伊織はすぐさま反応し、紗和を横へ押しのけた。ティーカップは二人の脇をかすめ、床に落ちて甲高い音を立てて砕けた。伊織は床に散った破片に目をやり、紗和にけががないことを確かめると、ほっと息をついた。その間に、薫子の車椅子が目の前まで近づいてきた。「莉乃をこんな目に遭わせておいて、よく平然としていられるわね。この卑しい娘、ことあるごとに莉乃ばかり傷つけて……私を甘く見ているの?こんなこと、到底許せないわ!」薫子は怒りのまま、吐き捨てるように罵った。廊下には患者や医療スタッフが大勢いたが、誰も止めに入ろうとはしなかった。薫子の周囲を何重にも固めるボディーガードを見れば、ただ事ではないと誰にでも分かったからだ。薫子が金色の杖まで振り上げようとしたところで、伊織がその手を押さえた。「おばあさん、事情はあなたが思っているようなものではありません」薫子は怒りを露わに伊織を睨みつけ、鼻を鳴らして顔をそむけた。紗和も口を開いた。「九条夫人、莉乃が流産しかけたことに、私は関係ありません。心配だったからこそ、伊織さんと一緒に様子を見に来ただけです」その頃、怜央が病室から戻ってきた。看護師から話があると言われ、上の階へ行っていたのだ。戻る途中、廊下で年配の女性が誰かに手を上げようとしていると耳にし、急いで駆けつけた。そこでちょうど、紗和が伊織と一緒に莉乃の見舞いに来ただけだと説明している場面に出くわした。怜央の沈んでいた表情が、目に見えて和らいだ。紗和は嘘をついていなかった。伊織との間には、まだ何もない。怜央もまた、薫子が紗和に手を上げることは望んでいなかった。「紗和は穏やかで、心の優しい人です。きっと何か誤解があります。二人は莉乃を見舞いに来ただけです。どうか手を出さないでください」絵里香がすかさず、嫌味たっぷりに口を挟んだ。「この女に、そんな思いやりがあるわけないでしょ。御堂家を追い出されたのを逆恨みして、莉乃なんて流産すればいいって思ってたのよ」紗和はふっと笑った。「絵里香さん、ずいぶん都合よく忘れるのね。莉乃は自分から私を婚約パーティーに招いて、一緒にお酒を飲んだ。過去のことは水に流して、姉妹みたいに仲良くしようって言ったのよ。あなたもその場にいたでしょう。忘れたなら、防犯カメラを確認すればすぐ分
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