Semua Bab いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~: Bab 31 - Bab 40

70 Bab

第31話

「おーべんとー♪ おーべんとー♪」「なんでそんなにテンション高えんだよ」「隙あり! からあげいただきっ!」「あ、この野郎! 素手でつまんでんじゃねえよ!」 第一回戦を終えたわたしたちは、会場の隅でお弁当タイムを楽しんでいた。 午前中に1回戦、昼休憩を挟んで午後に2、3回戦というのが本日のスケジュールだ。 天然ダンジョンの探索で判明したことだが、驚くべきことに鬼嶋は料理が上手い。 ゆえに、弁当のおかずはすべてが至宝となりうる。 もぐもぐ……ほほう、今回のからあげは竜田揚げ風ですか。 冷めているのにカリカリの衣。香り立つ生姜醤油。噛むほどに溢れる肉汁……。 うーむ、これはお店が開けるレベルでは?「ニコちゃんは小学生の頃から自分でお弁当作ってたからね。実家の定食屋さんも手伝ってたし、腕前は冗談じゃなくプロ級だよ」「おいっ、キリキリも余計なことを言うんじゃねえよ!」 またしても鬼嶋の余計な設定が生えてくる。 バイク好きのヤンキーでお料理上手で小さな頃から家業を手伝う親孝行って……。 鬼嶋よ、おぬしは金髪のくせして萌えキャラだったのか? そんな雑な属性の生やし方は今日びソシャゲヒロインでもやらないのではないか?「やあ、君たちが温故堂かい? いつものメンバーからすっかり若返ってるみたいだけど」 お弁当を囲んでわいわいきゃっきゃとしていたら、背の高い女性が声をかけてきた。ブランド物のスポーツウェアをぴしっと着こなし、額には流線型のサングラス。なんてことない立ち姿だが、体軸のブレがまったくない。相当「やる」人間だというのが一見してわかる。「ふぁい、ふぁんでひょうふぁ」「……?」 いかん、唐揚げを口いっぱいに頬張りながら返事をしたら舌が回らなかった。 鬼嶋の弁当が美味すぎるのがいけない。 手を出すと「食いすぎんじゃねーよ」とか怒ってくるが、止めはしないしな。 決してわたしのせいではない。 なんだかんだ料理を褒められて悪い気分ではないようだしね。 美味いと褒めるとほっぺたをちょっと赤くするんだ。 ふふふ、ちょろいやつだぜ。次は卵焼きもいっぱいあるとうれしいです。「若返ったとはなんだよ。オレはこの通り今でもぴっちぴちだぜ、羽々霧さん」「やあ、鬼嶋さん。今回は出場しないのかい?」「今回はマネージャーだよ。
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第32話

 3回戦、決勝が始まろうとしている。 スタート地点の広場。向かい側に立つ3人は軽装だ。 肩や膝などの要所を樹脂のプロテクターで守ったジャンプスーツで、それだけならキリ先輩の装備とよく似ているが、全身真っ黒なもんだからまるで忍者みたいだ。復号していない装備もあるかもしれないけど、ここから突然重装備に切り替わるということは、さすがにないだろう。「フォフォフォ、よろしくお願いしますぞ」 試合前、こんな感じで挨拶をされた。 ぱっつんと切り揃えられた前髪で目が隠れている。 おまけに三人とも同じ髪型で似たような背格好なものだから、まるで分身の術を使われているような気分になる。笑い方もアレだし、ひょっとして、宇宙忍者の末裔だったりしないかい?「にしても、さっぱり強そうに見えねえなあ。本当にプロに勝ったのかよ?」 鬼嶋が首をこきこきと鳴らしながら怪訝な顔をしている。 そうなのだ。シノビリンのメンバーはあまり強そうには見えない。全体的に小柄だし、線も細い。謎めいた雰囲気はあるけれども、それは強者の雰囲気というより、口数の少ない陰キャのそれである。正面からぶち当たれば簡単に崩せそうだ。 もっとも、ブランのような理不尽を隠していなければ、だが。「羽々霧さんを降したチームなんだから油断しないように。夏大会でも当たるかもしれないんだから」「つっても、志乃美林はお嬢様高校だろ? あんま根性据わってるようには思えねえけどなあ」 そうそう、シノビリンは「志乃美林女子学院」のことだった。 うちの学校よりも西――ほぼ丹沢山中にある、神奈川県下の高校である。 鬼嶋の言う通り、県下ではちょっと有名なお嬢様高校で、幼稚園から大学までの一貫校である。生徒はお金持ちや名家のお嬢様がほとんどを占め、挨拶は「ごきげんよう」がデフォという噂もあるほどだ。 華道・茶道に並んでダンジョン道を必修科目にしているが、あくまでも教養や精神修養の一環として取り入れられているだけで、決して強豪校ではない。むしろ校風として、勝ち負けにこだわるのははしたないと考えているような向きさえある。 なんでこんなに詳しいのかと言うと、高校選びの時の候補のひとつだったからだ。だってさあ、絵に描いたようなお嬢様学校だよ? 高校では「赤鬼」の悪名を捨て、乙女として生きることを誓ったわ
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第33話

「向こうはたぶん同じ作戦で来ると思う。こっちもマンツーで追跡と妨害に徹して。いいね?」「おう」「了解です!」 第二セットの開始前。 わずかなインターバルを利用して、作戦を決めた。 といっても複雑なものではない。 相手がバラバラに逃げるのなら、こちらもそれを追うのみだ。 それぞれがさっき追いかけた相手をマークすることになった。 向かい合う白線には、第一セットと同じく、くのいち軍団が整列している。 ちなみに、「財宝争奪戦」ではセットごとのダンジョン再生成は行われず、両チームの探索済みルートがミニマップに記載され、スタート地点は同じ場所からとなる。セット終了時はなるはやでスタート地点に戻るのがマナーだ。野球の攻守交代と同じく、試合進行を円滑にするためである。『試合開始10秒前。…………5、4、3、2、スタート』 ブザー音とともに地面を蹴り、全力で距離を詰める。 また煙玉などを使われては厄介だからだ。 しかし、シノビリンもこちらの思惑は読んでいたようで、今回は何も仕掛けずすぐさま振り返って通路へとダッシュした。煙玉を投げたところで、煙幕をすぐに突破されては時間の無駄にしかならないからだろう。 忍者だけに、マキビシなんかも警戒していたけれども、そういうのもなかった。 冷静に考えたらダンジョンの靴は安全靴が常識だし、マキビシはあまり効果が見込めないのかもしれない。「待て待て待て待てぇぇぇえええええ!!」 大声を上げ、プレッシャーをかけながら追い回す。 その背中は最初のプレーよりもずっと近い。 これならまた曲がり角でダミーに騙されるようなことはないだろう。 というか、普通に追いつけるのでは? と、思っていたのに。 なかなか距離が縮まらない。 前にも言ったが、ダンジョン競技では基本的に逃げる側より追っ手が有利だ。 逃げる方は罠やモンスターへの対応をしなければならず、追っ手はそれがクリアされた道を辿ればよいからである。 にもかかわらず、一向に追いつけない。 それになんだか妙な既視感がある。 この通路、なんだか見覚えがあるような―― 違う。見覚えどころじゃない。 第一セットの追跡劇とまったく同じルートを辿っている。 ほら、さっき飛び越えた落とし穴とか、わたしが間違って発動させちゃったやつじゃん。 同じ道なんか通ってどうする
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第34話

「ったく、何やってんだよ。マンツーで解錠に入る馬鹿があるか」「そういうこと言わないの。経験を積むために出た大会なんだから」「面目ない……」 第2セット後のインターバル。 かばってくれるキリ先輩の言葉が耳に痛かった。 こればっかりは鬼嶋の言うとおりである。 1対1の状況で解錠権を取っても、成功なんてするわけないのだ。 少し冷静になればわかることを、熱くなってすっかり見落としていた。「しかし、これで3点差かよ。だいぶ追い込まれたな……」 3点差、ええっと、ここから逆転するには……「解錠1回が最低条件。それで2回妨害してぎりぎり勝ちだね。逆に言えば、もう失点は一度も許されない」 まごまごしていたら、キリ先輩が状況を整理してくれた。 失点なし……さっきみたいに、慌てて解錠権を取るのは絶対なしだ。「作戦は引き続き追跡で。宝箱にたどり着いても、数的優位が取れるまでは解錠権は取らないように」「あの、向こうの動きは無視して、3人で固まって宝箱を探したらダメなんですか?」 素朴な疑問を口にしてみる。 宝箱の解錠に数的優位が必須なら、最初から固まって動けばいいんじゃなかろうか。「ダメってことはないけど、リスクが高すぎるね。こっちは先に宝箱を見つければ問題ないけど、向こうに先に見つけられたら、解錠までに妨害できる保証がない。推測になるけど、全員斥候戦術を取る以上、解錠タイムは30秒台前半以上だと思う」 しかし、浅知恵はあっさりと否定される。 三手に分かれて探すのと、ひとつに固まって探すのでは当然前者の方が先に見つける公算が高い。おまけに向こうは全員解錠が早いとなったら……放置して、フリーにするわけにはいかないだろう。「しっかし、全員斥候戦術なんてギャンブル戦法にやられるとはなあ。『天剣』も不意打ちと運でやられたのか?」「ギャンブル戦法?」「マンツーで宝箱を先に見つけたって、解錠はできねえのはもうわかったろ? かといって、相手を完全に振り切るのもムズい。仮に振り切ったとしても、その相手が別ルートで宝箱を見つけちまうかもしれねえ。そうなったらせっかくの奇襲も台無しだ」「なるほど……。あ、じゃあこっちも最初からバラバラで探したら!?」「アホか。得点的に不利な状況で同じ条件のギャン
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第35話

「うぐぐぐ……、ま、負けた……」 歯ぎしりを一旦休んで、苺が贅沢にのった一口サイズのタルトを頬張る。 うむ、うまい。さくさくのタルトとチーズクリームのねっとりした食感のコントラストがたまらない。 ごっくんと飲み込んで、そしてまたぎりぎりと歯ぎしりを再開する。「っきしょー……。まさか草大会で負けるなんてよお……」 鬼嶋が、やはり一口サイズの苺ショートをぱくり。 苦虫でも噛み締めるように……、いや、表情が緩んだ。 あれもおいしそうだな、次はわたしも苺ショートを食べよう。「ごめん、作戦が読めなかったボクの責任だよ……」 キリ先輩が、眉間にシワを寄せつつ、一口苺パフェをスプーンですくう。 底に溜まってる半透明のはゼリーかな? ジャムかな? あれもあとで食べてみよう。「おいおい、せっかく美味いもん食いに来たんだからよ。そう難しい顔をするなって」 プチシューを生ビールで流し込んでいるのは苺心さんだ。 ホテルのビュッフェに来たというのに、服装はいつもの作業着。 ドレスコードで入店をお断りされたらどうしようかと他人事ながら不安だったが、別に問題ないらしい。あたりを見渡すと、苺心さんほどでなくてもカジュアルな格好の人が多い。 まあ、パリッとフォーマルを決めて食べ放題に来る人もいないか。 そう、わたしたちは駅近のホテルのレストランでデザートビュッフェを楽しんでいた。 草ダンジョン大会準優勝の賞品が、ここの無料券だったのだ。 なおアルコールは別料金であるので、苺心さんのビールは自腹である。 ちなみにさっきから苺のデザートばかり食べているのは苺心さんにちなんだわけではなく、苺フェアが開催中だったからである。「うーん、そうは言っても完全に作戦負けですからね。部長としては責任感じちゃいますよ」 作戦負け……なんだろうか? シノビリンのあの作戦、全員斥候戦術に対抗する方法がちょっと思いつかない。初手の煙玉による不意打ちについてはやりようがあったとは思うし、2セット目で解錠を失敗したのはわたしの判断ミスだけれども……。 結局、あれを仕掛けられたら運勝負にしかならないんじゃないだろうか?「いや、こっちも最初から全員斥候戦術でいけばよかったんだ」 うむ? それではやっぱりギャンブルにな
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第36話

「ううー、やっぱりマネージャーがほしいぞ……!」「あン? 急に何を言い出しやがる? ま、ほしいのは同感だけどよ」「別にマネージャーじゃなくてもいいんだけど、部員はほしいね」 部活の練習中、休憩時間に「マネージャーがほしい」とこぼしたら、全員の意見が一致した。 場所はダンジョン内、最奥のボス部屋である。「マネージャーがおったら、こういう粉を溶かしたスポドリもどきみたいなんだけやなく、レモンの砂糖漬けみたいなんも作ってもらえるかもしれんしなあ」 石畳にあぐらをかくミノタウロスもうんうんと頷く。 そのごつい手に持っているのは紙コップ。中身はわたしが分けてやったスポーツドリンクである。ペットボトルで買うと高いので、クエン酸と塩と砂糖を部室に置いて自作しているのだ。つか、文句があるなら飲むなこの野郎。 このところは初夏の熱気も本格的になってきて、ダンジョンに潜って練習をしていると、肉体に戻ったときには汗まみれになっている。部室のエアコンは効きが悪く、うっかりすると熱中症になりかねない。その予防のため、スポドリは必須の装備だった。 ダンジョン内で水分や塩分を補給して意味があるのか……と疑問だったが、ちゃんと効果があるらしい。プラーナの摂取によりうんたらかんたらってことらしいのだが、詳しい理屈はわからない。「不思議だね、人体!」ってことで納得しておこう。 ともあれ、「いや、マネージャーがほしいのはそういう理由じゃなく」「なんや、違うんかい」「ええっと、なんて言えばいいのかな……」「偵察を任せられる人がいないと、大会が厳しいなって」 わたしの言葉をキリ先輩が引き継いでくれた。 先日の草大会で得た反省である。 3人だけでは試合中の偵察ができず、どうしても情報戦で不利になるのだ。 決勝の敗因は、相手の手札を知らず、まんまと奇襲にハマってしまったことが大きい。聞けば、元プロである羽々霧さんチームにも同じ全員斥候戦術で勝利していたらしく、つまり反対ブロックの準決勝を偵察さえできていれば展開を読むことも可能だったのだ。 ド素人だったわたしも、「ダンジョン道とは単純な腕っぷしの勝負ではない」ということをようやく理解しつつあった。いや、もちろん腕っぷしも重要だ。重要なのだけれども、それ以上に頭脳プレーが求められる。そして頭脳プレー
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第37話

 ――沖つ風 吹けばまたゝく 蝋の灯に 志づく散るなり 江の島の洞 与謝野晶子の歌碑である。 言うまでもなく、この歌碑は江の島にあり、そしてわたしたちはそこにいる。 江の島大橋を渡って裏側、江の島岩屋という洞窟の最奥だ。 江の島岩屋は波が削った洞窟で、その岩肌は全体的に丸みを帯びている。 古くは弘法大師や日蓮上人が修行してたり、源頼朝が戦勝祈願に訪れたとも云う歴史あるパワースポットで、無数の支道のひとつをたどると富士山まで繋がってるなんて都市伝説つきだ。 んで、どうしてそんなところにいるのかと言えば。「すみません、そこのお嬢さんたち、詰めてもらえますかー」「あ、はーい」「正午になりましたらダンジョンにつながりますのでー。お怪我がないよう、姿勢には気をつけてくださいー。体育座りで、頭は膝の間に入るようにー」「はーい」 そう、ダンジョンである。 係員さんのメガホンに従い、お尻をずらして間隔を詰める。 歌碑のある場所は広々とした空間になっていて、そこに大量の女性客がすし詰めになっている。女天王祭――これが目的のイベントだ。いや、イベントと言ったら失礼か。伝統ある祭事だな。 天王祭とは、一年の半ばに半年分の厄落としを祈念するお祭りだ。 ここ江の島でも盛大に行われるそうで、地上では百人以上の半裸の男がふんどし一枚でお神輿を担いでいた。江島神社の境内には大きな茅の輪が設けられ、茅の輪くぐりの大行列が続いているらしいがそちらは見ていない。江の島岩屋に来るには寄り道になってしまうからだ。 で、男が主役の祭りがそれなら、女が主役の祭りがこれだ。 ダンジョンが談女誣と呼ばれていた頃からのもので、女たちが一斉にこの江の島ダンジョンに潜るのである。「帰りはたこせん買って帰ろうか?」「あ、あのきゅーーーーって鳴ってたやつです?」「そうそう、おいしいんだよね、あれ」 観光チャンスを逃したわたしに気を使ってか、キリ先輩がそんな提案をしてくれる。「生しらす丼も美味えぞ。ただ、島ン中は観光地価格だから、出てから店を探した方が安いぜ。味は変わんねー」「ほほう。……でも生しらすかあ」「あ、おまえ回転寿司とかの想像しただろ? とれたてはあんなべちゃっとしてねーぞ。ぷちぷちしてて、ぜんぜん生臭くないんだぜ」
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第38話

「Tra la la la~♪ Tra la la~♪」 祇園精舎ダンジョンの石畳を、ずんずんと重い足音が震わせている。 とぅららとぅららと鼻歌まじりに、銀の長髪をたなびかせる足音の主はブランだ。「みんなで~♪ 一緒に~♪ ダンジョン探索ぅ~♪ 楽しいですネ~♪」「なんでナチュラルに同行してんの?」「Quoi? みんな一緒の方が楽しイないですカ?」「いやそういうことじゃなくて」「思わぬ道連れができて助かってるよ。私はどうも息抜きが苦手らしくて、ブランが退屈して文句を言われてしまうんだ」「ぶちょーはマジメすぎなのデス! 人生はC'est la vie、風まかせなのデス!」「ぜんぜん話聞かないなこの人たち」 どういうわけか、聖マグダレナの面々と行動を共にしている。 キリ先輩は先行して罠や待ち伏せを警戒しているし、鬼嶋は剣城さんにガンを飛ばして口を開こうともしない。絶対に気づいているはずなのに、意にも介さず雑談に興じているのはさすがは強豪チームの余裕というべきか、あるいは天然なのか。「前方、右の通路。ミノ……じゃなくて、牛頭天王2体」 先行するキリ先輩が戻ってきて、敵発見の報を告げる。 わざわざ牛頭天王と言い直すところがキリ先輩らしい。「Waouh! さっそくデスね! ぶちょー、アカリさん、どっちがいっぱいMinotaureを狩れるか競争デス!」「あ、ちょっ、勝手に何を!?」 駆け出したブランを慌てて追いかける。 勝手にふっかけられた勝負だが、負けるのは気に入らない。「二人とも、背中は任せてくれ」 剣城さんはやる気がないようで、ひらひらと手を振って見送っている。 まるで公園で子供を遊ばせるお父さんのような佇まいだ。 一緒に子供になって遊んであげないから、ブランが退屈してしまうんだろう。 ……って、それじゃわたしがブランと一緒に遊んでる子供みたいじゃないか。 くだらない考えを頭を振って追い出し、目の前の敵に集中する。 小部屋にいたのは仏像が着ているような古風な甲冑をまとったミノタウロス――もとい、牛頭天王が2体。 体高は2メートル半。たくましい腕には長柄の槍が握られている。 いつかの猪笹と違って、奇襲にうろたえた様子はない。
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第39話

 鬼嶋虹心は苛立っていた。 どうして敵である聖マグダレナ――剣城勇奈と仲良くダンジョン探索などしなければならないのか。こころなしか、愛車のエンジン音も不満を訴えている気がする。ちなみにバイクは他のダンジョン客たちが散ったあたりでこっそり復号をしていた。 こんなやつと口なんか聞いてやるものか……そう思っているのに、毒蛇から助けられてしまった。話しかけられるだけでもうっとうしいのに、恩でも売ったつもりなのか、「切光さんは本当にいい斥候だね。全国でも通用するレベルだよ」「……ったりめぇだろうが。うちの部長だぜ」 ちょくちょく話しかけてくる。 どうでもいい話題なら流してもいいが、キリキリのこととなるとつい反応してしまう。いや、そうじゃない。二人きりで話しかけられて無視をしていたら、かえって意識しているみたいじゃないか。そう思われるのが嫌なだけだ。 キリキリは斥候に集中して先行しているし、火ノ坂はブランとの競争に夢中で剣城の相手を代わってくれそうにはない。「火ノ坂さんもすごいね。まだダンジョン道を始めて何ヶ月も経ってないんだろう? もともと格技系の子だったのかな?」「…………」 しかし、火ノ坂の話を振られて思わず口をつぐんでしまう。 火ノ坂朱莉――桜吹雪高校1年。剣城の言う通り、ダンジョン道を始めてからわずか2~3ヵ月の初心者だ。にも関わらず、雑魚モンスターは初見から相手にならず、ボス級のモンスターであっても平気で渡り合う。しかも近頃では捨身飼虎なる必殺技まで体得し、普通は壊そうなんて考えることさえないガーディアンゴーレムまで破壊可能になっている。「天才、なんだろうね」「……そうなんだろうな」 天才。そう、天才だ。 苦い思いを噛み締めながらも、それには同意せざるを得ない。別にチームメイトである火ノ坂に対し思うところがあるわけではないのだ。いや、何もないわけではないが、実力を不当に低く見積もりような情けない真似はしない。ただ、「天才」という言葉、存在に思うところがあるのだ。「すごいね、才能っていうのは」「……お前が言っても嫌味にしか聞こえねえよ」「そうかい?」 剣城が端正な口元をわずかに歪めている。 苦笑いのつもりだろうか? 整
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第40話

「妹?」と聞き返した鬼嶋の声ははたして聞こえていたのか。 続く剣城の言葉はほとんど独り言じみていた。「うちは代々続く剣術家の家系でね」「剣術家?」 再び聞き返されて、剣城はハッとした表情を浮かべる。「ああ、ごめんごめん。今どきそんなことを突然言われてもピンと来ないよね」「あー……、悪りぃけど、ピンと来るぞ。アイツんちがそんな感じだったわ」 火ノ坂に向けて顎をしゃくる。 ちょうど飛び上がって牛頭天王の鼻面を殴りつけているところだった。「なるほどね。彼女には何か近い雰囲気を感じていたけど、そういうことだったんだ」 剣城は納得したような表情で頷く。「なんだよ、やっぱりてめえもサラブレッドじゃねえか」 火ノ坂と同じように、ガキの頃からみっちり武術を仕込まれてきたんだろう。あのじいさんみたいな達人に。オレみてえな一般家庭の出身とは大違いじゃねえか。 鼻で笑うと、剣城はゆっくり頭を振った。「サラブレッドだなんてとんでもないよ。私は落ちこぼれだったんだ」「落ちこぼれ?」「妹が優秀すぎてね。うちの流派は一子相伝。私も表技は一通り仕込まれたけど、御流儀までは教えてもらえなかった」「御流儀?」 さっきから聞き返してばかりで頭が悪そうだな……。 気恥ずかしくなって頬を掻くが、剣城は気にした風もなく話を続ける。「代々の当主と藩主にだけ教える特別な技のことさ。他の流派じゃどう呼ぶのかは知らないけど。……って、ごめん。うちが小田原藩の剣術指南役だったって話からしないとダメだったか。うーん、どうもいけないな。話が上手くまとまらない」「細けえ話に興味はねえよ」 素っ気なく吐き捨てると、剣城は「それはそうだよね」と笑った。「要するに、私は剣術サラブレッドになるべく生まれて育てられたけど、2つ下の妹という天才にあっさり負けた落ちこぼれってことさ」「ふん、その落ちこぼれに負けたオレたちのざまがねえな」 思わず口にしてしまう。 自分でも理由がわからないが、剣城が己を卑下する姿に苛立っていた。 しかし、剣城は何か感じるところがあったようで、小さく咳払いをして背筋を伸ばす。「すまなかった。いや、謝るべきでもないのかな。これはちょっとした雑談さ。小さい頃、あやとりやおはじきでどうしても勝てなかった相手がいた
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