Semua Bab いのち短し潜れよ乙女~ダンジョン道は乙女のたしなみ~: Bab 51 - Bab 60

70 Bab

第51話

 鎖鎌――奇しくもニコちゃんがさっき使ったばかりだが、鎖というのはなかなか厄介な得物だ。まず、受けが通じない。先端の分銅をピンポイントで叩き落とせれば話は別だが、鎖を受けると曲がる。曲がった鎖は防御を迂回した打撃にもなるし、絡みつけば行動の阻害にもなる。 威力も高い。遠心力だと誤解されがちだが、その源は単純に速度だ。手元の小さな動きが、先端では梃子の原理で何倍にも増幅される。熟練者が使う鞭は何も打っていないのに空中でぱちんと鳴る。これは音速を超えた先端が衝撃波を生み出すためなのだが、それと同じ加速の仕組が鎖分銅にも備わっているのだ。 一方、扱いの難しい武器でもある。近接ではほとんど威力を発揮しないし、円弧か直線の動きしか出来ないため慣れれば軌道が読みやすく、連打も出来ない。つまり、一撃被弾を覚悟さえすれば間合いを詰めて無力化できる。その弱点をカバーするための近接戦用の鎌なわけだが、それすらも恐れていては何も出来ない。 仕掛けるなら、どこからか。 重装の人間がいれば突破役を任せられるが、あいにく桜吹雪高校のメンツは全員が軽装だ。ニコちゃんにバイクで突っ込んでもらう? いや、バイクでは初速が鈍い。ここはやっぱりアカリちゃんに――(ダメだ。「やっぱり」ってなんだよ。またアカリちゃん頼みじゃないか) 頭を振って、浮かんだ考えを追い出す。「ボクが突っ込む。二人はついてきて」「えっ?」 ニコちゃんとアカリちゃんから同時に意外そうな声が洩れる。 しかし決断は揺るがさない。純粋な戦闘力はアカリちゃんやニコちゃんの方が上だ。万一、初撃で私が落ちても、二人なら二対三でも渡り合えるはずだ。「おおおおおおおおッ!」 気合とともに地面を蹴る。 両手にナイフを逆手に持って、側頭部をカバー。 頭部への打撃と首への絡みつきを防ぐためだ。「フォフォフォ、切光さんから来るとは意外ですなあ」 久能井さんAが鎖分銅をこちらに向ける。 真横。腰の高さの軌道。致命傷を狙わず、跳躍か、伏せるか。回避をするなら大きな動きを強制する軌道。 それなら――「ぐっ……!」 あえて無視し、胴体で受ける。 踏み込んだので先端ではない。 鎖が身体に巻き付く。 ダメージはあるが、これなら私が弾除けになってニコちゃんとアカリちゃんには影響
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第52話

 桐子が加わっても、戦況は一進一退を繰り返していた。 久能井姉妹は得物を持ち替えながら間合いを保ち、勝負が決する瞬間を先延ばしにしている印象だ。こちらが突っ掛けると退がり、かといってこちらが退けば向こうが押し出してくる。 とくに警戒されているのはアカリちゃんの破壊力とニコちゃんの機動力。アカリちゃんからは距離を置き、ニコちゃんには絶えず攻撃を加えて自由に動けないように牽制している。(これじゃ、二対三のままでも変わらなかったかもしれない……) 桐子は唇を噛む。 そもそも、自分が落ちても二対三なら勝負になると読んでいたのは自分じゃないか。にもかかわらず、囮にかかって数的有利を築かれた瞬間、焦って援軍に入ってしまった。あの場でやるべきことは本当にそれで正解だったのか? こちらの煩悶など知る由もなく、久能井姉妹は自由自在に戦っている。前衛も後衛もなく、三人が入れ代わり立ち代わりポジションを変えている。こちらの戦い方とは正反対だ。 うちはアカリちゃんが前衛アタッカー、ニコちゃんが遊撃、自分が後衛指揮役で役割がほぼ決まっている。陣形を保てているときはいいが、乱戦となるとその強みがまるで活かせない。 そして――(こういうときに、ボクは力になれない……!) 乱戦では連携が効果を発揮しにくい。あらゆる戦況を事前に予想し、訓練を積むことなど不可能だからだ。 個々の地力が物を言う状況で、戦闘力に劣る自分はどうしても足を引っ張ってしまう。(どうする……どうする……) 飛来する手裏剣を両手のナイフで弾きながら、必死に思考を巡らせる。 いまこの場で、自分の個人戦闘力を上げることなんて不可能だ。土壇場で覚醒するなんて都合のいい展開は漫画やラノベの中でしか起き得ない。現実は今ある手札で勝負するしかないのだ。 となれば、やはり連携によって勝負をかける以外にない。 即席で、打ち合わせもせずに可能な連携。 そんな都合のいいものがあるか? 鎖分銅をかいくぐり、突き込んできた長槍をひねってかわす。 久能井姉妹を見る。 この乱戦にもかかわらず、連携が成立しているように見える。 日頃の訓練の成果? それはあるだろう。結成三か月のうちとは年季が違う。 だが、それだけか? いくら時間があろうとも、すべての状況を想定した訓練などでき
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第53話

 夏休みである。 小学校までであれば授業から開放される至福の期間。 中学校からは学校という枷から解き放たれた不良どもが街をうろつくうっとうしい期間。 そして高校生となって初めての夏休みは――「いよいよ公式戦デビューかあ。ふふふ、腕が鳴るぜ……!」 そう、いよいよ夏の大会である。 期末試験という試練を無事乗り越え、夏休みに入って早々に待ち受けていたイベントだ。見慣れたはずの市民体育館が輝いて見えるぜ!「ほらほら、きょろきょろしていると迷子になるよ」「はしゃぐんじゃねーよ。恥ずかしい」 わくわくしていたら、キリ先輩と鬼嶋から同時に注意された。 まったく、わたしを何だと思っているんだ。遠足でテンションが壊れてしまった小学生でもあるまいに……。あっ、あそこに屋台が出てる。大会に来る客を当て込んでるのかな? ほほう、たこ焼きにケバブですか。ちょっと小腹を満たしに……あ、いやいや、嘘です、冗談です。ちゃんと会場に入りますって。「若人の熱気がむんむん立ち込めとるのう。ワイも若返りそうやで」 少し遅れて悠々と歩いてくるのはミノさん(人化)である。 セクハラオヤジみたいなことを口にしているが、そのスタイルは抜群だ。臙脂のジャージを着せ、角隠しのバケットハットを目深に被り、バカデカサングラスで変装をさせているのに、それがかえってお忍びの芸能人のようなオーラを醸し出している。すれ違う人たちが時々小声で話しながらスマホのレンズを向けてくる。うーん、これはガチで芸能人だと勘違いされている可能性があるな……。『えー、「いのち短し潜れよ乙女」とはダンジョン道の開祖、与謝野晶子が掲げた標語ですが――』 というお定まりの挨拶を聞き終え、さっそく第一試合の場所へ向かう。 相手は模武台高校。お互いシードなしで最底辺からのスタートだ。ミノさんのリサーチによると去年の冬大会は2回戦負けで、我らが桜吹雪高校と同じ戦績。といってもうちが負けたのは優勝校の聖マグダレナだからね。同格だと思ってるんじゃねえぞおおん? と、心のなかでイキってみたが、相手はにこやかかつ爽やかに試合前の挨拶をしてくれた。その笑顔が眩しい。オラついて申し訳ありませんでした。初の公式戦でちょっとテンションがおかしくなってるんですすみません。「マグダレナとやるまでは五回勝ちゃいいのか。へっ、
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第54話

 試合後の挨拶を終え、振り返りの時間だ。「いや~、やっぱりワイの読み通りやったなあ。完璧のパーペキに読み通り。ワイの調査能力と頭脳が光る一戦になったのう。わはは、みんなもがんばったけどな!」 ミノさんがめちゃくちゃ調子に乗っている。 反り返って大きな持ち物が強調されているのも相まって二重にうざい。そのままひっくり返って頭を打って角でも折れちゃえばいいのに。「う、うん。予想通りだったね。模武台の直近の試合まで調べる余裕はなかったからミノさんがいてくれて助かったよ」 キリ先輩は大人の対応である。ミノさんの手柄をちゃんと認めてねぎらっている。頬を若干ひくつかせながらだが。「練習試合でも妨害特化一本槍だったんだろ? そんなん、知ってりゃあ誰だって予想がつくじゃねえか」「わかっとらんのう。その『知る』のが大変なんやないか。テレビ中継なんかもちろんないし、配信しとるわけでもないし、現地に行くしかないんやで? みんな忙しゅうてそんな暇はないと思うんやけどなあ。一所懸命汗かいて走り回ったのに、そんな言われようしたら姐さん悲しいで」「ぐっ……」 すかさず反撃された鬼嶋が言葉に詰まる。 まあ、態度を除けば完全にミノさんが正論なのだが。 ミノさんがやってくれた偵察がなければ、一回戦をこんな軽々と勝ち上がることはできなかっただろう。平場でやっても負ける気はしなかったが、消耗を押さえられるのはありがたい。わたしたちは三人きりで控え選手がひとりもいないのだから、疲れたから交代ってわけにはいかないのだ。 まさに、情報は力なり、だ。 わざわざ苦労して顕現させたかいがある。「ほれほれ、ワイのありがたみがわかったやろ? もっと感謝してくれてもええんやで~。せやなあ、『菜の花』の小田原うさぎでええで」「あー、小田原のバターどらやき。キリ先輩にもらいましたけど、めちゃくちゃ美味しかったですね」「せやろー? ワイもすっかりハマってしもうてなあ」「はいはい、小田原には親戚がいるから、また遊びに行ったら買ってくるよ……って、そんな話をしてる場合じゃないよ」「おっ、そろそろ次の試合か。勝った方が二回戦の相手になるからのう。ちゃんと偵察しておかんとあかんな」「今回はオレたちが直接見るから、お前は休んでてもいいけどな」「そんな寂しいこと言うなや~」 そんなこ
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第55話

『第二試合、仁教堂工業高等学校対只野東高等学校、開始ッ!!』 ブザーとともに、試合が幕を開ける。 イミテーションから投影された映像に映る仁教堂の三人は全員つなぎでダンジョンに入る前と変わらない姿だ。対する只野東は西洋風の革鎧を金属で補強したRPGみたいな格好。現在のダンジョン道では一番メジャーなスタイルである。「両チームとも前衛二名の後衛一名。うちと同じだね」 例のポニテの子は後衛だった。 小型のボウガンを構えながら戦況を見守っている。 というか、どっちも探索に行かないのね。 バックアタックを警戒しているのか、睨み合いが続いている。「うーん、これは長引きそうだねえ」「にらめっこなんて見せられても面白くねえぞ」 どちらのチームも最初の試合ということで慎重になっているのかもしれない。とはいえ、セットごとに制限時間は決まっている。ずっと睨み合いというわけには――あ、仁教堂が動いた。 口火を切ったのはポニテの子だ。 小型のボウガンがぷしゅぷしゅぷしゅと短い矢を連射する。 おお、連射式のボウガンなんてあるんだな。あのクランクを回すと矢が発射される仕掛けなのか。どういう仕組かわからないけど、めっちゃかっこいいぞ。「あの矢じゃ牽制にしかならないね。けど――」 キリ先輩の言うとおり、矢は小盾や鎧であっさり弾かれた。 只野東の装備は幅広な片手剣と小型の丸盾。古代ローマ兵や剣闘士が持ってそうなやつだと言えばイメージしやすいだろうか。その扱いはなかなかこなれていて、鎧に当たったのも受け損ないではなく、ダメージにならない箇所だとちゃんと見切っているようだ。『うおおおおおッ!』 しかし、膠着状態さえ解消できればよかったのだろう。 キリ先輩の言うとおり、牽制が狙いだ。 仁教堂の前衛二人が攻撃を開始する。 武器は工具。 ひとりは柄の長いレンチ。 ひとりは大きなパイプカッター。 それらが盾にガキンと当たって火花を散らす。 なかなかの大迫力である。 っていうか、こうやって冷静に見るとダンジョン道ってなかなかにバイオレンスな競技だな。いくら現実の身体が傷つかないからと言っても、人の姿形をしたものに武器を振るうのには度
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第56話

 しかし、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と云う。 男は愛嬌、女は度胸とも云う。 調子を合わせてごまかしていてはもっとひどい事態になりかねない。 わたしは覚悟を決めてその一言を口にする。「と、ところですみません。どこのどちら様でしょうか。た、たぶん人違いじゃないかなあって、思うんですけど……」 恐る恐る言うと、ポニテちゃんの笑顔がぴしりと固まった。 それから、目がうるうると滲み、やがて決壊してぼろぼろと涙を流し始めた。「うわ~~~ん! やっぱりあーしのことなんて覚えてないっすよね!」「うっわ、ひでえ……」「おぼえてなかったとしても言いようが……」 ポニテちゃんが泣き出して、鬼嶋とキリ先輩の冷たい視線が突き刺さる。「ちょちょちょちょ、待ってくださいよ!? いや泣かしちゃったのはホントごめんだけど、マジで知らないんですってば!? さすがにお姉様なんて呼ばれてたら絶対おぼえてますって!? 人違いなんですよ!」 必死に無罪を訴える。 自分で言ってて思ったが、「お姉様」なんて呼ぶ相手がいて忘れるわけがない。これは無実だ。わたしを陥れるための陰謀に違いない!「でも火ノ坂だしなあ」「アカリちゃんだしねえ……」「ちょっ、わたしってどういうキャラだと思われてるんですか!? 確かに期末は赤点ギリギリでしたけど、そこまで頭悪くないですからね!?」 己の名誉を守るため、必死で抗議をしていたら、「そうっすよ! お姉様は馬鹿なんかじゃないっす! とっても知的でクールな大人の女性なんすよ!!」「「「えっ」」」 思わぬところから擁護が来て、三人で変な声を出してしまった。「お姉様は同じクラスでいじめられていたあーしを助けるために、不良たちをぶっ飛ばして代わりに標的になってくれたんす! そういう賢い策が練れるクールな頭脳の持ち主なんすよ!!」「んん? ちょっと待って」「はいっす!」 一言言うと素直に口をつぐんでくれた。 びしりと気をつけの姿勢なのが気になるが、この隙に記憶を探らせてもらおう。ええっと、自分の学校で不良をぶん殴ったのはそんな最近のことじゃないはずだ。何度か返り討ちにしたら学校内に手を出してくるやつらは結構早めにいなくなって、主な敵は学外になったはず。だからこの子と出会ったのも中学校の入学早々のはずで……。「あっ」 思わず手のひらをぽ
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第57話

 翌日。 わたしたちは再び市民会館を訪れていた。用件は言うまでもないが試合である。 これから仁教堂と……というか、細工町巧魅と会わなければならないと思うと結構な勢いで気が重い。昨日だって、しつこく食事に誘ってくる細工町巧魅を「あ、明日も試合だしさ。話があるなら余裕があるときに……」となんとか振り切って逃げてきたのだ。 おかげさまでキリ先輩と鬼嶋の誤解は解け、生温かい視線が同情の視線に変わっていた。それはそれで、かえっていたたまれない気持ちになるのはなぜだろう? 会場で見つかるとまた無自覚な精神攻撃を食らいそうなので、わたしだけは試合開始直前にイミテーションのところへ集合することにした。周りがチームメイト同士でわいわいきゃっきゃと盛り上がる中、ただひとりやることもなく待機している。孤独とは喧騒の中でこそ感じるものだと何かの歌詞で聴いたことがある気がするが、まさしくその心境をじっくり噛み締めているところである。さびしい。『試合開始5分前です。選手の皆さんは試合場のイミテーションに集合してください』 待ちに待ったアナウンスだ。 小走りで現地に行くと、「お姉様ぁ~~~っ!!」とポニテちゃんがポニテを揺らしながら元気いっぱいに手を振っている。思わず乾いた笑いを洩らしながら小さく手を振り返す。ここで断固とした無視が出来ない自分の心の弱さが悲しい。 * * * 試合場となるダンジョンは第一回戦と同じくスタンダードな西洋型。開始線に並んで試合前の礼をする。さすがにここでは露骨なことはしてこないが、その分、高い熱を帯びた視線を感じる。ううっ、こんなにも試合開始のブザーが待ち遠しいの初めてだ。「アカリちゃん、集中ね」「はいっ!」 動揺が態度に出てしまっていたのだろう、キリ先輩から短く喝が入る。そうだそうだ、いまは試合に集中しなくては。キリ先輩とミノさんによる展開予想では、最初から真正面のぶつかり合いになる可能性が高い。 正面の相手に集中して……細工町巧魅の潤んだ瞳と視線が正面衝突する。ううっ、目をそらすな。気持ちで飲まれてはいけない。いやなんかそういうのじゃない気もするけれども。『第二回戦、桜吹雪高校対仁教堂工業高校、試合開始ッ!』 アナウンスとともに
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第58話

 恐るべきはストーカーの調査分析力、そして執念である。 先ほどの宣言も黙っておけばよかったのに、わざわざ口にしたのは「お姉様のことなら全部知ってるあーしすごいでしょ! 褒めて褒めて!」という意図を感じる。というか満面の笑顔に書いてある。地獄への道は善意で舗装されているとはよく言うが、こんな感じで地獄へ続く道もあるんだなあ。怖い……。「なんであんな子がうちに進学しなかったんだろ……」 後ろからキリ先輩のぼやきが聞こえる。 わたしも疑問だが、同じ学校に来なくて本当によかったと心の底から思う。「あーしだって同じ学校に通いたかったんすよ!」 それを耳ざとく聞きつけ、ポニテちゃんが叫ぶ。 その顔は半泣きだ。感情の乱高下が激しすぎる。怖い。「でも、お姉様がどこに進学するかぎりぎりまで可能性を絞り込めなくて……。だって、県外の高校をあれこれ調べてたじゃないっすか! 候補が多すぎたんすよ! 特定できたときには願書の締切が過ぎてたんす! だから、桜吹雪高校の一番近くで二次募集のあった仁教堂に来たんす!!」 おおう、かなり危ないところまで迫られていたようだ。 高校進学なんて人生の重大事をわたし最優先で決めてしまったのか。重い、重すぎるぜ……。 その後、戦況は停滞。 双方決め手がないまま、時間制限が来て第一セットは引き分けで終わった。 * * *「うーん、参ったね。どうにも決め手が見出だせないな」 第二セットまでのわずかなインターバル。 キリ先輩が眉間にしわを寄せている。「前衛のうち1枚が完全に封じ込まれてるからな。オレが突破できりゃいいんだけど、もうちょいってところで退きやがる」「うん、アカリちゃん対策が完璧すぎてそっちに気を取られちゃたけど、あれはニコちゃんのことも相当研究してるね。バイクのやりにくい間合いを熟知してた感じがする」 バイク対策なんてニッチなもの、狙ってなければできないだろう。 ひょっとして、わたしの狂信的なストーカーというのはブラフで、実はデータキャラだったとか……?「いや、残念だけどそれはないと思うよ」「あの目はどう見たってマジもんだからな」「ですよねえ……」 一縷の希望はあっさりと否定される。 つまり、細工町巧魅はわたしのストーカーであると同時にデータキャラってわけだ。属性が増えたよや
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第59話

 スコアは【0-2】、こちらの不利で迎えた第三セット。 仁教堂は延長戦狙いかと思いきや、一転先行を許してしまった。「ルート選びが異様に正確すぎる。手段はわからないけど、事前にマップが把握されてる気がする」 インターバル。キリ先輩が険しい顔でミニマップを睨んでいる。 財宝争奪戦ではセット終了ごとに、敵味方に関わらず探索済みのエリアが開示されるのだ。マップには細工町巧魅が辿ったであろうルートが表示されているが、行き止まりで戻ったり、分岐で迷った形跡が見られない。大きな迂回もなく、キリ先輩の言うとおり宝箱までのルートを把握していたとしか思えなかった。「ちっ、どんなイカサマ使いやがったんだ……。まさか運営からデータを盗んだんじゃねえだろうな?」「そんなこと疑ってもしょうがないよ。それにマップは試合開始時にランダム生成されるから、運営だってどんなマップになるかは想定できないはず」「じゃあどうやったっつーんだよ」「わからないけど、マップは把握されてると想定して作戦を立てるよ。まずアカリちゃんだけど――」 短い打ち合わせを終え、第三セットが始まる。 試合開始の合図とともに、わたしは捨身飼虎(弱)でスタートダッシュ。目標はポニテちゃんだ。「させるかッ!」「いかせないッ!」 そこに両脇からブロックが入る。 第一セットの開幕と同じ展開だが、今度はこっちも予想がついている。 鈍い風切音とともに迫る大型レンチとパイプカッターをかいくぐってブロックを突破。「後ろは気にすんな! 行ってこい!」「こっちは任せて!」 そして鬼嶋が大型レンチ、キリ先輩がパイプカッターに仕掛ける。 おかげでフリーになったわたしはポニテちゃんの背中を追う。 今回はフェイントを挟まず、初っ端からソロで宝探しに動いていたのだ。 得物同士が打ち合う激しい金属音を背中に聞きながら、ポニテちゃんが選んだ通路に飛び込む。あとは背中を見失わないよう追いかけるだけだ。 しかし、追いながらマップのチェックも忘れないようにする。 いつか志乃美林に嵌められた作戦の二の舞になっていないか確認するためだ。同じルートを辿ってマップの開示を最小限にされた場合、終盤から全員斥候戦術に切り替えられる可能性がある。運勝負
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-13
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第60話

 肩に網を引きずったまま、風を切って走る。 傍目にはへんてこなマントを翻して走る変な女に見えるかもしれないが、こちらは必死である。一度でも見失ってしまっては追跡できる保証はないのだ。テレビ中継も入ってないし、なりふり構っている暇などない! ルートを把握しているポニテちゃんの足取りに迷いはなく、また雑魚モンスターやトラップも歯牙にかけていないようだ。スカウトとしての実力はキリ先輩に迫るものがあるんじゃないだろうか。キワモノ枠だと思っていたが、ますます侮れない。 結局、追いつけたのは宝箱のある広間に着いたときだった。 ガーディアンはこれまたスタンダードな岩の巨人。 今回は慌てて解錠権を取りに行ったりはしない。いつかの草大会で身に沁みたが、単騎で解錠を成功させるのは事実上不可能だ。「ってわけで、一対一の勝負だね」 ポニテちゃんに向かって構える。 細工町巧魅はうっとりした笑みを浮かべた。「ふおおおおおお! 最高っす! この瞬間を待ってたっすよ! お姉様の強さをッ! その素晴らしさをこの身で隅々まで味わう時間がやっときたっす!!」 大きな瞳をうるませて、頬を上気させ、声がだんだん大きく、早口になって、内股をもじもじさせている。 うーむ、完全に逝ってしまっておられる……。 しかし、この程度で怯んではいられない。この状況は願ったりではあるのだ。妨害に集中すると割り切られたらかなりやりづらかっただろう。「疾ィッ!」 一気に踏み込み、リーチの長い左のロングジャブを放り込む。「ぴゃっ!?」 左拳は顔面に命中し、流出したプラーナが光の粒子を散らす。 ありゃ、これも読まれるかと思っていたのにあっさり入ってしまった。ならば一気に畳み込んで――「……ッ!?」 右ストレートを放とうと引いた左手首が掴まれる。 ポニテちゃんの両足が浮く。左腕が引き込まれる。 まずい、飛びつき腕十字!? 踏み込んで肘を畳み、靭帯を伸ばされるのを防ぐ。 だが、振り払えてはいない。 そのまま引き倒されて膝を着く。「まさか、グラウンドで勝負してくるなんてねッ!」 空いた右手で脇腹にパウンドを叩き込む。 だが、腕だけでは威力が出ない。 左腕に絡んだ両足も邪魔だ。 いや、打撃の威力を殺すよう巧みにコントロールされている
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