娘・藤井希(ふじい のぞみ)の病状が急変し、実の父親による骨髄移植が必要になった。しかし、彼女がずっと待ちわびていた父親・藤井怜司(ふじい れいじ)は、初恋の人の娘・白川莉奈(しらかわ りな)のために水晶のお城を建て、街中で花火を打ち上げてその子の誕生日を祝っていた。藤井遥(ふじい はるか)は何度も怜司に電話をかけた。だが電話の向こうから聞こえたのは、「今、忙しい」という冷酷な言葉だけで、すぐに切られてしまった。希の小さな手が、温かさを失っていった。やがて冷たく固くなっても、怜司は一度も顔を見せなかった。遥が骨壺を抱えて葬儀場から出てきた時、商店街の大型ビジョンは、どれも莉奈の誕生日を祝う映像を流していた。娘の命を踏みつけにした3人が、幸せそうに誕生日の歌を歌い、輝く未来を夢見ていた。かつて怜司をどれだけ愛していたか。今、それがそのまま憎しみに変わっていた。……「時間になりました。お子さんのお父様とは、まだ連絡が取れませんか?」悲しげな音楽が流れる中、黒服のスタッフが静かに声をかけた。放心状態でいた遥は、泣き腫らした赤い目を上げ、棺の中で眠る、白く冷たくなった小さな体を見つめた。そして、何度かけ直しても、電話はつながらないままだった。遥は無言で前に進み、そっと希の小さな頬を撫でた。「希、もう待つのはやめよう」葬儀の現場に慣れたスタッフでさえ、その光景に目頭を熱くする。「最後のお別れができないと、ご主人も一生後悔されますよ。もう少し待ってみませんか?」一生後悔?遥は、ふっと笑った。「娘が手術室で父親の骨髄を待ちわびている時に、彼は初恋の人の娘と遊園地で花火を見ていたんです。本当に後悔なんてすると思いますか?」こらえていた涙が希の冷たくなった頬にこぼれ落ちる。遥は慌ててそれを拭った。短い一生を辛いことばかり耐えてきた希には、死出の旅に母親の涙を持って行かせてはならない。「お願い、火葬してください。もう待ちません」……遥は希のために一番可愛い骨壺を選び、その上に自ら花柄を描いた。暗い場所を怖がる希のために、葬儀場の黒い布は使わず、自分の上着で包み込んだ。初冬の風は刃物のように容赦なく吹きつけてくる。遥は、寒さも感じなかった。ぼんやりとタクシーを呼び、後ろの席に乗
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