『もう一度……朱莉のことを好きだと言わせてほしい』 あの日、蒼也は熱を帯びた眼差しでそう言い、少しだけ笑みを浮かべた。それから、「だからと言って、朱莉に今すぐ俺を好きになってほしいとは言わない」そう静かに続けた。「俺が、朱莉を好きでいることは迷惑かな」――この感じ、どこかで似たような会話をした気がする。「迷惑……では、ないけど」「じゃあ、時々は連絡を取ってもいい?」「それは、別に……」その後、彼は「今は、自分の気持ちを知っておいてもらえたら十分だ」と言い、なぜか満足げな表情を見せて、食事を始め、なぜだか旧友とあった時のような最近のようすを聞いたりした。 「…つきさん、冬月さん。大丈夫ですか?」その声に、はっと我に返る。横から東畑さんが心配そうに覗き込んでいた。「さっきから何度も呼んでたんですよ? キーボードに手を置いたまま固まっていたから、具合が悪いのかと」「いえ、ちょっと……どう返事を書こうか悩んでいただけ」取り繕うように笑い、再び画面に視線を落とす。 画面には『エスモードデザイン 篠宮 行程変更に伴う懸念点について』というメールが開いていた。 定型文を貼り付け、社長の個人メールに転送する。昨夜は、あの後いろいろ混乱して言葉少なだった私を蒼也が送ってくれた。 家に着いて少し落ち着いた頃、スマホに「おやすみ。今日はありがとう」とメッセージが届いた。 短く「おやすみなさい」と返事を打ち、画面を見つめているうちに、時計の針は午前1時を回っていた。――いったい、何が起きているのか。 気持ちの整理が追いつかない。朝になって出社しても、心はまだ昨夜の余韻に引きずられていた。蒼也は言った。「朱莉のことをずっと好きだった」と。 ……本当に?8年という月日は、決して短くない。 そんなに長く思い続けるなんてあり得るのだろうか。 もし本当にそうなら、なぜ一度も連絡をくれなかったのだろうか?悶々とした思考が堂々巡りをする。ふと気づけば、また手が止まっていた。 少し離れたデスクから東畑さんが怪訝そうにこちらを見ている。 ――いかん、いかん。結局、一日中、自分を叱咤しながら仕事に向かうことになった。◇◇◇帰宅途中の電車で、窓に映る自分の顔を見て思わずため息がこぼれた。 仕事で疲れた三十路女の顔
Last Updated : 2026-07-25 Read more