会議室のドアが、静かに閉まった。 昼休み直前。 誰もいないはずの時間帯を、嵩が選んだ。 「……座ろうか」 そう言われて、朱里は頷く。 向かい合って座る距離が、やけに遠く感じた。 机の上には、何もない。 資料も、メモも、逃げ道も。 嵩は一度、息を整えるように胸を上下させた。 「昨日、話すって言ったこと」 「……うん」 声が震えなかったことに、朱里自身が驚いた。 嵩は目を逸らさない。 「転勤の話が、正式に来た」 ──きた。 頭では分かっていた言葉なのに、 実際に聞くと、音が違った。 「四月付けで」 「……場所は?」 聞けた。 逃げなかった。 「関西支社」 「ほぼ確定だ。最終確認だけ残ってる」 “ほぼ確定”。 それは、もう決まっているという意味だった。 沈黙が落ちる。 時計の針の音が、
Última atualização : 2026-09-21 Ler mais