Semua Bab いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~: Bab 61 - Bab 70

70 Bab

第61話

 さあ、これでもう寝技に持ち込もうだなんて思わないだろう。 しかし、わざわざそんなことを口にすれば寝技を嫌がっていることを教えるようなものだ。代わりにロングジャブの連打を差し込む。先ほど飛びつき肘十字を受けたのと同じパンチだ。あえて見せることで、「寝技なんて怖くない」とアピールする狙いだ。「えへへっ、すごく速いっすね! これがお姉様のジャブ連打!」 案の定、ポニテちゃんは掴むのを諦めて回避に集中している。 しっかりトラウマは刻み込めたようだ。 これで完全に寝技を封じたと考えるのは楽観が過ぎるが、だいぶ戦いやすくなったのは事実だ。まあ、さすがに足技は控えた方がいいだろう。足関節では先ほどの裏技で返すのは難しい。理由は簡単で、ターゲットまで手が届かないからである。 手技を中心に、ボクシング、空手、ジークンドー、日本拳法、シラットやクラヴマガなどの打撃を組み合わせて打ち込んでいく。 時々カス当たりはするけれど、クリーンヒットは一発もない。 寝技は封じたものの、ポニテちゃんのわたし対策が無効になったわけじゃないのだ。滅多に見せないコンビネーションを多用しているつもりなのだが、それさえも頭に入っているようだ。「これは魔怒苦露洲の特攻隊長がタイマンを仕掛けてきたときの、これは沈毘羅組が雇ったヒットマンを返り討ちにしたときの……」 その証拠に、恍惚とした表情を浮かべながら何やらぶつぶつ呟いている。目がとろーんとして口が半開きでよだれが垂れている。こ、怖い……いや、怖がるな。気持ちで負けたら負けなんだ。 完全に回避されているわけではない。 カス当たりでもダメージは徐々に蓄積されているはず。回転を早め、絶え間ない乱打を続ける。基本的なフィジカルならこちらが上回っているはずだ。伊達に物心ついた頃から武術を仕込まれてはいない。このまま真正面から削り倒してみせるッ!「えへっ、えへへへへ……。夢にまで見たお姉様のラッシュ……。さ、サイコーっす……。いつまでも味わいたいっすけど……、このままじゃ消失しちゃうっすね……」 防戦一方のポニテちゃんの目が光る。 カウンターでも狙ってる? しかし、簡単に合わせられるような大ぶりはこっちだって打たないぞ。研究され尽くした相手にそんな真似をするほど自惚れてはいない。「……ッ!?」
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第62話

 ドローンが加わって、戦いの様相が一変した。 コンビニネーションを打ち込もうとすると、間に妨害が入るのだ。先ほどやられたように足元に潜り込んでくることもあるし、視界を遮るように飛んできたり、あるいは射撃をしてきたりする。「いてっ、いててっ」 まさにいま顔面に向かってやられたことである。 飛ばしてくるのはBB弾で、威力はないのだが素肌に当たるとさすがに痛い。ダメージ的には大したことはないが、目に当たる可能性もあるので完全に無視をするわけにもいかない。幸いなのは射撃が散発的なことだ。「空圧の単発式っす。さすがに連射機構まで組み込むと重すぎるんすよね」 余裕の表れか、ポニテちゃんがわざわざ解説を加えてくれる。 だが、隙間を縫っての攻撃の手は休まらない。使う得物は伸縮式の警棒。徒手空拳は寝技を狙っての奇襲が目的だったのだろう。それに、徒手のリーチではドローンとの連携がしにくいためだと思われる。 こちらもべた付きインファイトを封じられ、間合いを出入りしてのロングブローでの一撃離脱が中心となる。アウトボクシングの要領を想像してもらえればわかりやすいだろう。しかし、相手はわたしの戦い方をとことん研究しているのだ。単発の打撃ではもはやかすりもしない。(参ったな、こりゃ……) お互いに決定打を欠いている状況である。 このまま時間切れになればポイントで先行しているあちらの有利だ。なんとかして打開策をひねり出したいが……。うーん、アウトボクシングスタイルだと肩に引っかかった網がうっとうしいな。バサバサするし、油断すると足に絡んでしまいそうだ。「ん?」 そうだ、いいものがあるじゃん。 わたしは肩に引っかかっていた網を掴み、無理やり引き剥がす。そして投網の要領で前方へ投げつけた。投網なら、中学時代に少し経験がある。河原のダンボールハウスに住んでいたときには主要なタンパク質獲得源だったのだ。「うわっ!? なんすか!?」 突然眼前に広がった網に、ポニテちゃんが驚きの声とともに飛び下がる。 だが、ドローンの撤退は間に合わなかったらしく、空中のドローンの大半が網に巻き込まれて墜落していく。「どりゃぁぁぁぁぁああああああ!!」 そして、投げた網を引っ掴んで振り回す。 ドローンの重量が加わって、ほとんど紐付きの鈍器のような有様だ。空中ドローンは次々に叩き落とされ
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第63話

『聖マグダレナ女子学院対、志乃美林女子学院、試合終了。6対4で聖マグダレナ女子学院の勝利です!』 県立アリーナが「わああっ」という歓声でどよめく。落胆の声も上がるが、それは聖マグダレナを応援する熱狂にあっさりと飲み込まれた。さすがは優勝常連校の人気である。 オーロラビジョンには爽やかな笑顔でモニター越しの過客席に手を振る剣城さん、そしてプラチナブランドの巻き髪をぴょんぴょんと飛び跳ねて揺らすブランの姿が大写しになっていた。 高校女子ダンジョン道神奈川県大会準決勝である。 結果は下馬評通りに聖マグダレナの勝利となったが、フルセットまでもつれ込ませた志乃美林の健闘も観客を大いに沸かせた。テレビ神奈川は存分に視聴率を稼いだことだろう。 試合後の挨拶を終え、聖マグダレナに取材陣が殺到している。 剣城さんはイケメン女子高生として熱狂的な女性ファンがついており、ブランは車椅子の美少女として男性ファンのみならずポリティカルにコレクトネスな方面にも受けている。どちらもメディア映えする素材だ。まだ地方大会だと言うのにすごい取材陣である。 あ、オーロラビジョンが切り替わった。 これから勝利者インタビューらしい。『試合お疲れ様でした。決勝戦進出、おめでとうございます』『ありがとうございます』 女子アナウンサーが向けるマイクに、剣城さんが白い歯を光らせて応じる。テレビカメラに臆した様子は欠片もない。むむう、さすがはスター選手。メディア対応も手慣れたものだ。『準決勝を振り返りたいのですが、相手校の志乃美林はどうだったでしょうか? 今大会のダークホースと言われていましたが』『ダークホースかどうかはわかりませんが、プレイのひとつひとつに工夫があって一瞬も気が抜けなかったですね。すばらしいチームだったと思います』 コメントにもそつがない。非の打ち所のない流れるような話しぶりで、かといって原稿を棒読みしているような不自然さもない。演じているわけではなく、本心から話しているんだろう。剣城さんは実力者だが、それに驕るようなことはない人格者でもある。完璧超人か。 そして志乃美林の戦いぶりは実際見事だった。 見たこともないようなトリックプレイを次々と繰り出して王者聖マグダレナを翻弄してみせたのは、久能井姉妹の真骨頂と言ったところだろう。結果としては王道を行く聖マ
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第64話

 全国高校女子ダンジョン道神奈川県大会決勝戦。 二本の白線を挟んだ反対側には、聖マグダレナの三人が並んでいる。 中央は剣城勇奈。 鎖帷子にサーコートを羽織り、斧槍の石突きを石畳に突き立てて端然と佇んでいる。その整った顔に気負いはない。さすがは県内最強チームの主将と言ったところか。 左にはブランシュ・ド・セレスティエ。 プラチナブランドの巻き髪をびよんびよんと伸び縮みさせ、全身鎧をガチャガチャ鳴らして飛び跳ねている。雪のように白い肌。その顔には満面の笑み。やはり緊張など見られない。たぶん何も考えていないせいだろう。こちらはこちらで大物である。 右のフード付きローブを羽織った人物は初対面だ。 名前は初里麻凛と云う。 聖マグダレナのエーススカウトで、今大会では堅実なプレイでチームを支えている。平均解錠タイムは30秒を切り、キリ先輩と同じく全国レベルってやつだ。そりゃ県大優勝校のメンバーなんだから当たり前か。「へへへ、半年越しのリベンジだな」 こちらでは鬼嶋がバイクのエンジンをふかし、木刀で自分の肩をぽんぽんと叩いている。その顔に浮かんでいるのは不敵な笑み。緊張とは無縁なようで何よりだ。対剣城さん向けに様々な対策を仕込んできているようだけれど、それが奏功してくれることを祈るばかりである。「うん、今回は簡単にやられてたりなんかしないよ」「おいおい、そこは絶対に勝ってやる! だろ」「ははは、そうだね。絶対に勝ってみせるよ!」 キリ先輩は真剣な顔だ。つなぎに仕込んだ投げナイフや胚珠を指先でしきりに確認している。落ち着きがないように見えるかもしれないが、これは試合前のルーティンだ。気負いすぎず、緩みすぎず、いい状態だろう。『ええ試合期待しとるで~。悔いがないようにがんばりや! あ、あとワイの血と汗と涙の調査が無駄にならんようにしてな~』 スピーカーを通してミノさんの声が響く。 会場の音声を中継しているのだ。準決勝からの演出で、会場の声援を届けて盛り上げるらしい。なお、試合が始まったらオフにされる。相手チームの動向なんかが筒抜けになっちゃうからね。『うちらはどちらも応援しておりますぞ~』『私たちを負かせた聖マグダレナが優勝しても、草大会で勝ったことがある桜吹雪
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第65話

 なんつう圧力だ。 津波は膝までの高さでも、何かにしがみつかなければ立っていられないという。 ならば、目の前のこれはなんだ。 見上げるような大波が押し寄せているような、抗いようのないすさまじい圧力を感じる。「OuaaarrrrrrRAAAAAAHHHHHH!!」 気勢と共に振るわれる巨大ハンマーは、颶風をまとい縦横無尽に大気を引きちぎる。勢い余った打撃が石畳を砕き、破片を撒き散らす。気を抜けば風圧だけで体勢を崩しそうだ。かといって、大きく避ければ隙を生む。ぎりぎりを見極めてかわし、かわし、かわし――そして打つ!「Aïeッ!?」 下げた肘を支点に鞭のごとく腕をしならせて放つフリッカージャブ。その先端がブランの顔面に突き刺さる。だが、仰け反りはしない。微動だにしない。まるで地中深く打ち込んだ杭を叩いたような感触。なんちゅう首の強さをしてるんだ。垂れた鼻血はわずかな光の粒子に変わり、ダメージの痕跡は一瞬で消えて失くなる。「これくらい、へっちゃらデスよッ!!」 だが大波は止まらない。かするだけでも骨を持っていかれそうな致命の一撃が、横薙ぎに、袈裟懸けに、逆袈裟に、唐竹に、振り上げに、ありとあらゆる角度から押し寄せる。荒波に翻弄される木の葉のように、左に流れ、右に流れ、身を屈め、とんぼを切ってかわしきる。残機は1。当たれば終わりのオワタ式弾幕ゲーム。狭まりそうになる視界を無理やり広げ、無心になってかわす、かわす、かわす。「スタミナ切れを狙っても無駄デスよッ!」「そんなせこい作戦、最初から狙ってないってさッ!!」 左逆袈裟を倒れ込むようにくぐり抜け、地面についた右を軸にコンパスのように回転。地をなぞるようなローキックをふくらはぎの裏から叩き込む。カポエイラの蹴り技のひとつ、ハステイラだ。すね当てとすね当てがぶつかる金属音。大樹の根本を蹴ったかのような感触。身を捻って地面を転がり、降り注ぐ鉄槌をかわす。轟音と共にダンジョンが揺れる。天井から砂埃が舞い落ちる。「ったく、馬鹿みたいに体幹が強くなってない?」「Oui, bien sûr! アテクシも毎日鍛えてマス! 成長するのはアカリさんたちの特権じゃありマセン!」 ま、そりゃそうだよね。っていうか知ってた。 パラリンピック強化選手にしてインフルエンサーで
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第66話

 剣城勇奈は内心で舌を巻いていた。 鬼嶋虹心の実力に、である。「おらおらおらおらッ! そんな腰が引けてちゃ当たるもんも当たらねえぜッ!!」「……ッ!!」 すれ違いざまに打ち掛かる木刀をハルバードの柄で受け、その衝撃を逆用して穂を振るうのだが紙一重の差でかわされる。生き物のように動くバイクは徒歩と違って挙動の起こりがない。アクセルやクラッチレバーを操作する手を見ようにも、風防で視線が遮られる。(江ノ島のときはあんなパーツはなかったはずだよね) いつか祇園精舎ダンジョンで共闘したときのことを思い返す。あのとき、鬼嶋のネイキッドバイクは無骨そのもので、余計な装飾やパーツは一切ついていないように見えた。ダンジョンで空気抵抗や寒さが問題になることはほぼあるまい。風防はバイクの操作を隠すために新たに取り付けたパーツだろう。 いや、違う。 桜吹雪高校の準決勝の試合映像では、風防などついていなかった。この決勝になって初めて取り付けたパーツなのだ。 つまり、(私向けの対策を用意してくれてたってことだね!) 高速で繰り返される一撃離脱を、反射神経のみで捌き続ける。 石突きを跳ね上げ、穂先を突き出し、斧で切りつけ、鈎で引っ掛けようとする。 空振り、空振り、空振り、空振り。 紙一重。間一髪。毫末の差。 ほんの僅かにかすめた攻撃が、金髪を、特攻服の端切れを散らす。 あるいは皮一枚なら届いているのかもしれない。 しかし、鬼嶋は臆することなくバイクと共に突っ込んでくる。 剣城家の流派――剣心一刀流は後の先を以って奥義とする。 居合の術理を応用した斧槍捌きは、迎え撃つと言うよりも当たるべく場所に「置きにいく」という感覚が近い。その読みが、直感が、ほんのわずかな差でずらされ続けている。(すごい成長速度だ……!) 剣城の口元が、無意識に歪められていた。 悔しさではない。嫉妬でもない。それは愉悦。あるいは昂り。 この瞬間、剣城勇奈は鬼嶋虹心との戦いに、確かに胸を躍らせていた。(とはいえ) 感心してばかりではいられない。 練習試合であったなら、全力を引き出して堪能することも許されただろう。それは軽視でも侮辱でもない。剣城自身の研鑽に
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第67話

 切光桐子は試合開始の直後に走った。 狙いは聖マグダレナの後衛、初里麻凛である。 剣城、ブランによるブロックは入らない。二人ともそれぞれ鬼嶋、朱莉の相手に集中している。 では初里はどうか。 彼女は紫の長衣を翻し、通路の一本に向けて駆けていた。前衛二人で強襲をかけてのスカウト単騎による宝箱探索。財宝争奪戦における定跡のひとつである。(なるほど、序盤の作戦はボクらとほぼ同じか) 桐子は初里の背中を追って走りながら思う。 強襲とスカウト単騎の組み合わせと、三人での強襲にじつは本質的な差異はない。どちらも正面からの力攻めを意味する。そして一人が宝箱探索に入ったならば、それを誰も追わないという選択肢はほぼない。スカウトを数分放置すれば、それだけでセットを取られてしまうからだ。 初里の進行スピードは速い。 トラップは確実に見切り、避けられない徘徊モンスターとの戦闘も手早く片付けている。使う得物は短剣。事前の偵察でわかっていたことだが、桐子と近いスタイルだ。 いくら速いと言っても、さすがに振り切られるほどではない。 桐子もまた探索を本職とするスカウトなのだ。一度誰かが通った通路など、舗装された遊歩道を散歩するようものだ。警戒すべきは先行する初里が仕掛けるトラップだが、今のところそんな素振りは見られない。トラップには基本的に消耗品である胚珠を使用する。プラーナポイントの圧迫を嫌って、トラップ用の装備をそもそも用意しない者も多い。 追いつけそうなタイミングは幾度かあったが、無理には仕掛けない。この場面で気をつけるべきは初里に一方的に解錠を許してしまう展開だ。後衛とはいえ初里は聖マグダレナのレギュラーの一角。正面戦闘で簡単に落とせるような相手ではない。 付かず離れずの追跡行の結果、宝箱が設置された広間に出た。 初里は宝箱の前に佇み、振り返る。 桐子も十分な間合いを置いて足を止めた。「これで膠着、ですね。どうします? 私たちも一騎打ちに興じますか?」 初里がフードの奥から声をかけてくる。その表情は陰に隠れて見えない。「やめておきますよ。それより、解錠はしないんです? せっかく先着したのにもったいないです
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第68話

 もっとも体力消耗が激しいスポーツは何か。 これについては諸説あると思われるが、格闘技全般が上位に当てはまることを否定する人はいないと思う。例えばボクシングなら1ラウンド3分で1分のインターバルを挟む。MMAなら5分3ラウンドか5ラウンドが標準的だ。極端な例を挙げると大相撲では10秒前後で決着が着くが、試合後の力士は消耗しきって全身汗まみれである。 ダンジョン道においてもそのあたりの事情は近い。 1セット10分間を延々殴り合っていることなどそうそうないが、ありえないことではない。双方が開幕からの強襲を行い、決着しなければ10分間延々殴り合いを続けるという、他競技ではなかなか見られないタフな勝負が繰り広げられるのだ。消耗するのはプラーナなので、現実の格闘技とはちょっと事情が違うところもあるのだけれど。 第一セット:【0-0】 というわけで、引き分けとなった第一セットではその10分間の殴り合いが発生した。「はあ、はあ……さ、さすがにキツイっすね」「な、なんだ。もうへばったのかよ?」「いいから喋ってないで回復に努めて」 肩で息をするわたしと鬼嶋に、キリ先輩が特濃のスポーツドリンクをくれる。いつものお手製スポドリにたっぷりのハチミツを加えたスペシャルバージョンである。とろみを帯びた冷たい液体が熱くなった身体を冷やし、糖分が全身に染み渡っていく。「向こうも交代はないみたいだね」 聖マグダレナの方でも、ブランと剣城さんが初里さんから受け取ったドリンクを飲んで呼吸を整えている。定員の3名ぴったりで戦っているうちとは違い、あちらは選手層も厚く、控え含め6名のフルメンバーが登録されている。「つっても、準決からは交代がねーから通常運転って感じだけどな」「そうだね。どうやらそれがマグダレナの本気ってことみたい」「へへっ、去年とは大違いだな。光栄なこって」 二人の言うとおり、聖マグダレナは緒戦こそ頻繁に選手交代をしていたものの、準決勝では剣城さん、ブラン、初里さんから交代していない。いつか剣城さんが口にしていたことだが、聖マグダレナは余裕があるうちは頻繁な交代で多くの選手に経験を積ませる方針で、去年の冬大会での対戦では剣城さんが早々に引っ込んだそうだ。 それがいまや交代の気配なし。 つまり、桜吹雪高校が「油断できない好敵手」として認められたとい
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第69話

 わたしとブランの戦いは、正々堂々足を止めての正面からの打ち合い……とはならなかった。 ブランの攻撃は一発でも直撃をもらえばリタイア確定の大威力だ。そのため、素早く間合いを出し入れしながら。ロングレンジの打撃を差し込んでいくアウトボクシングスタイルが自然と最適解となる。「Mmmm……ちょこまかとずるいデス!」「ずるくないです~。これが戦術ってやつです~」 追いすがる巨大ハンマーをかいくぐりながらの戦い。ブランはだいぶ焦れているようだが、それに応えてやる義理などない。 だが、精神面での苛立ちとは裏腹に、体力の方はまだまだ余裕がありそうだ。ちくちく打撃を入れてはいるものの、全身金属鎧で固めているのだからそうそう有効打になどならない。捨身飼虎を封じるためだろう。基本的には前に出続け、溜めを作れる隙は与えない立ち回りだ。 ブランが警戒すればいいのは、捨身飼虎による豪打とオープンヘルムで剥き出しの顔面のみ。細かな被弾は気にせず、こちらを叩き潰すべくじわじわ進んでくる様子はさながら重戦車だ。身体は豆タンクだが、秘めたパワーは陸上戦艦級である。「いままでと一緒じゃないデスか! これでラストセットなんデスよ!」 ブランのギアがさらに上がる。 ハンマーの生み出す風圧が勢いを増す。 もはや体力を残す必要はない。 出し惜しみせず一気に潰す算段だろう。 ブランの言うとおり、このセットも含めてわたしはずっと一撃離脱に徹してきた。これがボクシングだったなら、クリーンヒットの数でわたしが判定勝ちを収めるだろう。しかし、これはボクシングではない。このまま試合が終わったら、終始押されっぱなしだったわたしの負けだと誰もが思う。なにより、わたし自身がそう考えてしまう。 だから。「うおおおおおおおッ!!」 気合一発。横薙ぎのハンマーをスウェーでかわした直後、身体を思いっきり前傾させて振り下ろし気味のロシアンフックを右拳で放つ。さながら野球のオーバースローのような打撃。顔面に直撃すれば、さしものブランも堪えるだろう。 だが。 右拳に固い手応え。ごうんと鈍い金属音が轟く。兜で受けられたのだ。「Huhumph、このくらいでは通りマセンよ!」 知ってる。 この程度のカウンターが通じるのならとっくにわたしが勝っている。 前傾させた身体をそのま
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第70話 最終話

 取っ組み合い、である。 素手と素手との対決になったのだからわたしが優位かと思いきや、泥仕合に突入している。ブランは狙っているのか無意識なのか、間合いを詰めて掴みかかり、頭突きをメインに叩き込んでくる。 技を使って崩すなり引き剥がすなり試みてはいるのだが、純然たるパワーで撥ねつけられるのだ。圧倒的なパワーは多少の技量差など踏み倒せるという、武の身も蓋もない本質を突きつけられているような気分だ。 見様見真似の生兵法で挑んできてくれれば対応もしやすかったのだが、なりふり構わず子どものように飛びかかられてしまってはいかんともしがたい。 とはいえ。 ラフファイトならこっちだって本領である。頭突きに対しては逆に頭をねじ込んで額で顔面を受け止め、隙を見てはショートフックや肘打ちをボディにこつこつ打ち込む。腰が入らないから大した威力は出せないが、嫌がらせにはなるだろう。ボディに注意が下がったら絞め技を狙いたいところだが、半端な体勢ではパワーで引っ剥がされるだけだろう。あまり期待はしないでおく。 まあ、スタンドでの取っ組み合いになった時点で作戦の半分は達成できているのだが。 あとはその時が来るまで耐えるのみ。いや、本音はさっきのバックドロップで仕留めたかったけどさ。まだまだダメ押しが必要なようだ。「歯ァ食いしばれッ!!」 鬼嶋の絶叫。瞬間、わたしは歯を食いしばって身を固める。「ブランッ! 気をつけろ!」「Quoiッ!?」 剣城さんの絶叫。衝撃。ブランの悲鳴。 わたしはブランを掴んだまま空中にはね飛ばされる。「決めろよッ!」 くるくる回る視界の下、走りすぎていくのは一台のネイキッドバイク。 ブランの死角から、鬼嶋がアクセル全開で体当たりを仕掛けたのだ。「もちろん、これで決めさせてもらうよ!」「ッ!?」 突然の事態に混乱するブランを空中で拘束する。 腕の上から抱きしめるように両腕をロック。 足を絡めるついでに跳ね上げ、逆立ち状態に。 頭を顎の下にねじ込み、首を丸められないよう固定。「うおおおおおおおおおおおおッッ!!」 ずん、と重い衝撃が頭頂から足先へと上っていく。 拘束を解いて離れると、石畳に頭を突き刺したブランが白目をむいて泡を吹いていた。これならトドメは必要あるまい。見立ては正しく、ブランの体は徐々に光の粒子となって|
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