことはこんなことじゃないのに。それがわかっていて、話しだせないもどかしさが苦しい。
Last Updated : 2026-07-05 Read more