All Chapters of ボク、女の子に生まれ変わったけど、元気です!: Chapter 31 - Chapter 40

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第三十一話 九月二十三日(金) プチ家出!? ―中編―

「うお~っ! こりゃ、おいしそうっすね~!」 ミートボールと野菜のトマトスープ煮鍋を覗きながら、素っ頓狂な声を上げるシャロン。「おいしそう、じゃなくて、おじいちゃんの料理は実際おいしいよ」「しかし、ほんとうちが食べちゃっていいんすかね?」「もー、ここまで来て、遠慮しないのー」 彼女の背中を、ばしーんと叩く。「はっはっはっ。もうできるからね。遠慮せず、食べていきなさい」 おじいちゃんが、愉快そうに肩を揺らす。「……ゴチになるっす」 シャロンも、観念決まったようだ。「アユムっちのお父さんとお母さん、遅いっすね」「今、書き入れ時だからね。二人が上がってくるのは、もっと遅いよ」「はー……。その、寂しくないんすか?」 いつか、ボクがシャロンにした質問を返された。「しょうがないよ。こういう商売だもん。火曜以外は、なかなかね」「ふーん……」 シャロンが、今の問答から何を得たかはわからない。ボクに自分を重ねたかもしれないし、もっと別のことを考えたかもしれない。「さ、できたぞ。席についたついた」 子供三人とおばあちゃんでテーブルを囲み、おじいちゃんの配膳を待つ。「いい匂いっす~」「でしょ」 やがて、配膳が終わりました。「じゃあ、挨拶はオレがするかな。いただきます」「いただきまーす!」 まずは、お野菜から。お野菜から食べたほうが消化にいいって、前世の栄養士さんが言ってた! ホクホクのカリフラワーを、口に含む。「うまー!」 シャロンと同時に、声を上げる。彼女も、なにか食べたみたいだ。「ミートボール、激ウマっす!」 口に手を当てて、はふはふしながら、感激するシャロン。「お野菜もおいしいよー」「無論、いただくっす」 実に、嬉しそうだ。「シャロンおねーちゃん、あとで、ゲームやらない?」「いいっすよー」 賑やかな食卓を、ふふ、と見つめる。「アユムっちのところは、にぎやかっすねー。うちは、ひとり飯が多くて……」 ちょっと、顔に蔭が落ちるシャロン。「自炊するの?」「あんまり。ママの作り置きを、レンチンするだけっす」 電子レンジ。こっちでは、まだ流行り始めの家電だ。「だから、こうやって家族でワイワイっての、憧れなんす」「土日はお父さんとお母さん、休みじゃないの?」「土日は外食っすね。ママが、休日ぐらいゆ
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第三十二話 九月二十三日(土) プチ家出!? ―後編―

 今日も、早くに目が覚める。世界に「おはよう」を言おうとしたけど、シャロンがいるんだった。 起こさないように着替えをそっと済ませ、「ロードワーク行ってくるね」とメモを置き、ホワイトボードにも書き残すと、ククの待つ公園へと向かうのでした。  ◆ ◆ ◆ 「うーっす」 すっかり気に入ったらしい、ミリタリールックに身を包み、片手をしゅびっと挙げるクク。「おはよー。ホリンも、おはよー」 抱きついて、わしゃわしゃなでる。「シャロン、家出したらしいな」「ククにも、話が行ってるの?」「んにゃ。おばさんと会ったとき、小難しい顔してたから、『またやったんだな』って思ってさ。おばさんに訊いてみたら、アユムんとこにいるらしいじゃねーの」 早歩きで公園を廻りながら、ククとシャロンについて語る。「そうなんだよね。シャロン、なんか可哀想だね」「だなー。おばさんもおじさんも、悪い人じゃねーんだけど、堅物過ぎて」「ボクにできることって、あるのかな」 ボクも同伴するだろうけど、多分、保護者同士の話し合いがメインになると思う。「あたしもなー。なんとかしてやりてーんだけど」 揃って、ため息を吐く。二つの幸せが、逃げていっちゃったな。「あたしも同席していいか?」「うん? 別にかまわないと思うけど」「こういうの、ほっておけなくてさ」 ククって、やっぱり面倒見がいいな。 ぐるっと公園を一周すると、それぞれの家に、一度戻るのでした。  ◆ ◆ ◆  九時頃、裏口の呼び鈴が鳴らされる。 来た! 扉を開けると、生真面目を絵に描いたような、おばさん&おじさんと、ククの姿が。「ええと、ようこそおいでくださいました。アユム・トマルナーです。どうぞ、上がってください」 ちょこんと、お辞儀。 「お邪魔します」と、上がってくる三人。 リビングに案内すると、おじいちゃんが難しい顔をして座っている。 ほかの同席者は、おばあちゃんと、当のシャロン。「はじめまして。わたくし、エレン・レーベルトと申します」「同じくはじめまして、アラン・レーベルトです」 おじいちゃんとおばあちゃんに、二人が名刺と菓子折りを配る。「この度は、娘がご迷惑をおかけして、申し訳ありません」 「迷惑なんてしてないですよ!」と言おうとしたら、おじいちゃんに手で制された。「孫の友達なら、家族も当
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第三十三話 九月二十三日(土) ニブちんおねーちゃん

「ただいまー」 愛しの妹が、お外から帰ってきました! 今日はきっと、デリケートな話になるだろうから、ハーちゃんにはお友達のおうちに、遊びに行っててもらってたのです。 で、シャロンたちが帰ったので、帰ってきていーよーと、電話したわけだけど。 お友達まで、一緒じゃないですか。「いらっしゃい、フーちゃん」 彼女は、フローラ・ルルナーシュ。ハーちゃんの第一の親友。「お久しぶりです、お姉さん……」 彼女は、ちょっと照れ屋さん。今ももじもじと、指を突き合わせています。「上がって上がって」 ハーちゃんに促され、上がるフーちゃん。うーん、小さい子同士のこういうの、かわいいよね。ボクと、二つしか違わないんだけど。「ゲームしよ、ゲーム。おかーさーん! フーちゃん連れてきたから、アイス食べていーいー?」 店から「いいわよー」と快諾の声。「やった!」と、ちょっとお高い、大箱入りのバニラアイスを取り出すのでした。「ボクも、お相伴にあずかろっと」 お皿三つに、バニラアイスがちょこんと載りました。「ゲーム、三人で出来たらいいのにね」 前世じゃ、世界中のプレイヤーと同時にドンパチするようなゲームが当たり前にあったけど、この世界のは、チープな画面で二人同時プレイがせいぜい。 まあ、ボクはゲームより健康に興味シンシンだから、二人のプレイを見てるだけでも楽しいんだけど。 その割には、アイスなんて食べてるけどね。あ~、冷たくておいし~! ボクの味覚も、すっかり女子中学生だ。「くー、フーちゃん回避上手いなー。私、いつもここでやられんだよー」 ボカーンというノイズとともに、やられるハーちゃん機。 この世界では、まだ格ゲーは発明されていない。ボクが作ったら、大儲けできるかな? プログラムなんて、全然わかんないけど……。「ハーちゃん。それ終わったらJANGOしない?」 見てるだけで楽しいとはいっても、やはり寂しいので、三人で遊べるゲームを提案する。「いーよー。でも今、いいとこ! ふっ! ぬっ!」 ハーちゃん機が、神回避を見せる。おお、がんばれ! おねーちゃんも、アイス食べながら応援してるぞ!「あ~! やられたー! フーちゃん、カタキとってー!」「えと、一人でやってても楽しくないし、ここまでで。それより、おねーさんと遊びたいかな」「え~」 仇討ちを断られ、
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第三十四話 九月二十三日(土) だって、シスコンだもの

「それ、ハーちゃんも相当ねえ」 両手で鉄アレイを持ち上げて、足ツボ刺激マットを踏み踏みしつつ、健康特集のテレビ番組を見ながら、両親と先ほどの話をするという器用なことをしていると、やれやれといった調子で、お母さんがため息を吐く。幸せが逃げますよー? 二人とも、仕事上がりでへばっていて、夫婦揃ってボクの横で背をソファに預け、だらーんとしている。お母さんたちだって、こんなだらしないときがあるのだ。お疲れ様。「でしょー? 何が、カンに触ったのかわからないけど、足踏むことないよねー?」「シスコンなのに、そこわからないか~」 お母さん、再びため息。あ~、幸せが逃げちゃう~。「えー? どゆことー?」「うーん、ちゃんと言ったものかしらね? ただ、お母さん、あなたたちの将来が心配だわ」 三度目のため息。お母さん、幸せ逃しすぎ~!「いや、俺もわからんな。どういうことだい?」「アルクさんまで……。この子のこういうニブいところ、父親に似たのかしらねぇ?」 幸せさんが、また一つさようなら。 父娘で首を傾げていると、ハーちゃんが「上がったよー」と、スリッパをぺったんぺったん鳴らしながら、パジャマ姿でお風呂から戻ってきました。「アユム、先入る?」「お母さんたちが、先に入ってきてよ。今、料理の説明がいいとこなんだ」 オクラのヨーグルト和えかー。健康に良さそー!「じゃあ、アルクさん入ってきちゃって。この子たちに、ちょっと話しておきたいことがあるから」「そうかい? じゃあお先に」 着替えを取りに、二階に上がるお父さん。「ハーちゃん、ちょっとこっちに座って」「うん? なんで?」 さっきまでお父さんがいた場所に、ちょこんと座るハーちゃん。お母さんも、居住まいを正す。「あなたたちって、筋金入りのシスコンよね」「うん!」「ちがっ……! 私、シスコンじゃないよ!」 マイシスターのガン拒否に、ガーンとなる。シャレじゃないよ。「じゃあ、なんでお姉ちゃんの足踏んだの?」「え……と、それは、なんかつい、カッとなって」 そんな、殺人犯の供述みたいな。「そこね。ハーちゃん、また……ううん、前以上に、お姉ちゃんラブになっちゃったのよ」「「ええ~!?」」 これには、ハーちゃんと一緒にびっくり!!「きっかけは、間違いなくこないだの停電ね。お姉ちゃんがずっといてくれ
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第三十五話 九月二十四日(日) 新聞配達の、エリアお姉さん

「あっはっはっ。そっかー。そこまでシスコンかー」 昨日の話を聞いて、愉快愉快といった感じに、笑うクク。今日も、いつもの公園ロードワークです。「だってー。ハーちゃんかわいいんだよ? 今度会わせてあげるね」「そりゃ楽しみだね。ところで、今日はかなりペースゆっくりめだけど、いいん?」「うん。ペース上げると、ククがバテるでしょ? でも、ゆっくりだとあまり運動にならないから、何かないかなーって思って、いい方法考えた」 手首に着けたバンドを見せる。「なんぞ?」「持ってみて」 バンドは両手に巻いてるんだけど、片方だけ外して手渡す。「重っ! こんなん着けて、歩いてたんか!」「足にもあるよ」 ジャージのボトムを少し上げて、足首を見せると、そこにもバンド。「はえー。ゴリラにでも、進化する気か」「それ、進化なの?」 そうそう。この世界のお猿さんは、猫耳です。「さあ? でも、あたしの体力がねーのが悪ぃんだよな。ごめんな、工夫茶化しちゃって」「いいよ。別に気にするほどのことじゃ」 貸したバンドを、再び手首に巻き付ける。「でも、あたしもホリンの散歩が、今まで以上に楽しいわ。やっぱ、一緒に歩いてくれる仲間がいるって、いいな」「ボクも!」 互いに、にっこり微笑む。「そういえばさ、シャロン、どう?」 散歩を再開しながら、気になってたことを問う。「昨日の今日だからな。でも、あのあと、三人で自宅で飯食ったらしいよ。嬉しかったって、電話あってさ」「そか。シャロンの家、いい方向に進むといいね」「んだな」 少し、しんみりした空気が流れる。「そういや、バーシにはこの話、したん?」「してない。デリケートな問題だし、言いたくなったら、シャロンから言うと思う」「そだな」 一層、空気がしんみりする。「そうだ。今日、ボク店に出るんだ。良かったら、家族で食べに来てよ。サービスしてくれると思うよ」「んー、行けたら行く。逆に、バーシ連れて、今度うちに遊びにきてほしーな」「ふふ、ガブに会えるの楽しみにしとくね」 今度はくすくす笑い合う。女の子って、ころころ感情が変わるね。 こうして、朝の楽しい日課も終わり、それぞれの家に戻るのでした。  ◆ ◆ ◆ 「三番、ビール・二、グリルドソーセージ・二、入りましたー」 伝票をお父さんに渡し、次の仕事探し
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第三十六話 九月二十四日(日) シャロン

「今日も一日、疲れましたよ~っと」 お風呂上がり、牛乳をコップに注いでぐいっとやっていると、「アユムちゃん」と、ソファのほうから声がかかる。おばあちゃんだ。「なーに?」「ちょっと、その格好はどうかしらねえ?」 タンクトップ一丁に、下はショートパンツ。「えー? そんなに変?」「少し、はしたないんじゃないかしら。やっぱり、前世が男の子だったらしいからかしらねえ?」「らしい、は余計だよ。でも、前世は実際、関係あると思うよ」 ボクは、いまいち女の子の自覚に欠けるというか、女の子になりきれないときがある。たとえば、ファッションセンス。ガーリーやフェミニンとか、絶対着る気が起きない。 店のウェイトレス服も、ズボンにしてもらっている。学校の制服は、さすがに慣れたけどね。「逆にさー、おばあちゃん」 隣に腰掛ける。「女らしいって、イマドキそんな重要?」 今は、価値観多様化の時代なのです。「うーん、そうねえ。おばあちゃん、最近の世間の流れに、ついていけないときがあるわ」「おいおい。しっかりしてくれよ、マエへさん。オレたち、まだ六十前だぜ? 老け込む歳じゃねェよ」 テレビを一緒に見ていたおじいちゃんが、話に混ざってきた。「じゃあ、アユムちゃんの格好、どう思います?」「まあ、その……いささか、けしからんな」 おほんと咳払いして、目を背ける。「でもまァ、若い娘が肌晒すのも、そういうご時世だしなあ。お隣さんでも、そういう服が売れてるらしいし。時代に置いていかれたとは、思いたくねェな」 天井を仰ぎ見て、ため息を吐くおじいちゃん。幸せが、逃げますよー。  ◆ ◆ ◆ 「なーんてやり取りが、さっきあってね」 バーシと電話中。「へー。マエへさんたちの世代だと、そう感じるんだねえ」 おしゃれなバーシは、もちろんファッションは自由である派。「バーシんとこの、おじいちゃん、おばあちゃんはその辺、どんな感じなの?」 バーシの家も、二世帯住まいだ。「ウチは理解あるよ? 家業が家業だからね」「うらやましいなー」「ほっほっほっ。お姉ちゃんと、本当の姉妹になるかい? うちの子におなり~」 変な勧誘、しないでよ。「それはそうと、バーシムレさん」「改まってなんでしょう、アユムさん」「ボク、バーシのオカルト趣味に付き合って、教会行ったよね?」 電話じ
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第三十七話 九月二十五日(月) 猫耳少女青春日記

「あたし、姉貴失格かな~」 いつもの朝の散歩中、不意にククがそう切り出した。「ほんとなら、あたしがシャロンのこと、解決してやらなきゃならなかったじゃん? でも、何も出来なくてさ」 ため息を吐く、彼女。「ため息を吐くと、幸せが逃げるよー? ボクだって、おじいちゃんがいなかったら、きっと何も出来なかったもの。おじいちゃんぐらいの年の功があって、初めて解決できたんだと思うよ?」「んー……」 納得いってない様子だ。「シャロンが、今までグレたりしなかったのは、絶対ククの存在のおかげだと思う。ククがいなかったら、シャロン、今まであの程度じゃすまなかったよ、きっと」「そっかなー?」 うんうんと、力強く頷く。「それにさ、真っ先に食事の話もらったの、ククでしょ。やっぱり、一番信頼されてるんだよ」 ボクがお礼の言葉をもらったのは、こちらから電話したからだけど、シャロンも今、色々ぐちゃぐちゃしてて、気が回らなかったんだと思う。でも、ククへのお礼だけは忘れなかった。強い絆だ。「そっかー。うん、少し自信出てきた。あんがとな!」「どういたしまして」「そういえば、結局昨日、行けなくてゴメンな! なんだかんだで、ウチ飯になっちゃってさ」「気にしないで。気が向いたときでいいから、ほんとに」 どうも、ククはこれで結構、気を使いすぎるきらいがある。「ククさ、友達になった日、『年上だからって変に気を使わなくていい』って言ってたよね。それ、ボクらも同じだから。あんまり気負いすぎないほうがいいよ」「そんなに、変に気ィ使ってるか、あたし?」 少し、首を傾げて思案。「変ってほどじゃないけど、やっぱ、『みんなのお姉さんであろう』ってのを感じるかな。バーシぐらい、お気楽極楽でいいと思うよ」「ありゃ、お気楽極楽ってレベルじゃないと思うけどな」 教会で、はしゃぎながらシャッターを切っていた姿を思い出す。ククも、思い出していることでしょう。「まー、ものの例え! ククも、もっと気楽にね!」「あんがとな。アユムと話してると、何か気が休まるわ。ほんとは、あたしがそういう役どころじゃないと、いけねーんだろうけど」「ほら、言ったそばから」 ククが、あっという顔になる。「ほんとだな。自分じゃ、気づかないもんだ」 また、ため息。「幸せが逃げますよー。ほどほどに、ね」
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第三十八話 九月二十五日(月) 十%

 今日も、帰宅後お店が混雑していたので、ウェイトレスとして出陣。 ふー、働いたー!「お父さん。土曜に、プールみんなと行くんだけどね、バーシんとこで水着買っていい? 近く仕入れるんだって」 店から上る途中、厨房でお父さんに話しかける。 さすがのボクも、スクール水着でレジャープールには行きたくない。体も成長期で、去年のは、もうきついし。「そうだなー。今日もよく働いてくれたし、いいよ」 炒め物を作りながら、快諾してくれる。「やった! じゃあ、バーシんちが仕入れたら、お願いね!」 北国ラドネスブルグでは、海水浴の風習が夏でもなくて、泳ぐときはもっぱら温水プールなんだけど、今まで泳ぐ機会といえば、かなり遠くのプールに行くか、あとは市営プールと学校ぐらいだった。 なもんで、バーシの店でも水着を本格的には扱ってなかったんだけど、隣の市に新しくプールが出来たとなれば、話は変わってくる。遅くても金曜には、いい感じのを多数仕入れられるらしい。 結構ギリギリだけど、みんな親と交渉する時間があるということで。「ハーちゃーん」「なーに?」 RPGで、プチプチレベル上げ中のマイシスターが、こちらを振り向く。「土曜、ボクらプール行くんだけど、一緒にどう? 隣の市にできたんだよ」「なにそれ、行きたい! あ、でも水着……」 肝心のものがなくて、しゅんとする彼女。ハーちゃんの水着も、もう去年のは入らないはずだ「お父さんたちと、交渉だね。ボクも口添えするから」「ありがとー!」 お日様笑顔を向けてくる。「フーちゃんも誘ってね」「うん!」 とりあえず、もう変な嫉妬はしてないようだ。そういえば、足を踏んづけたことは、あのあと謝ってもらってます。「アユムちゃん。あんまりその、お色気な水着、着ないでよ?」「着ないよー。そんなの、ボクの趣味じゃないし」 心配そうに口出ししてくるおばあちゃんの言葉に、肩をすくめる。 スクール水着を着ていくほど、無頓着じゃないけど、やたら布面積の少ないセパレートなんて、それはそれで嫌だ。「お、アユム。プール行くのか。オレらも行こうかね、マエへさん?」「おじいちゃん、それだけは勘弁して。お願い」 友達同士でプール行こうってのに、保護者同伴はキツイお年頃です。 おじいちゃん、むう、と黙り込んでしまいました。こっちは、ふう、だよ。
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第三十九話 九月二十六日(火) ふわとろシャロン

「えへへ~。昨日はママと一緒にお風呂入ってっすね、同じベッドで寝たんす! こう、気持ちが、ぽわぽわするっす~」 ほんとに、ぽわぽわと体を揺らしてるシャロン。 現在、お昼休み中で、彼女の机に集まっています。 シャロンが照れることもなく、こういった甘え直し体験談を語ってくれるというのは、ボクらが決してそれをバカにしたり、否定したりしないという信頼を得ている証拠だ。 彼女の信頼は、絶対裏切らない。神様に誓って。 幸い、周囲にもシャロンの陰口を叩くような人はおらず、めいめい、おしゃべりや読書中。 いい学校だな。「良かったな~、シャロン~」 ククが、頭をよしよしとなでると、更にとろける。なんかもう、ほんと先祖返りモード。幸せそうで何より。「ところで、部活、どうする?」 一応の部長として、皆に問う。教会の掃除は、しばらく必要ないだろうし、ほかにもいろいろと、助けを必要としている人は、いるはずだ。「んー……。ぱっと思いつくのは、ゴミ拾いだけど」 バーシが顎に指を当てて、つぶやく。「あたしは、児童館で、ちびっこと遊びてーかなー?」 結成時も、それやりたいって言ってたもんね、クク。「シャロンは?」「え~? 幸せすぎて、なんも思いつかないっす~。強いていえば、この幸せを、みんなにも分けてあげたいっすね~」 なんかもう、そのへんに、またたび転がってない? でも、幸せを分け与えるか。いいことだね!「じゃあ、児童館にしようか?」 バーシも賛成に回り、水曜のプランが決まりました!「木曜日はどうする?」 三人を見回す。「んー、じゃあ、そっちはゴミ拾いすっか! なあ、バーシ?」「ですなあ。私が言い出しっぺだもんね。それでいこう」「シャロンは、どう?」「なんでもOKっす~」 なんかもう、頭をなでられて、うっとり目を細めている様は、まさに猫。ほんとに、またたびでも落ちてるんじゃないかと、足元を見てしまう。「じゃあ、ネコザキ先生に、その路線で相談してくるね。三人は、ゆっくりしてて」「よろ~」 バーシたちに見送られ、職員室へ。先生、例によって緑茶を飲んでました。 四人でまとめた話を伝えると、児童館に関しては、手配しておきます、とのこと。ただ、ゴミ拾いに関してはトングが貸し出せないので、各自で用意してほしいと言われました。 戻って、そ
last updateLast Updated : 2026-07-10
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第四十話 九月二十六日(火) 愛しのカツ丼!

「ただいまー」「おお、おかえり。疲れてなければ、またヤマト街行こうと思うんだけど、どうかな?」 今日は定休日。お父さんが、わくわくしながら提案してきます。「行けるよー。あ、おじいちゃん。お釣り」 お父さんと、例によってチェスで対戦中のおじいちゃんに、お釣りを渡す。「おう。いい地図、あったかい?」「うん、こんなの」 地図を見せる。「へー。こりゃ立派そうだねェ」「俺らも行きたいねー」「別の日にしてね?」 念を押しておく。「そうですよ、アルクさん。アユムたちも、お年頃なんですから」 お母さんも、念を押す。「そーだよ、お父さん! 私たちと一緒に来ようとか、やめてよね!」 ハーちゃんも、念押し。「わかってるよー。三人揃って、そんな圧かけなくても。俺、どんだけ鈍感だと思われてんの?」 お父さん、たじたじ。 おじいちゃん、笑ってるけど、最初にそれしようとしたの、おじいちゃんだからね?「おほん、それはさておき。アユム、着替えてきたら、行こうか」「うん。でも、シャワー浴びていい?」「いいよ~。じゃあ、親父を詰ませるかー」「お。小癪な。負けんぞー」 二人は、再び勝負の世界に入ってしまいました。 あんまり待たすわけにもいかないし、さっさと浴びてこよーっと。  ◆ ◆ ◆  着きました! トラックが五人乗りなので、おじいちゃんは、スクーターで来ています。 ストルバック一家も誘おうと思ったけど、劇を見に行くそうで。残念。「今日は、どこ回るのー?」 頭の後ろで腕組みしながら、のほほんと尋ねる。「あれから、色々調べてるんだけどね。近所では、ヤマト料理のいい資料が手に入らなくて。こっちに来れば、いい料理本があるかなーってのが、ひとつ。もう一つは、実際にどこかで、食事してみたくてね」 お父さんが、振り向きながら方針を語る。なるほど。「まず、書店を探したいね。料理本もそうだけど、この辺のガイドブックが欲しい」 というわけで、道を訪ねながら、本屋探し。あちこち回って、ありましたー! 中に入ると、色々と珍しい本が。あ、ヤマトの漫画!? ラドネスブルグ向けに、翻訳されてる。日本風な絵柄、なつかしー。一冊、買っていこう。どれにしようかな? 漫画に目移りしていると、お父さんたちは目的の本を手に入れてしまったようで、「アユムー? 行くよー?」
last updateLast Updated : 2026-07-10
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