All Chapters of 迷宮プロレス道 ~伝説のおっさんレスラー、ダンジョン配信で無双する~: Chapter 51 - Chapter 60

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第51話 仙台駅前ダンジョン第10層(裏) <アイナルアラロ>

■仙台駅前ダンジョン <隠れ道>「ダンジョンに裏口があるとはなあ」「そういう噂は聞いたことはありますが、都市伝説だと決めつけてましたね」「<通行証>がなければ使えぬ隠れ道でござる」 クロガネたちは、オクの後について細い隧道を歩いていた。 道場の裏手から少し山を登った藪の中に、ぽっかりと黒い穴が開いていたのだ。 角の摩耗した階段が地下に向かって延々と続いており、地上の暑さが嘘のように涼しく、むしろ肌寒いほどだった。メイキュウヒカリゴケの放つ黄緑色の光までがどこか寒々しい。「牙のアクセサリーが通行証ってこと?」「そういうことでござる」「使い道のわからねえ代物だったが、そういうもんだったのか」 クロガネは手首に巻いた牙の首飾りをしげしげと眺める。 500万近い価値があると聞いてはいたが、そういう特別な意味があったのかと得心しかけるが、それにしたって高すぎるのではないかとも思う。「ねえねえ、それじゃこっちも特別な意味があるの?」「何やら面妖な飾りでござるな……。それがしは知らぬ品でござるよ」 ソラが目玉の髪飾りを見せるが、オクは不気味そうに首を振るだけだった。 こちらも鑑定料は310万DP、売価は600万超ということだ。 オクにわかれば鑑定の手間が省けるところだったがそう都合良くは運ばなかった。「あれ? アカリさん、これ配信するの?」 カメラを構えるアカリに、ソラが尋ねる。「いえ、撮影だけですね。使うかどうかは後から判断です。我々だけが知っている秘密の通路が、今後アドバンテージになるかもしれませんし」 ダンジョンに裏口あったという情報のニュースバリューは高い。 探索をメインに打ち出している配信者ならトップニュースとして大々的に打ち出せる発見だろう。 しかし、クロガネたちの配信とは方向性が異なる。 一時的に話題をさらえるかもしれないが、まだまだ配信して間もない現状で、チャンネルにそういう色がつくのは避けたいところだったのだ。 道中ではモンスターが現れることもなく、淡々と降っていく。 30分と経たないうちに、大きな扉の前に着いた。 高さは5メートル以上はあり、海を表しているのか波模様の彫刻が一面に施されている。 オクは扉の前に立ち、独特なリズムで叩く。 すると、扉は音もなく左右に開
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第52話 仙台駅前ダンジョン第10層(裏) プロレスラーが握手するとこうなるのは様式美

■仙台駅前ダンジョン第10層(裏) <カマプアアの宮殿> 白いドームの中には、広々とした空間が広がっていた。 柱の一本もなく、天井をどうやって支えているのかもわからない。 採光用らしい窓がいくつかあるが、建物の広さに見合っておらず全体的に薄暗い。 目が慣れてきて、ようやく中の様子が見渡せた。 草花の模様が織り込まれた絨毯が一直線に敷かれており、奥には石造りの玉座に座る男が見える。左右にはゆったりした貫頭衣をまとったピギーヘッドが立っており、大きな椰子の葉を持って男を扇いでいた。「おう、よく来てくれたな! こっちこっち、こっち来いよ!」 男は玉座を降り、手を叩いてクロガネたちを呼んだ。 身長はクロガネよりも頭一つ高く、腰布にサンダルという格好だった。 浅黒い上半身は無駄のない筋肉で盛り上がっており、あちこちにタトゥーが刻まれている。そして髪型はカチカチに固まったリーゼントヘアーだった。「よう、クロガネ。ひさしぶり……ってほどでもねえか。ともかく、改めて夜露死苦!」 男が太い右腕を差し出して握手を求めてくる。 クロガネは反射的に応じるが、目の前の男に見覚えはない。「すまねえが、どこかで会ったか?」「おおっと、悪りぃ悪りぃ。こうすりゃわかるか?」 右手を握ったまま、男の姿が変貌していく。 筋肉が膨れ上がり、バキバキと骨が軋む音とともに、手足が、胴が伸びていく。 精悍な顔にはびっしりと剛毛が生え、唇の両端からは牙が突き出し、もともとの目の周囲に3対6つの黒い目玉が皮膚を裂いて現れた。「これでわかっだろ? オレっちが<カマプアア>だ」  リーゼントの猪の口が釣り上がり、笑ったように見えた。 クロガネも歯を剥いて笑い返す。「なるほど、あんたが噂の本体様か。聞いたところじゃ、俺なんかは片手で捻れるくらい強ええらしいじゃねえか」「あー、またオクが要らねえ口をききやがったか」<カマプアア>の8つの目に睨まれ、オクは慌てて目を逸らす。「ったく、しょーもねえなあ。ンなことでイキってもしょーがねえのによ」「なんだ、結局ホラか。確かにしょうもねえな」「あン? ホラとは言ってねえだろーが」<カマプアア>の前腕が膨れ上がり、太い指がクロガネの右手にめり込む。「へへ、こんなもんじゃあやっぱりホラだな」 今度はクロガネの前腕が膨れ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第53話 仙台駅前ダンジョン第10層(裏) アングル

「あの、それは配信をされたかったってことですか?」「そう言ったつもりだが、ちげー意味に聞こえたか?」「い、いえ」 アカリは何かの間違いではないかと聞き返すが、<カマプアア>の返事は肯定だ。 隠れ里に住むピギーヘッドたちが配信に出たい理由などあるのだろうか。「なんだ、有名人にでもなりてえのか?」「なりてえわけじゃねーが、それも目的の一部だ」「んん? どういうこった?」 冗談を言ったつもりが否定されず、今度はクロガネが首を傾げる。「話すとややっこしいが……。そうだな、まずオレっちは眷属どもを強くしてやりてえ。これが一番の目的だ」「どうして強くなりたい?」「それはわかんだろ。眷属どもは弱すぎる。タチの悪りー配信者どものいい玩具だ」「あー、野良猫みてえにいじめるやつがいるってことか?」 クロガネにはピンと来ていなかったが、その予想はほとんど当たっていた。 配信者の中には「モンスター虐待」と呼ばれる悪趣味なジャンルがあり、ピギーヘッドはしばしばそのターゲットにされているのだ。クロガネは知らないことだが、あの<金愚烈怒>もピギーヘッドを虐殺する配信で視聴数を稼いでいた。「なにそれ、ひどい! こんな可愛い子たちをいじめるなんて許せない!」「こっ、こら! 頭を撫でるでないでござる! 顎の下をこしょばるなでござる! あっ、あっ……ぐぅぐぅ」「あー、そういう扱いも本意じゃねーんだが……まあ、それはいいか」 ソラに撫でくりまわされ、立ったまま眠りかけるオクに、<カマプアア>は呆れたように肩をすくめた。「ちょっかいを出されねえようになりたいってわけか。そんなら配信者相手の商売でも始めたらいいんじゃねえのか?」 クロガネの脳裏をよぎったのは、かつて自分を詐欺にかけようとしてきた<トビホタルイカ>や、ダンジョン11層の<ダンジョンストリート>の存在だ。 彼らはモンスターだが、人間と共存している。ダンジョンに現れる敵としてではなく、商売人として振る舞えば解決するのではないかと考えたのだ。 実際、道中ではいくつもの屋台を見たし、それを配信者向けに展開すればよいだけだろうとクロガネは思う。「それができりゃ苦労しねー。クソ<運営>が眷属どもに寄越した役割は、あくまでワンダリングモンスターだからな」「ワンダリングモンスター?
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第54話 仙台駅前ダンジョン第10層(裏) 痛みに慣れれば恐怖が薄まる

「おらぁっ! 後ろ受け身あと千本!」「いいいいいい痛い痛い痛い痛いでござるよぉぉぉおおお!!」<アイナルアラロ>の一角。 クロガネたちは、ピギーヘッドを浜辺に集めてトレーニングを開始していた。 砂浜から離れた砂利の地面で、悲鳴を上げて転げ回っているのはオクだ。 愛用の着流しを脱がされ、トランクス1枚にされている。 そのせいで、尖った小石が肌に食い込んで痛いことこの上ない。 ピギーヘッドの皮膚は一応は毛皮だが、人間の皮膚よりはいくらか丈夫な程度。 本物の獣と比べれば薄紙のように頼りない。「いっちにっ、いっちにっ、いっちにっ。プロレスラーは一にも二にもスタミナと足腰だよー! 徹底的に走り込むからねー!」「えいえい、おー!」 砂利をのたうち回るオクを尻目に、ソラはランニングの指導をしている。 何十人ものピギーヘッドを引き連れて波打ち際を走っていた。 適度に濡れた砂は柔らかく、適度な抵抗があって関節への負担も少ない。 心肺と足腰を無理なく鍛えられるのだ。 時折笑い声も混じりつつ、水しぶきを上げて走る仲間の姿を、オクは涙目で見つめていた。「そ、それがしもあちらがよかったでござる……」「泣き言を言ってんじゃねえ! 1週間後に試合やるっつったら、出場してえっつったのはてめぇだろうが!」「そうは言ってもこんな特訓、何かの役に立つとは……」「うるせえ、ごちゃごちゃ言うな!」「ぎゃぁぁぁあああっ!?」 特別メニューに不満を洩らすと、クロガネはオクの腹に腰を下ろした。 百キロを超す巨体の重みで、砂利がますます背中に食い込んでいく。「いじめ、いじめでござるよ……。<カマプアア>様に負けた腹いせをしているに違いないでござる……」「ンだとこらぁっ!」「ぎゃぁぁぁあああっ!?」 いっそう体重をかけられ、オクはさらに悲鳴を上げる。 さきほどまではまだ手加減していたのだ。「お手本、お手本を見せるでござるよ! こんなのは誰も耐えられないでござる!」「ほう、本当に誰も耐えられないと思うのか?」「ぜっっったい無理でござる! だからこんな馬鹿げた特訓はやめるでござる!!」「絶対ねえ。じゃあ、できるやつがいたら、素直に言うことを聞けよ?」 オクの身体にかかっていた重みがなくなる。 クロガネが腰を上げたのだ。 その顔には、にたりと笑う凶相が浮
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第55話 大江山ダンジョン第81層 <神変大菩薩>(前編)

■大江山ダンジョン(仮称)第81層 未踏領域 山道を5人組が歩いている。 中央を歩いているのは山伏姿の男。 右手に金剛杖、左手に数珠を握り、頭巾にはアクションカメラが仕込まれている。 彼らは、山伏姿の男――オヅをリーダーとする、<神変大菩薩>という国内屈指のトップ配信者チームだ。 彼らは京都府迷宮総合管理課からの依頼を受け、府内の山中に出現したダンジョンの探索を行っている。仮称は<大江山ダンジョン>。 新たなダンジョンの発生時は、実力者がその危険性を調査するのが通例だ。 ダンジョンは、貴重な資源になることもあれば、大規模災害の震源にもなりうる。 各自治体の迷宮総合管理課がリスク診断を行い、迷宮の処遇を決定するのだ。 比較的安全であれば一般向けにも解放し、そうでなければ警察、消防、自衛隊、認定企業や研究機関が連携して管理下に置く――という流れだ。 なお、安全であっても戦略級の希少素材が得られたり、応用が見込める特異な現象が見られる場合も国の管理下に置かれることがある。それらから生み出す利益は莫大で、国家間のパワーバランスにさえ影響を与えることがある。 余談ではあるが、ダンジョン資源や開発力に乏しい一部の発展途上国では、ダンジョンを人類の共有資産として国連管理に移すべきだという議論もあった。 まあ、持てる国が持たざる国のそんな嫉妬めいた要求に従うはずもないのだが。「どうやらここが最下層みたいね」 ひとり先行する女が振り返る。 漆黒に染め抜いた忍者装束の女――ゼンキが後続に伝える。 見た目の通り、盗賊系の上級ジョブ<くのいち>の女だった。 探索系のスキルに長け、彼女の前ではどんなトラップも、ベッドサイドに置かれたぬいぐるみほどの脅威にすらなりえない。「前衛、代わるでごわす」「うん、よろしく」 身長2メートルをゆうに超える巨漢が前に出る。 ゆったりした浴衣に身を包み、腰のところを荒縄で縛っている。 彼の名はスクネ。モンク系の上級職<力士>であり、ダンプカーを張り手で転がすパワーを誇る。 ダンジョンの最深部にはボスが待ち構えているものだ。 不意の遭遇に備え、隊列を探索用から戦闘用に切り替えたのだ。「たかだか80層クラスでしょ? ボクの魔法でぶっ飛ばしてあげるよ!」「これこれ、コウキ嬢。油
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第56話 大江山ダンジョン第81層 <神変大菩薩>(後編)

「イバラよ、この程度で日ノ本有数の実力者だというのか?」「その通りですわ、シュテン様。京の都に限れば一番の腕利きと評判だとか」「ふうむ、なんとも歯応えのないことだ」 酒呑童子は、大きな鞠を2つ使ってお手玉に興じている。 鞠の正体は青年と老人の生首――オヅとガンギョウと呼ばれた二人のものだ。「シュテン様の無惨かわいさにかかっては、人間など相手になるわけもございませんわ」「いや、かわいさは競ってないのだが」 話し相手は茨のような角を持つ妖艶な美女。 酒呑童子の腹心であり、名をイバラと言う。「ところで、この女子二人はどうなされますの? どちらもシュテン様の無惨かわいさとは比べようもない醜女でございますが」 イバラは、首を失ったオヅの身体に取りすがって放心している二人の少女に冷たい視線を送った。 ゼンキという<くのいち>と、コウキという<黒魔術士>の双子だ。「だからかわいさなど競ってないと言うておろう。まあそれはよいとして、とくに使い道は考えていなかったな。興に任せて要らぬ約束をしてしまった」 約束。 それは隔絶した実力差を思い知ったオヅが口にした言葉だ。「何でもするから女二人は見逃してくれ」という、ありきたりで聞き飽きた言葉。「ならば己の首を落としてみせよ」とからかうと、本当にそうしてしまった。 死に様だけでも潔く見せようという虚栄に満ちた自己犠牲。 見せかけだけの勇気。勝利の放棄。甘えに満ちた自己陶酔。 酒に酔うのを好む酒呑童子だが、己に酔う者は酸っぱくなった酒よりも嫌いだ。 それに比べれば、ガンギョウという坊主の方がよほど好ましかった。 糞と小便を垂れ流しながらも、最期まで足掻いてみせたのだ。 見かけがどれだけみっともなかろうと、命を失うその瞬間まで勝利に執着するのが本物の兵というものだろう。 とはいえ、所詮は<ジョブ>や<レベル>に頼ったまがい物だが。「お目障りなら、妖怪の餌にでも致しますか?」「それはならん。戯れでも約束は約束だ」 人間相手に約定を違えるなど、酒呑童子の誇りにかけてありえない。 騙し騙されの謀は対等の相手だから成り立つのだ。 これが他の神や大妖怪であるならともかく、たかが人間相手に欺瞞や詐術を用いたとあっては鬼神の名折れもいいところだ。
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第57話 仙台駅前ダンジョン第10層(裏) ピギープロレス

■仙台駅前ダンジョン第10層(裏) <カマプアアの宮殿:改> ピギーヘッドたちの特訓がはじまり、1週間が過ぎた。 その日、白亜のドーム、カマプアアの宮殿には中央にリングが設置されている。 中央にスポットライトが当たっているが、周囲は暗く見通せない。「おらっ! コーナーポストから飛ぶときはビビるな! 変に力むと怪我するぞ!」「わ、わかったでござる!」「返事はハイだ!」「ハイでござるっ!」 コーナーリングからオクが飛ぶ。 大の字になって空を舞い、小気味良い音を立ててマットに全身を叩きつけた。「よーし、思い切りがよくなってきたな。いいフライングボディプレスだったぞ!」「ありがとうございますでござるっ!」 リングサイドから指導するのはクロガネだ。 城門をモチーフとしたオープンマスクをかぶり、クロガネ・ザ・フォートレスとしてコーチを行っている。 スポットライトが動き、リングの周辺を照らし出す。 そこでは何人ものピギーヘッドたちが鍛錬に勤しんでいた。 あるものはサンドバッグを叩き、あるものはバーベルを担いでスクワット、あるものは二人一組になって互いの腹筋めがけてジャンプを繰り返している。「最初はどうなることかと思ったが、なかなかスジがいいじゃねえか。この分なら、本番のリングに上がる日も近いぜ」「本当でござるかっ!? ふふふ、すぐに師匠を追い抜いてみせるでござるよ!」「ハッハッハッ、百万年早ええよ」 クロガネがそう笑ってオクの頭を撫でようとしたときだった。 ――ぶしゅぅぅぅううう リングサイドに白い煙が立ち込め、クロガネの姿が覆い隠されてしまう。「い、いったい何事でござるか!?」「わわわ、火事、火事なの!?」「おおお落ち着いて! 頭を守って机の下に潜るんだ!」 突然の出来事にパニックに陥るピギーヘッドたち。 右往左往しながらリングの周りを駆け回る。 ――オーホッホッホッ! 可愛らしい子豚ちゃんたちね! ――フワーハッハッハッ! このリングは吾輩たちが乗っ取った! 薄れゆく白煙の中から、ふたりの人影が姿を表した。 ひとりは黒い革のマスクに、やはり黒いボンテージを身にまとった妖艶な美女。 そしてもうひとりは白塗りに赤黒のラインで化粧した、黒マントの大男だった。「何者でござるかっ!?」 突如として現れた怪人に、ピギー
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第58話 仙台駅前ダンジョン第10層(裏) 本物

「フ、フ、フワーハハハ! な、なかなかやるではないか! 蚊に刺された程度は効いたぞ!」 クロガネがふらふらと立ち上がる。 膝をガクガクと震わせて、いまにもダウンしそうだ。 明らかな強がりに、観衆から笑い声が上がる。「む、一体どこに消えた……?」 ふらつきながら、周囲を見回す。 しかし、その視界にオクの姿は映らない。 右を向き、左を向き、また右を向く――と見せかけて、さらに左を向く。 会場からはクスクスという忍び笑いと、「うしろうしろー!」と囃し立てる声が聞こえる。「うしろだとぉ?」 クロガネはさっと背後を振り返るが、やはり誰もいない。 顎に手を当て、首をかしげていると、 ――バシィィィン!「痛ってぇっ!?」 尻に激痛が走り、飛び跳ねる。 尻をさすりながらぴょんぴょんと飛ぶ姿に、会場がまた爆笑の渦に包まれる。 そんな攻防とも言えぬ攻防が繰り返される。 種を明かせば簡単だ。 小柄なオクがちょろちょろと動き回り、クロガネの死角に入り続けていたのだ。 そして先程の尻への攻撃の犯人もやはりオク。 死角から思い切り蹴りを入れたのだった。「おおっと、これは意外な展開ですね。開幕からオク選手のペースです」「身体の小ささを最大限に活かしてるな。こういう戦い方が、<イアヘレワワエ>――ピギーヘッドの本来のスタイルなんだぜ」「そうなんですね。ちなみに、流儀に名前などはあるのでしょうか」「ああ、あるぜ。ええと……そう、<小人武闘術>だ。ピギーヘッドの戦士たちはみんなこれを身につけてるぜ」「なんと! そんな格闘技が!」 リング上でオクがクロガネを翻弄している間、実況席ではアカリと<カマプアア>が解説を加えている。アカリは実況しつつも配信に流れるコメントを確認している。【やば、かわいいw】【子豚ちゃんってあんな素早く動けたんだ】【デビル、うしろうしろー!w】【マジレスだが、あれで武器でも持たれてたら洒落にならんな】 最後のコメントは仕込みだ。 マスク・ド・ササカマへ依頼し、要所要所でピギーヘッドの動きなどを格闘の観点から持ち上げるようコメントしてもらう手はずになっている。 なぜそんなことをしているのかと言えば、この試合の目的は単なる配信数稼ぎではないからだ。ピギーヘッドの「弱い」という印象を覆
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第59話 仙台駅前ダンジョン第10層(裏) vs 茨木童子①

 それは、女の形をしていた。 それは、朱色の艶やかな着物をまとっていた。 それは、長い黒髪をたなびかせながら、空中に立っていた。 突然の闖入者に、会場の人間の視線が集まる。 こんな演出は聞いていない。 クロガネとソラは、実況席にチラと目をやるが、アカリは首を左右に振る。 こんなものはアカリの書いた筋書きにはない。「うふふ、さしずめ、わらわの美しさに声も出ないといったところかしら」 女は空中をしずしずと歩く。 着物の裾から白い腿が覗く。 その足元がきらりと光った。 よくよく見れば、髪の毛のように細い糸の上を歩いているのだった。「サプライズのついでに、こういうのはいかが?」 女が細い手を振るう。 指先からきらきらと無数の糸が伸び、リングの周りに降り注ぐ。 糸は金網のように絡み合いながら、リングを筒状に覆っていく。「それから、仕上げでございますわ」 女はパンと手を叩いた。 その瞬間、細糸が太く膨らみ、植物の蔦へと姿を変える。「何の手品だ、こりゃ?」 クロガネはリングを囲んだ蔦に指を引っかけ、まじまじと見た。 それには鋭い棘が無数に生えており、人間の皮膚など易々と切り裂けそうだ。 かつて何度となく戦った、有刺鉄線デスマッチのリングを連想させる。「おいおい、誰に断ってオレっちの国に土足で乗り込んできやがった?」 リングの外では、<カマプアア>が立ち上がって空中の女をにらんでいた。 リーゼントの下の額には赤黒い血管が浮いている。「あらぁ、ぬしさんがこの領域の権限者さんね。異界の神に尻尾を振って、恵んでもらった玉座の座り心地はいかがかしら?」「ンだとゴラァッ!!」 激昂。<カマプアア>の肉体が膨れ上がり、猪頭人身、八つ目の姿に変わる。 その手には丸太のような木剣に鮫の歯を並べた武器が握られていた。「こんなもんで守ってるつもりなら、了見違いもいいところだぜッッ!!」 暴風。 巨大な木剣が、風を巻き上げ振るわれる。 その一閃は金網を薄紙の如く切り裂き、貫通した衝撃波が女の体を両断。 なおも勢いは衰えず、宮殿の屋根をぶち抜いて爆音を立てた。 降り注ぐ破片に、観客席のピギーヘッドが逃げ惑う。「なんて乱暴な殿方なのかしら。無惨かわいい酒吞様とは大違いでございますわ」「なっ!?」
last updateLast Updated : 2026-07-13
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第60話 仙台駅前ダンジョン第10層(裏) vs 茨木童子②

 イバラは空中で寝そべり、下方を眺めて愉しげに嗤った。 鮫男と、デビル・コースケなる人間との戦いがはじまっている。 鮫男は<イソナデ>といい、船を沈め漁師を喰らう妖怪だ。  主の酒呑童子が配信者の肉を餌に呼び寄せ使役したものである。 イバラ自身はプロレスなどという見世物で戦う気などさらさらなかったため、戦闘要員として連れてきたのだ。酒呑童子に断ってはいないが、どうせそんな些事には構わないだろうとイバラは考えていた。 思惑が外れたのは、あのクロガネとかいう人間が魔界商店街なる勢力にあっさりやられてしまったことだ。いまも試合会場の端で磔にされ、指一本動かさない。 いかに不意打ちだったとはいえ情けない。これでは主の鑑賞にふさわしい戦いにならないではないか。 嘆息をつきつつ様子を見ていると、はじまったのはデビル・コースケなる者とピギーヘッドの茶番だ。 デビル・コースケという大男は圧倒的に体格差で勝っているくせに、小兵のピギーヘッドにいいように翻弄されている。あんな男に主に捧げる試合が台無しにされたのだと思うとはらわたの煮えくり返る思いがした。 そこで、予定を変更して<イソナデ>をけしかけた。 リングにいた人間二人とピギーヘッド、これらを無惨に食い散らかすことで、苛立ちを紛らわせることにしたのだ。女の方は、生き残れば自分のネイル奴隷にしてもいい。両手の分はすでにいるから、あれはペディキュア用にしてやろう。 と、そこまで考えて、イバラは違和感に気がつく。 リング上には<イソナデ>の他、大男とピギーヘッドしかいない。 一体、女はどこに消えた?「くらえぇぇぇえええッッ!!」「ぎゃっ!?」 頭上から咆哮。 鋭い蹴りがイバラの袖を切り裂き、通り過ぎていく。 蹴りを放った女はそのままリングの反対まで飛んでいき、茨の金網に着地する。「くっそー、不意打ち失敗かあ」「貴様っ、どうやってわらわの上に!?」「そりゃもちろん、登ったんだよ」「登って……?」 馬鹿な、とイバラは思う。 ここは地上から10メートル以上はあるのだ。 そして登ると言っても手がかりになるのは茨の金網のみ。 それには鉄板をも切り裂く鋭い棘がびっしりと生えている。 人間によじ登れるようなものではない。「要するに、こういう感じだねっ!」「なっ!?」 ソラが再び飛ぶ。 そ
last updateLast Updated : 2026-07-13
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