Semua Bab いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~: Bab 21 - Bab 30

70 Bab

第21話

 宝箱にふれると、これみよがしの鍵穴の上に四角いパネルが出現した。 正方形のそれは4x4の16マスに仕切られており、1箇所が空いている。 残りの15マスには、それぞれ風景写真の切れ端のようなものが写ったパネルがはめ込まれていた。 なるほど、15パズルとか、スライドパズルとかってやつだ。 背後から徐々に近づく重低音の足音を聞きながら、カチャカチャとパネルを動かす。えっと、こういうのはいっぺんに全部やろうとしないで、一段ずつ処理するのがセオリーだよな。青い部分は空だろう。それが写ってるのを最上段に集めて――「ぐっはぁ!?」 横からの強烈な衝撃に、わたしはふっ飛ばされていた。 くっ、どうやら劉備の長い腕に殴られたらしい。 パズルに夢中になって、そちらへの集中が切れてたぜ。 えっと、離れたところで待機して、十分に引き付けたらダッシュ。 再び宝箱の前に戻って、一段目は完成したから二段目をカチャカチャ……「ぐっはぁ!?」 またふっ飛ばされた。 ぐぎぎぎ……と歯ぎしりしながら端っこで待機。 くそう、マルチタスクって苦手なんだよなあ。 何かに集中すると、他がおろそかになってしまうのだ。 よし、また宝箱の前に戻って、三段目……あれ? ぜんぜん揃わない? どうやるんだこれ? え、もしかして無理ゲーじゃない? 詰んでる?「ぐっはぁ!?」 広場の隅に移動して待機する。 所定の位置から石像が来るまで30秒として、もう1分を過ぎたのか。 あれ? 戻る時間は考えなくていいのか? つか、鬼嶋に負けている。悔しい。 あ、にやにや笑ってやがる。ぐぎぎぎぎぎ……「ぬがぁぁぁああああああ!!!!」 わたしはキレた。 奇声とともに両の拳で天を突き上げる。 だいたいあれだ、こそこそパズルを解くなんてわたしの流儀じゃない。 あんな石像はぶっ飛ばして、それからゆっくりパズルを解こう。 集中さえできればあっという間に解けるはずだ。 呼吸を整え、腰を落として臍の下に力を溜める。 徐々に迫る石像を見やる。 身長はゆうに倍以上。 こんな石の塊、以前までのわたしなら手甲があってもぶん殴ろうだなんて夢にも思わなかっただろう。 だが、今のわたしにはアレがある。  右拳を固める。 肘から先を、一本の鉄棒と思い込む。 これはわたしの腕じゃない。 これはわた
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第22話

 桜吹雪高校ダンジョン部は、未曾有の危機に瀕していた。「け、桁が違う……」「これ、なんかの間違いじゃねえのか……」「とてもじゃないけど、ボクたちには無理だ……」 わたしたちを追い詰めていたのは一枚の書類であった。 それには「見積書」の字が大きく記され、その下には「イミテーション修理代金として」という但し書きの横に、馴染みのない桁の数字が並んでいた。「まあ、高校生にはきちー金額だよなあ」 機械油で汚れたつなぎをはだけさせ、腰で縛ったお姉さんが苦笑いする。 タンクトップの上半身は、筋肉質の褐色の身体を惜しげもなく晒しており、ちょっとプリンな金髪も相まってザ・ガテン系お姉さんといった風情である。「なあ、いち姉ちゃん、これ、もうちょっと何とかならねえのかよ」「もう身内価格だよ。工賃なんて雀の涙も取ってねえ。修理に必要な部材が高えんだ。もともと高級品ってわけじゃねえが、型が古すぎて在庫が残ってねえんだよ。それを取り寄せようっていうと、どうしたって無理が必要になる。こればっかりはサービスできねえな」 肩を竦めるガテンお姉さん――鬼嶋苺心は鬼嶋の姉である。 10歳ほど年が離れていて、市内でダンジョンギアの中古店を営んでいる。そのついでに修理も請け負っているそうだ。ギアは基本的に再生成すれば直るものだが、あくまで基本的にであって、壊れることもあるらしい。 そんな店があるのなら、わたしのギアもそっちで買えばよかったのにと言ったら、「姉貴の店はヴィンテージ専門。オレらの財布じゃ手が出ねえよ」とのことだった。「しっかし、こんな年代物のイミテーション、よく今まで動いてたなあ」 苺心さんは目を細め、イミテーションを縁取る装飾を愛おしげに撫でる。 ダンジョンギアのヴィンテージなんかで商売は成り立つんだろうかなどと失礼なことを思ってしまったが、なるほど、好きが高じてそんな仕事を選んだんだなあと仕草だけで伝わってくる。「はあ、参ったなあ。新品を買う予算なんてないし……」「けどよお、いちいちスポーツセンターのダンジョンなんて借りてたら練習にならねーぜ」 そう、故障したのはわが部室のイミテーション――人工ダンジョンだったのだ。 このダンジョンを初めて使ったとき、狂化という現象が起きていたそうなのだが、いま思えばそれが故障の兆候だったら
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第23話

「アカリちゃん、ちょっと待って」「なーに勝手に仕切ってんだよ」「ぐえっ」 ちょっと、後ろから襟首をつかまないで。 潰れたカエルみたいな声が出てしまったではないか。「競技じゃないし、天然ダンジョンだからね。安全第一で行こう」「てめえが勝手に消失するのはかまわねえが、それでこっちの仕事が増えるのは勘弁なんだわ」「というわけで、ちゃんと隊列を組んでいこう」「はあい……」 通路が狭いため、隊列は縦一列になった。 先頭はキリ先輩、続いてわたしで、しんがりが鬼嶋だ。「夏大会のレギュレーションは『財宝争奪戦』に決まったからね」「いまからスカウトになれとは言わねえが、せめて動き方くらいは見て学んで邪魔にならないようになっとけよ」 という次第なのである。 高校ダンジョン道では、大会ごとにレギュレーションが変更される。 初心者のわたしとしては、鬼嶋とやった「ボス先取」みたいなのがわかりやすくてよいのだが、そういう単純なルールが採用されることはめったにないらしい。「ストップ」「わわっ」 先を行くキリ先輩がいきなり立ち止まったので、わたしも慌てて足を止める。「ここ、枕木の色が一本だけ違うんだけど、わかるかな?」「えーっと……」 指された場所をじっくり見ると、確かにその枕木だけ前後よりちょっとだけ色が薄かった。 その差はほんのわずかで、言われなければとても気付ける気がしない。「で、たぶん射出系の罠――火炎放射かな? あそこの壁に穴が隠されてて、周りに焦げ跡が残ってる」「ほえー」 穴は凹凸の陰影に巧妙に紛れていて、こちらも言われなければ気が付けるものではない。「すごいっすね。言われなきゃ全然わかんかったです」「キリキリはスカウトとしちゃ全国レベルだからな。おまえなんかとは比べもんになんねーよ」 鬼嶋はキリ先輩が褒められると本当に嬉しそうにする。 そして当のキリ先輩は「全国は言い過ぎだよ」と顔を赤らめていた。 スカウトとは、日本語では斥候という。 昔は盗賊と呼ばれていたらしいが、犯罪者のような呼び名はよくないということで変更されたのだそうだ。スカウトには罠の発見や宝箱の解錠など、ダンジョン探索に関わる多くの技能――戦闘以外のほぼすべてが求められる。 要するに、キリ先輩はわたしに出来ないことが全部できるというわけだ。「
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第24話

 隠し扉を抜けて探索を続けていると、先頭を行くキリ先輩が分岐の手前で不意に立ち止まり、ハンドサインで右の分かれ道を指した。えーと、あのハンドサインは確か「モンスターあり」だ。 少し引き返して、キリ先輩が小声で言う。「右の分岐の先にモンスターの気配。4、5体かな。ぜんぶ人型。たぶんちょっとした広間になってる」 直接見たわけではなく、音だけでこれだけの情報を判別しているのだからすごい。 いくら聞き耳を立てても、わたしには足音の一つも聞こえないのだが。「オレは襲撃に一票。もう一時間近く探索してんのに何の収穫もねえからな」 鬼嶋の意見にわたしも賛成の手を挙げる。 いやあ、探索関係で役立てることがなくてさ、所在がないのだ。 というか、ここまでキリ先輩の独壇場である。 鬼嶋はキリ先輩と組むのに慣れているから気にしていないようだが、わたしは気にしてしまう。「じゃ、ぎりぎりまで接近して、ボクの合図で突撃。隊列はニコちゃん、アカリちゃん、ボクで。数を減らすのを優先して」 短い打ち合わせを終え、足音を忍ばせて道を進む。「いま!」 キリ先輩の小声で一気に駆け出す。 通路を出ると、このダンジョンでは初めての広い空間に出た。 そこには直立した猪に石槍を持たせたようなモンスターがいた。 上背は2メートルほどで、横幅も広い。 全身が獣毛に覆われており、その上に熊笹で編んだ蓑を被っている。 ゲームに出てくるオークにそっくりな姿だが、苺心さんから事前に教わっていたところによると、「猪笹」というモンスターらしい。 5体のそれらは、無言で突っ込んできたわたしたちに驚き、石槍を構えようとするが、慌てふためいて取り落としてしまうものもいる。「オラァッ!」「ぴぎっ!?」 鬼嶋の木刀が猪笹の鼻面を叩く。 普段より少し間合いが広い。 よだれをまき散らかしながらのけぞったその喉元に突きが見舞われ、猪笹は光の粒子となって消えていく。 おお、あっさりと一体討伐だ。 以前より、一打の威力も上がっている気がする。「へへっ、じいさんに鍛えられてから調子がいいぜ!」「油断しないで!」 攻撃後の隙を狙って石槍を突き込もうとしていた猪笹の両目にナイフが突き立つ。 キリ先輩が投げたのだ。 こちらも精度が上がっている気がする。 合宿からまだ間もな
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第25話

 それからも探索を続け、何回かの戦闘をこなした。 宝箱のドロップもあり、素材はぜんぶで3つほど入手できている。「できればもうちょっと欲しいところだね」「だな。姉ちゃんは最低3つありゃ足りるっつってたけど」 修理代までタダにしてもらうのだ。 最低限のギリギリで済ませてしまっては申し訳ない。 幸い、時間はあるはずだ。 スマホで確認すると、まだお昼を過ぎたくらいだった。 しかし、ダンジョン内じゃ圏外だし、時間を見るためだけにいちいち取り出すのは面倒くさいな。 ダンジョン用に安い腕時計でも買おうかなあ。 あれ、こういうのもダンジョンギアで揃えた方がいいのかな? きゅ~~~…… あ、時間を意識したらお腹が鳴っちゃった。 そういえばダンジョン内での食事ってどうするんだろう。「もういい時間だね。そろそろお昼にしよっか」「誰かさんの腹の虫も我慢できねえみてえだしなー」 と、言った鬼嶋のお腹からも「くるるる……」と音がした。「い、いまのは違えからな」 鬼嶋はほんのり赤く染まった顔を逸らす。 ふふ、貴様だってお腹が空いていたんじゃあないか。 各自のリュックサックからお弁当を取り出す。 わたしはコンビニで買ったパンとお菓子。 キリ先輩は手作りのサンドイッチ。 鬼嶋はお弁当箱に入った俵型おむすびとタコさんウインナーと唐揚げと卵焼きとプチトマトとブロッコリーと……「って、おい」「あン? なんだよ?」「キャラじゃないだろ」「ハア?」「おまえはっ! 手作りお弁当とかっ! そういうっ! キャラじゃっ! ないだろっ!!」「ンだよそれは……」 わたしの涙ながらのツッコミに、鬼嶋は素で引いていた。「い、一個食うか……?」「う゛ん゛っ!」 俵おむすびはわかめの混ぜご飯で、具材にシャケまで入っていた。 卵焼きも甘くて美味しい。 はあ、手作りの味だ……。 じいちゃんちではろくに食べられなかったし、寮のご飯もおいしいんだけどどこか味わいがないっていうか、こう、なんていうかね、作り手の愛がこもった料理と言うのはよいものだよね……。「だ、大丈夫かおまえ? だいぶキメエぞ……」「ア、アカリちゃん? わたしのサンドイッチも食べる?」「う゛ん゛っ!」 ハムサンドとツナサンドをもらう。 キリ先輩に合わせてか、かわいらしい一口サイズ
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第26話

「っっっしゃあ! ぶち転がしてやるぜぇっ!」 バイクで先陣を切る鬼嶋を、猪笹王がつるはしで迎撃。 振り下ろされたつるはしが、岩盤を打ち砕く。 急旋回で回避した鬼嶋が、大声で挑発。 つるはしが幾度も颶風を巻き起こすが、鬼嶋は見事なライディングテクニックでかわしていく。 鬼嶋の狙いは特攻ではない。陽動である。 猪笹王の注意が鬼嶋に引き付けられている隙を縫い、死角から忍び寄る。 息を整え、身体を沈めながらの踏み込み。 猪笹王の背後から、脇腹を狙って両拳を揃えて叩き込む。 腎臓打ち――人間であれば急所だが、モンスター相手にははたして?「ぐも……」 猪笹王が呻きを洩らす。 だが浅い。 背中を覆った熊笹の蓑と獣毛、そして脂肪に衝撃が吸収されていた。 打った感触では蓑の強度も雑魚の猪笹より高いようだ。「やべっ……!」 巨大な蹄が後ろ蹴りに繰り出されのをすんでで回避。 続いて横薙ぎに繰り出されたつるはしを、とんぼを切って跳び越える。「アカリちゃん、下がって!」 キリ先輩が猪笹王の顔面へナイフを投擲。 猪笹王がその太い腕で顔面をかばう。 視界が塞がった隙に、バックステップでキリ先輩の元まで戻る。 同じタイミングで鬼嶋も集まった。「へっ、さすがに手強いじゃねえか」「ニコちゃん、ナイスファイト。アカリちゃん、手応えは?」「雑魚の数倍は硬いっすね。解禁していいですか?」「オーケー了解。ニコちゃんは引き続き陽動よろしく」「了解だぜ!」 手短かに打ち合わせを済ませ、散開。 いまさっきまでいた場所につるはしが振り下ろされ、クレーターを穿つ。 固まっていたら一発で全滅しそうだ。「っしゃあコラァ! こっちだ豚面野郎!」 鬼嶋がバイクで駆け回って猪笹王の注意を引こうとするが、今度はなかなかわたしから目を切らない。 最初の奇襲で警戒したか。 ちっ、切り札を切るなら初手だったか。 ならば――「どっっっせい!」 捨身飼虎――光り輝く拳で地面を砕く。 衝撃が坑道を震わせ、天井からぱらぱらと砂煙が落ちる。 猪笹王のボーリング玉のような目が剥かれ、こちらに向けられる。「鬼嶋! キリ先輩!」 わたしの意図を察した二人が、猪笹王に一斉に仕掛ける。 鬼嶋のバイクが脛に衝突。 寸前に飛び
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第27話

 部室のイミテーションは無事に修理された。 西丹沢ダンジョンでの収穫が予想以上だったということで、サービスで機能拡張までしてくれた。 それまではできなかった高難度の設定ができるようになったのだ。 なったのだが――「なんや嬢ちゃんたち、攻めが一辺倒すぎてつまらんで」 青銅色の肌をした牛頭の巨人、ミノタウロスが鼻息で笑う。 その前には、攻めあぐねてぼろぼろになったわたしたちが膝をついていた。「とくにアーちゃんには期待しとったんやけどなあ。なんや、初めての一発は偶然かい。わかっとりゃぁ、あんな大振りもらわれへんし、そのへんは捨身飼虎ゆうたか? あれも事情は変わらんのう」 ――なったのだが、最高難易度モードでは、なぜかあの狂化ミノタウロスが固定ボスになってしまったのだ。 おまけに会話機能まで実装されている。 なぜか、うさんくさい関西弁で。「ヤンキーの嬢ちゃんも威勢がよいのは最初だけで、バイクぶっ壊されたらそれっきりしおしおやんか」「この野郎……っ! ぐあああっ!?」 挑発に乗った鬼嶋が飛びかかるが、前蹴りであっさりと跳ね返される。 倒れたその脇には無惨にも半壊した小型バイク。「キリたんもナイフを投げ尽くしたら打つ手なしかい。自分はスカウトが本業ですから、ってわけかいな。たいそう呑気で、ええご身分ですなあ」「ぐぬぬぬぬ……」 キリ先輩は鬼嶋のように迂闊なことはしないけれども、真っ赤な顔で歯ぎしりしている。 ミノタウロスの煽りに相当ムカついているようだが、さりとて反撃の手段もない。 それにミノタウロスが背後に守っている宝箱の解錠がキリ先輩の役割である。「だいたいやなあ、おまえら全員実戦練習が足らんのとちゃうかのう。ランダムで湧くモンスター相手なら決まった連携でなんとでもなるやろうけど、対人やるんやろ? 同じ相手なら当然対策もしてくるやろうし、直接試合をしとらんかっても研究されとる場合もあるやろ。一枚の手札で勝ち抜けるほどダンジョン道は――」 と、そこでミノタウロスのねちねちした説教が途切れた。 オフィスチェアで目を覚ますと、景色が部室に戻っている。 どうやらキリ先輩が強制停止したらしい。「まったく、いくらなんでも口が悪すぎでしょ!」 キリ先輩がキーストーンを爪の色が変わるほど強く握りしめている。 気持ちはわ
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第28話

 草ダンジョン大会の会場は市民体育館だった。 普段はバレーやバスケットで賑わっている板張りの体育館に、折りたたみのできる簡易なリクライニングチェアがところ狭しと並べられ、壁際には姿見に似たイミテーションがいくつも並べられている。「草大会って言うから、河川敷でやるもんだと思ってた」「河川敷でどうやってイミテーションの電源取るんだよ」 草野球大会からの連想に、鬼嶋からツッコミが入る。 イミテーションって、エーテルだけで動くものじゃないんだなあ。 そういえば部室のイミテーションも電源コードがコンセントにつながってた。 あれ、ホコリが溜まりやすくて掃除が地味に大変なんだよね。「トーナメント表、貼り出されてるよ」 と、キリ先輩。 ステージ上のホワイトボードに貼り出されたトーナメント表を見に行こうとするが、人が多くてなかなか近くへ行けない。人混みの年齢層はわたしたちくらいの年代から、上は40代くらいのママさんまで様々だ。子供連れもいるのだろう、「おかーさーん、がんばってー!」という幼い声援が早くも飛び交っている。「えーっと……、おお、8チームも出場するんだ」「想像してたより大規模だね。例の元プロ入りチームは……反対ブロックか」「へっ、お楽しみは決勝までお預けってわけか」 キリ先輩も鬼嶋も、すっかり元プロのいるチームに照準を合わせている。 なんやかんや二人とも実績のある選手だもんな。 このところ当面のことで目一杯なわたしとは大違いだ。 トーナメント表を確認しながら、頭の中で個人的な課題を振り返ってみる。■大目標:打倒ブラン! そして打倒聖マグダレナ女子学院!!■小目標:1)捨身飼虎の使いこなし2)チーム連携の強化(足を引っ張らないように)3)宝箱解錠スピードの向上(目指せ1分切り!)4)探索の基本を身につける(最低限、右手法じゃなくても道に迷わない)5)メジャーなルールを一通りおぼえる ……こうしてみると、(1)以外はぜんぶ基本中の基本じゃね……? ま、まあ何しろわたしはドがつく初心者なのだ。 キリ先輩には「あまり難しく考えず、のびのびプレイして」と言われているし、鬼嶋からも「脳筋が無駄なこと考えんな。突っ走ってぶっ飛ばす、てめえはそれだけ考えてろ」と言われている。 ……なんか表現が違うだけで、同じことを言われている気がす
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第29話

 この状況がマズイのは、わたしにもわかる。 解錠には制限時間があるのだ。 解錠権を確保してから2分が経過すると、解錠は失敗。 わたしたちのチームにマイナス1点が課されることになる。「くそっ……、固まって後をつけてくるなんて妨害特化の定石なのに、あからさま過ぎて油断した……!」 言いながら、キリ先輩がナイフを投擲する。 防御の隙間を狙ったそれは、ほんのわずかに盾をずらしただけで弾かれた。 ただ盾を並べているだけじゃない。 練度の高さがうかがえる無駄のなさだ。「ボクはガーディアンを引き付ける! 突破できたらすぐ飛び込むから!」 じりじりと近づいていたストーンゴレームを、キリ先輩が宝箱の逆方向へと走って引き付ける。ガーディアンは解錠権を得たプレイヤーを狙う。のんびり一箇所に留まっているわけにはいかないのだ。「小手先じゃ通じねえ! 突っ込むぞ、一年!」「お、おう!」 バイクを復号した鬼嶋がアクセルをめいっぱい吹かし、わたしも全力で地面を蹴る。 一気にトップスピードへ達したバイクが、盾の城壁に突き刺さる。「ぶっ飛べやぁぁぁあああああ……ああああああああっ!?」 バイクが盾の城壁を飛び越え、空中にすっ飛んでいく。 斜めに構えられた盾に乗り上げ、ジャンプ台よろしく飛び出してしまったのだ。「きゃはははは! 見事なジャンプねえ!」「金メダルものよ~」「でも競技が違うんじゃないかしら~」「くそがーーーーっ!!」 偶然ではない。明らかに狙っていた。 突っ込んできたバイクをそんな手段でいなすなんて、一体どんな練習を積めばできるんだよ……! とはいえ、感心してばかりではいられない。 わたしも仕掛けなければ!「だぁぁぁぁああああしゃあっっっ!」 全速力からの跳躍。 バイクを受け流した盾は、斜め後ろに傾いている。 盾の裏では無理な姿勢を取っているはずだ。 ここで盾の上辺を思いっきり踏みつけてやれば……!「踏み潰して……あいったあっ!?」 しかし、足裏に走るはずの衝撃はなく、代わりにふくらはぎに激痛が走る。 空中でバランスを崩したところを盾で突き飛ばされ、もんどり打って石畳に転がった。「きゃははは、温故堂のみなさまは空中プレイがお好きなのお?」「見事なバック転だったわねえ」「でも着地は零点だわあ」 ぐぎぎぎ
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第30話

 第3セットを終えて、ミニマップに表示された得点状況はこうだった。【温故堂:-3点】【夜の蝶:0点】「タイム!」 セット間のインターバルで、キリ先輩がタイムを申告した。 言うまでもない、逆転の作戦を練るためだ。 わずかな時間でなんとかそれをひねり出さなきゃいけない。 円陣を組んで相談を開始する。「まず状況。残り2連奪取が必須。反撃の手を考えないと」 財宝争奪戦での宝箱解錠で得られる得点は2点。 残り2つ、確実に取らなければ負けが確定する。「ンなもん、強襲一択だろ」「強襲?」「宝探しのターンで強襲をかける。開幕で潰しちまって、それからゆっくり宝箱を開けようってすんぽーよ」 得意げに言う鬼嶋だが、じつに脳筋な解決策だった。 いつも人のことを脳筋扱いするくせに、自分もたいがいじゃないか。 ……しかし、確かにこの状況では理にかなっている気がする。「時間内に倒しきれる?」「うっ……」 鬼嶋が声を詰まらせる。 あー、ですよねー、やっぱり無理のある作戦だと思ってましたよ。 宝箱の解錠だけでなく、各セットにも時間制限があるのだ。 膠着を避けるためだろうが、10分以内に決着がつかなければ引き分けになる。 最初のセットこそ奇襲でやられたが、2回目以降は正面からの力押しで妨害されたのだ。キリ先輩が解錠に集中するから2対3の数的不利ではあったものの、3対3で襲ったところですんなり倒せる相手とも思えない。「だいたいよお、低速ギアのバイクで押してもびくともしねえって、どんな馬力をしてんだよ、あいつらは」 と、鬼嶋はぼやくが、単純なパワーと言うよりテクニックの問題だ。 あの「夜更けの三連星」は揃いも揃って盾の使い方が異常に上手い。「にやにやしてねえで、おめえは何か作戦考えろよ。火神陰流に盾用の技があったりしねえのか?」「えっ? えーとお……」 ない。ないのである。 どういう理由か知らないが、日本では手盾が発達しなかった。 なので当然、うちの流派でも盾対策の技なんて残されていないのである。 明治維新以降は海外からも技術を取り入れたが、その頃には銃が主体で盾を使う武術なんて海外でもほとんど残されていなかったのだ。 そうなると残された手は―― 「……捨身飼虎でぶっ飛ばす?」「バーカ、そ
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