Todos os capítulos de 娘の命日に離婚宣告。クズ夫が土下座で大後悔: Capítulo 71 - Capítulo 80

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第71話

「あの時のことを調べるなんて、出来ると思っているのか……1億円だって?何十億積もうと、真相を手に入れられるわけがないだろ」だが、その時遥の意識は、すでにぼんやりとしていて、体は重く、思い通りに動かないでいた。体が、まったく動かない……彼女は必死にもがいた。床に爪を立て、耳障りな音を響かせる。ようやく体を起こすと、充血した瞳で卑猥な老人を鋭く睨みつけた。そんな姿を見て、老人は少し驚いた様子を見せた。薬が効いているはずなのに、なおも抵抗してくるとは思わず、慌てて再び押さえ込もうとする。遥は憎々しげに歯をむき出し、老人の腕に深く噛みついた。老人は悲鳴を上げ、彼女を激しく振り払うと数歩後ずさった。遥はその隙をつき、ふらつきながら出口へ走り出した。足がもつれて、いつ倒れてもおかしくなかった。それでも諦められず、心の中には逃げるという強い思いだけがあった。老人はすぐにはっと気が付いた。元々は指示通りに演じるだけだった。でも、今目の前にこれほど艶めかしい獲物がいるのだから、それに……先ほどの抵抗に腹を立てた彼は、依頼主を待たずに手を出すことに決めた。老人は悪態をつきながら、遥の後を追いかけた。あと少しで捕まる、そう思った瞬間、ドアが蹴り開けられた。現れたのは怜司だった。目の前の光景に心臓が締め付けられる思いがした。怜司は息を荒らげ、遥を腕の中に抱き上げると、掠れた声で呼びかけた。「遥!」彼は手に青筋を立てるほど怒りに震え、全身から険しい雰囲気を漂わせた。老人は怜司の顔を見ると顔面蒼白になり、足を小刻みに震わせた。こんな土壇場で、誰かが乗り込んでくるとは思っていなかったからだ。しかもそれが、ほかならぬ怜司だとは。怜司は冷ややかに老人を見つめ、漆黒の瞳に激怒を宿らせていた。「言え。誰に言われてやった」老人は恐怖に震えながら、しどろもどろに答えた。「闇市場……に来るような連中はみんな同じじゃないか。誰かに指示されたんじゃなくて、皆ただの小銭稼ぎをしたいだけですよ」怜司も分かっていた。闇市場でこの小心者から何かを聞き出すのは無理だと。さらに、ここは敵の縄張りでもある。今は何より、遥をこの危険な場所から連れ出すことが先決だ。今回の件については、必ず後で落とし前をつ
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第72話

こうして怜司は、遥を抱きかかえ、急いで藤井家の別邸へ戻っていった。部屋に入るなり、彼女をベッドに下ろした。向かう途中で、彼はすでに駿に連絡を入れ、治療ができるようにと準備をさせていた。しかし、遥は熱で頬が燃え上がるほど赤くなっていて、意識ももうろうとしていた。彼女はぼんやりと怜司を見上げ、涙を流しながら「抱きしめて……」と呟いた。怜司の胸は締め付けられるようだった。これまで遥は、ずっと彼を拒絶し続けていたからだ。遥が自ら、抱きしめてほしいと言ったのはこれが初めてなのだ。そう思うと怜司は堪えきれず、遥を強く抱きしめた。そこへ、駿が息を切らして駆けつけた。だが、ドアを開けた途端、部屋に漂う曖昧な雰囲気に、駿は自分が来るべきタイミングではなかったと察した。すると、駿はドアの前で立ち尽くし、入るべきか退くべきか迷っていた。その時、階上から下りてきた怜司が、冷たく彼を睨みつけた。「突っ立ってないで、早く来い」あの二人、ヤッちまった後なんじゃないか?そんな時にのこのこ診察なんて入ったら、気まずくて仕方ないだろ……心の中ではそう思っても、駿は決して口に出せなかった。慌てて部屋に駆け上がり、遥の状態を確かめると、駿は事態を察して、急いで彼女に盛られた薬の効き目を抑える手当てを始めた。幸い予想通り手遅れではないようだ。ただ、これからさらに慎重な治療を重ねていく必要がある。一方、怜司は遥の手をしっかりと握り、片時も離そうとしなかった。彼の顔は曇り、何か深く考え込んでいるようだった。しばらくして、ようやく容態が安定し、遥は深い眠りについた。彼女が落ち着いたのを見て、怜司は駿に言った。「お前、すぐ戻って、闇市場の連中の身元を洗ってくれ。あの老人の背後に誰がいるのかを突き止めるんだ」駿は承知したと返事し、立ち去った。こうして、部屋には怜司と、眠る遥だけが残された。彼はベッドの縁に腰を下ろし、遥の手を握りしめながら過去を振り返った。以前、遥が一人で危険な目に遭って以来、彼は常に密かにボディガードをつけさせていたのだ。遥が独断で闇市場へ潜入しようとしていると知り、居ても立っても居られず自ら後を追った。案の定、到着した時には、遥があの卑劣な老人たちの罠にハメられ、危機に陥るところだった。彼女は真
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第73話

靖也は急に体を翻すと、モニタールームのドアを蹴り開けて老人の隠れている場所へ向かった。老人は隅でガタガタと震えていた。靖也も怜司も、自分を許さないと分かっていたからだ。靖也の姿を見るなり、老人はバタっと跪いて、泣き叫んだ。「お許しください!わざとやったんじゃないんです。つい魔が差して……」だが、靖也はその懇願など聞くつもりもなく、老人を蹴り上げ、怒鳴り散らした。「この馬鹿野郎!誰が勝手に手を出していいと言った!俺の計画を台無しにしやがって!」老人は地面を転げ回ったが、逆らうこともできず、ひたすら頭を下げて許しを乞うしかなかった。「俺の指示なしで、手を出すなんていい度胸じゃないか!ふりをするだけでいいと何度も言っただろ!」そう言って、怒りの治まらない靖也は、老人の胸ぐらを掴み、何度も何度も彼の顔面を殴りつけた。「俺の計画をぶち壊した代償、今日たっぷり払ってもらうからな!」老人は顔を血だらけにされ、あっという間に虫の息となった。それでも靖也は止まらない。それから、靖也は荒い息をつきながら部下に命じた。「こいつを病院へ連れて行け。簡単には死なせるな。この借りは後でしっかり返してもらう」部下たちは慌てて老人を担ぎ上げ、闇市場から連れ出した。ひとり残された靖也は、ゆっくりとその場にしゃがみ込み、頭を抱えた。その視線は冷たく陰湿なものだった。突然、彼は立ち上がると、部屋中の物を手当たり次第に壁へ投げつけ始めた。テーブルや椅子はひっくり返され、ガラス製品は粉々に砕け散った。「なぜだ!どうしてこうなる!」と彼は叫びながら暴れまわった。激高する彼の拳は傷つき、皮がめくれ、血が噴き出していた。だが、彼は痛みを全く感じていない様子だった。そして、部屋は無残に荒れ果て、靖也は床に座り込み、肩で大きく息をしていた。……藤井家の別邸。遥はゆっくりと目を開けると、思わず眉をひそめ、額に手を当てた。慣れ親しんだそれでいてどこか馴染めない部屋を見渡すと、彼女は自分がどうやってここに戻ったのか、何が起きたのか全く思い出せないでいた。その時、そっとドアが開いた。怜司が水の入ったコップを持って、入ってきた。目が覚めた遥を見て彼が何かを言おうとすると、遥はすぐさま警戒の表情を見せた。「どうして私がここに?」
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第74話

こうして、遥はうつむいたまま、頭の中に断片的な記憶をよみがえらせていた。怜司の言葉が事実なのだろうか。耳まで真っ赤になった彼女は、あまりの恥ずかしさに消えてしまいたい気分だった。時間を巻き戻せたらいいのに、そう思ったが、それは到底できないのだ。しばらく呼吸を整えてから、遥はなんとか服を羽織った。だが、ベッドから立ち上がろうとすると、足に力が入らず、よろめいて倒れそうになった。それを見た怜司は素早く手を伸ばし、彼女を支えながら至って平然とした表情で言った。「俺のせいじゃないよ。薬の副作用がまだ残ってるんだね」結局どうしてなのか、遥は考えるのをやめた。薬のせいにした方が、彼女にとっても都合が良かったからだ。だから、遥は小さくうなずき、納得したふりをした。それでも、彼女はひとりで歩けることを証明しようと、怜司の腕を振り払おうとしたが、相変わらず足が思うように動かなかった。そんな様子を見た怜司は、困ったようにため息をついた。「闇市場みたいな危険な場所に、一人で足を踏み入れるなんて。どうかしてるよ」遥は心の中で反論した。だって頼れる相手がいないから、自分で動くしかなかったじゃない。けれど、それを口には出せない。怜司を自分の頼れる相手だと認めたくなかったから。唇をかみしめ、遥は強気に言い返した。「自分なりに考えてやってるの。放っておいて」それを聞いて、怜司は不機嫌そうに眉を寄せた。「意地を張るなよ。もし俺が来るのが遅れていたら、どうなっていたか分かっているのか?」厳しい指摘に遥は一瞬たじろいで、反発したい気持ちはあったが、怜司の言うことがもっともだというのも分かっていた。すると、遥は頬をふくらませて小声でつぶやいた。「分かったわ。次は気をつける」だけど、怜司はなぜ急に自分を気遣うようになったのだろうか?そんなにタイミングよく彼が闇市場に現れるなんて、彼は自分を探しに来てくれたのかな?そう思ったが、遥はそれ以上考えるのはやめた。期待をしなければ、がっかりすることもないはずだからだ。だが、遥の行動の目的を、怜司はよく分かっていたようだ。「もし本当に菅原家事件の真実を調べたいなら、俺が力になる」菅原家を巡るトラブルは偶然ではないと、怜司も前々から知っていたのだ。闇市場で1億円を
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第75話

遥は力を込めて抵抗したが、怜司の手を振り払うことはできなかった。「怜司、放して!自分のことは、私自身が一番よく分かっているから」分かっているだと?怜司は、その言葉でふっと何かを思い返して思わず苛立った。闇市場の連中は、いつも手加減を知らないんだ。今回のことで、彼女の体はひどく傷ついてしまっているはずだ。駿の話では、彼女はこれまで無理を重ねていて、心も体も限界を迎えていた。「どうした?また靖也にでも会いに行くつもりか?」一刻も早く立ち去ろうとする遥を見て、怜司は苛立ちが増していく一方だった。「よく聞け、遥。今回の闇市場の一件、靖也が仕組んだ可能性が高い。お前が行った後、あいつもそこにいたんだぞ」それを聞いて遥は一瞬戸惑った。靖也はなぜそこにいたのだろう。しかし彼女はそれでも強情を張って言った。「証拠はあるの?口先だけで言わないで。靖也さんもそこに行ったから何だっていうの?あなただってそこに行ったじゃない」それを聞いて、怜司は目を細め、怒りを押し殺したような冷たい声で言った。「俺は、お前を助けに行ったんだ。同じにするな。靖也の狙いは悪意そのものだ」そこまで言って、怜司は悟った。何を言っても、彼女が言うことを聞くはずなどないのだ。「遥、忠告しておく。もしまた靖也と会うようなら、こっちだって手段は選ばないぞ。お前を部屋に閉じ込めて、どこへも行けないようにしてやる」遥は目を見開いた。またあの脅しを使うつもりなのだろうか?「あなた……そんなことをしたら、許さないから!」しかし、怜司は一歩ずつ詰め寄り、一言ずつ噛みしめるように続けた。「お前が危険な目に遭うのが嫌なんだ。靖也に騙されてほしくない。信じないなら、試してみればいい」遥は震える体で唇を強く噛みしめ、怒りを飲み込んだ。「いいわよ。だったらあなたも今後、花梨に会わないと約束して。そしたら私も靖也にはもう会わないわ」この男のダブルスタンダードには呆れてしまう。彼には自分を靖也に会わせないなんて、権利はないはずなのに。靖也に疑わしいところが沢山あるというなら、怜司だって負けていないのだ。確かにあの日、靖也もそこにいたが、結局同じ場所に行っていた点では怜司も同じなんだから。一方、遥が花梨の名を出した途端、怜司の顔に冷たい笑みが浮かんだ。
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第76話

そして、怜司が藤井家の別邸を出ていくと、遥はすぐさま逃走計画を立てた。身体の痛みと闘いながら、彼女は部屋を何度も行ったり来たりした。数日間かけて観察した末、見張りたちが夜中の3時から4時にかけて気を抜くパターンを見つけた。中にはうとうとしている者さえいた。これは絶好のチャンスだ。必ずこれを機に逃げ出してやる。ついにその時が来た。音を立てまいと、遥は慎重に動いた。窓から外へ出ると、身体を低くして忍び足で外壁の方へ向かった。幸いなことに、見張りたちは予想通り眠気に抗えなくなっていた。高い壁の前に立ち、遥は歯を食いしばりながら必死によじ登った。そして死に物狂いで、ようやく頂上へたどり着いた。だが飛び降りようとした瞬間、足が滑り、頭から落下していった。「あっ!」あまりの激痛に遥はうめき声を上げ、意識が遠のくほどの衝撃が脚を走るのを感じた。それでも諦めず、痛みに耐えてびっこを引きながら彼女は遠くを目指した。顔は真っ青だった。足を休めるべきだとはわかっていたが……この絶好のチャンスを見逃すわけにはいかなかった。しかし、そう遠くへは行けなかった。聞き覚えのある車のエンジン音が聞こえてきたからだ。黒い車が近づき、強いライトの光に彼女の視界は遮られた。「そんな、嘘……」遥は絶望に包まれた。怜司の車だ。怜司は藤井家の別邸を離れていたが、監視カメラを通じて常に遥を監視していたのだ。彼女の不穏な動きなど、とっくにお見通しだった。腕利きの狩人はいつも、獲物にわずかな希望を与えるものだ。そして、自由がすぐそこにあると信じ込ませた上で、残酷に希望を打ち砕く。言うことを聞かないなら、少しお仕置きが必要だ。車の前に立ち尽くすボロボロの遥を見て、怜司は眉をひそめた。これほどの怪我をしてまで、自分から逃げようというのか?自分から離れたくてたまらないのか?そこまで靖也に会いたいのか?その考えが頭を過った瞬間、怒りを抑えきれなくなり、怜司は冷ややかに言い放った。「遥、忠告したはずだ。余計な小細工はするなと。痛い目を見ないとわからないのか?」一方、遥は目を潤ませながらも、強情に顔を上げて、怜司を見つめた。「怜司、あなたに私を監禁する権利なんてないわ!誰か!助けて!ここに違法な……
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第77話

駿は話を聞くと、ふざけるのをやめてこう言った。「分かった。すぐに向かうよ」ほどなくして、駿が藤井家の別邸に到着した。部屋に入った彼は、遥の苦しそうな様子を見て眉をひそめた。「一体、どうしたんだ?」遥は涙目になり、恨めしそうに訴えた。「怜司にやられました。鈴木先生、怜司が私の足を折ったんです」それを聞いた駿は警戒の色を強め、怜司の方を向いて厳しい口調で言った。「怜司、あんまりだよ。骨を折るなんて、それは医者として見過ごすわけにはいかないな。遥さん、一緒に行きましょう」一方怜司は、わざとらしく被害者ぶる遥にあきれて、溜息をついた。「騙されるな。彼女は逃げ出そうとして、塀から落ちて怪我をしただけだ」半信半疑で駿が遥を見ると、遥は否定をせずに、ただ横を向いて黙り込んでいた。すると駿はようやく安堵し、怜司の話を信じた。「まったく、あなたたちは一体何をしているんだ」逃げようとするなんて、つまりは怜司が遥を監禁しているということだ。いちいち聞かなくても、だいたいの経緯は読めた。ただ、深く追及することなく、駿はまず遥の足の診察を優先することにした。患部の青あざや擦り傷を確認してそっと押すと、遥の顔はより一層青ざめた。そして、診察を終え、駿は言った。「幸い骨に異常はありませんよ。ただの打撲と擦り傷です。しばらく安静にして、なるべく足を動かさないようにしてくださいね」彼は救急箱から薬と包帯を取り出し、傷の手当を始めた。怜司はその横で、治療の様子を黙って見守っていた。遥が怪我をしたことは可哀想だが、彼女が無理に逃げようとしたことへの怒りも募っていった。処置を終えると、駿は怜司に言った。「時間通りに薬を塗るのを忘れないであげて。あと、彼女を刺激しないで、静養させてやることだ」そう言い終えると、駿は救急箱を片付けて帰る支度を始めた。駿が去ると、部屋には怜司と遥の二人だけが残った。「マッサージを少し習ったんだ。足を揉んであげようか?そしたら、治りも早くなるはずだ」だが、怜司の言葉を聞いた遥はすかさず横を向き、拗ねて言い放った。「わざとらしく親切にするのはやめて。あなたの顔なんて見たくもないわ」そう言われ、怜司が仕方なげに溜息をつき、言葉をかけようとした時、スマホが鳴った。着信
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第78話

だが、遥は怜司を相手にするのも面倒だった。今さら言い争うことなんて、何もしたくないのだ。無意味だし、どのみちそのうち離婚するつもりだから。遥が黙り込んだのを見て、怜司は彼女が自分の言葉に納得したのだと勘違いした。そう思って、彼は遥の怪我をした足をそっと持ち上げ、マッサージをし始めた。こうして二人きりで、親密に接近しているのは本当に久しぶりだった。戸惑いも感じたけれど、遥は黙ったまま受け入れた。ただ、ずっと触れ合っていなかったので、体はどうしても強張ってしまう。でも怜司のやり方はとても上手で、心地よい力加減で足の痛みはすうっと消えていった。遥は少しずつ力を抜き、目を閉じた。この時、部屋の中には、二人の静かな息遣いだけが響いていた。しばらくすると怜司は手を止め、遥の顔を覗き込んで小声で言った。「今日はここまでにしよう。また明日続きをするよ」だが、遥は目を開けず、返事をすることもなかった。それでも彼は気にする様子もなく、遥に優しく毛布をかけるとささやいた。「しっかり休んで。怪我が治ったら外に出してあげるよ。でも、靖也には絶対に近づかないでくれ」無視しようと思ったけれど、遥はただ小さく「うん」とだけ答えた。そうしないと、また面倒な話を始められそうだからだ。その後、別邸で数日間静かに過ごし、遥の足の怪我もずいぶん良くなった。その間も、遥はじっとしていたわけではない。来月には大きな音楽コンクールがあり、遥はずっと参加したいと思っていた。楽譜の完成を急ぐ傍ら、準備を続けてきて、今はもう半分以上ができあがっていた。単純に音楽が好きなだけではなく、もっと高い場所に立てば、より広い世界に触れることができると思ったから。遥はかつての記憶を頼りに、菅原家を追い詰めた黒幕を突き止めたかった。望みは薄くても、遥は簡単に諦めたくなかった。一方、怜司も、会社の仕事をこなす傍ら色々と動いていた。その間、靖也の犯罪の証拠も探し回ったが、相手のやり口があまりにもキレイだった。それで、すぐには決定的な手がかりがつかめずにいた。……数日後、遥の足の怪我はすっかり良くなった。そこで、彼女は進んで「出ていく」と告げた。もう1か月も経つし、怜司もそれ以上は引き留めなかった。「いいよ。その
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第79話

「遥さん、久しぶり。やっと怜司さんが、あなたを自由にしてくれたんだね」どうやら遥が監禁されていたことは、靖也も知っていたらしい。遥は無意識に一歩下がった。「何の用ですか?」靖也は彼女の警戒心を察したものの、落ち着いた様子で話し始めた。「自分自身の潔白を証明しに来たんだ。あなたが闇市場へ行ったと聞いて心配で、慌てて追いかけたんだよ」でも、遥は眉間に皺を寄せた。そんな言葉だけでは、到底信じられなかったから。一方、靖也は彼女の警戒を察すると、すぐに説明を始めた。「遥さん、怜司さんが、俺の悪口を吹き込んだんだろう?事実は全然違うんだ。闇市場での罠を仕掛けたのは、怜司さんだ。離婚したくないからって、あなたを自分の傍に束縛しておきたいだけなんだ」そう言って彼が見せたスマホの画面には、怜司が闇市場の卑劣な老人と密談している写真があった。その光景を見た瞬間、遥の心臓がぎゅっと縮んだ。彼女は自分の見た光景が信じられず、思わず手を震わせた。「そんな……嘘でしょう?」証拠写真を見せつけられてもなお、遥はそう口ごもった。怜司がそんなことをするなんて、どうしても信じたくなかったのだ。いくら彼が冷酷な人間だとしても、これほど卑劣なことはするはずがない。一方、遥の動揺を見て、靖也はしてやったりという表情をみせた。「遥さん、信じがたいだろうけど事実だよ。ずっとあなたを心配していたんだ。怜司さんの言葉に騙されてほしくなくてね」遥は顔を上げた。靖也を見つめその声は、かすかに震えていた。「もう言わないでください。今、頭が混乱しているんです」そこまで言って、彼女は言葉を止めて、深く一呼吸をした。「もうこの件には関わらないでください。私、疲れたの、今はただ、家へ帰りたいだけです」なぜだかこの時、彼女の頭を、「俺の妻はお前じゃないのか」と語りかけてきた怜司の姿が過った。皮肉なものだ。怜司を信じたいし、冷静でいなければならないと思うのに。それでも、胸が張り裂けそうなほど痛んだ。靖也はまだ何かを言いかけたが、遥のひどく落ち込んだ様子を見て、言葉を飲み込んだ。それから、フラフラした足取りで菅原邸に戻ると、遥はソファに倒れ込んだ。押し殺していた感情がついに爆発し、彼女は両手で顔を覆って激しく肩を震わせた。自
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第80話

だけど、怜司も分かっていた。遥が理由もなく自分をラインでブロックするはずがないと。そこで、彼は別邸付近の監視カメラの映像を調べることにした。案の定、彼女はまた靖也と会っていた。どうやら、話し合いは上手くいっていないようだった。そして、遥はうわの空の足取りで去っていき、一方で靖也は余裕の笑みを浮かべていた。それを見た怜司はすぐに、靖也がきっとまた何か嘘をついて自分を悪者に仕立て上げたのだろうと悟った。間違いなく靖也は、今回の件の黒幕は自分だと言いふらしたはずだ。それに気が付くと、全身の血が凍りつくのを感じながら、怜司は振り返って車へと急いだ。その時、突然スマホが鳴った。花梨からの電話だった。苛立ちながら電話に出る。彼の声は氷のように冷たかった。「何の用だ」「怜司、莉奈の容体が急変して、今、救命措置を受けてるの!お医者さんから危険な状態だって……お願いだから、すぐに来て!」莉奈の容体がまた悪化したって?なぜこんなに急に。ついこの間まで順調だったはずなのに。そう思いながら怜司は眉間に深く皺を寄せ、「すぐに行く」と答えた。……1時間前。花梨は病院のベッドの傍らで、スマホを握りしめていた。画面には、怜司と遥が藤井家の別邸で一緒にいる写真が映っていた。怜司が遥を看病していることは前から知っていたし、監禁していたことも分かっている。これが何を意味するかなど、考えるまでもない。最近の出来事の数々を思い返すと、花梨の心はかき乱された。怜司が遥との関係を自ら公にしたことから始まった。続いて、闇市場の一件で怜司が遥を助けに行ったことから見ると、彼はきっと前々から遥にボディガードをつけていたのだろう。何より花梨が許せないのは、怜司がなんと遥を藤井家の別邸に監禁までしていたことだ。二人は離婚することになっていたはずなのに。「どうして……どうして!怜司が好きでいるはずの相手は私でしょう!」花梨は歯を食いしばり、何としてでも怜司を取り戻さなければと呟いた。そこで、彼女は急に思いついた。莉奈が急変したとなれば、怜司は必ず駆けつけるはずだと。莉奈という切り札がある限り、怜司は自分のものだ。だが、どうやって莉奈の容体悪化を仕組むか?あれこれと考えを巡らせた末、花梨は恐ろしい計画を立て
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