All Chapters of 迷宮プロレス道 ~伝説のおっさんレスラー、ダンジョン配信で無双する~: Chapter 101 - Chapter 110

147 Chapters

第101話 鹿折ダンジョン 第9層 決着

「読みどおりだと? 華々しく負けたかったと、そう願っていたのかい?」「ハッ! 誰が負けるつもりでリングに上がるんだよバカヤロー……!」 クロガネが息も絶え絶えに憎まれ口を叩く。 猪之崎にはこれが負け惜しみにしか思えない。 完全に極まった卍固めから脱出する手段は存在しないのだ。 どんなにあがこうと、クロガネがこの窮地を逃れる術はない。「いよいよボケてきたんじゃねえのか? 大事なことを忘れてるぜ……!」 観客席がどよめいている。 異常を察知した猪之崎が視線を上げる。 どよめきの原因はコーナーポストに立つ人影。 血化粧を施した少女の姿。「オーホッホッホッ! デスプリンセス魔姫! 魔界の底から遊びに来たわっ!」 トップロープを揺らしながら、両手を高らかに掲げ、手拍子を始める。 どよめきが次第に歓声に変わり、手拍子が津波の如く会場に満ちていく。 会場が、コメント欄が、魔姫コールで一色に染まっていく。『なんとすさまじいコールでしょう……ッッ! アナウンスがかき消されるほどの大音響ッッ! 手拍子の弾幕ッッ! 魔界商店街のご令嬢ッッ! デスプリンセス魔姫の参戦に場内のボルテージは一気に最高潮だッッ!!』「くっ、マズい……!」 ソラの飛び技のキレは先ほどのドラゴン・ラナで知っている。 返し技で対応したが、まともに受ければただでは済まない。 卍固めを解いて備えようとするが、なぜか身体の自由がきかない。「けけけっ! 離さねえぜ、妖怪親父……!」 クロガネが不敵に嗤う。 関節技を極められながら、あえてその関節を固め、筋肉をバルクアップさせて猪之崎の動きを封じているのだ。云わば、筋肉の拘束具。130kg超えの肉塊が猪之崎の動きを封じていた。 卍固めは複雑に関節を絡ませる技。 かけることも困難だが、解くこともまた難しい。 技をかけられた側が、反対にかけた側を囚えることが可能なほどに。 逆卍固めとでも呼ぶべき自爆技が、猪之崎を拘束していたのだ。「これが狙いか!」「ああ、そのとおりだよ。だが、いまさら気づいても手遅れだぜ……!」 大歓声。 それを一身に浴びて、少女が天高く舞う。 伸ばされた両足が、猛禽の嘴の如く猪之崎を首をロックする。 同時にクロガネが猪之崎を解放。 旋回するソ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第102話 鹿折ダンジョン第1層 <東北迷宮銀行本店>再び

■鹿折ダンジョン第1層 <東北迷宮銀行本店>「お疲れ様でした。依頼の品は見つかりましたかな?」「ああ、これだろ。ちゃんと持ってきたぜ」 コーヒーカップを並べる二足歩行のウサギ<プーカ>の前に、クロガネは金色の小枝を差し出す。 シナモンスティックにも似たそれは、<プーカ>から依頼された<生命の樹の枝>だった。 宝箱には罠が仕掛けられていたが、中身はちゃんと入っていたのだ。 第9層には第1層へ直通する片道のエレベーターが設置されていたので、それを使って戻ってきたというわけだ。これもお約束満載のダンジョンにふさわしい設計と言えるだろう。「おお、ありがたい! ちょうど切らしていましてね」「そんな貴重品なのか、それ?」 クロガネの目には、金箔を貼った棒切れにしか見えない。 持った感じも軽いし、中身まで金ということはないだろう。 また、仮に純金だったとしても1億の融資枠の担保としては到底釣り合わない。「ははは、これはですね、こう使うのですよ」<プーカ>は懐から取り出したハンカチで金の小枝を軽く拭うと、それを使ってコーヒーを2回、3回とかき回した。 それから鼻をひくつかせ、一口すする。「ふむ、この香りですね。まるで果樹園を吹き抜ける一迅のそよ風を思わせる爽やかで遠慮深い、それでいてどこまでも奥行きのある芳醇な香り。小生のコーヒーにはこれが欠かせませんで。おお、これは失礼。つい夢中になっておりましたな。客人たちもさあ、さあお試しを」 促され、渡された小枝で順番にコーヒーをかき回していく。 一口味わって、3人は顔を見合わせた。「なんか変わったか、これ?」「うーん、気持ち原っぱみたいな匂いがする……気がする」「きっと飲みつけるとわかるのかも……しれませんね」 三人の感想に<プーカ>が肩をすくめる。「残念。しかし、これもまた致し方ないことでございますな。酸味、苦味、旨味、そして香り。コーヒーの好みは人それぞれ、千差万別、蓼食う虫も好き好きですからな。だからこそコーヒーは面白いものと言えまして、たとえばアイラウイスキーなどをひと垂らしするだけでも――」「あー、すまん。時間も遅くなっちまったからな。先に用事を済ませられるとありがたいんだが……」 また長広舌が始まりそうだったので、クロガネが口を挟む。 山間に
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第103話 【レジェンド】WKプロレスリング総合Part209【降臨!!】

【レジェンド】WKプロレスリング総合Part209【降臨!!】1 いつかはバズる名無しさんWKプロレスリングについて語るスレです公式チャンネルttps://xxxxx.maze/s90832/@user-qi3xk4gr7h次スレは >>900 が立てること2 いつかはバズる名無しさん>>1 乙3 いつかはバズる名無しさん>>1 乙だが、ナンバリング間違ってるぞ4 いつかはバズる名無しさん重複も多いししょうがないだろここ数日でスレ消費が激しすぎるんだよw5 いつかはバズる名無しさんむしろこっちは本スレじゃないっていうね6 いつかはバズる名無しさん避難所出来てから混乱したよなあ7 いつかはバズる名無しさんまあ、こっちの方がまったり進行でいいんじゃね?8 いつかはバズる名無しさんうむ、本スレはチャットかよってレベルだしな9 いつかはバズる名無しさん俺なんてタイプ遅いから打ってる間に100進んでたw10 いつかはバズる名無しさん>>9わかる11 いつかはバズる名無しさん>>9わかり味が深い12 いつかはバズる名無しさん>>10わかりみの卍固め13 いつかはバズる名無しさん>>12どういうこと……?14 いつかはバズる名無しさん一度ハマれ抜けれぬ地獄ッ!空前絶後のオクトパスホールドッッ!!関節技の無限地獄ッッッ!!!それが令和の書き込み道だッッッッ!!!!15 いつかはバズる名無しさん掲示板もプロレスだったんだなあ16 いつかはバズる名無しさん>>14 で思い出したけど、コメントでめっちゃ実況してるやついたよなw17 いつかはバズる名無しさん古◯伊知郎みたいなやつかw18 いつかはバズる名無しさんプロレス初心者だから正直あの実況は助かった19 いつかはバズる名無しさんああいうのって何食ったら思いつくのかね?20 いつかはバズる名無しさん卍固めを喰らったら思いつくんじゃね21 いつかはバズる名無しさん強くなりたくば毒も喰らえ!!22 いつかはバズる名無しさんしかし、配信されてホントによかったわ全盛期の猪之崎とクロガネの試合なんて熱すぎんだろ23 いつかはバズる名無しさん超日三羽ガラス vs 猪之崎だもんな結局初代スカイランナーとの試合しか実現しなかったしス
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第104話 闘魂も新たに

 トンテンカン、トンテンカン。 トンカチの軽快な音が夏空に響き渡る。 金槌を振るうのはオーバーオールを着た子豚頭の小人たち――ピギーヘッドだ。「立派な道場に建て直すから、期待するでござるよ」「おう、よろしく頼んだぜ」 なぜか偉そうに胸を張るのはオクだ。 時代劇めいた波模様の着流しに、安全ヘルメットを被った姿が絶妙にマッチしておらず、出来の悪いコスプレでもしているかのようだ。実際、工事には関わってもいないし、単に地上に遊びに来たかっただけなのだが。 なぜピギーヘッドたちが大工仕事に汗を流しているのかというと、地上の建設会社が手一杯なためだった。仙台市の中心でドラゴンが暴れ回ったため、その復旧に忙殺されているのである。いまから予約をしても取りかかれるのは半年以上は先になるだろうと言われてしまった。 鹿折ダンジョンの傷を癒やしに行った<アイナルアラロ>の温泉で、そんなことを愚痴っていたところ、<カマプアア>から「それならオレっちのところから人足を出すか?」と提案されたのだ。ピギーヘッドは手先が器用で小回りがきくため、こういう仕事に向いているらしい。 考えてみれば、ミゼットプロレスの会場として借りた神殿も石造りの見事な建築だったし、木製の住居が多い町並みも素朴ながらしっかりしたものだった。見積もりを聞くと十分に予算内だし、工期も短い。それならばと提案に乗って依頼をしたのである。「ところで師匠は何をしているでござるか?」「見りゃわかんだろ。トレーニングだよ、トレーニング」 クロガネは、工事現場の端で二本の杭を立て、そこにロープを張ってその上でスクワットをしていた。屈伸のたびに揺れて落ちそうになるため、動作はゆっくりだ。回数はなかなか増えないが、その全身はびっしょりと汗で濡れていた。「ずいぶん変わったトレーニングでござるなあ。拙者もやってみるでござるよ」「あっ、馬鹿! 飛び乗るな!」 オクがロープに飛び乗ると、その振動でクロガネが地面に落ちて尻もちをつく。 それを見たオクがロープの上からけらけらと笑った。「この野郎……!」「わっ、悪気はないでござるよ!」 青筋を立てたクロガネに追いかけられ、オクが悲鳴を上げて逃げ回る。「オクさんがいると女性視聴者が増えていいですね」「あれ? これも配信してるの?」「いえ、これは生配信ではなく動画用で
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第105話 比良坂レジャーランド跡ダンジョン

■比良坂レジャーランド跡ダンジョン 大きなアーチに描かれた【比良坂レジャーランド】の文字。 長年の風雨に晒されたためか、もともとはカラフルに彩られていたのであろう文字はすっかり色褪せている。コンクリートも劣化が進み、鉄筋からにじみ出た赤錆が血のように垂れている。「こんにちは、WKプロレスリングチャンネルへようこそ! 本日は県下でも有名な心霊スポット、比良坂レジャーランド跡からお送りします」 そんな物寂しさを醸し出すアーチの前でカメラを構える女は水鏡アカリだ。 レンズの先には二人の男女が立っている。「クロガネさん、今日はどうしてこちらに?」「あー、アレだ。毎日クソ暑いからな。幽霊ってもんがいるんなら涼ませてもらおうってわけだ」「なるほど、肝試しということですね」「ま、そんなとこだな」 話を振られた巨漢――クロガネが質問に答える。 ゆったりとした甚平を着ているが、その下からは隠しきれない筋肉の盛り上がりが見える。どういうわけか一本歯の高下駄を履いており、立ち姿はふらふらとして安定感を欠いていた。「閉園は二十年以上も前ということですが、クロガネさんは何か思い出はありますか?」「ガキの頃に親に連れてこられたな。賑やかなとこだったと思うが……寂しくなっちまったもんだ」 クロガネが細めた目の先には、背の高い雑草で覆われた景色があった。 アーチをくぐるアスファルトの通路も緑の侵食が進んでおり、ろくに手入れが行われていないことがうかがえる。「ソラさんはこちらは初めてですか?」「う、うん」 花柄の浴衣の少女はソラだ。 いつもの元気な様子はなりを潜め、言葉少なにうなずいて落ち着きなくキョロキョロと辺りを見回している。「ひょっとして、ソラさんって霊感のあるタイプですか? アーチの横に立っている子どもが見えるとか。赤いリュックを背負って、風船を持っているんです。寂しげな目でこちらを見ていて……」「ちょっ!? やめて!? そういうのほんっとないから! ゆ、幽霊とか見えないし!」 両手をブンブン振ってアカリの言葉を遮る。 その手首にはやけに大きなシュシュが巻かれている。その下には分厚いパワーアンクルが隠されているのだが、それを見せないなためのソラなりのおしゃれだった。「ひょっとして、そういうの苦手なんですかね?」「
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第106話 比良坂レジャーランド跡ダンジョン ブランコ

 風はねっとりと止まっている。 深く息を吸えば、肺の奥まで緑に染まるような草いきれ。 じっとりと重たく湿った空気を、横に3つ連なったブランコの座板が不規則にかき混ぜていた。「おお、懐かしいな、これ。いつも行列で乗れなかったんだよ」 クロガネの凶相に、子どものような笑みが浮かぶ。 揺れる鎖を、大きな手のひらでガチャリと掴み、その動きを停めた。「ちょっ、クロさん、何してんの!?」 素っ頓狂な声で驚くのはソラだ。 風もなく、無人で揺れるブランコなど、ソラからすれば不気味でしかない。ホラー映画のワンシーンにでもありそうな光景に見えていた。「何ってこともねえがよ。ちょっくら乗ってみようかって思ってな」 クロガネが高下駄の一枚歯をブランコの座板に乗せる。 しかし、なかなか安定しない。下駄の歯に体重を乗せると、座板は逃れるようによじれてしまう。二度、三度と足をかけ直し、ようやく片足が乗った。 しかし、もう片足を乗せようとしても、もうスペースがない。 クロガネの身体が大きすぎるせいだ、子供向けに作られたブランコでは、片足を乗せただけでほとんどいっぱいになってしまった。左右に垂れた鎖を広げて身体をねじ込んでみるが、片足立ちで半身で乗るのが精一杯だった。「師匠、それでどうするつもりなんでござるか?」 ブランコに横乗りするクロガネに、冷たい視線を送るのはオクだ。 わざわざオクが言わずとも、子供用のブランコに、四十路手前の大男が無理やり乗っている姿は滑稽でしかない。「どうするって言われると、まあ、その、別になんてこたぁねえんだが……」 クロガネは気まずげに短髪をぼりぼりと掻く。 懐かしさでつい乗ってみただけで、やりたいことなどは本当に何もないのだ。 照れ隠しに、無理やり身体を左右に振ってブランコを動かしてみる。 赤錆びた鎖がぎちぎちと悲鳴を上げ、ブランコが前後に揺れた。気のせいか、ブランコを支える鉄骨の骨組みも根本からぐらついているようだった。 いや、気のせいではないかもしれない。 もともとは、せいぜい体重40kgにも満たない小学生以下の子どもを3人乗せることを想定して作られているのだ。ひとりだけで130kgを超えるクロガネは、明らかに想定を超える存在である。 そのうえ廃園から20年以上を経ている遊具なのだ。まともに支えられなかったとしても
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第107話 比良坂レジャーランド跡ダンジョン 枯れ尾花

「ふっふっふっ、幽霊の正体見たり枯れ尾花でござるよっ!」 おもむろにオクが駆け出し、クロガネの身体を上って天に舞う。「必殺、天翔十字殺ッッ!!」 十字に組んだ手刀が鎖に絡んだ少女の首を襲う。 これは空中殺法の多いピギープロレス用に、対空技としてオクが開発した新技だ。上方に向けて打撃を放つ、いわば逆フライングクロスチョップである。「ぎゃわー!」 いささか間の抜けた悲鳴。 少女の首がぽーんと外れ、生首が草むらに転がる。 胴体もドサリと地面に落ち、その体の上にバランスを崩したクロガネの巨体が倒れかかった。「ぐえー!」 頭部を失った胴体からも間の抜けた悲鳴が上がる。 一拍置いて、ぼふんと白い煙に包まれたかと思うと、少女の正体はけむくらじゃらの獣へと変化していた。焦げ茶色の体毛にもこもこと覆われ、目の周りは黒い毛で縁取られている。 愛嬌のあるその顔は――「あー! タヌキじゃん! ちょっと、クロさん! かわいそうだからどいて!」「おっ、おう?」 ソラに言われ、クロガネは慌てて身を起こす。 下敷きにしていたものを確認すると、それはたしかに目を回したタヌキだった。「こちらも捕らえたでござるよ」「こらっ! 幽霊に物理攻撃は反則じゃろがいっ!」 オクの腕には、少女の生首が抱えられていた。 蒼白な顔色だが、口調は極めて威勢がいい。「反則も何も、お主もモンスターでござろうよ。ダンジョンで行き逢えば仕合うのが必然でござろう」「おんしはそうかもしれんが、わしらはそういうのじゃないんじゃい! おまんはアレか! お化け屋敷でも演者に殴りかかるごんたくれか! ほんっにしょーもないやっちゃのう!」 生首はどこのものとのわからぬ方言で怒鳴り散らしている。 しかし、オクはそんな文句もどこ吹く風で、「ふふふ、盛者必衰。弱肉強食。それがダンジョンの武士道でござるよ」などとつぶやきながら生首をこねくり回して遊んでいた。「え、待って? ここってもうダンジョンなの?」 ぐったりしたタヌキを抱え、もふもふと撫でくりまわしながらソラが首を傾げる。「違うんでござるか? 地上よりもずっと魔素が濃いでござるからな。てっきりダンジョンかと思ったのでござるが」「いえ、オクさんの言う通り、ダンジョンであってますよ」 最初のドッキリが済んだ以上、これ以上引っ張るネタでもない
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第108話 比良坂レジャーランド跡ダンジョン 比良坂史※館

 8月の熱気に蒸された草いきれの中を進む。 アスファルトの道は所々がひび割れて、雑草に侵食されていた。道の両脇は森がせり出しており、日差しが陰って昼間だというのに薄暗い。「ねえ、なんか妙に静かじゃない……?」 クロガネの背中に隠れるように歩くソラがつぶやく。 クロガネは少し立ち止まって耳を澄ませた。「言われてみりゃそうだな。外はセミがうるさかったってのに」「ダンジョンだから虫がいない……とか?」「ダンジョンにも虫くらいいるでござるよ。<アイナルアラロ>でも見てござろう」「セミもお化けが怖ええのかもなあ」「ちょっ、クロさんそういうのやめてよ!」 軽口を叩くクロガネを、ソラは指先で小突く。  風もなく、葉擦れの音さえしない森はなんとも異様に感じられた。 クロガネの履く高下駄の足音がやけに甲高く響いていた。「おっ、ひらけた場所に出たぞ」 森が途切れ、ちょっとした広場に出た。 広場の横にはなまこ塀の白い平屋が建っている。 屋根の瓦はあちこちが欠けたりひび割れたりしており、軒下にはかすれて消えかかった木製の看板がかかっていた。 ソラが目をすがめ、看板の文字を読む。「比良坂……史……館……。史料館かな? なんで遊園地に史料館?」 途中の文字が欠落して一部が判読できないが、かろうじて読める部分で史料館という推測をする。「建設中に遺跡が発掘されて、出土したものを収蔵展示していたんだそうですよ」「へー、どんなものが発掘されたんだろ?」 ソラの瞳が好奇心に輝く。 プロレスや格闘技にしか興味がないと誤解されがちだが、ソラの関心の範囲は広い。博物館や美術館などを見て回るのも好きなのだ。 が、せっかく輝いた瞳もすぐに曇る。 入口のガラス扉は年月を経て白く濁っており、中途半端に開いた隙間から覗く内部は薄暗くてよく見通せない。 要するに、いかにも廃墟の心霊スポットという雰囲気を醸し出しているのだった。「そういや、入ったことはなかったな。いっちょう覗いてみるか」 そんなソラをよそに、クロガネがガラス扉を押し開けて中へと入っていく。 ソラの趣味はクロガネもわかっており、気になるのなら寄って行こうという純粋な親心だ。本人としてはサービス精神を発揮したつもりで悪気などないのだが、うしろのソラは完全に顔を引きつらせている。 内部に入ると予想以上
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第109話 比良坂レジャーランド跡ダンジョン JKレスラーは幽霊が怖い

 ソラは幽霊が怖い。 原因は単純で、免疫がないのだ。 ソラは幼くして両親を亡くし、クロガネに引き取られて育った。 まともな大人なら、そんな子どもに幽霊話などできない。亡くなった魂が天国で幸せに暮らしているという話ならばまだしも、恨みで現世をさまよっているなどと思わせてしまったらあまりにも残酷だ。 無神経なクロガネでも、そのあたりの機微は理解していたし、もともと心霊現象などに興味はないので自分からそんな話をすることはない。 そんなわけで、ソラの幽霊に関する認識は、ある日までは幼稚園で読み聞かせられた絵本のお化け程度で止まっていたのだ。 それが崩されたのが、小学校の林間学校だ。 同じキャンプに泊まった同級生が、語り口もあざやかに有名な怪談の数々を語ってみせたのである。最初は興味津々で聞いていたソラだが、理屈の合わない理不尽な話を何度も聞かされるうちに何がなんだかわからなくなり、二泊三日の林間学校を一睡もできずに終わった。 あの話はどういうことなのかと尋ねても、誰一人まともに答えてくれない。 ソラは地頭がいい。わからないことがあればネットや図書館で調べるし、それで答えが出ない問題は自分の頭で整理して理屈をつける。ひとつひとつ、そうやって世界を理解してきたソラにとって、幽霊というものはあまりにも異質すぎた。 その事件から、ソラは自分から幽霊話などを遠ざけるようになった。 しかし、未知というのはかえって恐怖を育てるものだ。ソラの想像の中で、幽霊について様々な仮説が立てられては棄却されていく。いっそオカルト本でも読んでいればよかったのだろう。エーテルであるとか残留思念であるとか、それらしい説明がもっともらしくつけられているのだ。だがどこまでも現実主義者であるソラは、その手の書籍に手を伸ばすこともなかった。 そうして出来上がったのが、心霊現象への免疫ゼロという体質である。 もはや、トラウマと言ってもよいレベルかもしれない。 そのソラが心霊スポットを歩いている。 場所は朽ち果てた史料館。赤錆びた日本刀や鏃、ぼろぼろの甲冑などの展示品。合戦の様子を描いたおどろおどろしい絵巻などが展示されている。「人間はご先祖様の骨を飾るんでござるなあ。ずいぶん悪趣味にござる」 オクのつぶやきが耳に入る。 そう、人骨だ。この史料館には人骨まで展示されている。 刃
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第110話 比良坂レジャーランド跡ダンジョン 亡霊無惨

 ――びゃぁぁぁあああ!? 絶叫。 奇声。 叫喚。 悲鳴と呼ぶにはあまりにも異様な怪音。 それとともに、ソラは背後の足軽に向けて肘打ちを放つ。 甲冑が陥没し、足軽の身体がくの字に曲がる。 下がった頭を振り向きざまに抱え込み、腰を落として一気にリフト。 全身の体重を載せて、脳天から垂直に叩き落とす。 ――垂直落下式DDT フォールにはいかず、即座に解放。 逆さに屹立した足軽を放置し、前方に飛ぶ。 標的を見失った槍が、刀が、金砕棒が空を切る。 亡者が3体。 足軽、足軽、鎧武者。 あるものは片目から眼球がこぼれだし、あるものは片腕をなくし、あるものは無数の弾痕が胸に空いている。 ――びゃぁぁぁあああ!? 怪鳥音。 バク転。 逆立ち。 両手を軸に、独楽のごとく回転して蹴りを放つ。 豪脚が3体の亡者の顎を打抜き、首が180度ねじ曲がる。 ――びゃぁぁぁあああ!? 動く人形はまだまだいた。 ソラの身体が再び反転し、ひねりながら側転を繰り返す。 蹴り、肘、膝、裏拳、踵、鉄槌、足刀、手刀、つま先蹴り。 打撃の竜巻が一打一打確実に亡者を仕留めながら狭い展示室を荒れ狂う。「いきなり何してんだ……?」「ソ、ソラ殿は頭がおかしくなったのでござるか……?」 背後の騒ぎに気が付き、あんぐりと口を開けているのはクロガネとオクだ。 人形が動き出したことを知らない二人からすると、ソラが狂乱して人形を叩き壊しているようにしか見えなかったのだ。 竜巻の狂乱が終わったとき、残ったのは「びゃぁぁああ、びゃぁぁぁあああ」と鳴く少女と、無惨に破壊され地に伏す人形の群れ。 合戦中の様子を模して作られたはずの展示室は、凄絶な合戦後の戦場を思わせる酸鼻極まる空間へと変貌していた。「びゃぁ……びゃぁぁぁぁ……」「お、おい、ソラ? 何があった?」「びゃぁぁぁあああ!?」 心配するクロガネの声も届かず、ソラは部屋の先に向かって走る。 雪駄は脱げており、裸足になっているがそれにも気がついていない。 とにかくこの場から逃れたい一心で駆ける。「カーサカサカサカサカサ! ぶべっ!?」 大きな和傘に人面のついた怪異が一瞬でへし折られる。「ちょうっ、ちょう待つっちよ! ばべえっ!?」 提灯に人面のついた怪異がチョップで真っ二つにされる。「いませーん
last updateLast Updated : 2026-07-13
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