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第144話  触れない距離が、触れたくなる距離に変わるまで

火曜日の夜。 会社を出て、並んで歩き始めた瞬間から、言葉が見つからなかった。 沈黙は嫌じゃない。 でも、沈黙が意味を持ってしまう距離は、まだ怖い。 横を歩く平田嵩は、手をポケットに入れたまま、前を見ている。 その横顔が、昨日より優しく見えるのは──気のせいじゃない。 「……昨日より、歩幅合ってますね」 朱里が言うと、嵩は少し驚いたように瞬きをしてから笑った。 「合わせようとした。 気づけば勝手に歩幅が揃うのが理想だけど……まだ、強引なのは違うから」 そんな風に言葉を選ばれると困る。 期待してしまうから。 期待が形にならなかった時、きっと傷つくから。 なのに──期待してしまう自分がいる。 「……私も、ちゃんと合わせたいです。 いつか、無理せず並べるように」 「その“いつか”を焦らないなら、ちゃんと待つよ」 歩くスピードが、ほんの少しだけゆっくりになった気がした。 ■コンビニ前にて 横断歩道の前で立ち止まる。 信号が赤に変わった瞬間、車の音だけが世界を埋める。 嵩がポケットから手を抜いた。 朱里の手の近くに下ろす。
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-13
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