Lahat ng Kabanata ng 無くした恋のその先へ ~この恋を忘れたふりはもうできない~: Kabanata 11 - Kabanata 20

35 Kabanata

第11話 朱莉⑪

バイト終わりに、家まで送ってもらうことが日課になった。休日には、日帰りで行ける建物巡りに一緒に出かけたりもした。「あーちゃん。水、出しっぱなしだよ。何してんの?」皿を洗いながらぼんやり蒼也のことを思い出して、つい手が止まっていた。洗う皿も無いのに、流しで水だけが流れ続けていたようだ。「あーちゃん。彼氏、紹介してよ」聖が覗き込むようにして顔を見ている。朱莉の彼氏に興味津々なようだ。「え!?」ふと冷静になった。蒼也は聖のことをちゃんと受け入れてくれるのだろうか。「おウチに連れてきてよ。あーちゃんの初彼氏。見たい!会いたい!」「えぇ~~わかった......今度、聞いてみる」「真面目で堅物くんなんでしょ?僕、男装しとこうか?」朱莉は一瞬考えて、それから聖に笑顔を送る。「聖のしたい格好で全然OK。聖を変な目で見るような男なら、私の見る目が無かったってことだから」夜、眠る前のメッセージのやり取りで、翌日の送りの時にうちに寄ってもらうことになった。家に来た蒼也は、「緊張するな」と言いながら、至って普通に聖を受け入れた。それが実に自然で、聖もニヤニヤしながら、いい彼氏じゃん、と喜んでくれる。自分の大切な人たちが互いを受け入れてくれていること、それがすごく嬉しかった。付き合い初めてしばらくして、休みの日に出かけた帰り、蒼也の部屋に誘われた。こういうことを想定して、デートの時は、下着には気をつかっている。いつそういう時が来てもいいように。きちんとした性格だから、ピカピカに掃除された部屋を想像していたが、それなりにズボラな男子学生の部屋っぽい感じで、机の上に雑誌が開きっぱなしだったり、ソファの背もたれにタオルが引っ掛かっていたりする。 そういうところに、普段にはない隙が見えてさらに好感度が上がった。まぁ、要は、自分は蒼也が好き過ぎて、何がどうなっていても、『それもまたイイ』と脳内変換ができるらしい。こういうのを世間では、恋は盲目というのだろう。
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第12話 朱莉⑫

「ごめん、あんまり片付いてなくて。コーヒーでも淹れようか」部屋に入ってから、互いに言葉が少なくなる。何かが始まりそうな気配に、お互い落ち着かない気持ちを抱えてた。マグカップを手に、ソファの端に腰を下ろすと、蒼也も少し間を空けて隣に座る。テーブルに開かれたままの雑誌のページに視線を落とすと、海辺に沿って櫛のように並ぶ不思議な建物の写真が目に留まった。「面白い形。棟ごとに船着き場があるのかな。舟屋っていうの?」「あぁ。これは沖縄のセルリアンヴィラリゾートon una(恩納)だ。これが完成した時には、結構話題になったんだよ。この島自体が人工島で、船でしか行けない。去年、行ってみたけど、ほんとに綺麗だった」雑誌を見ながら、ふと腕が触れ合う。わずかな接触に心臓が跳ねて、耳の奥が熱を帯びる。マグカップをそっとテーブルに置いた瞬間、彼の手が自分の手を包み、身体が自然と寄り添う。唇が、ためらいがちに近づき、こちらの表情をうかがうように目が覗き込む。「朱莉……このまま、進んでいい?」胸が高鳴りすぎて、言葉が出ない。本当はお風呂にも入りたいし、汗の匂いも気になるけれど、そんなことを言い出せる空気でもなく、ただ小さく頷いた。顔を赤くして肩をすくめると、蒼也が柔らかく笑って、頬にかかる髪を耳にかけてくれる。「緊張してる?」くすぐるような声に返す言葉が見つからず、小さな息がこぼれる。彼の手がカットソーの裾に触れ、こちらは戸惑いながらも彼のTシャツのすそをぎゅっと握った。どこに気持ちを置いていいかも分からず、息を潜める。ベッドに導かれ、彼の体温が重なった。異なる温度の肌に触れるたび、身体の奥がそわそわと騒がしくなる。「ごめん……あんまり、余裕ないかも」彼の眉間がわずかに寄り、真剣な目でこちらを見る。そっと頬に手を添えて、笑いかけた。「私も。なんだか、息が苦しくて…ドキドキしてる」その言葉に、蒼也の表情が柔らかくなる。名前を繰り返し呼びながら、何度も強く抱きしめてくれた。その温もりに、心の奥がじんわりと解けて、満たされていくのを感じた。幸せって、きっとこういう瞬間のことを言うのだろう。◇◇◇夜が明けて、携帯のアラームが同時に鳴る。自分はコンビニの早朝バイト、彼は建材の搬入のバイト。絡まり合う足をほどいて、眠たいまま支度をしながら、笑い合う。「もっとゆっ
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第13話 朱莉⑬

それからは、ふたりでいられる時間はいつも一緒に過ごした。昼間に彼の研究室にお弁当を持って遊びに行くこともあった。雑多な室内でからかわれながら、他の人も交えてお喋りをした。 夜は、一緒に映画を観たり、他愛ない話をしながら過ごす時間が日常になっていった。だいたいは、我が家で3人で晩御飯を食べることが多かったが、聖が「今日はオールで遊ぶから、ごゆっくり~」とからかうように出かけて行く日は、彼の家で2人で遠慮なく朝までイチャイチャして過ごした。蒼也は、とことん優しくて、どんなに忙しい日でも連絡をくれるし、どんなときも自分を気にかけてくれる。毎日、バーにやって来て、酔っ払いに絡まれそうになると、穏やかな口調で助けてくれた。「蒼ちゃんに、用心棒代、払ったほうがいいかもね」なんて、神木さんに笑われるほどだった。大学3年の秋、就活が始まって、あちこちの企業へ訪問をしたり、企業説明会に参加をするようになった。 蒼也は、博士課程の終了が間近で、学位の取得もほぼ確実になり、来年度からは今の研究室で助手として働くという目途も立っていた。「来週、ちょっと宮崎の実家に帰るよ。朱莉も就活が忙しいだろう?しばらく夜のバイトは休んだらどう?」蒼也の部屋のソファで、彼の足の間に座りながら、会社案内とにらめっこしていた。「うーん。でも、今、説明会の予定とかで、朝のコンビニのバイトを入れてないから。夜を減らすと生活に困っちゃうしな……」「この間みたいに、酔っ払いに絡まれたり、付きまとわれたりしたら危ないだろう? 俺が店に行けない間は、夜のバイトは控えて欲しい」心配そうな表情に、朱莉は、声を上げて笑いながら、自分の腰に回る蒼也の手をペンペンと叩いた。「蒼也は心配し過ぎ。バーのお客さんにそんなタチの悪い人はいないでしょ? この間は一見で来た若い人が終わるまで待ってたけど、そんなにしつこくはなかったわよ」「俺が朱莉と一緒にいたからだよ」そう言いながら、拗ねたように首筋に顔を埋めてくる。6つも上なのに、こういうところを堪らなく可愛いと思ってしまう。「お土産は、例のチーズの入ったお饅頭でお願いします。あれ、大好き」ふざけたように言う朱莉の返事を聞き、ため息をつきながら、首筋から上へと唇が動き、顔を振り向かせて唇を奪われる。蒼也と愛しあうのは、本当に沼だと思った。一緒に
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第14話 朱莉⑭

4、5日で帰ると言っていた予定が過ぎ、10日を迎えるころには、蒼也からの返事はどんどん少なくなっていった。メッセージは未読のまま、電話をしても声はどこか他人行儀で、すぐに切られてしまう。「どうしたの? 何があったの?」電話越しにそう問いかけても、返ってくるのは冷たい声。「大丈夫。何でもない。君には関係ないことだし」何もわからなかった。ただ、彼がどこか遠くへ行ってしまう気がして、不安だけが積もっていく。「来月には、ここを引き払って地元に帰ることにした。実家の会社を手伝うことになったから」2週間後に戻ってきた彼は、東京を離れる準備に追われていた。大学の学位は、取得が決まったけれど、予定されていた助手職も辞退したという。宮崎の実家へ戻り、家業を継ぐという。「そんな急に……ご実家で何かあったの? どうして何も話してくれないの?」「朱莉に話すほどのことじゃない。家族のことを、他人に話すつもりはないから」“他人”という言葉に、心の奥がきゅっと痛んだ。どうしても納得できなくて、引っ越し前の彼の部屋に押しかけた。問い詰めても、彼は頑なだった。まるで自分などそこにいないかのように、静かに荷物をまとめるその背中を、ただ見つめることしかできなかった。「たとえ他人でも、私にできることがあるかも。話すことで、何か、こう、気持ちが楽になることもあるかもしれないじゃない」「……そういうのが、迷惑だとは思わないの? これだけはっきりと言って、わかってもらえなかったら、もう、これ以上、何を言えば伝わるのか分からないよ」本棚の整理をしながら、彼は一度も私を見なかった。どうして、こんなふうになってしまったんだろう。涙がこぼれそうになるのを必死でこらえ、バッグをつかんでその部屋を飛び出した。蒼也の変わりようが、ただ怖かった。人の心の奥底なんて、結局は誰にも分からない。もしかしたら、私が見ていた彼は、自分の中で美化されたものだったのかもしれない。父や母だって、自分の知らない顔を持っていた。だから、蒼也も――。悲しみというより、戸惑いと失望が胸を満たし、家に着くころには涙もどこかへ消えていた。それが、あの日からもう8年近くも前のこと――そして今日まで、一度も彼に会うことはなかった。
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第15話 朱莉⑮

あのあとしばらくは、学校にも行けず、就職活動も手つかずのままだった。無気力な私を心配した聖《ひじり》が、無理やり外へ連れ出して、某テーマパークで、必死に笑って、はしゃいで――ようやく、泣くことができた。聖がいてくれて、本当に救われた。それからは、大学の試験やアルバイト、日々の生活に追われるうちに、少しずつ元のペースを取り戻していった。そんなある日、取り寄せた会社案内のパンフレットの写真に、目が釘付けになった。蒼也の部屋であの日見た、海辺のリゾートホテル。記憶の奥に刻まれていた風景が、ふいに胸をざわつかせた。その会社は、国内有数の大手リゾートグループだった。本命は金融系の企業だったのに、どうしてもその写真が忘れられず、説明会に足を運び、面接を受け、気づけば内定をもらっていた。他にもいくつか内定をもらっていたけれど、迷った末に選んだのは――その写真の会社、「セルリアングループ」だった。まさか、配属先が秘書課になるとは思っていなかった。経理か総務だろうと思っていたから、少し驚いた。でも今は、それなりにやりがいも感じている。◇◇◇「でさ、今になって元カレと再会って、むしろ運命ってやつじゃない? ようやく朱莉の人生にも、光が差すターンなんじゃない?」台湾支社から本社に戻ってきている同期の菱本が、我が家に泊まっている。向こうで素敵な同性のパートナーと出会い、昨年には子どもも授かって、いまやどこから見ても"勝ち組"な彼は、すっかり上から目線である。「別に今だって、暗闇を歩いてるわけじゃないんだけど」そう言いながら目を細めて睨んでみせたが、ちょうどそのとき、台湾からテレビ電話が鳴り、彼がウキウキと画面に向かって話をし始めたので、自分の答えは無視された形になった
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第16話 朱莉⑯

翌朝。オフィスのPCに届いたメールの中に、名前を見つけた。「株式会社エスモード・デザイン 篠宮蒼也」件名には、昨夜のパーティーに対する礼と、新規プロジェクトに関する添付ファイルの案内が記されていた。――結局、家業なんか手伝っていないんじゃない。苦笑いにも似た思いが胸をよぎる。 たしか、蒼也の実家は地元の鉄工所だったはずだ。 「兄夫婦が継いでいて、従業員も10人くらいしかいないから」と、かつて彼が語っていた。その小さな町工場の何を、あんなに急いで手伝わねばならなかったのか。もしかすると、あれも全部、嘘だったのかもしれない。昔も今も引っかかっていることはいくつもある。でも、今さら問いただす意味なんてないから、そう自分に言い聞かせる。もう私には、関係のない話だから。時間になり、社長と今日のスケジュールを確認していると、ふいに彼が口を開いた。「冬月さん。君、篠宮さんと同じ大学だったんだって?」一瞬、胸がざわついた。まさか彼が、自分たちの過去を面白おかしく話したのでは――。 そんな疑いが頭をよぎり、すぅっと背筋が冷える。「はい。大学の先輩です。学部は違いますが、在学中に面識がありました」社長は穏やかに頷き、続ける。「昨日の会場に向かう途中で、君のことを少し聞かれてね。仕事に関する話だけだったけど……。プライベートなことは一切出なかったし、仮に聞かれても私は答えないよ。ただ、知り合いだと分かって少し安心しただけだから」「……お気遣い、ありがとうございます」軽く頭を下げて、秘書カウンターに戻る。 何を聞かれたのか、気にならないと言えば嘘になる。けれど、詮索してしまえば、こちらもまた何かを話すことになる気がして、そっと胸の内にしまった。夕方、秘書課時代の同期で親友の綾香からメッセージが届く。 週末、家に遊びに行く約束の確認だった。「菱本も連れて行くから」と返す。久しぶりに賑やかな週末になりそうだ。玄関を入り、ガチャリと後ろ手に鍵を閉める。 昨年末に、聖が仕事の都合で大阪へ引っ越してから、朱莉はひとり暮らしになった。ずっと住んでいるこの部屋を引き払わなかったのは、ちょっとした思い入れのせいだ。 地元を離れて聖と安定した生活を始めた場所。誰にも脅かされることなく平穏に暮らした場所。先日の、思いがけない再会――。 あれはもしかしたら
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第17話 朱莉⑰

翌日の仕事終わり、帰る準備をしていると菱本がやって来た。「もう、帰るでしょ? 一緒に綾香の所へ持っていくお土産を買いに行かない?」友人の綾香は、今、第2子を妊娠中だ。上の男の子がもうすぐ2歳。菱本と自分と同期で、自分の上司の妻だ。菱本は、「うちのアンちゃんの彼氏になってくれないかなぁ」と今から娘の玉の輿を狙っている。菱本と一緒にエレベーターで降りて、エントランスホールを歩いていると、前から第2営業部の鴫原部長と蒼也が歩いて来た。「鴫原部長、お疲れ様です。今から打ち合わせですか」菱本が、いつもの人当たりの良さでにこやかに声をかけた。若干の気まずさを感じながら朱莉も挨拶をして、菱本が鴫原部長と話をしている間待つことにした。視線は強く感じるが、蒼也の方には視線を向けなかった。「菱本くん、こちらがシンガポールの件で設計を担当されるエスモードデザインの篠宮さんだ。今後、他の海外案件でもお世話になる可能性があるから。篠宮さん、うちの台湾支社で統括本部長をやっている菱本です」同行している営業部の数名を含めて、当たり障りのないビジネスライクな会話のあと、鴫原部長がそれじゃ、と言って去って行く。「へぇぇ、あれが噂の蒼也さんか。目つきが鋭いね。肉食系?ああいうのが朱莉の好みなんだねぇ。台湾に帰る前に見れて良かったわ」ニヤニヤと菱本がちゃかす。「いい加減にしなさいよ。家から放り出すわよ」二の腕をグーで叩いた。キャー痛―い、腕折れちゃう、とふざける菱本に体当たりをしながらホールの回転扉を抜ける。その姿を、閉まるエレベーターの扉越しに、蒼也が見つめていたことには、2人とも気づかなかった。
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第18話 朱莉⑱

「久しぶりだね。菱本くん!」少しふっくらとした綾香が玄関で迎えてくれる。そのスカートの陰から、社長にそっくりの男の子が顔を覗かせた。「玄ちゃん、こんにちは!きゃー歩いてる」「この前台湾で遊んだ時は、まだ、抱っこだったからね」玄は、カン高い声で叫ぶ菱本に不審そうな視線を投げた後、朱莉の元に歩いて来た。普段からよく遊びに来る朱莉には、懐いているのだ。「玄ちゃん、玄ちゃんの好きなプリン買って来たよ。クリームとさくらんぼ乗ってるやつ」「ぷりん、さくらんどのやちゅ?げん、ひとりでたえれるよ」目を輝かせて万歳して喜ぶ。うーん、可愛い。「玄ちゃんは、見る度に社長に似てくるね。この綺麗な顔立ち。女の子が黙っていなさそう」そう言うと、綾香がため息をつく。「綺麗な顔って、羨ましいとずっと思ってたけど、我が子がそういう顔立ちだと、人生狂わされないかしらって心労はあるわよ」そういうもの? そういうものよ、とやり取りしながらリビングへ向かう。料理教室を運営する綾香の作る食卓は、料理雑誌の表紙になりそうな見た目だ。「毎回思うけど、すごいねぇ」配膳を手伝いながら、思わず感嘆の声が漏れる。「毎日、こんなに見栄えのいい食事を作ってるの?」「そんな筈無いでしょ。今日は朱莉と菱本くんが来るから特別。私だってお惣菜買う時もあるし、デリバリー頼む時もあるから」玄関が開く音に、玄が走って行く。「おとおしゃ、おかいり!」「げ~ん~♪ただいま~♪会いたかったよ~」会社では見ることのできない社長の姿がここにある。2歳児に頬ずりをしてほっぺたを吸い上げている。「廉、お帰りなさい」そして、リビングの入り口で愛妻の腰を抱き、耳の後ろにキスをしている。相変わらず、お熱い。「お邪魔しています」そう挨拶をすると、多少緩んだ顔で、「ゆっくりしていて、着替えてくるから」と言いながら、息子を抱えて自室へと歩いて行った。
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第19話 朱莉⑲

食事は、賑やかに楽しく進んだ。菱本が日本に帰るときは、必ずどこかで一度3人で食事をするので、もう恒例行事のようなものだ。「予定日、いつだっけ」「11月最終週。27日頃。2人目は少し早いこともあるって言うしね」「男の子?女の子?」「まだ、はっきりしないけど、たぶん、男の子じゃないかなぁって。でも、エコーにはまだはっきり映らないから」「赤ちゃんが生まれたらアンを連れて必ず帰国するから」菱本が綾香の手を握って言う。玄に食事をさせていた社長が、ふいに朱莉に声をかけた。「そういえば、俺、さっきまで篠宮さんと一緒にいたんだよ。ちょうど、台湾の話が出たから、鴫原さんが、『台湾のホテルの設計は、菱本のパートナーが担当で』って話をしていたら、『菱本さんはパートナーがいるんですか?』って随分驚いていて。『てっきり冬月さんとお付き合いされているのかと思ってました』って言ってた。どこかで会ったの?」「先日、エントランスで偶然お会いしました。え、もしかして僕に一目ぼれしたとか。」菱本が口に両手を当てて、きゃぁ、という感じで頬を染める。 蒼也は、もしかしたら宮崎に帰った時に、自分の性愛の対象が男性だと気づいたのだろうか。だったらそう言ってくれれば良かったのに。出そうなため息を飲み込んだ。「うーん、そういう感じではなかったかな。どうなんだろうな」社長の歯切れが悪い。どちらにしても、蒼也には、仕事の場であまり私の話をして欲しくはないものだ。「まだ、朱莉のことが気になってるのかな」綾香の零した一言に、社長がどういうこと?という視線を送る。慌てて綾香が、ごめん、というように朱莉の方を見つめる。あぁぁぁ…ほら。
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第20話 朱莉⑳

まぁ、これ以上は隠していてもいいことはなさそう。「社長、すみません。実は、私、篠宮さんと学生の頃にお付き合いしていたんです。お別れする時にちゃんとした話ができずじまいだったので、向こうはそれを気にされているだけだと思います」社長が、あぁ、というような表情をする。「未練があるのかもねぇ、朱莉に」菱本がニヤニヤしながら言う。「そんな筈ないでしょ。向こうが一方的に別れを切り出したのに。ひどい別れ方をした相手に偶然会って、罪悪感で気になってるだけよ」「冬月さん、あまり篠宮さんと出会いたくないかな。社長室には、なるべく来てもらわないようにしようか」社長の言葉に慌てて手を振って否定する。「いえいえいえ、そんな大昔の別れ話でどうこう思いませんから。大丈夫ですよ」元カレとの再会が随分話を広げてしまったように思う。どうか、蒼也の仕事にも影響がでませんように、と胸のうちで祈った。玄が、プリンのさくらんぼを手にしてうつらうつらと船をこぎ始めたので、また会う約束をして、家を後にした。駅までの道すがら、菱本が呟く。「朱莉、ずっと蒼也さんに未練があったじゃない。だから、新しい恋も始められないし、合コンも乗り気じゃないし。偶然会ったのはいい機会よ。ちゃんと話をしたら? なんであの時別れようって言ったのか聞いてみれば?」「……今さら?」「偶然出会うっていうのは、そうしなさいってなんかの力が働いてるのかもよ」「……」「すっきりすれば、新しい恋に出会えるんじゃないの? 1つの恋に区切りがついたら、僕とリアンみたいな運命があるかもだし」「……何。いい話したふりして惚気てんじゃないわよ」「やぁだぁ、バレた? さっき話し足りなくて。家帰ったらもっと聞いて」甘えたように擦り寄る菱本をかわしながら、もし、次にどこかで出会ったら、蒼也に声をかけてみよう、とそう思った。
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