結局のところ、紗和はまだ心の底から征臣を夫として受け入れきれてはいなかった。「返事がなかったから、俺が選んだ。温かいミルクにしたが、飲むか?」征臣は顔を上げないまま、低い声でそう言った。それからようやく、薄暗い場所からゆっくりと歩み出た。なぜか今日は、いつも以上に近寄りがたい空気をまとっているように感じられた。紗和は慌てて近づいた。「どうして声をかけてくれなかったの?いつからいたの?」征臣は詳しく答えず、短く言った。「少し前からだ」「ごめんなさい。仕事のことを考えてたら夢中になっちゃって。ずいぶん待ったでしょう?」紗和は自分から手を伸ばし、征臣が持っていたミルクを受け取った。もうすっかり冷めている。それでも、征臣がわざわざ自分のために温めてくれたものだ。本当に長い間待っていたのだと気づき、紗和は一滴も残さず飲み干した。カップを置くと、そっと征臣のそばへ寄り、そのまま抱きつく。その仕草に、沈んでいた征臣の気持ちもいくらか和らいだ。それでも彼は、ゆっくりと紗和の体を離した。「上着を着ろ。外へ連れていく」船の中央にある部屋で過ごしていた紗和には、外がどれほど冷えているのか分からない。だが、先日出た甲板は風が強く、かなり冷え込んでいた。征臣の服装を見ても、外と室内ではずいぶん気温が違うことが分かる。この部屋は一年中快適な温度に保たれているため、紗和は薄手のワンピース一枚しか着ていなかった。征臣は怒りをぶつけることもなく、そのまま外へ連れ出そうとしている。それでも紗和には、どこか引っかかるものがあった。「征臣さん、怒ってるの?」ショールを一枚手に取って戻ると、征臣の手を握った。大きく、ほどよく厚みのある手だった。長い指先は、少し冷たい。「怒っていない」すぐに返事は返ってきた。けれど声があまりにも硬く、どこか不自然だった。「今日来るって言ってたのを忘れてたから?それとも、メッセージに返事しなかったから?」紗和は柔らかな声で、少し甘えるように尋ねた。「……」征臣は答えなかった。もう責めるつもりなどなかった。紗和の背後から見つめ続けても気づいてもらえず、自分との約束を忘れられることにも、これまで何度も耐えてきた。だが今日、彼女を待ってい
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