All Chapters of 娘の命日に離婚宣告。クズ夫が土下座で大後悔: Chapter 41 - Chapter 50

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第41話

遥は無理をして笑顔を作り、ダイニングテーブルに着いて腰を下ろした。「おばあさん、ありがとうございます」貴子は優しげな目つきで彼女を見つめた。「遥ちゃん、まだ顔色がよくないわね。しっかり食べて体をいたわりなさい。もし怜司がまたあなたをいじめるようなことがあったら、私が必ずお仕置きをしてあげるから!」遥は俯いて食事を始めた。胸の奥が熱くなり、目が潤んだ。こんなに年月が過ぎても、自分が何を食べたいのかを覚えていてくれるのは、この人だけだった。「おばあさん、私は大丈夫です。そんなに心配しないでください」貴子は溜め息をつき、何かを言いかけたが、ちょうどその時、怜司が二階から降りてくるのが見えた。彼はひどく不機嫌そうで、遥を一瞬だけ見やると、貴子の方を向いた。「おばあさん、会社へ行ってきます」貴子は眉をひそめ、不満げに彼を叱りつけた。「遥ちゃんがこんな状態なのに、なんで今すぐ会社なんて行かなきゃいけないのよ」「会社の方で緊急の用事があるんです」そこまで言われてしまえば、貴子にもそれ以上引き留められなかった。ただ彼に、なるべく早く帰ってくるよう告げることしかできなかった。遥は静かに朝食を口に運んでいたが、心はここにあらずといった様子だった。朝食を終えると、遥はお椀と箸を置いた。「おばあさん、ちょっと用事がありまして、お昼は戻れないかもしれません」貴子はゆっくり休んでほしかったようだが、口を開こうとして溜め息を一つ漏らした。「そうなの?道中気を付けて、早めに帰るのよ。疲れているのに無理をしてはいけないよ」遥は小さく返事をして、カバンを手に取って藤井邸を出た。今日は楽譜を仕上げなければならない。駿からすでに報酬を受け取っている以上、彼の期待を裏切ることはできなかった。まだ体調は万全ではなかったが、気力を振り絞ってタクシーでスタジオへ向かった。久しぶりのスタジオだった。薫が彼女の姿を見るやいなや、駆け寄ってきて抱きついてきた。「遥さん!私の打ち出の小槌、ようやく会えました!」遥は嫌そうな表情を薫に向けた。倒れそうになってしまったからだ。「一之瀬さん、離してください。息ができないですよ」そう言われて薫はようやく手を放し、何度も謝った。「一之瀬さん、先に行かせていただきます」遥はピア
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第42話

花梨の顔が青ざめたり赤らんだりした。彼女はふと何かを思いついたように目を光らせ、突然ワッと泣き出した。その泣き声はわざとらしく、まるで何か大きな濡れ衣を着せられたかのような響きだ。彼女は泣きながら、遥の前に跪いた。「遥、前は誤解してしまってごめん。莉奈を助けてもらった恩があるし、本当に仲直りしたくて楽譜のお願いに来たの。断られたら、私は申し訳ない気持ちでいっぱいで……」この突飛な行動に、横にいた薫は開いた口が塞がらなかった。信じられないといった様子だ。威張っていた女性が突然泣き出し、ひざまずくとは予想もしなかったのだろう。遥は冷ややかな目で花梨を見つめる。「花梨、芝居はもうやめて立って。このまま怜司が来たら、私があなたをいじめたと思われるわ。このスタジオには監視カメラがあるの。無実の罪を着せようとしても無駄よ」その言葉は花梨をたしなめるようだが、皮肉もたっぷりと含まれている。薫は怜司の名前を聞き、思わず色めき立った。彼女は目を丸くして花梨と遥を交互に見比べ、小さく呟いた。「白川さんって……藤井社長の奥さんなの?それとも愛人?」怜司のような大物と関わりがあるなんて。薫の好奇心は一気に刺激された。しかも、遥とも何か繋がりがあるようだ。その呟きを聞いた花梨は、遥が自分の正体を隠していると悟った。花梨はか弱そうな様子で、シクシクと泣きマネを続けた。「遥、誤解よ。そんなつもりは全くないわ。私が悪かったわ、あなたを怒らせちゃって……私はただ、怜司の妻としてあなたに感謝を伝えたいだけなのよ」妻?なんて面の皮が厚いんだろう。自分が言い返さないとでも思ったのかしら。話を聞いた薫は目を丸くし、慌てて歩み寄ると取り入るような態度を見せた。「まあ、藤井社長の奥様だったのですか!それは失礼いたしました。先ほどの無礼は、どうか水に流してくださいませ」花梨は口角をわずかに上げ、立ち上がって服を整えると、優雅さを装って口を開いた。「いいえ、お気になさらないでください。今日来たのは、遥とお話しして仲直りしたかっただけですから」そのわざとらしい態度を見て、遥は我慢ができなくなり、冷たく言い放った。「花梨、その白々しい芝居はやめて。愛人のくせに、どうしてそんなに偉そうにしているの?自分の立場をわきまえなさ
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第43話

電話越しに泣きつく花梨の声を聞き、怜司は眉をひそめた。「落ち着いて。すぐに行く」間もなく、怜司はスタジオに駆けつけた。花梨は彼を見ると、まるで頼れる人を見つけたかのように胸に飛び込み、より一層激しく泣き始めた。「怜司、やっと来てくれたのね。遥が私をこんなに酷い目にあわせたのよ!」怜司は花梨の背中を叩いてなだめると、顔を上げた。「遥、一体どういうことだ?」傍らで野次馬を決め込んでいた薫も、その口調に驚いた。怜司は遥のことも知っているのだろうか?遥は冷たく鼻を鳴らし、腕組みをした。「どういうことかって?あなたの『愛する妻』に聞いてみればいいじゃない。彼女は私のスタジオに押しかけてきて、白々しく謝ったかと思えば、図々しくも曲を作ってくれなんて言い出したのよ。おまけに、あなたの嫁気取りで、いい気になってるのよ。ねえ、はっきりさせてよ。花梨があなたの妻だなんて、本当なの?」怜司の顔色が曇った。彼は何か言おうと口を開いたが、胸の中で泣きじゃくる花梨を見て、否定する言葉を飲み込んでしまった。花梨は怜司の躊躇う姿を見て、彼が自分をかばっていると勘違いし、ますます声を上げて泣き言を続けた。「怜司、早く何とか言って!遥にこんな風にいじめられるのを黙って見ているつもり?」遥は、煮え切らない態度の怜司を見て、身の毛もよだつような冷たい寂しさを感じた。もし自分が莉奈を救っていなければ、怜司の態度は昔のままだっただろう。きっと迷わず花梨側に立って、自分を責めていたはずだ。「何よ、怜司。そんなことも言い切れないの?あなたそれでも男なの」期待なんか、もう二度としない。遥は自分に何度も言い聞かせた。それなのに、一瞬だけ非現実的な期待を抱いてしまったのだ。自分こそが本当の妻だと、彼が言ってくれることを。胸を締め付けるような悲しみと怒りがこみ上げる。遥は彼の反応など気にも留めず、歩み寄って言葉をひとつずつ突きつけた。「答えないなら私が言うわ。花梨、彼女こそがあなたの妻よ!」突然の言葉に花梨は泣き止み、少し呆気に取られた。怜司本人ですら、何かがおかしいと感じていた。花梨は嬉しげに怜司の腕にしがみついた。遥が自分こそが怜司の妻だと認めたのだと、勝手に納得したらしい。隣で見ていた薫は目を見開いた。事態が
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第44話

怜司の顔つきが、すっと険しくなった。彼は遥をじっと睨みつける。二人にしか聞こえない小さな声で、彼は詰め寄った。「そんなに離婚したいのか?離婚したら、金は一銭もやらんぞ」遥は怯むことなく、彼の視線を真正面から受け止めた。「好きにして。お金はいらないから、菅原家の持ち家を返して」もともと自分のものだ。当然取り返すつもりだった。彼に関するものは何一ついらないし、欲しくもなかった。怜司は不愉快そうに眉をひそめ、凍りつくような低い声で、怒りを押し殺すように言った。「菅原家の持ち家が欲しいなら条件がある。希に会わせろ」本来は自分のものなのに、条件を付けられるなんて。遥はここで怜司と揉めたくはなかった。希の名前が出るたび、感情が抑えきれなくなってしまうからだ。遥は大きく深呼吸をし、薫に向き直った。そして、なるべく穏やかな口調で言った。「一之瀬さん、ちょっと急ぎの用事ができたので失礼しますね」そう言い捨てて、遥は立ち去ろうとした。薫は事態が飲み込めず、ポカンとしている。憧れの怜司が遥と一体何を話しているんだろう?何を言っているかは聞こえないが、どう見ても険悪な雰囲気だった。怜司は焦り、突然遥の手首を強く掴んだ。かなりの力だった。遥は痛みで思わず眉をひそめる。「遥、今日は話をつけるぞ。このまま逃げられると思うな!」遥は激しく抵抗し、振り払おうとしたが、彼の掴む手は万力のように強く、びくともしない。その時、傍らにいた花梨が何か思いついたように、急に体がふらつき、「うっ」と呻き声を上げて床に崩れ落ちる。「花梨!」怜司は遥の手首を離し、花梨を抱き留めた。遥は鼻で笑った。あまりに見え透いた演技だから。彼が鈍感なのか、それとも意図的に肩入れしているのか。もう、どうでもよかった。二人を無視して、彼女はスタジオの出口へと歩いていった。薫はその場に立ち尽くし、あぜんとするしかなかった。彼女の視線は、怜司と遥の間を行き来している。怜司は遥を追いかけたそうにしているのに、体は花梨のほうへ向いている。この3人の関係はあまりにややこしい。でも、ようやく理解できた。遥が言っていたことの意味が。怜司は、本当にクズ男だ。薫にとって推しへの憧れが一瞬にして崩れた瞬間だった。憧れの人と初めて近く
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第45話

遥は藤井邸に帰り、作曲に専念しようと決めた。もう、あの最低な怜司のことは考えないと。でも、ピアノの前に座ると、スタジオでの怜司と花梨の姿が浮かんでしまうのだ。どうしても集中できなかった。いらいらして席を立ち、邸宅の中をあてもなく歩き回る。ここは彼女がかつて6年を過ごした場所であり、かつては家の中のあらゆる場所で、彼の帰りを待ちわびていた場所だった。それに、彼の服はすべて、自分が手洗いしていた。理想の妻になれば、彼がこちらを向いてくれると思っていたのだ。しかし、今日また感情が抑えきれなくなり、藤井邸にはいられないと感じた。裏庭の方へ散歩に行くと、そこになぜか靖也がいた。珍しいお客様だ。靖也がこの藤井邸に来ることは、めったにないから。彼は来る前に、すでに貴子に連絡を入れておいたようだ。「靖也、めずらしいわね。どうしたの、こんなところに顔を出したりして」靖也は礼儀正しく貴子に挨拶すると、話を切り出した。「おばあさん、遥さんに用があって来ました。近々、友人の子供が誕生日を迎えるんですが、遥さんが作曲家だと聞いて……ぜひ特別な記念の曲を作ってもらえないかと思って、お願いしに来ました」それを聞いた貴子はすっかり嬉しくなり、目を細めて笑った。「まあいいことね。遥ちゃんも喜んで引き受けるはずだけど、今は外出しているのかしら。帰ってきたら伝えておくわ」遥が今ではこんなに人気を集めているのかと、貴子は心の中でそっと喜んだ。ちょうどその時、偽物の遥が階段に現れ、靖也と鉢合わせた。靖也が立ち止まる。あまり親しい間柄ではないが、目の前の「遥」に違和感を覚えたようだ。マスクにサングラスをしたその女は、どう見ても花梨と共謀してファイルを盗む計画をした人物だった。「遥ちゃん、その格好は?」貴子は風邪でも引いたのかと思い、心配でたまらない。女は冷静を装って答えた。「おばあさん、急ぎの用事があるので、ちょっと出かけますね」そう言って、足早に立ち去ろうとする。靖也は無意識に手を伸ばして彼女を止める。「ちょっと待って、少し話があるんだ」女は鼓動が速まるのを感じながら、慌てた様子で言い返す。「急いでいるので、話はまた今度にしてください」違和感を察知した貴子は、眉をひそめてその「遥」をじっと見つ
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第46話

遥は、靖也を馬鹿を見るような目で見つめた。まさか彼がそんなことを口にするとは、夢にも思わなかったからだ。だが彼女はすぐに気を取り直した。「分かりました。楽譜は書いてあげます。いくら出すつもりですか?」これには靖也も少し驚いた。断り続けられると思っていただけに、彼女が予想外にあっさりと受け入れたからだ。「さすが遥さん。気風がいいね。見くびっていたよ」彼は口角を上げ、目元にいたずらっぽい笑みを浮かべた。遥はあごを上げて、軽く笑った。「私の楽譜は1000万円からですよ。これでも藤井家の顔を立てて、格安にしていますが」それを聞くと、靖也は迷わずこう答えた。「問題ない。たかだか1000万円なんて安いものだ。2000万円出そう。これで誠意は伝わるだろう」その言い草は、2000万円など彼にとってははした金に過ぎないといった調子だ。実際、その通りだった。2000万円で女の笑顔が買えるなら安いものだ、と彼は思っている。しかし、遥はきっぱりと首を横に振った。「さっきも言いましたわ。等価交換ですよ。1000万円なら1000万円、人の厚意につけ込むつもりはありません」彼女の真剣な顔つきを見て、靖也は内心面白がった。彼は遥が、怜司に1億円もの借金があることを知っていたからだ。靖也はニヤリと笑うと、わざと茶化した。「じゃあ、これでどうだ。手を握らせてくれたら、等価交換ってことにしない?」遥の顔色は瞬時に曇った。このろくでなしとは話が通じない。こんな金、端から稼ぐ気なんてない。「靖也さん、ふざけるのもいい加減にしてください。この話はなかったことにしますよ!」そう言って、彼女はその場を去ろうとした。靖也は慌てて歩み寄る。「ごめん、遥さん。今のは冗談だよ。怒らないでくれ。俺が悪かった」遥は立ち止まり、冷たい目で彼を見た。冗談では済まされないこともあるのだ。まだ許してもらえていないと察した靖也は、遥に顔を近づけて声を潜めた。「遥さん、さっきあなたに化けていた偽物、あれには気をつけたほうがいい。詳しい事情までは分からないけど……あなたの身の回りで、誰かが裏でよからぬ企みをしている気がするんだ。十分用心したほうがいい」身の回りに気をつけるように、という忠告だ。まさか彼がこんな助言をしてくれるとは、思
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第47話

「いやあ、立派な社長様だな。企画書も簡単に盗まれるのに、まだその席に座っているつもりか?俺の記憶が正しければ、あの企画書は元々俺たちのもののはずだが」怜司は顔を上げ、冷めた笑みを浮かべて靖也を睨みつけた。「企画書は藤井グループの面目に関わるものだ。嫌味を言う暇があるなら、対策でも考えたらどうだ」靖也は不満げに両手を広げた。「ファイルを無くしたのは君の不注意だろう。俺じゃない。対策を考えるのも君だよ。でも、社長の座を俺にくれるなら、力を貸してあげてもいいぞ」怜司は怒りを抑え、氷のように冷たい声で言い返した。「誰が打つ手がないと言った?」そう言って、彼は横のファイル袋から別の企画書を取り出すと、テーブルに叩きつけた。「これが俺の本当の切り札だ。たかが盗まれた企画書ごときで、俺が潰れるとでも思ったか?」場内の役員たちは安堵の息を漏らした。中には、靖也と同様にやましい心を持つ者もいた。怜司はライバル社に息つく暇も与えず、新しい企画書をもとに迅速な対応を指示した。案の定、新しい企画書は市場で大きな反響を呼び、戦局を一気にひっくり返した。彼は相変わらず、ビジネス界で飛ぶ鳥を落とす勢いを誇る藤井グループのトップだった。しかし怜司にとって、これはまだ戦いの前半戦にすぎなかった。闇に潜む裏切り者は、まだ捕まっていない。企画書の流出は偶然ではないはずだ。社内の誰かが仕組んだことに違いない。帰宅すると、怜司はコートを脱ぐのももどかしく、すぐに監視カメラの映像を確認した。書斎に入ったのは、遥ただ一人だった。映像の中で、遥の姿がしばらくの間、書斎の中で映っていた。さらに彼を激昂させたのは、家にいる靖也の姿だった。靖也は遥と談笑し、親しげな態度をとっていた。「まさか……彼女が……」怜司は呟いた。彼は拳をテーブルに叩きつけた。遥がそんな真似をするなんて、夢にも思わなかったのだ。靖也と手を組んで、会社のファイルを盗み出すなんて。何度も言ったはずだ。靖也には近づくなと。それなのに彼女は言うことを聞かなかった。離婚を急いでいた理由も、今なら納得できる。震える手でスマホを手に取り、遥に電話をかけた。耳元で流れたのは、慣れ親しんだ呼び出し音ではなく、「おかけになった電話番号は電源が入っていないか、電
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第48話

やがて、車は靖也の家の前で止まった。怜司はエンジンを切る暇さえ惜しむように、勢いよく車のドアを押し開けて屋敷へ向かった。正面玄関に着くと、彼は思い切りドアを破った。ドアがバンッと大きな音を立てて乱暴に突き破られた。室内では、遥が悠然とソファに座り、手には一束の楽譜を持っていた。彼女は音に気づくと顔を上げた。怜司と視線が合ったが、驚いた様子は全くない。まるで彼が問い詰めに来ることを、最初から分かっていたかのようだ。怜司は遥を鋭く見つめ、奥歯を噛みしめながら吐き捨てた。「遥、よくもやってくれたな!」遥は慌てたり、騒いだりせず、楽譜を置き、ゆっくりと立ち上がって平然と口を開いた。「何か用?」藤井グループで何が起きたのか聞いていた。だから怜司が問いただしに来たのだと分かった。遥は少し余裕すら感じさせ、むしろ彼が来るのを楽しみにしていたようだった。だが、遥が言葉を続ける前に、怜司は彼女の手首を掴み、強引に玄関の外へ引きずり出そうとした。彼の表情は険しく、抑えきれない怒りをにじませている。「俺についてこい!まだ離婚も成立してないんだ。他の男と関わるのは認めない!」突然の乱暴な仕打ちに、彼女はよろめき、危うく倒れそうになった。遥は力いっぱい腕を振り払い、彼の束縛から逃れようとした。「怜司、離して!そんなことしたら、DVで訴えるわよ!」なんて身勝手な男。本当に横暴な人だ。その時、部屋から靖也が出てきた。彼は数歩進み出て、怜司と遥の間に割って入った。「怜司さん、一体何をするんだ。遥さんとは楽譜の依頼で会っていただけで、やましいことなんて何一つない」楽譜の依頼だと?前回の駿の家での楽譜の依頼は怜司が画策したものだが、今回は違う。「靖也、しらを切るな!お前らが裏で何を企んでいるか、グループから流出したあの企画書の一件みたいに、全部お見通しなんだぞ」その言葉を聞いて、遥は興味を持った。まさか怜司が現れて最初に口にしたのが、企画書流出の件を問いただす言葉ではないとは思わなかった。それどころか、彼が尋ねたのは、なぜ自分がここにいるのかということだった。「怜司さん、身に覚えのないことで怒鳴らないでくれ。遥さんとはまともに楽譜の依頼の話をしていただけで、変な勘ぐりをしないでくれ。いきなり
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第49話

「怜司、目を見開いてよく見て。これが私が裏切り者じゃない証拠よ!」そう言って、彼女はスマホの画面を怜司に見せつけた。画面には写真が表示されていた。そこには遥、偽物の遥、靖也、そして貴子が写っている。怜司は目を細めて写真を見つめ、顔色がどんどん険しくなっていく。遥の顔には隠しきれない得意げな色が浮かんでいた。彼女は彼が詰め寄ってくることを、最初から予測していたのだ。「お前……事前に知っていたのか?どうして教えてくれなかったんだ」また彼女を誤解してしまった。怜司は苛立ちながら視線をそらした。遥は冷笑を浮かべ、淡々と言った。「あの日、誰かが私のフリをして靖也さんとおばあさんと話をしていたの。おかしいと思ってその写真を撮ったのよ。彼女が私を陥れようとしているのが分かったから」そう言って、遥はふっと鼻で笑った。「今になって思うと、社長ともあろう人がこの程度なんてね。まともな調査もせず、簡単に人を疑うなんて恥ずかしくないの?」その言葉に、怜司はカッとなった。だが、彼女の言うことは紛れもない事実だった。沈黙の隙をついて、靖也が腕を組んで嘲笑った。「怜司さん、もう言葉もないようだな?これだけ証拠が揃っているんだ。まだ何か言い訳するつもりか?」「だからといって、お前らが無関係だという証拠にはならない」怜司は強気な態度を崩さないが、口調には迷いが見えた。実際のところ、この件は靖也が関わっている可能性が高い。それでも、遥を疑ったのは紛れもない事実だった。遥はスマホをしまうと、軽蔑したような目で怜司を見やった。「怜司、納得がいかないなら好きなだけ調べればいいわ。私は何も悪いことはしていない。だから、調べられて困ることなんてないわ」怜司は深く溜息をつき、深い眼差しで見つめた。「俺が焦りすぎたのが悪かった。調査は続ける。だが遥、忘れるな。俺たちはまだ夫婦だ。今後は靖也と関わるな」まだそんなことを言っているの?遥は呆れて、思わずため息をついた。「言いたいことはそれだけ?誰と付き合おうと私の自由でしょう。あなたに止める権利なんてないわ。それに、離婚の話は本気よ。今のうちに準備しておいて」彼女はひらひらと手を振り、追い払うように言った。「はいはい、誤解だったと分かったならもう帰って。これから集
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第50話

遥は必死にもがき、両手で何度も怜司の胸を叩きながら叫んだ。「怜司、そんな都合のいいこと考えないで!自力で返すって言ったでしょう。あなたの施しなんていらないわ。すぐに降ろして!」しかし、怜司は意志を曲げようとせず、遥を抱え上げたまま決して離さなかった。彼は遥を助手席に乗せると、自分も運転席に乗り込んだ。遥は怒りで震えながら、怜司を鋭く睨みつけ、歯を食いしばって言った。「怜司、降ろさないと許さないから!」許さない、だと?悪くない、と怜司は思った。怜司がどれほど怒りを押し殺しているか、本人以外には分からない。靖也の顔を見た時、拳を握りしめずにはいられなかったからだ。怜司は冷ややかに彼女を見ると、無言で車を走らせた。「遥、落ち着いてくれ。家に戻って、ちゃんと話をしよう」遥は鼻で笑い、彼から目を背けた。道中、車内には息が詰まるような沈黙が流れていた。やがて、車は見慣れた藤井家の別邸の前に止まった。車から降りると、怜司は再び遥を抱き上げ、邸内へと歩き出した。実はこの時、怜司はあのような不条理な契約で彼女を追い詰めたことをすでに後悔していた。苛立ちを募らせている彼とは違い、遥は落ち着き払っていた。自分自身の力で一矢報いることができたのだから、喜ぶべきことだった。本来なら、怜司というクズ男から謝罪されるべきところだ。でも、もう謝罪なんて必要なかった。彼女はソファに座るとコートを脱ぎ、作曲の作業に取り掛かった。靖也や駿に頼まれていた曲を仕上げるためだ。無視されていることに気づいた怜司は、深いため息をついて穏やかに言った。「あの件は俺が悪かった。昼食を一緒に食べに行かないか、奢るよ」昼食?遥は彼と食事になど行く気はさらさらなかった。「時間がないわ。私が忙しいことは知っているでしょう」その時、怜司のスマホが鳴った。覚えのあるその着信音は、花梨からのものだとすぐに分かった。「早く花梨のところへ行ってあげれば?また転んだり、めまいがしたりしているんじゃないの?」今回は彼が言おうとする言葉を先回りして口にした。遥は全く気にしない様子だった。怜司はその電話に出ず、ネクタイを緩めると、遥に身を乗り出した。それに彼女は怯え、思わず後ずさった。だが、怜司は一歩ずつ距離を詰めてきた。
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