All Chapters of 迷宮プロレス道 ~伝説のおっさんレスラー、ダンジョン配信で無双する~: Chapter 21 - Chapter 30

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第21話 クロガネとソラの事情

「おかえりー……って、ちょっ、クロさんどうしたの!?」 帰宅したクロガネを迎えたのは、ソラの驚く声だった。 驚くのも無理はない。クロガネは包帯で全身ぐるぐる巻きになっていたのだ。「マスクマンじゃなくてミイラ男になってるじゃん」「深手はねえから大丈夫だ。次の興行にゃちゃんと間に合う」「クロさんがそう言うんなら大丈夫なんだろうけど、あんまり無理はしないでね」 エプロン姿のソラが肩をすくめる。 クロガネは小鼻をひくつかせ、玄関まで漂う刺激的な香りに気がついた。「おっ、今日はカレーか。ちょうど腹減ってたんだ。おい、アンタも食ってくだろ?」「えっと、お邪魔でなければ。今日の振り返りや今後の話もしたいですし」 クロガネの巨体の後ろから眼鏡をかけた女がちょこんと顔を出す。 この人が例のカメラマンか、とソラは挨拶をする。「たくさん作ってあるので大丈夫ですよ。はじめまして、風祭ソラです」「はじめまして、水鏡アカリと申します。それではお邪魔させていただきますね」「あ、靴は履いたままでいいぞ」 ソラが先導し、3人は食堂に移動した。  4人がけのテーブルが4つ並んだ広い空間に、カレーの香りが満ちている。「外から見たときも思いましたけど、ずいぶん広いおうちなんですね」 アカリがきょろきょろしながら口を開く。 天井も高く開放感があり、面積以上に広々と感じられた。「道場兼住居だからな。道場生が増えても困らんように、建てるときにはデカく作ったんだ」「えっ、ここってコースケさんの持ち家なんですか?」 「正確には会社の持ちもんだな。そういう意味じゃ、6割がソラのもんで、残りが俺ってことになる」 どういうことだろう、とアカリは首を傾げる。「ちょっと、変な言い方しないでよ。えっと、この建物は株式会社WKプロレスリングの持ち物なんですよ。で、亡くなったお父さんとクロさんが資金を出し合って設立してて、株の持分割合が6対4。あたしが株を相続したから、6割はあたしのもの――っていうのがクロさんの言いたいことです」「あっ、それは立ち入ったことを聞いてしまって……」「いいんですいいんです。もう10年も前のことだし、話を振ったのはクロさんだし」 ソラがにらむと、クロガネは包帯の上からぼりぼりと頭をかいた。「そんなことよりご飯にしましょ。すぐに支度す
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第22話 メキシコでショットガンをぶち込まれたときを思い出す

「ええと、まずはコースケさんの怪我の状態から説明しますね。ご心配でしょうし」 食事を終え、そのまま食堂での打ち合わせとなった。 アカリは黒縁の眼鏡を中指でくいと持ち上げ、タブレットを取り出した。 それに配信のアーカイブ映像を映しながら説明する。「一番の負傷は右肩の裂傷です。ここでサソリ男の尻尾がかすったときですね」 クロガネは包帯の上から右肩をボリボリとかく。「次に全身の刺傷と熱傷。これは尻尾が爆発したときのものですね」「ああ、これはさすがに痛かったな。メキシコでショットガンをぶち込まれたときを思い出したぜ」「は?」 クロガネがとんでもないことをさりげなく口にする。 アカリは思わず固まってしまった。 話が逸れるのを承知で、つい聞き返してしまう。「あの、ショットガンって冗談ですよね?」「冗談じゃねえよ。メキシコに修行に行ったときに八百長を持ちかけられてな。断ったら撃ってきやがったんだ。ったく、ヤクザもんってのはどこの国でもろくなもんじゃねえ」 クロガネが顔をしかめているが、その口ぶりはまるで犬に噛まれた話でもしているようだ。 高レベルの配信者でも、生身で銃を食らって平気でいられるものはそうはいない。 クロガネのタフネスは、ダンジョン基準で考えても明らかに異常だった。「弾はちゃんと抜いたの? あ、メキシコの話じゃなくて、今日の怪我の方ね」「弾ならバッチリ抜けたぜ。肉の中に潜り込むほどじゃなかったからな」「念のため、あとで傷を診るから」「おう、悪いな」 平然とこんなやり取りをするソラも大概だ。 アカリもダンジョン配信に携わって荒事にはかなり慣れたつもりだったが、まさか地上でこんな修羅場を潜っている人間がいるとは思いもよらなかった。「あっ、そういえば弾丸抜きのときに、同接数が2,000を超えましたよ。瞬間風速でしたが、切り抜きも複数作られて、そっちもかなり再生されてます」「キリヌキ?」「視聴者が編集して、見どころをだけをシェアできる機能ですね。例えばこれです」 アカリの指が、タブレットを操作して切り抜き動画をタップする。 そこにはボロボロになったTシャツを着た、血まみれのクロガネが映っている。 サソリ男との死闘が終わった後の映像だ。 画面の中のクロガネは、ボディビルダーのようなポーズで
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第23話 つうか、そのレベルってのが正直ピンときてねえ

「というわけで、怪我をしたクロさんの代わりに、次の配信はあたしが出るからね!」「俺はかまわねえが、配信的にはどうなんだ? いきなり演者が代わるってのは」「一般的には悪手ですが、今回はプラスに働くと思います。ソラさん、美人ですから人気が出ると思いますよ」「えへへ、クロさんより人気になったりして」 三人は食堂で朝食を食べながら今後の話を詰めていた。 昨夜は契約の件ですっかり遅くなってしまい、アカリが泊まっていくことになったのだ。 いずれは寮生を抱えることも視野に入れていたため、空き部屋はいくらでもある。 道場生は兼業で通いの者しかいないので、そっくり部屋が空いているのだ。「でも、大丈夫なんですか? まずは浅層で実力を確認させていただくとして、なんというか……その……特別体格がよいわけでもないですし……」「格闘家にしては小柄だって言いたいんだよね? 自分でもわかってるから遠慮しなくていいよ」 アカリは気まずそうにしているが、ソラは至って平然としている。 ソラの身長は160センチ。体重は60キロにも満たない。 平均的な女性より多少ガッチリしている程度の体格だ。「もしかして、フリーでダンジョンを探索しててすごい高レベルだったりするんですか?」「ううん、まだモンスターを倒したことないから、レベルもないよ」「えっ、それじゃ、なぜそんな自信が?」 クロガネはずずずと味噌汁をすすっている。 野菜と油麩をたっぷり入れた具沢山の味噌汁だ。 じゅわっと汁の染みた油麩はクロガネの好物だった。 よく噛んで飲み込んでから、口を挟む。「ソラなら、あの猪頭やサソリ男じゃなきゃ負けんと思うぞ。人形どもは数次第だが」「猪頭は相性的に厳しいけど、サソリ男ならたぶんイケるって」「そりゃ自信過剰だ」「動画見たけど、アイツの尻尾って腹の下には届かなそうなんだよね。スライディングで潜り込んで、寝技勝負に持ち込めばジャベで決められる自信がある」「ふうむ……」 クロガネは大皿に山盛りにされた肉団子をひとつ頬張り、たっぷり咀嚼して飲み込む。「単純にプレスされたらどうする? 体重は200キロはあったぞ」「それは逆に狙い目かな。体重を利用して、腕ひしぎの要領で足を一本もらって離脱。この繰り返しで足を削ってく。そこはクロさんの作戦と一緒だね」
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第24話 仙台駅前ダンジョン第1層 <神社:参道>

■仙台駅前ダンジョン第1層 <神社:参道> 三人は仙台駅前ダンジョンにいた。 ソラは今日から夏休みで、しばらく学校に行く必要はない。 クロガネが「宿題はやったのか?」などとお節介を焼くが、「夏休みの初日から何言ってんの」と一蹴されていた。そもそも、ソラは学業の成績もよく、心配されるまでもないのだ。 クロガネが勉強に対して口出しするのは、「父親じみたことをしたい」というやや子供じみた父性が源であり、ソラもそれを理解した上で毎度適当にあしらっているのだった。「で、これが例の神社ってやつか」「出店だらけでホントの神社みたい」 眼の前には、朱色に塗られた大きな鳥居がそびえていた。 立派なしめ縄が渡され、それを潜って参道を進む。 参道の左右には以前も見かけたことのあるサハキンすくいの他、クラーケンたこ焼きやクラーケンせんべい、クラーケン焼きそば、クラーケンげそ焼き、オカアンモナイトのつぼ焼き、焼きウツロハマグリなどの屋台が並んでいる。「わー、いい匂い! でもなんか、やけに海鮮推しな気がする」「仙台ダンジョンは海鮮が名物ですからね。気仙沼とか女川の方が有名ですけど。クラーケンが多いのは、大物が狩られたのかもしれないですね」 目移りしているソラに、アカリが説明をする。 昔から住んでいる人間は、案外地元の名物などに関心がないものだ。「何かつまんでいきますか? 4層からとんぼ返りで慌ただしかったですし」「うん、ちょっとお腹に入れときたいな」 一行は<神社>に向かう前に、一度4層に降りてアルキキノコを倒していた。 ソラがレベルを取得するためだ。 アルキキノコであれば3~4体も倒せばレベルが得られると言われている。 しかし、無駄足を踏まないよう念を入れて10体ほど狩っていた。 軽い運動程度ではあったが、ソラは小腹が空いていたのだ。「匂いはうまそうだが、こんなの食って大丈夫なのか? 魔物なんだろ?」「ゲテモノって嫌う人も多いですけど、味はおいしいですよ。ただ、ダンジョン内は観光地価格なんで、地上のスーパーとかで買った方がお手頃ですね。クロガネさんも食べてみます?」 クロガネは眉をひそめ、ボリボリと頭をかく。 海外での武者修行生活の際、得体の知れないものを食わされて腹を壊した経験は一度や二度ではない。はじ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第25話 仙台駅前ダンジョン第1層 <神社:拝殿>

■仙台駅前ダンジョン第1層 <神社:拝殿> 参道を進んでいくと、さすがに屋台もなくなっていく。 敷き詰められた玉砂利の中央に伸びる石畳の突き当りに拝殿がある。 拝殿の正面には縄のれんがかかっており、アカリはそれを手で除けてくぐる。「なんだか居酒屋みてえだな」「お邪魔しまーす」 続いてクロガネとソラが縄のれんをくぐる。 そこには五十畳以上はあろうかという板間が広がっていた。 壁際には無数の彫刻が並び、クロガネたちをぐるりと囲んでいる。 座禅を組んだ螺髪の仏像に、多面多腕で様々な武器を手にした神像、十字架に磔けられた長髪の天使、アステカにでもありそうなドクロを模した極彩色の仮面、鳥の頭を持ちアンクを握った褐色の獣人像――「なんつうか、悪趣味だな」「ニンジャを信じてる外国人がイメージする神社を十倍酷くした感じだね」 国籍不明の空間だった。 それでも土足は禁止のようで、上がり框の横に下駄箱が用意されている。 三人は靴を脱ぎ、板間に上がった。 板間の中央には大きな賽銭箱があり、左右に「撮影禁止」の札を持った二頭身の伊達政宗人形が立っている。 賽銭箱の上には太い鈴緒がぶら下がっているが、見上げてもその根本は見えず、真っ暗な空間に消えていた。「ガラガラを鳴らしますんで、ソラさんは二礼二拍手一礼をお願いします」「はーい」 アカリは賽銭箱に据え付けられた読み取り機にスマートフォンをかざし、賽銭を決済する。 金額はいくらでもいいが、とりあえず100DP。 大金を払えば何か特典があるのではと海外の富豪が1億DPを奉納したことがあるが、結果は何も変わらないというオチがついたそうだ。 ガラガラと鈴が鳴り、続いてソラが柏手を打つ。 天井がないせいなのか、音はほとんど響かず闇に吸われていく。 ソラが手を合わせ、最後の一礼をする。 ――じじじじじじじじじ ゼンマイのような音。 方向は、上だ。 闇の中から、近づいてくる。 ――じじじじじじじじじ ぼんやりと青白い光が降ってくる。 辺りが青く染まる。 こぽこぽと、水音がする。 ――じじじじ、じじ、じ 巨大な円筒が、賽銭箱の向こうに降りた。 下手なマンションにある貯水タンクよりも大きい。 円筒は半透明で、仄青く発行す
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第26話 仙台駅前ダンジョン第1層 ジョブを吟味しよう

「まるっきりゲームみたいだけど、それぞれのジョブに特徴はあるの?」『右上のヘルプボタンをタップするのダ』「ここかな?」 ソラの長い指が、ステータスウィンドウを叩く。 すると、先ほどのジョブ一覧に説明書きらしいものが追加された。━━━━━━━━━━━━━▷ジョブ:無職┣せんし┃ちからはつよいが、のろまだ。まほうはつかえないぞ┣まほうつかい┃こうげきまほうが得意。ちからとすばやさがひくいぞ┣そうりょ┃かいふくまほうが得意。ちからとすばやさはそこそこ┣とうぞく┃すばやさと、きようさにじしんがあるぞ┣しょうにん┃うんがよい。あんざんと算盤がはやい┗Monk ZENRA NINJA! ━━━━━━━━━━━━━「雑かっ!」 あまりにもいい加減な解説にソラは思わず声を上げた。 スーパーファミコンどころかファミコン並みの説明な上に、中途半端に漢字混じりなのが逆にクオリティの低さを際立たせている。Monkの説明に至っては悪ふざけとしか思えない。『雑ではなイ。貴様ら低能な天然有機化合生物でも、わかりやすく端的に要約しているだけダ』「ねえ、クロさん。この水槽割ってもいいかな?」「やめとけやめとけ」 クロガネは肩をすくめてソラをなだめる。「つうか、わかんねえんだけどよ。ジョブってのはそもそも何なんだ? いや、雰囲気はわかるが、たとえば戦士のジョブになったらどうなるんだ?」『レベルとして蓄えられた力が、貴様らの貧弱な身体的、霊的、知的能力を強化すル。戦士ならば、膂力が高まるが、機敏さは損なわれル』「その機敏さが損なわれるっていうのがよくわかんないって話よね。筋力が上がるってことなら、基本的には素早くもなるはずだし。よほどウェイトを積んでるなら別だけど」「そうだよなあ」 脳みその大雑把な説明に、クロガネもソラも納得しない。 二人とも己の肉体にとことん向き合って鍛えてきたアスリートなのだ。パワーと引き換えにスピードが下がるというわかりやすい話は、素人なら納得するのかもしれない。だが、現実はゲームのようには出来ていないのだ。どうしても辻褄の合わないところが気になってしまう。「魔法使いの力と素早さが低いっていうのは、いまよりパワーもスピードも下がっちゃうってこと?」『そうダ。高レベルになれば話は違う
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第27話 仙台駅前ダンジョン第1層 スカイランナー vs クローン(ジョブ付き)開幕

「なにこれ……あたしのクローン?」『くくく、その通りダ。正確には、戦士レベル1となった貴様を再現していル。この玩具と闘い、我が権能ジョブの力を思い知レ』 ソラを文字通り生き写しにしたクローンが構えを取る。 半身になって左手のバックラーを突き出す構えはなかなか堂に入っていた。「あっ、すみません。イレギュラーイベントなので、撮影許可いただけませんか?」 いざ開戦か――というところでアカリが手を上げた。 その手には<記者証>が握られている。『ふん、許可すル。ジョブに逆らう愚を、低能なる天然有機化合生物どもに教えてやるがいイ』「配信するの? じゃあ着替えるからちょっと待ってて」「はーい、私はカメラの準備してますね」 ソラはジャージの上下を脱ぎ捨てる。 ジャージの下から表れたのは、片方の肩を大胆に露出したクロップトップに、レギンス、膝下まである編み上げのロングブーツという出で立ちだ。涼し気なスカイブルーを基調とし、アクセントに白いラインが幾筋か走っている。ソラの名前の通り、青空をイメージした衣装だ。 背中にかかる髪をヘアゴムで一つにまとめれば着替え完了だ。 なお、手持ち無沙汰のクロガネは、ソラが脱ぎ捨てたジャージを畳んでバッグにしまった。「カメラ準備オッケーです。ソラさん、準備ができたら挨拶からお願いできますか」「こっちも準備オッケー! いつでもいけるよ!」「ではいきますよ! 3、2、1」 アカリが右手をすっと下ろす。 撮影開始の合図だ。 ソラはカメラに満面の笑みを向け、声を張る。「はじめまして! WKプロレスリング公式チャンネルへようこそ。今日はサプライズがふたつあります。まずひとつ目はこの配信! な、な、な、なんと! あの陀亞真神社でのゲリラ配信です! これは相当レアなんじゃないですかっ!?」 ソラが<神社>のことを知ったのは昨日の今日だ。 いかにもすごそうに話しているが、実際のところは知らない。 また、人間とは大したことがないことでも、自信たっぷりにすごいと伝えれば、案外勢いに飲まれてしまうものである。 実際、さっそくコメントが付きはじめた。 アカリのスマートグラスに【神社の中って撮影禁止だよな?】【この娘だれ?】【かぁぃぃ】【脳みその間か】【壁の像の中
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第28話 仙台駅前ダンジョン第1層 スカイランナー vs クローン戦士

 ソラのクローンが、片手盾を突き出し半身の構えになった。 ソラは間合いを詰めつつも、クローンの左側へ回り込んでいく。 クローンは盾を構えたまま、ソラの動きに合わせて身体を回転させる。「さあ、いよいよ試合開始です。解説のクロガネさん、先に仕掛けるのはどちらでしょうか?」「普通ならリーチのある武器持ちから仕掛けるだろうが、スカイランナーなら――」 クロガネが言い終わる前に、ソラが動いた。 一気に間合いを詰め、踏み込んだ勢いのまま跳躍。 駒のように回転し、後ろ回し蹴りを放つ。 クロガネ直伝の高速ローリングソバットだ。 しかし、その蹴りは盾であっさり防がれ、鈍い金属音だけが残った。「ふぅん、そんな感じね。じゃあ、こういうのはどうっ!?」 蹴り。 蹴り。 蹴り。 蹴り。 内回し蹴り。外回し蹴り。前蹴り。下段蹴り。掛け蹴り。踵落とし。飛び膝。横蹴り。重心を落としての払い蹴り。 ありとあらゆる種類の蹴りが、嵐の如く吹き荒れる。 隙間のない連撃にクローンは防戦一方だが、ほぼすべての攻撃を片手盾で防いでいた。「スカイランナー選手、開幕早々、凄まじい連打です! しかし、ダメージはわずかでしょうか?」「んー、動きは派手だがまずは挨拶ってとこだな。実力を計っている段階だ」 クロガネの予想通り、ソラの連打が止む。 半歩下がって距離を開けた。 打撃の届く間合いではない。 これは剣の間合いだ。「さ、次はあんたの番だよ」 ソラは右手を伸ばし、手の甲を相手に向けてくいくいと手招きする。 明らかな挑発だが、クローンの表情は動かない。 闘う意志があるのかさえ疑わしい虚無の表情。 しかし、反撃のチャンスは逃さなかった。「戦士スキル<強打>」 感情のない声とともに、白刃が振るわれる。 真っ向正面、唐竹の振り下ろしが、ソラの脳天目掛けて風を切る。「わぉっ! 大迫力!」 ソラは身を捻り、最小限の動きでそれをかわす。 そのままの勢いで回転し、後ろ回し蹴りを放つ。 高速の踵がクローンの顔面に直撃し、大きく仰け反った。「あー、やっぱり当たった。ダメだよ、攻撃のときはしっかりガードを上げとかないと」 ソラは左腕を上げ、右手でパンパンと叩いてみせる。 盾をちゃんと構えていれば、今の蹴りは入らなかったはず
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第29話 仙台駅前ダンジョン第1層 勝利者インタビュー

「Rin-Pyo-Toh-Sha-Kai-Tchin-Retsu-Zai-ZEN――」 若干際どい女忍者の衣装を着たクローンが、ぱっぱと手印を組む。 怪しげな詠唱を終えるとともに、その手を前に突き出した。「――Monk-Skills<Suiton-no-jitsu>」 女忍者クローンの手から、水が飛び出す。 水道を全開にして、ホースの先を潰したくらいの勢いだ。 それが数秒続き、ソラの身体を濡らす。「いい加減にしろっ!」 若干キレ気味のソラが前方宙返りとともに踵落としを叩き込む。 見事に脳天に決まり、Monkのクローンは白目をむいて昏倒した。「もう、まるで手応えがないじゃない。ネタジョブなの?」『ば、馬鹿ナ……。我がジョブを与えしクローンが、こうもあっさリ……ありえヌ……』 脳みそが弱々しく点滅し、スピーカーから震える声が発せられる。 あれだけ自信満々に送り出したクローンたちが、いいところがまるでないまま全滅してしまったのだ。 シミュレーションとはまるで異なる現実に、脳みその合成蛋白素子製演算回路は焼き切れる寸前だった。「これでみんなやっつけたけど、満足した?」『馬鹿ナ……馬鹿ナ……我の完璧で究極の演算が……』 まともな返事がなく、ソラは思わず肩をすくめる。 出入り口はシャッターが降りていて出られないし、クローンもすべて倒してしまってもうやることがない。 配信はまだ続いているし、また軽業でも見せて時間を稼ごうかと思ったところに、クロガネが手招きをした。「何、クロさん?」「スカイランナー、手応えはどんな具合だった? 強敵だったか?」 ソラはその一言でクロガネの意図を察する。 これは試合後の勝利者インタビューだ。 試合中もクロガネとアカリが解説を加えていたが、試合をした本人の感想を聞きたい視聴者も多いだろう。「一番強かったのは最初の戦士だね。剣道で例えるなら、県大会出場くらいのレベルはあったと思うよ。太刀筋そのものはよかったかな。ま、その分、読みやすかったんだけど」 スポーツ万能のソラは、様々な運動部の助っ人に駆り出されている。 剣道部はその一つで、団体戦での県大会出場経験もあった。 その経験と照らし合わせるに、太刀筋は上位校並み、しかし駆け引きが三
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第30話 仙台駅前ダンジョン第1層 vs ヘカトンケイル

 それは巨躯であった。 それは異形であった。 上背はソラのおよそ2倍。頭部は6つの頭がでたらめに融合し、歪みきってもはやソラの面影もない。胴体は皮膚のない剥き出しの肉の蔦を編んで作られており、ねじくれた古木に生き血をぶちまけたような形。床板をぎしぎしと踏みしめる2本の太い脚も胴と同じ質感だ。 肩、背、脇腹からは6対の腕が伸びており、それは原型のまま。手に手に様々な武器を持っている。胴の太さと腕の細さがあまりにもちぐはぐで、強いて世辞を言うならば前衛芸術に例えられるだろう。『くくクッ! くくくくクッ! 美しかろウ! 神々しかろウ! 拝跪し祈りを捧げてもかまわんゾ! これこそが神造合成蛋白質生命の極北がひとつ、<ヘカトンケイル>であル!!』 脳みそが音割れした声で絶叫する。 もともと狂気的な姿だが、極彩色の明滅を伴ってますます冒涜的に見える。 少なくとも、今の姿を見たものは百人中百人がこれを邪神と断ずるだろう。「あー、泣きの延長戦ってことか?」『無礼者ガッ! 泣きなどではなイ! 我がジョブの真髄を、舗装された運命の深奥を見せてやろうと言うのダッ! <ヘカトンケイレス>よ、ゆけイッッ!!』 異形が動き出す。 一歩一歩、床板を軋ませながらソラに迫っていく。「うえー、ちょっとグロ系は苦手なんだけど……」 ソラは文句を言いつつも、ステップを刻んで間合いを測る。 胴や脚はソラの倍近くの長さがあるが、腕の長さは変わらない。 腕の数、顔の数を挙げるまでもなく、こんな奇怪な体型の生物は少なくとも地上には存在しない。 どんな間合いで戦えばいいのか、ソラは測りかねていた。「暖炉に棲まうモノ、消し炭に潜むモノ、稲妻とともに地に降りしモノ、我が手に集い、矢となりて敵を穿て――<火炎の弩>」「魔法っ!?」 短杖を持つ腕が振られ、そこから一筋の炎が放たれる。 ソラは側転でそれをかわす。 外れた炎は壁面の神像に直撃。 爆発してそれを粉砕した。「さっきと全然威力違うじゃん! なんかズルしてない!?」『くくくくクッ! 卑怯も不正も虚偽も虚構もなイ。六体を練り合わせたのダ。魔力量も当然増えていル!』「だからそれがズルだと思うん――」 言いかけて、今度はバク宙で飛ぶ。 ソラが立って
last updateLast Updated : 2026-07-13
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