Semua Bab いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~: Bab 41 - Bab 50

70 Bab

第41話

(なんか急に仲良くなってない?) 競うように(実際競っているのだが)牛頭天王狩りに加わった鬼嶋と剣城さんを横目に見ながら、わたしも負けじと牛頭天王をぶっ飛ばす。正直なところ二人が参加してからはすっかり乱戦状態で、もうカウントなんていい加減なのだが、それでも負けたくはないのである。 それは、たぶん100体目の牛頭天王を討伐したときだった。 ――〽ひゃららら~ ひゃらら どんどんっ ちんちん どんどんっ ちんちん ひゃららら~♪ どこからともなく、お神楽のようなBGMが流れてきたのだ。 ぴしゃぁぁぁぁああああん! ごろごろごろごろ…… 続いて雷鳴。 激しい閃光に、一瞬視界が真っ白に染まる。「な、なに……?」 薄目を開けて見た光景は、それまでとはまるで様子が変わっていた。 板敷きの小屋の中に、見慣れない木製の機械がところ狭しと並んでいる。 横木に何本もの糸が張られ、その先には作りかけの布。 これは――機織り機? それらが、無人のままかたんことんと規則正しい音を立てている。「転移の罠だね。罠は踏んでないから、条件達成型の――」 と、キリ先輩が言いかけたときだった。 がっしゃぁぁぁあああん! べちゃっ 吹き抜けの屋根板が突き破られ、赤黒い物体が降ってきた。 物体はべちゃりと重く湿った音を立て、辺りに赤黒い液体を撒き散らす。 血だ。 そして、赤黒い物体の正体は――「なんだよあれ……、もしかして馬か!?」 乗り物つながりなのか、鬼嶋がいち早く気がついた。 それは全身の生皮をひん剥かれた馬だったのだ。 はっきり言って、グロすぎる。 Yourtubeで配信したら一発BAN確定の代物である。「機織り小屋に、生皮を剥がれた馬の死体。これはひょっとして――」 どがしゃぁぁぁああああん! どどんっ またしても、キリ先輩の言葉が騒音でかき消される。 屋根の穴から降ってきたのは、髭面の大男。 蓬髪をライオンのたてがみのように生やし、額には金の冠。 裾のほつれた白い貫頭衣の腰を、朱色の布で縛っている。 大きさも雰囲気も関帝廟で見た張飛ゴーレムに似ているが、たくましい腕に握られた獲物は蛇矛でなく青銅色に輝く直剣。 一体こいつは――「がははははは! 我は建速須佐之男! |伊邪那岐命《イザナギノ
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第42話

「はあ……はあ……つ、強かった……」「3回変身を残してるとか反則だろ……」「日本神話にそんな設定ないよ……」「Pfff……と、とっても疲れまシタ……」「ハルバードが折られたときはさすがに焦ったよ。観光のつもりだったし、サブウェポンなんて持ってきてなかったから」 一時間にも及ぶ壮絶な死闘の末、わたしたちはなんとか勝利を収めた。 全員が満身創痍で、捨身飼虎を二回放ったわたしも立つのがやっとの状態である。 鬼嶋の言う通り、3段階も変身するなんて反則すぎる。おまけに物理攻撃だけじゃなく、雷を喚び、毒霧を噴き、眷属まで召喚するのだ。頭が9つある大蛇ってことは、ヤマタノオロチってやつだったのかな。いや、ヤマタなら頭は8つ? マタが8つなら頭は9つのだからやっぱりヤマタノオロチでいいのか? 機織り小屋はもはや跡形もなく、代わりに一面の焼け野原が広がっていて、夕日をバックに巨大なホオジロザメと多頭の大蛇の死骸が横たわっていた。「がはははは! 人間の勇者たちよ。よくぞこの建速須佐之男を倒した……」 くだんのスサノオは、ホオジロザメの鼻先から上半身を生やした姿で魔王的なムーブをしている。これ、討伐成功演出でいいんだよね? いまから最後の変身とか勘弁してほしいぞ。ちなみにサメの元ネタはなんだろうとキリ先輩に聞いたら「因幡の白兎くらいしか思いつかないけど、スサノオと直接関係はないんだよね」と肩を竦めた。「おぬしらに、これを授けよう……」 しかし、心配は杞憂だったようだ。 またどこかから「〽ひゃららら~ どどんっ」とお神楽が鳴り響き、ホオジロザメの横に鎮座していた小山のようなヤマタノオロチが光の粒子に分解されていく。 そして粒子はわたしたちの眼の前に集まってきて、凝縮されてひとつの形をなした。「天叢雲……草薙剣とも呼ばれる宝剣よ……これを勇者に託そう……」「天叢雲はスサノオが高天原から追放された後に手に入れたものだし、草薙剣って名前になったのは持ち主がヤマトタケルに変わった後のことのはずなんだけど」「ごほん!」 キリ先輩のツッコミを、スサノオが嫌そうな顔で遮る。 キリ先輩はキリ先輩で、してやったりという邪な笑みを浮かべていた。 戦いの前、何度も解説を遮
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第43話

 江ノ島の翌日。 部室に集まったわたしたちは、ダンジョンの奥でミノさんのために集めてきた護符と天叢雲キーホルダーを差し出した。「おお、やるやん。護符の数もえらいもんやけど、三種の神器のレプリカなんてそうそうお目にかかれるもんやあらへんで。ものごっついエーテル含有量や」「そうなの?」「そりゃそうやで。まず出現条件がシビアな上に、ボスがアレやからなあ。苦労したやろ?」 苦労、なんて一言で片付けられる相手ではなかった。 たぶん、我ら桜吹雪高校チームの3人だけでは全滅していただろう。悔しいが、ブランと剣城さんがいなければ勝てる相手ではなかった。まあ、さすがに彼女らでも二人だけでは勝てなかっただろうけど。「そんじゃ、ありがたく頂くでえ」 ミノさんは数十枚の護符と天叢雲キーホルダーをおもむろに口へと放り込み、もしゃもしゃと咀嚼し始めた。どうやって使うんだろうと気になってはいたけれど、まさか食うとは……。 反芻動物らしくもしゃもしゃと左右に動く顎の隙間から、ぽわわんと光があふれてくる。「おおおオオオ……、来たで来たで来たで来タでぇぇぇェェぇえエエえ!」 ミノさんがなんかやばげなテンションで叫ぶと、全身が光りに包まれる。 爆発するんじゃないか――と思わず後ろに跳んで距離を取ったが、幸いにしてその予想は外れ、光は徐々に穏やかになり、やがて人型のシルエットが現れた。「ふいー、どないなもんやろ? 顕現なんてひさびさやけど、ちゃんと出来とるかな? おっ、ばいんばいんやん。すごっ」「…………」 あれはミノさん……でいいんだよな? あまりの変貌に、わたしを含めキリ先輩も鬼嶋も言葉を失っている。「どしたん? そんな阿呆づらさらして。なんや、ワイがあんまりセクスィやから面食らったんか? あはは、おぼこいのう。やっぱり女子高生やな」「いやいやいや、そういうんじゃなく」 顔の前で全力で手刀を左右に振る。 いや、面食らったのは事実なのだが。 変身を遂げたミノさんは、一言でいうとグラビア系コスプレイヤーだった。ゆったりした巫女服越しにもわかるばいんばいんの胸とお尻。そして朱色の帯できゅっと締まった腰つき。ホルスタインビキニなんかを着せて、つぶやいったーにアップしたら万バズ間違いなしだろう。「ふふーん、依代の質がええからずいぶん育っ
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第44話

 リアルに顕現したミノさんはしっかり優秀だった。 臙脂のジャージに黒縁眼鏡を追加装備した彼女(?)は、いまも部室のパソコンに向かってキーボードを叩いている。主だった夏大会の出場校のデータをまとめたり、部のSNSや動画を更新したり、足りない備品を発注したりと八面六臂の活躍だ。 鬱陶しいだけだったらダンジョンに閉じ込めておいたのだが、優秀なだけにもう手放す選択肢はない。自分のことならそれでもよかったのだが、これまでキリ先輩が一手に担ってきた庶務をこなしてくれているのだ。キリ先輩の負担が減るのは素直に喜ばしい。 そのキリ先輩だが、最近は少し調子を崩しているように見える。 精密さが売りだったナイフの投擲はしばしば的を外しているし、全国レベルの解錠速度もタイムが少し落ちている。今日も簡単なトラップを見落として落とし穴にはまっていた。まったくらしくない。スランプというやつだろうか? 一方、鬼嶋は絶好調だ。 江ノ島ダンジョンで何かを掴んだのだろうか? あれ以来、全体的に動きのキレがよくなっている。とくにバイクのライディングの凄みが増している。詳しくないから印象になってしまうが、元々果敢に攻めるタイプだったのが、さらに半歩奥まで踏み込んでいる感じがするのだ。いまの鬼嶋とは、真正面からはやりたくないという気さえさせる。それから剣城さんのハルバード対策だろう。出稽古と称して、なぎなた部にも顔を出していて、今日も部室を留守にしていた。 わたしの方は、ひたすら基礎練の日々だ。 最重点は解錠で、1分を切るべくひたすらパズルに向き合っている。邪魔がなければぜんぜんいけるんだけどなあ。妨害が入ると気が散ってしまってダメだ。中断すると何が何だかわからなくなっちゃうんだよね。 しかし、なんとかしなければ。実戦において、「ひとりが解錠の役に立たない」という状態はものすごく不利だ。実際にわたしが試合で解錠役になる機会があるかはわからないけど、選択肢として存在するだけで作戦の幅が広がるし、相手にも複雑な読みを要求することができる。 罠の看破や胚珠対策はもっぱら座学で、これは部活の時間外で自主的に行っている。罠については部室のイミテーションではあまりバリエーションがなくて練習にならず、胚珠については消耗品のため部費
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第45話

「もしもし、師匠? あの、ちょっとわからなかったんですけど、どういう意味です?」『いきなり電話とは恐れ入った。こういうときは、言葉の意味を考えて一人で悩むのが定番なのじゃが……。これも時代かのう』 謎のメッセージを受けた直後、桐子は迷わず通話ボタンを押していた。 わからないことは素直に聞く。これが現代っ子の基本スタンスである。「あ、もちろん単語の意味はそれぞれわかるんですけど、そういうことじゃないですよね?」『もちろんじゃ。ううむ、どこから……いや、どこまで話したものかのう。自分で気がついてこそ身になるものもあるからのう……』 スマホ越しに、師匠の困ったような声が聞こえる。 無駄にもったいぶる人ではない。短い合宿期間でもわかったことだが、師匠はむしろ最短距離を好む合理の人だ。弟子に遠回りをさせて喜ぶタイプではない。「つまり、教えられてわかるような種類の問題ではないということですか?」『またしても直球じゃのう。まあ、そのとおりじゃ。うーむ、しかしその様子ではヒントくらいは出した方がよさそうじゃのう』「お願いします!」『まあ待て。いま考えておるから――』 しばし沈黙が続く。 早くそのヒントが聞きたいが、急かしてどうにかなるものもあるまい。 焦る気持ちを抑えてじっと待つ。 『おぬしの強みは視野の広さと観察眼、そして冷静な判断力じゃ』「はい……」 褒められてはいるが、自信を持って頷けはしない。 まさにその判断力でミスを重ねてしまったのだ。『一方で、それ自体がお主の枷となっておる』「ではもっと、狭い範囲に集中した方がいいんですか?」『ふぉふぉふぉ、そう短絡に考えるな。おぬしらしくもない』「はあ……」 そう言われても、ピンとこない。 その心を読まれたように、『ま、ピンときとらんじゃろうがの』 ふぉふぉふぉ、と師匠の笑い声が聞こえる。『じゃから、心頭滅却、明鏡止水、それから一意専心じゃ。その強みを活かしたまま、余計なことを考えずに全力を尽くしてみよ。儂から言えるのはこんなところじゃの』 広い視野を活かしつつ、余計なことを考えるなとはどういうことだろう? まだわからなかったが、これ以上は質問しても答えてはもらえず、筋トレメニューの細かな調整の話に流され、そのまま通話が終わってしまった。 答えを求めて相談したはずが、逆に悩
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第46話

「すみませんなあ。うちの顧問、エリート意識が強すぎてですな。綾小路流の家元もされているもので、格式や礼儀作法にうるさいのですぞ」 冷たい視線にたじたじしていたら、一賀さんがこっそり耳打ちしてくれた。 綾小路流……というのはわからないけれども、家元と言うからにはなんか伝統的ですごい感じなんだろう。これまでわたしはスポーツという観点でしかダンジョン道に触れてこなかったけど、考えてみたら茶道華道と並ぶお嬢様教養のひとつでもあるんだよなあ。「一賀さん、内緒話なんてはしたないですよ。マネージャーなのですから、合同練習がつつがなく進むようきちんと準備を進めなさい。心配りも礼の内。先回りの精神もおもてなしの――」「はい! 失礼致しました! すぐに準備をします! ……というわけで、またのちほどよろしくお願いしますぞ」 一賀さんは綾小路先生にぴしっと真顔で返事をし、それからわたしたちに振り返って片目をつむった。何やら含みを感じさせる笑顔だが、一体何を企んでいるのやら。 準備を命じられた一賀さんが用具倉庫から持ち出してきたのは、なんと高枕だ。時代劇などでお武家様が寝るときに使うあれである。それが、バスケットボールなどを入れるカートに満載でがらがらと運ばれてくる。「当校の練習では、綾小路流の作法に則りこの高枕を使用します。リクライニングチェアのような下品なものは使いませんのが、よろしいですね?」 とのこと。 うーん、首が痛くなりそうで嫌だなあ。昔の人はなんでこんな枕で寝たんだろう。奇襲を警戒して熟睡しないためだとか聞いたおぼえがあるぞ。それなら寝心地が悪くて当然なのか? ダンジョン道をやるならこういうのにも慣れなきゃいけないんだろうか。 そう思ってキリ先輩にちらりと目をやると、若干頬をひくつかせていた。鬼嶋に至っては露骨にしかめっ面をしている。そうだよね、嫌だよね高枕……。「では、こちらを」 そして高枕とセットで巻いたマットを渡される。 マットは茶道の敷物に使う毛氈で、広げればヨガマットくらいの広さになりそうだ。「当流の作法はご存知で?」「い、いえ。すみません……」 綾小路先生はあからさまなため息をついて、「まずは見様見真似で結構です。伊藤さん、開始の礼からお願いします」「はい」 三年生とおぼしき生徒がこちらに座礼して起立。 楚々とし
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第47話

 敷物を広げ、敷物を丸め、高枕を置き、高枕をどけ―― せっかくの合同練習なのに、一体何をやらされているんだろう。 嫌になるほど繰り返し、ようやくダンジョンに入れることになった。 毛氈に身を横たえ、高枕に頭を乗せる。 首の角度に無理があるな……。ダンジョンから出たら寝違えてそうで怖い。 しかし、高枕がキーストーンになっているそうで、使わないわけにはいかない。ここでごねてもしょうがない。郷に入れば郷に従えというやつだ。 大人しく高枕に頭を預けたまま、キーストーンを起動する。 * * * ダンジョンの中は、またしても和のテイストだった。 広々とした畳敷きの部屋。床の間は掛け軸と生花で彩られ、開放された障子戸からは柔らかな陽が射し、松の緑も鮮やかな日本庭園が見事な姿を見せている。「それでは本点前を始めます。全員、礼」「よろしくお願いします」 床の間に向け、両校揃って正座で礼。 チームごとに入場するのかなと思っていたけれど、全員一緒だった。綾小路先生もいる。ダンジョンに入れば監視の目から逃れられると思ったのに……。 まあ、試合が始まれば口を挟む暇もないだろう。今日の練習は対戦形式主体だと聞いている。両校の人数差が激しいので、試合時間の長いルールでは見学だけで終わる部員ばかりになってしまうからだそう。「では、最初は学年を合わせましょう。伊藤さん、山口さん、多聞さん、お願いします」「はい!」 綾小路先生の号令一下、志乃美林から三人の生徒が立ち上がる。 こちらに合わせて一年が一人、二年が二人のようだ。 復号した装備は袴。どこまでも和風テイストだ。 他の生徒はしずしずと壁際に移動し、そこで正座する。「桜吹雪高校の皆さんは、当校の久能井さんたちにストレート負けした相手です。良い試合になるようくれぐれも注意をして差し上げてね」「はいっ!」 綾小路先生が何やら生徒たちに声をかけている。 これ、どう考えても嫌味だよなあ。 久能井さんたち程度に負けた相手なのだから、手加減をしてやれってことか。なかなか舐められたものだが、客観的には打倒な評価とも言える。去年の冬大会では二回戦負け。部員数はぎりぎりという体たらくなのだから。 とはいえ、いやだからこそ、か。 舐められっぱなしってわけにはい
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第48話

 怒髪天を衝くとはまさにこのことか。 綾小路先生の引っ詰め髪がばらけ、燃えるように逆立っている……ような気がした。実際には額に青筋を浮かべ、ふんすふんすと鼻息も荒く着物の袖をたすきで止めている。 いくらたすきで止めても、着物じゃさすがに動きづらいんじゃないかなと思ったけれども、こちらが心配することではないので黙って準備を待った。「では、試合開始ッ!!」 今度は座礼からのスタートではない。 起立の状態で、中央に綾小路先生、左右に三年生が二人という隊列でなぎなたを構えている。なぎなたは現代ではなぜか女子武道専用の武器になっているが、鎌倉の頃までは戦場で武士も振るったバリバリの実戦兵器だ。その名の通り薙ぐだけでなく、突く、切る、払うと多彩な攻撃ができる。石突きを使えば間合いの出し入れも早い。「へへっ、なぎなたか。ちょうどいい得物じゃねえか。オレから行かせてもらうぜッ!」 真っ先に飛び出したのは鬼嶋だった。 バイクの前輪を持ち上げ、ウィリー走行で突貫する。 バイクを盾になぎなたを防ぎ、その隙を突く作戦か?「くらえっ!」「……ッ!?」 だが、鬼嶋の行動は予想とは違っていた。 いつの間にか復号していたバイクチェーンを投げつけたのだ。派手なバイクアクションはミスリードだったってわけだ。 左端の子が薙刀の柄で受けるが、なんせ相手はチェーンである。柔軟に曲がってその子の顔面を打ちつつ、なぎなたに絡みつく。武器を完全に封じたわけではないが、振りほどくまでは扱いに支障が出るだろう。 そういえば、鬼嶋は剣城さんのハルバード対策でなぎなた部に出稽古に行っていたんだ。そこで考えた対策を実践で試しているのだろう。 ……まさか、なぎなた部相手にチェーンを投げつけてはいないよね?「もらったァッ!」「させませんッ!」「くっ!?」 その隙に振るわれた鬼嶋の木刀は、横入りした綾小路先生のなぎなたに弾かれた。綾小路流家元というのは伊達ではないようだ。言うだけあって、動きは鋭い。 だけど、戦いの最中に正面の相手から目を切るのは感心しませんなァッ!「どぉぉぉおおおおりゃあああああ!!」「ぐうっ!?」 懐に飛び込み、ボディに向けて打ち上げ気味のロングアッパー。かろうじて柄で受けられる。手甲から火花が散る。ちっ、惜しい!「おのれ、小細工ばかりで卑怯
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第49話

「あなたの相手はあたくしざますよッ!」 生徒に手を出されたのがむかついたのか、あるいは自分があしらわれたのが気に入らなかったのか、綾小路先生が猛然と斬撃を繰り出してくる。突きと違って斬撃ならば容易に捌けないと判断して切り替えたのだろう。頭に血が上っているようで、案外冷静だ。 確かに、この斬撃を捌くのは難しそうだ。刃筋も立って、腰もしっかり入っており、連撃とはいえ一撃一撃が重いことが受けなくともわかる。 しかし、それは防げないことを意味しない。綾小路先生の攻撃は確かに見事だ。癖がなく、正確無比に急所を狙ってくる。だが、それは裏を返せば読みやすいということでもある。軌道もタイミングも測ったように同じだから、パターン化しやすいのだ。 そして、連携の拙さもこちらの優位に働いている。 想像だけど、戦闘は一対一の練習ばかりしているんじゃないだろうか。猛然となぎなたを振るう綾小路先生とは対照的に、片割れの生徒は「えーい!」「とーお!」などと声だけは出ているものの手が出せていない。連撃の切れ目を見つけられず、邪魔になることを恐れて迂闊に手を出せないのだろう。まあ、実際半端に手を出したらその隙を突くつもりではあるけど。 とはいえ、わたしにはもう焦る必要はない。 一人が遊兵と化したことで、実質的な数的有利を作り出せているからだ。飛び道具を主体とするキリ先輩は後衛からでも攻撃に参加できる。そしてキリ先輩は観察眼と判断力に優れている。こちらか鬼嶋か、どちらになるかはわからないが、隙を見つけ次第、それを突いて好機を作り出してくれるだろう。「きゃあっ!?」 おっと、そんなことを考えていたら早速だ。 鬼嶋が相手をしていた生徒が悲鳴を上げた。なぎなたを握る手の甲に投げナイフが生えている。「もらったッ!」 そこへ木刀一閃。 喉を打たれた生徒が光の粒子となって消失する。「森島さんっ!?」 綾小路先生の注意が一瞬そちらに向く。 当然、その隙は逃さない。 一気に間合いを詰めて反撃――と見せかけて急ブレーキ。 目の前を走るなぎなたを横目に見ながら、残った生徒に攻撃。 腹を打ってからのアッパーカットで呆気なく消失した。「生徒の消失に動揺したふりをして誘うなんて、綾小路流というのはとっても上品なんですね~。いやあ、さすがは家元! 見事
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第50話

 無事連勝はしたものの、切光桐子は素直に喜べてはいなかった。「キィィィイ! 何なんざますかッ! ダンジョン道に必要なのは気品と礼節ッ! あなた方にはダンジョン道の精神はございますのッ!?」 消失から速攻で復活した志乃美林顧問の綾小路先生がヒステリックに荒れ狂っているから――ではない。先程の試合の内容が気にかかっていたのだ。(指揮役のつもりだったのに、アカリちゃんにフォローされちゃったな……) 膠着した状況を打開するためにいち早く動いたのは後輩の火ノ坂朱莉だった。桐子にも戦況そのものは見えていたのだ。目の前の敵に対応しつつ、隙あらば打開の一手を打とうと伺っているところだった。 反応が遅れてしまったのは、自分が仕掛けることばかり考えていて、他の誰かが動くことを想定できていなかったからだ。集団戦で指揮を執るのは自分であるという思い込みがあった。(いや、思い込みというか驕りだな。もっとしっかりしなきゃ) パンと自分の頬を張り、気合を入れ直す。 ――余計なことを考えずに全力を尽くしてみよ 師匠から言われた言葉が脳裏をよぎる。 まだどういう意味かはわかっていないが、少なくともうじうじと考え込むのはこの教えから外れているだろうことはわかる。「フォフォフォ、まったく桜吹雪高校のみなさんは邪道で困ったものですよなあ。ここはひとつ、対戦経験のある私たちが様子見をするのはいかがでしょうか?」 荒れ狂う綾小路先生に、久能井姉妹の誰かが声をかけている。すでに装備を復号して、サイバーパンク風忍び装束に代わっている。ヘアピンも外しているから姉妹のうちの誰なのかはわからない。「いいでしょうッ! 卑劣な情報戦にしてやられはしましたが、向こうがその気ならばこちらも遠慮することはありませんッ! 久能井さん、綾小路流の、そして志乃美林の実力を見せてあげなさい!」「承知しましたぞっ!」 久能井さんが悪い笑みを浮かべて、こちらにこっそり親指を立ててくる。これまでの流れはほぼ予定通りだ。作戦を持ちかけてきたのは久能井姉妹の方で、狙いは桜吹雪高校の強さを見せつけることで自分たちの評価を上げることだという。 草大会の優勝で見せた久能井姉妹の実力は確かなものだったが、礼
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