征臣は紗和の首から手を離し、彼女を抱えてベッドの片側に寝かせた。そこでようやく、紗和は堪えきれず激しく咳き込んだ。何度も大きく息を吸い、涙があふれるほど咳き込みながら、それでも途切れ途切れに尋ねた。「私は大丈夫……もう、やめるの?」「まだ治っていない。今は休め」そう言い残し、征臣は部屋を出ていった。シャンデリアが灯り、白い光が紗和の頬を照らした。暗闇の中で我を失っていた征臣は、冷たいシャワーを浴びて戻ってくると、いつもの冷ややかで近寄りがたい表情を取り戻していた。ベッド脇にしゃがみ、紗和の首に赤く残った指の跡を見つめた。あの無力感に耐えられず、力いっぱいつかんでおきたかった。征臣がかすかに覚えているのは、それだけだった。紗和も征臣を見つめ返し、彼の唇を噛んで傷つけてしまったことに気づいた。自分がそんなことをした事実に、彼女自身も驚いていた。だが、ほかに道はなかった。莉乃は紗和の身分を偽って怜央と結婚しようとしている。薫子は絶大な権力を持ち、紗和をひどく憎んでいるらしい。おまけに怜央まで、いまだに彼女を手放そうとしない。一刻も早く、強力な後ろ盾を得なければならなかった。このままでは、莉乃に潰されるか、怜央につきまとわれ続けるだけだ。先ほど紗和はようやく考えを整理し、征臣が結婚を条件にしたことを恨むのをやめた。結婚によって征臣と確かにつながれるなら、自分には願ってもない話だった。あんな行動に出たのも、不安でたまらなかったからだ。夫婦として情を育める相手なのか、確かめておきたかったのだ。少なくとも、征臣は自分を嫌ってはいない。そう思えたことに、紗和は安堵した。二人が黙って見つめ合っていると、征臣は不意に後悔を覚えた。救急箱を持ってきて医療用手袋をはめ、指の腹で紗和の首に薬を塗った。無言で彼女を見つめる瞳は、底知れないほど深い。唇の傷には血がにじみ、その赤がひどく鮮やかだった。紗和はようやく自分の唇に触れ、遅れて鋭い痛みを感じた。彼の唇を噛んで傷つけたが、自分の唇も激しい口づけで腫れ上がっていた。赤く腫れた唇は、かえって妖しい色香を増していた。あのときは痛みなど感じなかった。それどころか、わずかに昂ぶってさえいた。思い返すと、征臣はまるで別人だった。荒々しく、狂おしいほど激しく、噂に聞く禁欲的な冷淡
Read more