All Chapters of 夫と息子に捨てられた私、大物の子を授かった: Chapter 141 - Chapter 150

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第141話

莉乃は全身を震わせ、目に涙をためていた。これほど見下されたことなど、一度もない。ほどなく、莉乃は窃盗の疑いで逮捕された。警察車両に連れていかれる間も、半狂乱になって叫び続けた。「怜央くん、刑務所なんて嫌!行きたくない!私を捨てないで。18年前、私はあなたを見捨てなかった。だから、あなたも私を捨てないで!御堂怜央、あなたに出会ったことを後悔してる!大嫌い!……怜央くん、愛してるの。私とこの子を裏切らないで!」ようやく騒ぎは終わった。食事をする気にもなれず、紗和はそのまま帰宅することにした。ところが、車が走り出してしばらくすると、運転手が1台の車に尾行されていると告げた。確認するまでもなく、怜央だと分かった。相手にする気はなかった。だが、今はまだ九条征臣との関係を知られるわけにはいかない。紗和はトンネル内の待避所に車を止めさせた。怜央もすぐ後ろに車を止めた。紗和は追い払うために止まっただけだったが、怜央には自分を待ってくれたように見えた。怜央はぱっと顔を輝かせて近づき、思わず抱きしめようとした。紗和は素早く身をかわした。顔には、はっきりと警戒の色が浮かんでいた。「どうして私の車をつけてくるの?もう帰って」氷のように冷たい言葉を浴び、怜央は戸惑った。先ほどの式典で起きた騒ぎ、とりわけ莉乃が自分の子どもを妊娠したと明かしたことに腹を立てているのだろうと思った。怜央は慌てて説明した。「紗和、俺は自分から裏切ったわけじゃない。あいつに嵌められたんだ。絵里香に自殺すると嘘を伝えさせ、駆けつけた俺に薬を盛った。思い返せば、その前も同じだった。莉乃は、俺がお前と結婚したせいで重いうつ病になり、死ぬつもりだと言った。海外まで会いに行ったら、ブランデーを2杯飲んだあと……薬を盛られたんだ」それが真実かどうか、紗和には分からなかった。だが、もはや確かめる気もなかった。薬を盛られたにせよ、自分から望んだにせよ、莉乃のもとへ出向いたのは怜央自身だった。一度目は自ら海外へ飛び、莉乃の看病をした。二度目も、大怪我をしていたのに病院を抜け出し、莉乃のいるホテルへ向かった。結局、不貞を働き、身体まで裏切った事実は変わらない。しかも、その結果として二人の子どもまでできた。今さら何を弁明したいのか、
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第142話

その瞬間、紗和はようやく合点がいった。これまでの話は、すべて情に訴えるための前置きだった。結局のところ、目的は莉乃を守ることだったのだ。「そのために、私の前で膝をついたの?」「ああ。頼む!」怜央は、すべての誇りを投げ捨てていた。「本当に惨めね。あの女のためなら、こんな場所で私に膝をつくことまでできるの?」侮辱されても怜央は意に介さず、何度も約束した。今回こそ中絶させ、すぐに莉乃を海外へ送り、二度と紗和の前に現れないようにするという。だが紗和にとっては、もうどうでもよかった。ただ、怜央は望みがかなうまでどこまでもつきまとい、紗和から平穏を奪い続けるだろう。このまま莉乃が拘束されていれば、いつまでも追いかけてくるに違いない。それなら莉乃を外へ出し、二人で勝手に争わせたほうが、かえって静かに暮らせるかもしれなかった。盗まれた品はすぐ戻ってきた。怜央も弁護士を立てて争うだろう。今はまだ、公然と対立して余計な面倒を増やしたくなかった。紗和は最後にうなずいた。怜央は喜んで立ち上がった。「ありがとう、紗和。すべて片づけたら、すぐお前のもとへ戻る」「来なくていいわ」意地を張ったのではない。本当に必要としていなかった。だが怜央は喜びのあまり、その言葉の意味を考えようともしなかった。すぐ車に戻り、走り去った。紗和から許しを得た以上、高額の保釈保証金と賠償金を用意すれば、莉乃を釈放させられる。スポーツカーが勢いよく遠ざかるのを見届け、紗和も自分の車に戻った。そして夜の闇に紛れ、買ったばかりの海辺の邸宅へ向かった。一方、莉乃を釈放させた怜央は、すぐに彼女を車に押し込み、病院へ連れていこうとした。膝をついてまで釈放を頼んだ本当の理由は、拘束されている間に妊娠が進み、そのまま出産に至るのを防ぐためだった。釈放されなければ、自分の目の届くところで中絶させることができない。晴翔一人だけでも、結婚は壊れかけている。これ以上、子どもを産ませるわけにはいかなかった。車内で莉乃がどれほど懇願しても、怜央は聞く耳を持たなかった。すると莉乃は突然、ひどく空腹だと言い出した。今日は助手を連れておらず、見張りを任せられる者もいなかった。だが車高が高く、後部座席から地面までかなり距離がある。車椅子が必要な莉乃が、
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第143話

邦彦は相手の小さな車にぶつけた。古びた車体は大きく揺れ、あやうく横転しかけた。それでも怒りは収まらず、邦彦は何度も車をぶつけた。ようやく気が済んだ頃には、自分の車も壊れ、エンジンが止まり、ドアさえ閉まらなくなっていた。その時、相手の車から4、5人の男が飛び出してきた。男たちは邦彦の車のドアをこじ開け、一人が力任せに引きずり出すと、寄ってたかって殴りかかった。手には修理用のレンチや木の棒、車から外した部品まで握られていた。邦彦は、そこで初めて恐怖を覚えた。「やめろ!金なら払う!弁償するから、もうやめてくれ!」慣れない言葉で、必死に叫んだ。男の一人が怒鳴り返した。「金持ちなら何をしても許されるのか?金さえあれば、人の車にぶつけてもいいと思ってるのか!俺は金をひけらかす奴が一番嫌いなんだ!」別の男も声を荒らげた。「俺たちを殺しかけたくせに、殴られないとでも思ったのか?」もう一人が邦彦を見下ろし、下品に笑った。「いい歳をして、ずいぶん派手な靴下を履いてるじゃないか。随分と色気づいてるな」男たちは薄気味悪い笑い声を上げ、邦彦が身動きできなくなるまで殴り続けた。やがて一人が、邦彦を道路脇の暗がりへ引きずっていった。全身の痛みで意識を失いかけていた邦彦も、何をされるのか悟った瞬間、必死に悲鳴を上げた。「放せ!触るな!助けてくれ!誰か、助けてくれ!」冷たい夜風に、むき出しになった肌がさらされた。高級ブランドのベルトを外され、靴を奪われ、服まで剥ぎ取られた。鼻を突くような悪臭が漂っていた。自分を気高く価値ある男だと信じていた邦彦は、暗がりで獣のように押さえつけられ、無理やり性的暴行を受けた。耐え難い苦痛の中で、邦彦は意識を失った。再び目を覚ますと、腐敗臭と汚物の臭いが入り交じる中、全身、とりわけ下半身に焼けつくような痛みが走った。邦彦は震える手で救急と警察に電話した。病院へ運ばれると、医師が思わず顔をしかめるほど深刻な傷を負っていることが分かった。全身にいくつもの怪我を負い、性的暴行による傷はひどく、感染まで起こしていた。男たちにされたことを思い出すたび、自尊心を踏みにじられた苦痛に襲われた。何不自由なく生きてきた自分が、なぜこんな目に遭わなければならないのか。邦彦の届
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第144話

怜央はようやく、胸のつかえが少し下りた気がした。スマホを取り出すと、思いがけず絵里香から電話がかかってきていた。電話に出るなり、絵里香は責め立てた。「怜央、どうしてそんな馬鹿なことをしたの?どうして莉乃のお父さんを襲わせたりしたのよ。すぐに引き返して謝りなさい。あなたのせいで、せっかくのレッドカーペットにも集中できないじゃない」絵里香は昔から、人目を集めることが大好きだった。背が高く、体形を維持するためなら毎年莫大な金を惜しみなく使った。露出の多い派手なドレスでイベントのレッドカーペットに姿を見せ、さまざまな催しに金を払って参加しては、俳優やタレントと写真を撮っていた。今も海外のレッドカーペットで、透ける素材のドレスをまとっていた。それでも莉乃のために、わざわざ電話をかけてきたのだ。怜央は冷たく答えた。「あの父娘は、悪意を持って俺を騙した。紗和から医師を奪わせようとしたうえ、何もかも嘘で塗り固めて俺を操ったんだ」絵里香はすぐに腹を立てた。「それと邦彦さんに何の関係があるの?莉乃を先に動けなくしたのは紗和でしょう。それに莉乃の怪我はあれほど重かったのよ。紗和の下半身が麻痺したくらい、大したことじゃない。あんな女が莉乃にかなうわけないでしょう!」その言葉に、怜央の怒りが爆発した。「絵里香、どうしてそこまで俺と紗和の間に口を出す?俺たちを離婚させなければ気が済まないのか?あの席で、おじいさまは紗和と別れれば俺を後継者から外すと言った。お前は俺のためだと言いながら、俺を破滅させたいのか?いったい何を企んでいる!」これほど激しく怒鳴られたことのない絵里香は、驚いて足を踏み外した。会場へ駆けつけたばかりだった彼女は、階段から派手に転げ落ちた。前夜の雨で地面はまだ濡れていた。ボディガードに助け起こされた時には、ドレスの裾も腕も泥まみれになり、見るも無残な姿になっていた。頭は真っ白になり、まぶたがひくついた。周囲からは笑い声まで聞こえた。まだ会場へ入る前だったため、カメラに向かって無理に笑顔を作り、何事もなかったふりをするしかなかった。耳には、小型の目立たないイヤホンをつけていた。莉乃から、怜央が差し向けた者たちに襲われた邦彦が救命処置を受けていると聞き、慌てて電話をかけたのだ。絵里香は以前、莉乃が絶大な財力を
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第145話

「お前が派手な服や宝石で着飾っている間に、紗和は上場企業の筆頭株主になった。それでも、なぜまともな結婚相手が見つからないのか分からないのか?名家の後継者が、お前のように中身のない女を選ぶはずがない。自分は賢いと思い込み、莉乃の機嫌を取れば九条家とつながれるとでも考えているんだろう。だが、莉乃が九条家から相手にされていないことにも気づけないのか?あいつが身につけているものは、頭の先から足元まで、すべて俺の金で買ったものだ。邦彦に手を出せたのも、あの男が何から何まで俺の金に頼っている、何の役にも立たない人間だからだ。あいつのせいで、俺は紗和とやり直す機会を失った。だから、少しばかり思い知らせてやった。絵里香、もう一度俺たち夫婦のことに勝手に口を出してみろ。莉乃の父親にさえ手を出した俺が、お前だけは見逃すと思うか?」絵里香は目を見開いたまま、何も言えなくなった。顔からさっと血の気が引いた。篠原家は、御堂家に頼っているだけの格下の家柄にすぎない。怜央がその気になれば、絵里香を破滅させることなど造作もなかった。以前は莉乃の親友であることを盾に、怜央にも横柄な態度を取っていた。莉乃は怜央よりはるかに上の階級にいると信じ込んでいたからだ。だが今、莉乃がずっと自分を騙し、実際には金さえ持っていないと聞かされ、絵里香は一気に不安になった。派手に転んだこともあり、レッドカーペットを歩く気分などとうに失せていた。すぐ控えの車へ逃げ込み、声を上げて泣いた。怜央はようやく気づいた。莉乃のような人間のために、紗和と何度も争うべきではなかったのだ。たとえ命を救われた恩があるとしても、これまで渡した金だけで十分すぎるほど報いてきた。これ以上、何かを犠牲にする必要はなかった。今はただ、紗和を見つけてきちんと話したかった。怜央は、紗和の行きつけの店、中央総合病院の近くに祖母のために用意した部屋、以前暮らしていた住宅街の隅々やスーパー、そしてフォトンテックの社屋まで、彼女が行きそうな場所を片っ端から捜した。だが紗和は、まるで姿を消したかのように見つからなかった。電話は着信を拒否されていた。メッセージを送っても届かず、連絡を取る手段は一つもなかった。その頃、紗和は長い時間をかけて選び、ようやく手に入れた海辺の邸宅にいた。怜央は自分を愛
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第146話

少し休んだばかりだというのに、玄関の呼び鈴が鳴った。家政スタッフが応対に出ると、外に夫だと名乗る男性が来ており、紗和との面会を求めていると伝えに戻ってきた。紗和の表情が険しくなった。怜央は夫という立場を利用して、紗和名義の不動産を調べ、ここを突き止めたのだ。まだしばらくは莉乃と揉めていると思っていた。それなのに、もう紗和を追ってきた。何を考えているのか、まるで分からなかった。つい先ほども、莉乃を罪から逃れさせるために紗和の前で膝をついたばかりだ。ここまで節操のない男がいるのかと、呆れるほかなかった。疲れていたし、顔を見る気にもなれなかった。紗和はスタッフに断るよう伝えた。怜央の胸に鈍い痛みが走った。頬を打たれたような衝撃だった。紗和は莉乃に怒りをぶつけたのだから、もうこの件を引きずってはいないはずだ。それに、ほかの男と親しくしている様子もない。自分の注意を引きたくて、わざと拒んでいるだけだと怜央は思い込んだ。今では自分の過ちも分かっていた。いや、本当はずっと前から気づいていた。宗一郎の誕生日でも、莉乃を海外へ送り、二度と会わないと約束した。だが紗和は信じてくれなかった。その後も、どれほど事情を説明し、やり直したいと伝えても、紗和は拒み続けた。怜央は助手の番号を使い、メッセージを送った。【一度だけ会えないか。俺が間違っていた。莉乃の脚は治っていたのに、動けないふりをしていた。さっき病院へ連れていき、中絶させようとしたが、あいつは逃げた。事情を説明したい。もう二度と莉乃には関わらない。紗和、会ってくれ】【いったい、どうしてほしいんだ?俺を死ぬまで追い詰めるつもりなのか。このところ、世界中を飛び回ってお前を捜し続けた。このまま俺を疲れ果てさせたいのか?】【本当に、俺たちが何年もかけて育んできた気持ちを、全部捨てるつもりなのか。信じられない。もう愛していないと言うなら、俺の目を見て直接言ってくれ】いくら待っても、紗和は姿を見せなかった。怜央はとうとう諦め、車を走らせた。先ほど莉乃の釈放を頼んだことに腹を立てているだけだと思っていた。中絶させ、二度と姿を現させないためだったと説明しに来たのだ。莉乃には、もう十分すぎるほど与えてきた。これからは過ちを改め、夫としてきちんと務めを果たすつもりだった。紗
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第147話

紗和が話し相手になってほしいと誘うと、彩葉はすぐにやってきた。二人はソファに腰を下ろし、海を眺めた。リビングの大きな窓の向こうには港が広がっていた。何度見ても心を奪われる景色だった。彩葉が言った。「昨日の騒ぎだけど、出席者には怜央と主催者から、外へ漏らさないよう話があったみたい。今のところ、大きくは報じられていないわ」紗和も納得した。出席者は皆、それなりの立場にある者ばかりだ。事情をわきまえているのだろう。「それで、これからどうするつもり?」彩葉に尋ねられ、紗和は首を横に振った。「怜央が離婚に応じないの。宗一郎おじいさまが、離婚したら後継者から外すと言ったから」「結局、権力のためなのね」紗和はうなずいた。「それに、あれほど自惚れの強い人だから、私が本気で離れたがっているなんて、どうしても信じられないのよ。今も、ただ怒っているだけだと思ってる。離婚が成立した証拠を目の前に突きつけられるまで、理解しないでしょうね」彩葉の目が楽しそうに輝いた。「離婚が成立した証拠を突きつけられた怜央が、どんな顔をするのか、私も見てみたいわ。きっと見ものよ。それなら、今は何が不安なの?」「いつまでもつきまとわれることよ。いろいろなことを乗り越えた今、もう争い続けたくない。ただ離婚して、怜央から遠く離れたいの。怜央が莉乃と結婚しようと、子どもを持とうと、もう何とも思わない」その時、彩葉はある方法を思いついた。「相手の力を利用すればいいんじゃない?御堂会長は、怜央がまた問題を起こしたら離婚を認めると約束したんでしょう。ちょうど莉乃が妊娠している。時期を考えれば、あの約束のあとにできた子よ。御堂会長に約束を守らせるの。あの人が認めれば、怜央ともすんなり縁を切れるでしょう」紗和の心が動いた。確かに、悪くない方法だった。宗一郎を個人的に訪ね、離婚を認めてもらえばいい。「でも、怜央が引き下がるかしら。後継者の地位を失いたくないはずよ」紗和には、そこだけが気がかりだった。彩葉は笑った。「大丈夫。あの世代の人は抜け目がないわ。あの時、人前であんなことを言ったのも、筋を通す公平な人間だと思わせるためでしょう。本当に怜央を見捨てられるはずがない。御堂会長には息子が何人もいるけれど、後を任せられる人はいない。怜央を育てるのに
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第148話

紗和が出かけることを決めると、彩葉はスマホを取り出した。「証拠を持っていかなきゃ。莉乃が妊娠を公表した時の映像が、ちょうどここにあるの。必要なところだけ切り出して送るわ。これを見せれば、宗一郎おじいさまも言い逃れできないでしょう。それでも離婚を認めないなら、あんなふうに辱められて怜央への気持ちも完全に冷めた、これ以上縛りつけるなら御堂ホールディングスを内側から潰すとでも言えばいいわ。すぐに承知するはずよ」紗和も、同じようなことを考えていた。宗一郎が1か月という期限を定めたのは、まだ紗和の気持ちを取り戻せると思っていたからだった。もう愛情などなく、残っているのは深い憎しみだけだと分かれば、怜央のそばに置き続けようとは思わないだろう。憎しみしか抱いていない相手を無理に縛りつければ、何が起こるか分からない。追い詰められた妻が夫に薬を盛り、性器を切りつけた事件さえ現実に起きている。怜央は御堂家の後継者だ。宗一郎がそのような危険を冒すはずはなかった。紗和は彩葉に、映像を送ってもらうことにした。彩葉が映像を探していると、紗和の目に思いがけないものが映った。スマホに、雅人の写真が何枚も保存されていたのだ。「どうして、この人の写真をこっそり撮ってるの?」彩葉は頬を赤らめ、慌てて別の画面に切り替えた。何も知らないふりをして、映像の編集を始めた。その様子を見て、紗和はさらに尋ねた。「もしかして、付き合ってる?」彩葉は笑ってごまかした。「違うわ」「付き合っていないなら、一目惚れ?」彩葉は話題を戻そうとした。「映像は短くする?それとも長めに残す?」そこで紗和は、切り札を口にした。「私、この人と知り合いよ」彩葉は眉を寄せた。「私だって知ってるわ。東都でも有名な大物で、法曹界を代表する敏腕弁護士、城戸雅人でしょう」紗和は笑いをこらえきれなかった。彩葉の言う「知っている」は、有名人として知っているという意味だった。だが、紗和は違った。「城戸先生とは友人よ。一緒に食事をしたり、お酒を飲んだりしたこともある。昨日会場へ来たのも、直接お祝いを言うためだったと思う」そこまで聞くと、彩葉もようやく認めた。雅人は有名な弁護士であるだけでなく、城戸家も巨大な企業グループを擁しており、彼自身も東都で名
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第149話

彩葉の話を聞き、紗和は彼女が長い間独身だった理由をようやく理解した。彩葉の心には、ずっと一人の男がいたのだ。ただ、誰にも知られない片思いが幸せなものなのかどうかは、紗和にも分からなかった。「城戸さんは、ずっと私が前へ進むための目標だった。紗和なら、この気持ちを分かってくれるでしょう?いつか私も、胸を張ってあの人と向き合えるところまで成長できたら、気持ちを伝えたいの。黙っていてくれる?」真剣な願いを受け、紗和は約束した。彩葉が帰ったあと、紗和も車で出かけた。向かったのは御堂家の本邸だった。宗一郎に離婚を認めてもらうためだ。車は御堂家本邸の敷地へ入った。紗和が来たと聞き、執事はすぐに出迎えた。「若奥様、おみ足はもうよろしいのですね。あの晩、階段から転落されて以来、旦那様は何度も直接お見舞いに行こうとなさっていました。若旦那様に海外の病院の住所をお尋ねになっても、分からないとのことで、結局かなわなかったのです。こうしてお元気な姿を拝見でき、旦那様もご安心なさるでしょう。本日もお見舞いに行かれるおつもりでした。ちょうどお越しになったのですから、ご案内いたします」いかにも心から案じていたような口ぶりだった。だが紗和には、表向きの体裁を取り繕っているだけだと分かっていた。救急車に乗ることさえ妨げられた時。怜央に脅され、担当医を奪われかけた時。そして昨日、上場記念式典で業界中の笑いものにされた時。その間、宗一郎はどこにいたのか。流産した時でさえ、見舞いには来なかった。何もかも、上辺だけの気遣いにすぎなかった。紗和はうなずいた。もともと宗一郎に直接会うつもりだった。客間へ通されると、千鶴子に支えられながら宗一郎が入ってきた。紗和を見るなり、千鶴子の顔色がわずかに変わった。それでも形ばかりの笑みを浮かべた。「紗和、やっぱり少し休めば治ったでしょう。あの時だって救急車なんか呼ばず、家で寝ていればよかったのよ。たった一度、階段から落ちたくらいで大騒ぎして。今は普通に歩けるじゃない」そう言いながら、冷たい目で紗和を見据えた。何かを知っているようだった。今朝早く、莉乃が再び妊娠したという知らせを受けたのだろう。千鶴子は尋ねた。「今はずいぶん立派になったそうね。夫の世話もせず、怜央の仕事も支えな
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第150話

紗和は少しも取り乱さず、静かに顔を上げた。「千鶴子おばあさま。今は昔ではありません。離婚したからといって、人生が終わるわけでもないんです。どうして別れてはいけないんですか?おばあさまには8人の息子がいて、全員がおじいさまとのお子さんです。でも私は?自分の子どもは一人もいない。愛人の子を5年間育て、その子に陥れられて階段から落ち、一時は下半身が動かなくなったんですよ。今度は怜央と莉乃の間に、また子どもができたんです。もしおばあさまが私なら、耐えられますか?」千鶴子は怒りのあまり、今にも気を失いそうになった。「子どもを産めないのは、あなたでしょう。誰を責めるつもりなの!あなたが産まないなら、ほかの女が孫を産むのは当然よ。誰が聞いても、こちらに非はないわ」千鶴子は勢いよく言い放った。紗和は声を上げて笑った。「それが正しいとおっしゃるんですか?夫が愛人との間に次々と子どもを作ることが正しいのなら、愛人という立場が非難されることも、その子どもが婚外子と呼ばれることもないでしょう。おばあさまの言い分は、法律も倫理も踏みにじるものです」紗和の鋭い言葉に、千鶴子は返す言葉を失った。「少し成功したからって、ずいぶん偉くなったつもりなのね。怜央がいなければ、今のあなたがあると思うの?そもそも、どうしてこの縁談を認めたと思っているの。昔、あなたがみっともなく怜央にすがり、結婚してほしいと頼み込んだからでしょう」「昔の私は恋に目がくらみ、怜央のような人間を選びました。そのことは否定しません」紗和は宗一郎を見た。「ですが、おじいさまは約束を違えない方だと信じています。今、私たちの夫婦関係は完全に破綻しています。この結婚を終わらせていただけないなら、私は怜央に何をするか、自分でも分かりません。あの人と莉乃には、あまりにもひどい目に遭わされました。追い詰められれば、どれほど大人しい人間でも反撃します。今ここで穏便に別れたいと申し上げているのは、自分のためだけではありません。怜央のためでもあるんです」声は穏やかだった。それでも固い決意と、胸の奥に秘めた憎しみは、言葉の端々ににじんでいた。千鶴子は怒りに震え、紗和を指さした。「この性悪女!なんて恐ろしいことを言うの!」そばにいた古参の使用人は、怒りで言葉も出ない千鶴子の背をさすり
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