今年の夏は、ずいぶんと早く暑さが訪れた。桐山涼真(きりやま りょうま)と一緒に真夏の蝉時雨を聞いたのは、もう5年も前のことだ。あの日は、肌を焦がすような猛暑だった。私・安藤夏帆(あんどう かほ)がアパートの階段を降りると、耳をつんざくような蝉の鳴き声が響いていた。その日、涼真は熱を出していて、おまけに家族と大喧嘩をした直後だったというのに。うだるような暑さの中、街を半周するような距離を五、六時間も歩き続けて、ただ私に会うためだけにやって来たのだ。彼の長いまつ毛から汗の雫がポロポロと転がり落ちて、地面に小さな染みを作った。日に焼けて真っ赤になった顔。体は火傷しそうなほど熱を帯びていて、私を見つめる瞳も、どうしようもなく熱かった。――それなのに。今夜も彼は残業で、日付が変わる頃になってもまだ家に帰ってこない。私は、くっきりと二本線が浮かび上がった妊娠検査薬を手のひらに握りしめ、自然とこぼれる笑みをどうしても抑えきれずにいた。彼を迎えに行こう。そう思って外に出た時、耳につけていたワイヤレスイヤホンから、ふいにノイズが聞こえてきた。ハッとして耳元に触れる。急いで家を出てきたせいで、どうやら無意識に彼のイヤホンを持ってきてしまったらしい。「涼真、涼真?もう家着いたか?」突然響いた声に、私は息を呑んだ。「昔はお前の憧れだったあいつ、堕ちるとこまで堕ちて逆に最高だったろ?お前も相当ヤバいよな。家で溜まりに溜まってたんだろ?」「もしもし……?」そう口を開きかけた瞬間、ショックで喉の奥の声がピタリと止まった。「夏帆ちゃんってけっこう純粋だよな。毎日せっせと精のつく料理作ってくれてるんだろ?あーあ、お前があの夜、性欲を処理するためにあいつを抱いたなんて、夏帆ちゃんは今でも知らないんだぜ。タダだし病気の心配もないし、向こうから転がり込んできたんだから、ヤッとかない手はないってな」私は夜道に縫い付けられたように立ち尽くし、耳から外したイヤホンを指先でなぞった。この声には、嫌というほど聞き覚えがある。彼の親友、片倉拓也(かたくら たくや)だ。私が涼真と結ばれたのも、拓也がキューピッド役を買って出てくれたおかげだった。私たちの結婚式では立会人まで務めてくれた人。この数年間、私たちが喧嘩をするたび
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