All Chapters of 『裏切者は赦さない。愚かな奴らを一刀両断、追い込みをかける』── 陰謀 ──: Chapter 1 - Chapter 10

28 Chapters

1 ◇婚約者

       俺《北尾二輝》には学生時代から交際している婚約者がいる。 学生時代から3年間付き合って、社会人2年めの秋に 佐倉愛結《さくらあゆ》と婚約した。 それが昨年のこと。 1年以内には結婚することになっている。 婚約者の愛結は、見た目は気が強そうに見えるが、天真爛漫でおしとやか なところもあり物怖じしない子で、思い遣りのあるいい子だ。 一緒にいて飽きないし、気を張ることもなく寛げるそんな存在で。 学生時代に一生を共にする結婚相手に出会えるなんて、なかなか幸運な ことではなかったかと、しみじ思っている。  出会った頃は若くまだ学生だったため、収入や職業といった条件で 相手を選んだわけでもなく……。 持てるもののほとんどない俺たちは、お互いの情熱と想い合う気持ち だけを支えに、一途に相手を求め合い恋人同士になった。  愛結と出会ったことで学生生活は更に輝きを増し、俺は思いっきり青春を 謳歌した。 仕事も順調で俺の周り全てに調和が取れていて、順風満帆だった。 俺はこの先も今と同じくらいのキラキラした幸せが続いていくものと 信じていた。  そんなある日のこと、親友の谷村涼が付き合っている彼女、桜木希樹から 一度親友抜きでふたりで会ってほしいという連絡が入った。 親友の谷村涼と桜木希樹たちも婚約していて、結婚を間近に控えていた。 大学の2回生になった頃から、谷村と桜木が先に付き合っていた。 谷村たちがデートする時に何度か奴に付いて行ったのが俺で、桜木に 付いて来ていたのが佐倉だった。 ベタな出会いだったけど、こんな形で佐倉と出会えたことを本当に ラッキーだったと、ずっと思ってきた。  ◇ ◇ ◇ ◇ 桜木希樹が待ち合わせに指定してきた店は、俺たちが一度も 使ったことのないコーヒーショップだった。 しかし、それにしても何故にこの店なんだと、外観を見て俺は息を呑む。 古民家というより、ただただ古い一軒家で、普通に歩いていてもここが コーヒーショップだとは大概の人間は思わないだろう。 中に入ると、長細く四角いだけのシンプルな形状のカウンターの中で、 60代から70代くらいの女性がひとりで店を切り盛りしていた。 女性の髪の毛はきっち
last updateLast Updated : 2026-07-10
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2 ◇女子は前振りから話さないと結論に辿り着けない

「たぶん、結論を早く話せよって男子の二輝は思うとおもうけど、 こういう時、女子はその前振りから話さないとすっきりしないものなの。 こういった男女間の考え方の差で、イラっとくるかもしれないけどこの際、 我慢してもらって話させてもらうね」  俺はその言葉に軽く頷いたのみで、言葉は発しなかった。 なので、自分の言い分を受け入れてもらえたと思ったのか希樹は、 少しほっとしたようだった。 どう切り出そうか最初の切り出し方にすごく頭を悩ませてる風の 希樹が、待っていると、漸《ようよ》う話し始めた。 「私が最初に違和感を覚えたのが、あっ、涼に対してね。  そう、あれは夏頃だったかな……。 私たち、春に婚約したばかりだったし気の迷いじゃないかって 何度も自分に言い聞かせてたんだけど。 何て言うんだろう、20才の頃から付き合い始めて4年余り。 そんな中で昨年の春頃、婚約したんだけど。 それからしばらくして、涼との距離がどんどん離れていくっていうか、 遠くに感じるようになっていって、何かがおかしいって思うようになったの。    婚約したんだから逆じゃないのって。  本当なら、距離がもっと近くなってもいいはずなのに。  そんな風に思い始めたら、涼との付き合いに疑問が湧いてきたの。    私自身どこも変わってないはず。  なら涼のほうが変わったってことになるじゃない?   そうなの。  涼がね、前ほど私のことを見てないっていうことに気が付いちゃったの。  見てもないし、気持ちが私に向いてないっていうか。 ねぇ、あなたたちはどう? 私たちより少し後に婚約したあなたたちの関係は今、どんな 感じなのかな?  自分たちの関係が上手くいってないからって、どーしてここで 俺らの付き合いが関わってくるのだろう? 不思議に思いながらも俺は希樹に答えた。「う~ん、Love Love ?」  笑いながらおどけて言った。 そんな俺に希樹は笑いで返さず、尚も食い下がった。「ほんとにほんと? 順調なのね?」「まっ、ね!」  「そっか……」 希樹は大きなため息をついた。 ため息をついた希樹の表情はそのあと、苦しそうなモノへと変化 していき、その目には涙さえ溜まっていた。  そしてこのあと、訝《いぶか》しむ俺の前で彼女はとんでもな
last updateLast Updated : 2026-07-10
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3 ◇待てい~っ。女は結論を急がない生き物だって言ってなかったっけ?

  「まっ、待てい~っ。いまさっき、女は結論を急がない生き物だって お前言ったじゃんか! それなのに、いきなり投下すんのかよ」 俺は希樹の矛盾した遣り方に文句を言った。*「ハッ! 証拠でもあんの?  いきなり心臓に悪いわ、そういうこと」「ごめん、そうだよね。  何も知らなくて今知らされた二輝にしてみればそうよね。 最初から順を追って話すつもりだったのに。  何だか暢気そうで幸せそうにしてる二輝を見ていたら、いきなり 核心を投下したくなったの」 「え~と、今日って何日だっけ?  エイプリルフールじゃないし……。  今日って、なに、俺を驚かす日なのか?」 「ね、気持ちを強くして、これ見てくれる?」  そう言って希樹がバッグから写真を取り出した。  そしてそれを俺に手渡してきた。 その写真を見て、俺は固まった。 『こう見えて、俺って心臓弱いんだって~。  んとに、なにしてくれてるんだよ』    バクバク鳴り出した俺の弱っちぃ心臓。 その写真には男と女のキスシーンが鮮明に映し出されていて、   それは紛れもなく、涼と愛結だった。「ははっ、うそだろ?  俺と愛結は、4か月前に婚約したばっかなのに」   血の気が引くという言葉を知ってはいたが、まさかそれを 自分が経験するとは……。  たかが写真1枚、されど写真1枚。  この1枚には大きな破壊力があった。 俺はしばらくの間、その1枚の写真から目が離せなかった。  嘘だろ、嘘だろ、こんなことあるはずない。 希樹、嘘だと言ってくれ、嘘だと……。 涙目で呆けたように見ているだけの俺に、しばらく黙っていた 希樹が、話し掛けてきた。  「女の第六感っていうのかなぁ。  一度涼にひっかかりを覚えてから気持ちが落ち着かなくなって しまって……。 私、思い切って興信所に涼の調査を頼んだの」
last updateLast Updated : 2026-07-10
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4 ◇まだふたりは深い仲ではない

「あのね、ふたりは寝てない。 まだね、たぶん。 今のところはってことね。 興信所に調べてもらったけど、これ以上の証拠は取れなかったの。 キスしてただけ? ってことになるけど、問題はたかがキスだけっていうところじゃなくて、涼と愛結の関係性が問題よね。 涼は親友のあなたの婚約者とキスをし、愛結は友達である私の婚約者と、そして婚約者であるあなたの親友とキスをした。 私はキスだけのことっていうふうにはどうしても思えないの。 このままだと、もしほんとにこれ以上の関係が今はないとしても、この先これ以上に発展する可能性は充分あるんじゃないかと思ってるの。 さて、この先は? て考えてたら、あなたの顔が浮かんだってわけ。 あなたも今は知らなくても、この先無関係ではいられないでしょ? だからまずは涼に突撃するんじゃなくて、あなたに話を聞いてもらったほうがいいかと思って」 ずっと固まってるだけの俺に、希樹は言った。「ねぇ、聞いてる?」「えっ、あぁ聞いてる。 ちゃんと証拠の写真もあって見てるけど、正直いって頭っていうか気持ちが付いていかないっていうところだな」「そうよね、そうだよね。 こんな酷いこと、あっちゃぁいけないことだもの。 私、二輝に写真を見てもらって話を聞いてもらうまでのこの3か月間、毎日すっごく苦しかったわ。 何食わぬ顔をしている涼と、会っている時も会わないで独りでいる時も、ずっとずっと苦しかった」「なぁ、ひとつ聞いていいかな? 3か月前にわかったことを何で今なんだ? 何で今頃になって俺に言ってきたの?」
last updateLast Updated : 2026-07-10
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5 ◇決心

「うん、そうだよね。  あのね、私、涼を失うのがすっごく怖かったんだと思う。  だから涼にも誰にも言えず、自分の中だけでこの問題を抱えて きたんだと思う」 「……っていうことは」「うんっ、やっと涼を手放す決心がついたんだ、私。  決心するのに3か月もかかったよ」 「そっか。なぁ、もし涼が謝ってきて、ただの出来心だから 許してほしいって言ってきたらどーすんの?」 「わからない、そういうの考えてなかったから。  だけど、こんなことしておいて謝ったりするもの?    普通考えたら謝って済むようなことじゃないと思うんだけどね。 ねぇ二輝、じゃぁ逆に聞くけど、愛結が謝ってきたら許せる? 許してこのまま婚約したまま、結婚するの?  できるの?」「参ったな、質問を質問で返してきたか。  どうだろうね。 希樹の言う通り、謝って済ませられるようなことではないからなぁ~、 どうしたもんだろ! 今しがた知った俺にお時間ください? っていう感じだわ」          ◇ ◇ ◇ ◇  この日の話は、こんな感じの話し合いで終わった。 希樹は許せるようなことじゃない、手放す決心がついた…… とも言ってたが、涼と別れるとはひと言も言わなかった。 手放すという言葉が出ているのだから最終的には別れも 有りと考えてはいるのだろうが。 ……ということは、俺にふたりの関係を知らしめることで奴らの関係を これ以上発展させないようにするための抑止力として、俺という駒を 動かしたかったのか? いろいろ考える中で、そんなことを思ったりした。 本当のところ希樹は涼とのこと、どうするつもりなんだろう、 どうしたいのだろう。  今日の様子からだけでは、何とも推し量りようもないというか……。  俺自身の気持ちだって定まらないような状況だからなぁ~。 ショックだけど、まだ実感が湧かないんだよな。 愛結がこんなに頭も緩く、お股も緩い子だったとは。  ……ってまだキス止まりじゃんか! お股緩いって……俺一体……。  落ち着けぇ~、落ち着けぇ~、とにかく落ち着けっと! ほんと希樹のヤツ、よく3か月もひとりで持ちこたえたよな、こんな状況を。 怪しいと思いつつも興信所から渡された写真を見た時のショックは、 きっと半端無かったろうな、可哀想に。
last updateLast Updated : 2026-07-10
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6 ◇いつから?

 いつからなんだろう? 希樹から見せてもらった写真は9月中に撮られたものだったが。  おそらく涼に対する何らかの不信感を希樹が感じたのが7月に入って間もなくのことだったらしいが、もしかすると── 涼と愛結の付き合いはもっと前からだったのではないだろうか!* 俺は今、出張も頻繁にあり忙しくしていて、平日仕事を終えてから愛結と会うことはかなり難しい状況だ。 そんな中でも、土・日のどちらかには必ず会うようにしている。 昨年の秋に、式場を押さえにふたりで行ってきた。 あと、細々《こまごま》したことで式場に足を延ばさなきゃいけないが、俺たちは今年の挙式に向けていろいろ動いているカップルなのだ。 なのに、俺の親友とキスしてんですかっ、ハッ! 涼と希樹だって、俺たちより半年以上も長い婚約期間を経てこちらも俺たち同様、年内には結婚が決まっいてるはず。 こういう状況でよくまぁやってくれたわ、ほんと。 胸糞の悪い。 件の写真の日付は平日のモノだった。 涼は俺と同じように会社員だがちょっと事情が違う。 親父さんの会社に縁故入社。 ヤツの兄貴がゆくゆくは会社を継ぐらしいが、ヤツだって専務くらいにはなるだろうし、株だって幾らか保有するだろう。   入社した時からただのリーマンの俺とは違い、優遇されていて、残業もあってないようなもの。 ほぼ18時には退社でき、そのあとは深夜まで優雅な独身貴族らしいから好きな時に愛結の都合さえつけば、いくらでも会えるのだろう。  家だって俺の家からより、涼の家からのほうが愛結の家には若干近い。 希樹を差し置いて愛結とのデートとはおそれ入るねぇ~、全く。 この時の俺はまだ、何の結論も出せずにいた。 ただじっとしているだけじゃあ埒が明かねぇ~。 ここは自分の目でふたりの現場を押さえてやろうじゃないかと、そう目論んだ。 ふたりがいるところを……仲良くしているところを……見たその時、自ずと自分の中で何らかの結論が出るだろうと思っている。 どうしようか迷ったが、ふたりの浮気現場押さえの旅に希樹もご招待することにした。『厳しい現実、でもちゃんと直視しないとな』 誰にともなく言葉にしてみたが──今回のことは、相当自分の心にでっかい棘となり、深くずっしりと刺さった。 今でもこんなに痛みを感じ
last updateLast Updated : 2026-07-10
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7 ◇追跡

 希樹が押さえている証拠の写真だけでも、ふたりを問い詰めることは できるが、あれだけでは今もふたりの関係が続いていることを突き詰める には証拠として不十分なんだよな~。 今も進行形で関係が続いていることを暴くには…… はっきりさせるには……奴らの現場を押さえ、証拠取りをするしかない。     平日に仕事を終えてからの尾行は忙しい俺には無理だし、希樹にしても できなくはないとしても翌日の仕事のことを考えると、負担が大きいはず。  それで俺は土・日続けて出張が入り、愛結と会えないという設定で 計画を進めることにし、希樹に翌日この案を打ち明けてみた。  希樹の賛同を得て、俺と彼女は早速次の土・日、涼と愛結のふたりを 尾行することにした。 土・日のどちらかでヤツらの尻尾が掴めればいいと思っていたのだが、 土曜日に早速愛結に動きがあったため、俺はすぐに希樹に連絡をした。   愛結が乗っている車には、わざわざ用事を作って平日の夜会いに行き、 彼女の愛車の底面にGPSを取り付けておいた。 なので、追跡途中で見失ったとしても最終目的地は後で必ずわかるので、 追跡していても気持ちに余裕が持てるはず。           ◇ ◇ ◇ ◇  希樹にはどの辺りに向かっているのか逐一連絡を入れつつ、 俺は愛結の後を追跡した。 追跡しながら果たしてヤツらは今回会ってどうするのだろう?  キス止まりで済むのだろうか? そんなことを考えていた。 今頃、希樹はどんなことを考えながら車を走らせているだろうか! 街中ではなく山の方へ向かっているので、たぶんあの辺ではないかと 推測することができる。 希樹にもだいたい自分の推測している場所辺りで集合な ……と再度連絡を入れておいた。 予想通り愛結の車は六甲山牧場の辺りで動きが止まった。 10分後、希樹と俺も愛結の止めてある場所から少し離れた 場所で合流した。「残念だけど、やっぱり愛結と涼は会うつもりのようだね」と 希樹は言った。 「たぶんそうだと思うけど、愛結の会う相手が涼だとはまだ確定してないよ。 ……まだね」と、そんなふうに返した俺。
last updateLast Updated : 2026-07-12
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8 ◇悲しきビンゴ

  「こんな寒い季節にこんな山で会うなんて、相手が女子だと思う? 暖かい季節なら家族連れでひつじを見に来るっていうのもありだけど。 後は、お見合いとかでこの近くにある宿泊施設のラウンジを使うって いうのもあるけど……って、実は私の友達のお姉さんが今話したラウンジで お見合いしたことがあるの」 「その友達のお姉さんどうなったの?  上手くいった?」 「ううん、お互い好みじゃなかったみたいで、駄目だったみたい。  でも、友達のお姉さんはそのあと、社内恋愛で結婚したわ」  愛結の待ち人を待っている間、希樹と俺は他愛のない話をしながら 時間を潰した。 そして……キターッ! 俺も希樹もよく見知った車が愛結の車の隣にユルユルと滑り込んできた。 「やっぱり私の言った通り、ビンゴだったね!」「あぁ、残念だけどそうみたいだな」  遠目に見ていると── 愛結があとから来た涼を確認するとすぐに、自分の車より大きめの涼の車に 乗り込むのが見えた。 今からイチャイチャタイムのはじまりか!  俺たちも車に乗り込み、気づかれないよう慎重に愛結たちの様子が 見える場所へと車を移動させた。 望遠カメラでふたりの『いけないシーン』を撮るために。  ふたりの抱擁なりキスなり、とにかくスキンシップが始まったら 自分は撮影しまくるので、希樹にはふたりの乗っている車に向かって ほしいと指示を出した。 そして、ふたりの前に姿を出すタイミングは希樹に任せるからと 話した。 もちろん、俺もすぐに希樹のあとを追うつもりではいるが、撮影 を終わらせるタイミングとヤツらふたりの目の前に現れて首根っ子を 押さえるタイミングが難しいと感じた。  まぁ、シラを切ってもすでに動かぬ証拠は撮ってあるので、さほど大きな 問題ではないかもしれないが──できれば、今見てたんだぞっ、と知らしめることで、相手にできるだけ大きな 負のインパクトを与えたいと考えたのだった。 望遠カメラはコンパクトなものを選んだけれど、それでもずっと持ち続けるのは 流石に疲れるだろうと、固定機材も併せて持参した。 設定OKっと。 性能の良いのを選んできたからさぞかし素敵な写真が撮れるだろう!「あっ、動きがあったわ!」  俺はそう言うや否や早速撮影を開始した。 「じゃ、あっちの車
last updateLast Updated : 2026-07-13
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9 ◇頑張るっ

「大丈夫じゃないけど、ここっていうやるべきときにはできる子にならないとね。  自分の一生に関わってくることだし。  ぐわんばる」「OK~。 俺もあと少し撮れたらすぐに行くよ、頼んだね。 出て行くタイミングじゃないと思ったら、俺の行くまで そのまま待っててもいいから」「うんっ、わかった……じゃ」   希樹は俺の車からスルリと出て行った。 しゃべっている間にもすでに5~6枚は撮れただろうか。 追加で2枚撮り、俺も希樹に続いてヤツらの車に向かった。    まだ希樹が出張ってなかったので、ふたりでヤツらの目の前に出て行った。 キスのあとも身体のアチコチに触れ合いながら、ヤツらは 自分たちの行為に耽っている。 このまま放っておいたら最後までいたしていただろうか。 狭い場所だがなぁ、などとそんなアフォなことを考えていたのだが。 俺たちはもうすでにここまでの行為で充分裏切り行為と認識 していたこともあり――――それ以上の時間を置かず、外からガンガン窓を叩き、俺たちがここに居て 見ていたということをヤツらに知らしめることにした。 俺と希樹の存在に気付いた瞬間のヤツらの顔ときたら。  信じられないものでも見たように目を見開き、唖然としている。『どうしてここにいる?』 そんな声が聞こえてきそうなほどの狼狽ぶりだった。  やがて現実を受け入れた涼が、車から降りて来た。「そこのショップで話そうぜ」と俺が言うと「わかった」と涼がひと言。    涼が車の中の愛結に声をかけ、一同で近くのショップに入った。            ◇ ◇ ◇ ◇  ショップは、見た目外装が茶系。 ばりばりモダンで見栄えが良く── 外壁ガラス面積が広くてブルーのドア、入り口には両脇に観葉植物が置いてある。 なのに中の様子が先だって希樹と話をした古びた一軒家のコーヒーショップに ほぼほぼ類似していて笑いそうになった。 カーテン、テーブル、藤椅子、そして椅子に鎮座している座布団、装飾の類も よく似ている。 違ったのはここにはピアノがあることか! 目の前のふたりが座る背後の店内の内装を見ながら俺は、 ふたりへの詰問を始めた。「どういうことかな、おふたりさん」
last updateLast Updated : 2026-07-14
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10. ◇嘘つきたち

「すまない……つい」「つい? ついっていう関係なのか? 涼。 つい、で親友の彼女と逢引したり──愛結、つい、で婚約者の親友とキスしたり抱き合ったりするのか?  そんなのは、普通の理性のある人間のすることじゃないだろ」「二輝、私たち会ってただけだよ?   キスとかしてない。  ほんとよ。ねぇ、涼?」「……」 その愛結の白々しい言い訳に、我慢ならなくなったのか、希樹が とうとう口を開いた。 「嘘つきっ!  人の婚約者とこそこそ密会してるだけじゃなくて嘘まで平気で つけるなんて、愛結、酷すぎる。  いつからそんな人でなしになっちゃったのよ」 「希樹、嘘じゃない、ほんとよ。  相談事があって会ってただけなんだって、信じて。  私は友達を裏切ったり、婚約者を騙したりなんてしない。 涼、黙ってないで何とか言って。  私たち有らぬ疑い持たれてるんだからぁ」「あぁ、希樹、俺は愛結から相談があるからって言われて、今日は ここに来てただけなんだ」  涼は愛結に促されて同じように嘘の言い訳を始めたが、それは愛結のように 本心から俺たちを何とか説得させようと画策しているというのではなくて、俺 たちが信じないと分かっていながら……という感じの言い訳に見えた。  性質が悪いのは愛結だった。    ここにきてもシラを切り通そうとするムカつく女に── 俺の婚約者は成り下がってしまったようだ。   そして、俺と希樹が口を噤んでいることをこれ幸いと、彼女は形勢逆転に 持ち込もうとするかのような勢いで更に言い訳を重ねた。          ◇ ◇ ◇ ◇ 「婚約者だからこそ、身近な人だからこそ、話しにくいこともあるのよ。  涼くんならちょうど距離感がよかったの。 だから、会社での対人関係や仕事のことなんかを相談してたのよ。  私たちは昔からの知り合いでしょ?  婚約者がいるからって友達に相談事もしちゃあいけないって言うの?  そんなのおかしいよ!」 流石にお前の相談相手の涼くんも視線を泳がせて戸惑いを隠せないような 顔をしてるぜ、あーゆ《愛結》! よくもまぁ自分の行いを棚に上げて、こんなことを吼えるもんだと 呆れながら聞いていた俺と希樹は、思わず顔を見合わせた。
last updateLast Updated : 2026-07-15
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