水曜日の夜。朱里の部屋。コンビニ袋をテーブルに置いたまま、二人は床に座っていた。缶コーヒーが一本、開けられないまま転がっている。「……で?」美鈴が先に口を開いた。声はいつも通り、淡々としている。「平田嵩。今、どういう立ち位置?」いきなり核心。朱里は一瞬、言葉に詰まった。「……どういう、って」 「“好きです”って言い合った。でも付き合ってない。職場では距離を取る。帰り道は一緒に歩く。──合ってる?」全部、当てられている。「……盗聴されてた?」 「違う。顔に全部書いてある」朱里は小さく息を吐いた。「……怖いんだと思う」 「何が?」 「変わること。今のまま壊れない距離が、なくなるのが」美鈴は朱里を見たまま、視線を逸らさない。「それ、逃げてる?」 「……逃げてない、つもり」 「“つもり”は逃げの親戚」ぐさっと来る。「美鈴ってさ……もうちょっと優しくできないの?」 「できるよ。でも、今日はしない」朱里は苦笑した。「……だよね」 「朱里。あんたね、“好き”って言われると、急に自分を後回しにする癖ある」胸の奥を、正確に撃ち抜かれる。「相手が大事だから、我慢する。壊したくないから、言わない。そのくせ、限界きたら一人で抱えて黙る」「……」 「それ、優しさじゃない。自己犠牲中毒
Última atualização : 2026-09-16 Ler mais