All Chapters of ボク、女の子に生まれ変わったけど、元気です!: Chapter 21 - Chapter 30

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第二十一話 九月十七日(土) とーふ、とーふ、とーふ

「へえ~。これが豆腐か!」 水を張った容れ物に入ったお豆腐に、おじいちゃん興味津々。「アルクと一緒に色々試してみてえが……ちょいと、オレだけで試してみるか」 とはいえ、初めて見る食材に、攻めあぐねる。「うーん、アユム。前世の湯豆腐ってのは、どんな風に作ってたんだい?」「えーとね。昆布でおだし取って、で、人参とか、えのきとかネギとか茹でてね。切ったお豆腐入れるの」 おぼろげな記憶を頼りに、レシピを導き出す。「昆布ってのが要るのか。もっと多めに、小遣い渡しときゃよかったなァ。他の食べ方はないのかい?」「あ。冷奴ってのがあるよ。冷やしたお豆腐に、お醤油かけて食べるの」「へえ。そりゃシンプルだねえ」 と言いながら、考え込むおじいちゃん。「これ、包丁入れたら崩れるな……ヤマトじゃ、どうしてるんだ?」「それならね、手のひらに乗せて切るんだよ」 前世の、お母さんのお味噌汁づくりを思い出す。「手のひら!」 おじいちゃんに、電流奔る!「はー……ヤマト人ってのは、面白いこと思いつくなァ。よし、冷奴にして食べてみるか」 というわけで、調理自体はシンプルなので、あっという間に冷奴が出てきました。 「いただきます」と、お店にいるお父さん、お母さんを除く四人で試食。「……おいしいはおいしいけど、なにか物足りませんねえ」 おばあちゃんが、違和感を口にする。「あ! ごめん! 薬味を使うんだ! えっとね、おろしショウガと刻みネギ!」「玉ねぎ、刻むのか」「ううん。こんな感じのネギ」 ホワイトボードに、前世でよく見かけた、スーパーのネギを描く。「はー。ポロネギ……かねえ? とりあえず、ショウガをおろしてみるか」 というわけで、薬味追加。「あ、味が引き締まりましたね」「だな」 おばあちゃん、おじいちゃんが言う通り、ずいぶん締まりのある味になった。「ハーちゃんは、どう?」「うーん。まあ、おいしいんじゃない?」 ハーちゃん、言葉と裏腹に、いまいちな表情。きっと、湯豆腐とかのほうが、口に合うんだろうな。「こりゃ、オレとアルクでヤマト街出向いて、色々買ってきたほうがいいな。俄然、興味が湧いてきた」 おお、料理人魂に火が点いた!「味噌ってのも、後でいろいろ試してみるか」「うん。使い道、ほんと多い調味料だったよ」 また
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第二十二話 九月十八日(日) 大地祭! ―前編―

 今日は、朝から忙しい。「大地と水と天に感謝する祭り」、通称「大地祭」が開催されているからだ。 市民たちが、大いに飲み食いするこのお祭り。当然、うちも大忙しなわけで。 いつもは十一時開店なのだけど、今日は九時から店を開けている。いやもう、ビールやおつまみが、飛ぶように売れる売れる! 注文を書き、厨房に伝達。今日は、おじいちゃんも助っ人に入っています。「A、行ってきます!」 「A行ってきます」は、この店で「食事してきます」の符丁。おじいちゃんが、なんとなくノリで決めたらしい。 台所に着き、朝に作り済みのサンドイッチを牛乳で流し込む。……ふう、人心地ついた。 食器だけ片したら、即座に戦線復帰。ちなみにハーちゃんはまだ小五なので、お友達とお祭りを見に行ってます。ボクも五時に上がったら、行きたいなあ。「いらっしゃいま……あ」 バーシ、クク、シャロンが入口に立ってるじゃないですか。しかも、ククもシャロンも、こないだバーシが見立てた服だ。「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」 営業モードで、空き席に三人を案内する。「大変そうだねえ」「そりゃもう!」 小声で、バーシに答える。「ご注文は?」「パンケーキ三つと、私、メロンソーダ」「あたしはコーヒーフロート。シャロンは……いつも通り、ミルクセーキでいいよな?」 シャロンがこくりと頷くので、「かしこまりました」と、厨房にオーダー伝達。その後も店内を忙しく飛び回り、三人と話す暇なんてなし! 三人の注文が出来上がり、席へと運ぶ。「抜けだせなそう?」「無理! 五時半になったら、中央噴水に行くから、待ってて!」 小声でそれだけ言い残し、また店内を飛び回るのでした。  ◆ ◆ ◆ 「アユム、上がっていいわよ」 お母さんのお許しが出た! やっと五時だー! はああああ……疲れた! 体力に自信アリなボクをしても、さすがにしんどい。 ともかく、シャワー浴びて、おめかしして、噴水へ! ……あ、いたいた! 噴水に三人がいたので、近づく。「お疲れさーん」 のほほんと、バニラソフトクリームを食べてるバーシに労われる。うう。ボクも、服屋の娘に生まれれば良かったかなあ?「ほんと疲れたよー。でも、そのぶん、軍資金いっぱいもらっちゃった~」 それはそれでと、むふふと、ほくそ笑む。「あ、そうだ
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第二十三話 九月十八日(日) 大地祭! ―後編―

 大道芸人さんが、アコーディオンを弾きながら歌い、ワッフル屋台がホカホカなワッフルの、いい匂いを漂わせていた。 ハーちゃんよりも、さらに幼い子供たちが、妖精の仮装をし、大人らと一緒にお花を配って回っている。「どーぞ、おねーちゃん!」「ありがとう」 妖精さんから花一輪ずつもらい、さらに街を歩いて行く。 街は、感謝と祝いの歌で満ち、夕方だというのに、場の空気は明るい。 仮設テーブルで、フライドポテトをお供に、ビールやソフトドリンクを飲み食いする人々。 疲れてはいるけれど、ボクは今年も元気に、このお祭りに参加できたのが嬉しい。元気って、なんてありがたいんだろう。「ガブリエル!」 突如、ククが叫んだ。 彼女の視線を追うと、射的の屋台。そこには、お菓子などと並び、かわいいぬいぐるみが並べられていました。「一目惚れした! ちょっと、行ってくる!」 ダッシュで屋台に向かうクク。ボクらも、ぽてぽてと後をついていきます。「待ってろよ~ガブ~。連れ帰ってやっかんな~」 ククはすでに、狙撃体勢。構えて……ポン! ありゃ、外れ。どうもハンターの狙いは、くまちゃんのぬいぐるみみたいだね。「おじさん、もう一回!」 諦めない、クク。ボクらも、「がんばれー!」と声援を飛ばす。 ……が、また外れ!「くぅ~っ! もっかい! これでダメなら諦める!」 クク選手、ラストワンに賭けました! ……ポン! ドサッ。「はーい、おめでとー!」 おじさんが、くまちゃんを渡してくれる。「おおお~! ガブ~! お前は今日から、あたしの家族だかんな~!!」 ガブに頬ずりするクク。ほんとに、ぬいぐるみ好きなんだね。「おめでとー!」と拍手すると、ガブリエルで顔を隠し、照れる彼女。 すると向こうから、にぎやかな音楽が。「パレードっすよ!」 おお。大地祭名物、パレード!「行こ!」 みんなで、パレードのほうへ向かうのでした。  ◆ ◆ ◆  パレードでは、女優さんや男優さん、ダンサーといった人々が、ゆっくり進むパレードカーの上で、踊っていました。 うっとりと、夢のような光景を見るボクたち。「華やかで、きれいだね」「うん」 誰に言うわけでもなかった独り言に、バーシが相槌を打つ。 ボクらがこのパレードを最初に見てから、何度目になるだろう。 来年も見たいな。み
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第二十四話 九月十九日(月) ヘアスタイル談義

「ねー、アユムー」「なーにー?」 昼休み、教会の清掃が終わったら、次は何のボランティアを提案しようかと、ぼーっと考えていると、バーシがボクの髪を手ですきながら、呼びかけてきた。 バーシは、こうやってボクの髪を触るのが好きみたいで、しょっちゅうこんなスキンシップをされている。「やっぱさー、髪伸ばす気ないよねえ?」「うん」「もったいないなー。こんなにつやつやで、手触りいいのに」 ため息を吐く、幼馴染み。幸せが逃げますよー?「ボクが、ギャン泣きしてまで切ったの、知ってるでしょー?」 ボクは、前世の記憶が戻る前、長髪だった。ただ、記憶が戻ったらどうにも長髪に抵抗感が出て、「今すぐ切りたい!」と大泣きして、家族を困らせたらしい。 で、以降ずーっとショートヘアというわけ。「バーシこそ、伸ばしたらいいじゃない。バーシも、いい髪質なんだしさ」「あははー。だって、楽なんだもん。アユムの真似して切ったら、頭が軽いわ、お風呂が楽だわ、『私、何のために伸ばしてたの!?』ってなっちゃってー」「もー。そう思うなら、ボクの意思の再確認とか必要ないでしょー。ボクだって、同じだよ」 ため息を吐く。ボクも、幸せが逃げちゃうな。「なんか、変な空気醸し出してんね。何の話?」 おっと、ククがシャロンと一緒にこっちにやってきた。「まあ、他愛ない話なんだけど……」 先程のやり取りと、過去バナを話して聞かせる。「へー。やっぱ、男の子ってロング嫌なん? たまに、ロン毛のにーちゃんいるけど」「前世のボクは、そうだったみたい」「そっかー」 どうでもいいけどバーシ、いつまで髪すいてんの?「そういや、この四人でロングなの、あたしだけだな」「そっすね。いっそ、姉さんもジョキンといって、うちらの仲間入りしてみるっすか?」「えー? そりゃ、手間かかるし重いけどさ、やっぱ愛着があんのよ、愛着」 見事に切りそろえられた、ロングの毛先を、くりくりといじり回すクク。「まー、男子はロングのほうが好みってのが、多いらしいっすからねー」「あたしゃ、別にモテ願望とかねーけどなー」「そっすよね。姉さんには、うちがいるっすもんね」 腕組みして、しなだれかかるシャロン。「はっはっはっ。サッカーチームできるぐらい、二人で子供作るかー」 そう言って、カラカラ笑う姉貴分。この世界、同性で子供
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第二十五話 九月十九日(月) 怖がりハーちゃん

 今日も宿題、かりかりと~。 おっと、ゼロは自然数じゃないよねえ。引っかからないぞ~。 かりかり……かりかり……。 ちょっと、一息入れたいな。紅茶淹れてこよ。もう、八時か。 それにしても、雷がゴロゴロと……。落ちなきゃいいけど。  ◆ ◆ ◆  お湯が沸くまで、暇だなー。電気ポット、早く発明されないかな。「わ!」 一段と眩しい雷光とともに、ブレーカーが落ちる。停電だ! 前世では、停電なんてめったになかったのに、こっちではよく起こる。こういうとこ、不便だな。 幸い、ガスの明かりがあるから、懐中電灯は戸棚からなんとか取り出せた。 入れ替わりに、ガスを消す。ブレーカーを上げてみるけど……ダメだね。大元がやられたっぽい。「おじいちゃん、おばあちゃん、大丈夫~?」 リビングに行き、まずは二人の様子を確認。「アユムか。せっかくテレビ、いいとこだったのになァ」「復旧まで、どれぐらいかかるのかしらね?」「とりあえず、無事みたいだね。大元がやられたっぽいよ。今、ろうそくとマッチ出すね」 点火。頼りないけど、最低限の明かりは確保できた。「懐中電灯、こっちにも、もう一個あったよな。店の様子見てくるわ」 そういって、戸棚から、懐中電灯二号を取り出すおじいちゃん。「マエへさん、心細いだろうけど」「わたしは大丈夫だから」「ボク、ハーちゃんの様子見てくる」 二手に分かれ、ボクは階段を登っていく。 着いた。「ハーちゃん、大丈夫?」 ノックしながら尋ねると、「おねーちゃん?」と、心細そうな声が聞こえてくる。「うん。入っていい?」「早く来て!」 相当心細い模様。 中に入ると、彼女はベッドの上で、毛布にくるまって震えていた。 実は、ハーちゃんは、かなりの暗所恐怖症だ。寝るときも、常夜灯ではなく、蛍光灯を点けて寝るぐらい。「大丈夫?」 そばに寄ると、「それ、ちょうだい! こっちの、電池切れちゃったの!」と、泣きべそ状態でお願いしてくる。 懐中電灯を渡すと、自分を照らし、本格的に泣き始めてしまった。 そんなハーちゃんの横に腰掛け、肩をとんとん叩いて落ち着かせる。「ボクがついてるからね。大丈夫、大丈夫」 ひたすら、とんとんと、声掛けを続け、最愛の妹を安心させていく。 ハーちゃんが、なんでここまでひどい、暗所恐怖
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第二十六話 九月二十日(火) ヤマト街、再び ―前編―

 学校から帰宅すると、お父さんとおじいちゃんが、チェスっぽい遊び……ボクは脳内でチェスって呼んじゃうけど、それで対戦してました。「ただいまー。どっちが優勢?」「難しいところだね。でも、もう終わりだな。アユムを待ってたんだ。ヤマト街へ行こうじゃないか」 チェス盤を片付けながら、お父さんが言う。「ボクは構わないけど、シャワー浴びて着替える時間ぐらいはちょうだいね」「私も行くー! おねーちゃんと一緒がいいー!」 すると、漫画を読んでたハーちゃんが、話に入ってきました。「あらあら。こないだまで、あんなにツンケンしてたのに」「う~……色々あったの!」 お母さんが突っ込むと、顔を真っ赤にして、そっぽを向くハーちゃん。かわいいなあ。「うふふ。とりあえず、また仲良くなったようで、良かったわ」 お母さん、昨日一緒に寝てるボクたちを見て、色々察したんだろうな。「じゃあ、俺、親父、アユム、ハーちゃんの四人で行くか」「バーシも誘っていい?」「ん、じゃあ出掛けに、声をかけよう」 というわけで、体と服をピカピカにしたら、四人でお隣へ。「はーい……あら、おじさんたち、こんにちはー」 部屋着でくつろいでいたらしいバーシが、裏口を開けて応対。「ボクら、ヤマト街行くんだけど、バーシもどう?」「え、行きたい! 五分待てる!?」「急がなくていいよー。じゃあ、終わったら、うちに声かけて」 「ほーい」と言いながら、彼女は再び屋内に消えていきました。 ダイニングで適当に過ごしていると、呼び鈴が。「お待たせしましたー」 急いで着替えたのであろう、息を切らしつつ、ちょっとよれた服を直しながら、バーシが裏口に立っていました。「急がなくていいって言ったのに」「じゃあ、バーシムレちゃんも来たことだし、車出そうか」 お父さんが、立ち上がる。というわけで、お出かけタイム! 早く湯豆腐食べた~い!  ◆ ◆ ◆ 「ねえ、アユム」 道中、バーシが不意に話しかけてくる。「なーに?」「ハーちゃん、反抗期って言ってなかった?」 そこには、後部座席の真ん中に座り、ボクの腕に、にこにこと絡みつく、最愛の妹の姿が。「あー。まあ、色々あったんだよ。うん」 ハーちゃんの名誉のために、昨日の出来事は伏せておこう。「まあ、また姉妹仲良くなったんなら、なによりだけどね。ふう~、
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第二十七話 九月二十日(火) ヤマト街、再び ―後編―

「着いたよ~!」 以前、ネコザキ先生に案内されたお店に着きました!「へえ。こりゃ、ラドネスブルグのお菓子とはぜんぜん違うね」 色とりどりなお菓子に、感心するお父さん。「面白いな。アユム、おすすめとかあるかい?」「んー……。ボクもおすすめを選べるほど、食べ比べたわけじゃないからなあ。前世でも、食事制限で食べられなかったし」 おじいちゃんにそう答えると、「ふむ」と考え込んでしまった。「あの、こういうのはやっぱりお店の人に訊くのが、いいんじゃないでしょうか?」 お。バーシ、ナイスアシスト!「正論だね。店主さん、おすすめは何かな?」「そりゃもう全部! ……なんて言ったら困らせちゃいますね。栗まんじゅうと栗羊羹が、この季節美味しいですよ」「じゃあ、それもらおうか」 というわけで、おじいちゃん決定。 皆も、同じのにしたようです。ボクだけは前回、栗羊羹食べてるから、栗まんじゅうプラス、ククとシャロンが愉しんでた水まんじゅうをいただこう。「いただきます」 合唱し、木製ミニナイフ……本名があるんだろうけど、それを水まんじゅうに通す。 プルプルしてて、おもしろーい。口の中に、ペタって付く感じが、また面白い。お味も良し! 今度、ククとシャロンに感想言おっと。 ここで一服。「へえ、ヤマトじゃこういうお茶飲むのか。面白いねェ」 おじいちゃん、しきりに感心。「この、黒いのなんだろうね。アユム、わかるかい?」「あんこっていってね、小豆っていう豆を甘く煮て、ペーストにしたものだよ」 「ほー」と、お父さん感心。こっちじゃ、小豆なんて食べないもんね。「ハーちゃん、和菓子美味しい?」「うん!」 お日様笑顔。やっぱり、ハーちゃんにはこういう表情が似合う。 続いて、栗まんじゅう。おお、ホロホロしていて。同じ栗なのに、栗羊羹とは、ぜんぜん違う食感だ!「チョコレートもいいけど、ヤマト菓子もいいもんだねー」 バーシが、ほっこりした表情で感服。ラドネスブルグは、チョコレート菓子で有名だったりする。「ごちそうさま。お土産、買っていこう。店主さん、家族六人用と五人用に、お任せで包んでくれるかな?」「ありがとうございます」「え? 五人って、ひょっとしてうちのぶんですか!? そんな、悪いです!」 慌てて遠慮するバーシに、「いいから、いいか
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第二十八話 九月二十一日(水) アユムの学校生活

「バン!」 先生の掛け声とともに、トラックを猛走する。元気に動ける! 走れる! こんなに嬉しいことってない! ゴール! ボクが一番のようだ。「相変わらず速いねー。アユムは」 バーシが、すれ違いざまに、褒めてくれる。「ありがと」 手を叩き合い、今度は見学に回る。 「がんばれー!」と、離れから、他の女子に混じって、ククとシャロンの声援が聞こえる。「……バン!」 ダッシュするバーシ。あまり速くないけど、スポーツは参加することに意義があるからね。 それにしても、こっち側で体育するようになって、早六年以上かー。 前世では、見学ばっかりしてたけど、男子の体育も体験してみたかったな。 男子は今日、体育館でバスケ。あっちも楽しそうだな。 でも、ボクは走るのが好きだ。シンプルで、いい。ただ道があって、そこを全力で駆けていく。ひたすら、スピードだけの世界。 そういう意味では、水泳も好き。プール、行きたいな。 もちろん、バスケやサッカーも好きだけどね。……この世界、前世に似た競技、多いね。 バーシ、ゴール!「お疲れー! 頑張ったねー!」 健闘を称えると、手を挙げて応える。肩が激しく上下していて、喋るのもしんどいようだ。 ククとシャロンも走り、それぞれを称える。 こんなのを何セットかして、今日の体育はお開きになった。 そして、給食。「いただきます!」 班を作り、六人で机を合わせ、囲む。「おー! チキン! 運動の後は、タンパク質だよねー」 嬉々として、フォークをつける。「トマルナーさん、大活躍だったよねー」「いやー、それほどでも。やっぱり、運動部の子には負けるよ」 いつも、バーシやククたちとばっかり絡んでるようで、クラスメイトとも仲良くやっている。「わたしゃ、運動より物理やりたい。工業系進むと、姫になれるらしいし」「そーなん?」「うん。工業高校、むっちゃ女子少ないから、モテるらしい」 わちゃわちゃ雑談を愉しむ友達たちを見ながら、チキンをごっくんと飲み込む。牛乳も飲んで、ダブル・タンパク質だ!「理系も楽しいよねー。ボク、全部の教科好きだよ」「羨ましいなー。私、数学と理科ダメだわ」 楽しいな。給食を食べながら、クラスメイトとの雑談。 前世のボクが、ろくに楽しめなかったことだ。 ボクは今、前世の取りこぼ
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第二十九話 九月二十二日(木) ケーキに大感激!

「よーし! 二階や屋根が残念だけど、できるところは全部やったな!」 ククが、額の汗を拭いながら、教会を見上げる。「だね! 中に入って、アイちゃんに報告しよう。みんな、お疲れ様~!」 ポンプ係バーシ、ホース係シャロン、ブラシ係ボクとククで、手分けして外壁掃除。教会が、とてもきれいになった。「みんな、お疲れ様。お茶にしましょう」 先生が、車から魔法瓶を取り出す。先生も、ただ見ているわけではなく、二回目以降、「荷物がかさばるでしょうから」と、車を出してくれるようになっている。 中に入ると、アイちゃんがわくわくして待っていた。「どんなにきれいになったんでしょう! 見たいです!」「写真撮ったから、また今度来たとき、見せてあげるね。あ、写真といえば」 バーシが、マイコレクションの写真を、ざーっと並べる。 彼女のコレクションというと、オカルトチックなものが想像されるし、実際そうなんだけど、普通に街の風景や、花や動物の写真もある。「おっきなワンちゃん!」「これ、うちのホリンな。でかすぎて、ちょっと連れてこれねーけど」 「おおー」と、目をくりくりさせて驚くアイちゃん。「これは、街並みの風景。私とアユムの住まいの周辺……東商業地区が多いけど、昔と比べてどう?」「より、賑やかになりましたね。東商業地区は、たまにシスターに連れられて行ったことがあるんですけど、ずいぶん様変わりしてます。月に一度だけ食べさせてもらえる、アイスやケーキが、それはもう、おいしくて……」 ほっぺに両手を添え、とろんとするアイちゃん。質素な生活の中での、たまの贅沢。それはもう、嬉しかっただろうな。「また、食べてみたいですね……。叶わぬ夢ですけど」 一転して、俯く彼女。悪い子じゃないんだけど、どうしても会話が暗くなりがちなのがちょっと、だねえ。「ねー、アイちゃん。ククと、すごく波長が合うんだよね? 例えば、乗り移ったり出来ないの?」「ええ!?」「ひょえっ!?」 バーシの突飛な提案に、変な声を出す当事者二人。「試したことないですけど……」「おいおい、バーシ~。人ごとだと思って、無茶苦茶言うな、お前~」「でも、できたらアイちゃん、きっと自由に外へ行けるんだよ。やらせてあげたいじゃない」 しばらく、うんうん唸るクク。「えーい、あたしも女だ! 体、張っちゃろう
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第三十話 九月二十三日(金) プチ家出!? ―前編―

 夕方、裏口の呼び鈴が鳴ったので、どなたでしょー? と開けてみれば、なにやら大荷物を持ったシャロンが。「こんばんは。どしたの? 遊びに来たにしては、妙に荷物が多いね?」「家出したっす。何も言わずに、泊めてくれるとありがたいっす」 一瞬固まった後、「えーっ!?」と叫ぶ、ボクでありました。  ◆ ◆ ◆ 「いやァ、嬢ちゃん。そこを、『ハイそうですか、どうぞ』というわけにァいかねェよ」 ボクでは持て余してしまったので、とりあえず、おじいちゃんに話を振ってみた。「そこをなんとか、お願いするっす! 食料も持ってきたんで!」 困って、顔をおじいちゃんと見合わせる。「そもそも、なんで家出なんて話になったのさ」「小テストあったっすね?」「うん、あったね」 ユニオン語だったな。ユニオンは、前世でいうイギリスみたいな国。「それの結果が悪くて、ママ、『最近できた、お友達が良くないんじゃない?』って、言うんすよ。自分のことで、どうこう言われるのはいいんすけど、アユムっちたちのことを悪く言われるのは、ガマンできなかったっす」 うーん。それは、その場にいなかったボクも、カチンとくる話だな。横のおじいちゃんも、眉をしかめている。 でも、個人的感情は、一旦飲み込んで。「なら、ボクのうちに家出なんて、かえって良くなかったんじゃない?」「いつもだったら、こういうとき、姉さんの家に行くんすけど、間が悪いことに、姉さんち、今日親戚が遊びに来てるんすよ」 なるほど。「とりあえず、親御さんには電話させてもらうけどいいかい? このままじゃ、話が大事になっちまわァ」「……そうっすね、ユーカイだとか、ヘンな話になってもご迷惑っすし」 それを受け、電話へ向かうおじいちゃん。「とりあえず、今日は泊めるしかないか。もう、夜になるし」「そうさせてもらえると、ありがたいっす」「おばあちゃん、いいよね?」 お願いすると、こくこく頷く。「おねーちゃん、このおねーちゃんだーれ?」 そこにやってきた、ハーちゃん。「ああ、シャロン。ボクのお友達」「はじめましてっす」「はじめまして」 互いにお辞儀。「ハンコーキって聞いてたっすけど、そんな感じしないっすね?」「いろいろあってね。直ったみたい」 互いに、小声で耳打ちする。 なんか電話口が騒がし
last updateLast Updated : 2026-07-10
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