翌日。 メールを開いたまま、私はしばらく指を動かせずにいた。──望月瑠奈からの、あの一文が頭から離れない。《先輩にも、ちゃんとお伝えしておきたくて》(“ちゃんと”って……何を?) 昨夜は結局、返事もできないまま眠ってしまった。 平田さんの顔が浮かんでは消え、瑠奈の笑顔がそのたびに重なって、胸の奥がざわざわと落ち着かなかった。 出社してすぐ、オフィスはいつもより少し騒がしかった。「平田さん、今日の午後、外出ですよね」「うん。クライアント先で打ち合わせ」 聞こえてきたその会話に、私は無意識に耳を澄ませてしまう。(望月さんも、一緒……?) 胸がきゅっと縮んだ、そのとき。「中谷先輩」 背後から、明るい声がする。 振り返ると、そこには望月瑠奈が立っていた。「昨日のメッセージ、見てくれました?」 あまりにも自然な笑顔に、私は一瞬だけ言葉を失った。「……うん。見た」「あ、よかったです」 少しだけ、瑠奈はほっとしたように微笑む。「昨日、平田さんと少しだけお話しする時間があって……」 その言葉だけで、私の心臓は嫌な音を立てた。「“少し”?」「はい。今後のこととか、仕事のこととか……色々」
Última atualização : 2026-09-01 Ler mais