All Chapters of 錬金術師は国から追われる: Chapter 61 - Chapter 70

111 Chapters

61 私たちはクーデターを起こす

レオンハルトも、他の隊員たちの目も一斉に見開かれる。彼ら二人は、国王派と貴族派――今となっては、ダリウスと国王の間に何かあったのでは?と思うが、それでも二人は犬猿の仲だと思われていた。その二人がどうしてここへ……「逃亡犯の私が、ここでみんなに話をしても、みんなの判断は揺らぐだけだろう。だから、宰相の顔だけでも見せれば、多少は私の話も信憑性が増すと思ってね」ダリウスは淡々とアドリアンをみんなに紹介する。アドリアンは無表情で周囲を見渡すが、ミレイユの姿を見ると、一瞬目を見開き、凝視した後、わずかに目を細めた。ミレイユは――「あの方が……アドリアン様……」そう呟いている。レオンハルトは、その呟きに、アドリアン宰相の事を知っているのか?と訝しげにミレイユを見つめた。一方で、ダリウスは床に縛られて転がされているカイルに気づいて目を丸くする。「カイルじゃないか?どうしてそんな格好で?」レオンハルトが手短に事情を説明すると、ダリウスは肩をすくめた。「ああ、王の駒なのは知ってるが、レオンハルトを傷つけたのか……それは、そんな目にあっても仕方ないな。でも、駒の方は、王に報告してただけだろ?そんな騎士は、第一以外の団にもゴロゴロいる」あっけらかんとしたその言葉に、拠点内の空気が少しざわめく。「まあ、最終的にはレオンハルト次第だ。君に向けられた攻撃を許せるかどうか……事情はあったとはいえ、ここの隊員みんなを危険な行為に晒す行動をしたわけだからね。カイル、どうする?このまま死にたいなら、それでも構わない」その声は、全員に届くようにゆっくりと言われた。「でも、私たちは、これから王に対してクーデターを起こす。君がこっちにつくなら、カイルほどの腕を持った戦力は貴重だと思っている」拠点内に、重い沈黙が落ちる。それから、誰かが一言「クーデター
last updateLast Updated : 2026-08-26
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62 四人で会いたかった

「みんなも急にそんな話をされたら、不安になるだろう。ダリウス、少し、ゆっくりそれぞれ考える時間を与えてほしい」レオンハルトは、隊員たちが、長い時間緊張にさらされ疲れていることもあり、それぞれ自分の考えを整理する時間が作れるように部屋を準備した。「カイル、お前はどうする?」ダリウスは、カイルに対して面白そうに反応を見ている。「おい、どうするって、俺は刺されてるんだぞ!」レオンハルトは、ダリウスに「そんなことを聞いて、どうするつもりなんだよ?」と慌てて声をかける。だが――「お前を刺したのはカイルじゃなくて、セリオなんだろう?確かに剣を構えたが、結局、やられたのはカイルの方だ。しかも、カイルがなぜその行動をとっているのか詳細をお前は知らなかったわけだ。でも、今は知っているんだろう。その上でどうするのか、お前も考えるんだな」ダリウスは、あくまでもセリオとカイルは違うと言いたいらしい。「そんなこと言って、また刺されたらどうするんだ?俺は、隊長である以上、みんなを守る義務がある。ダリウスは、もう総司令官じゃないだろう?ここで、なんの責任も取れない」そんなレオンハルトの意見は聞く気はないらしい。レオンハルトだって、そんなこと知っている。自分の立場なんて、もう王都に戻ってこないと思っている奴らにとってなんの役にも立たないことを。でも、ここにいる不安を抱えた隊員たちには、頼れる存在は必要だ。ただ、それは俺じゃなくてもいい。みんながクーデターに参加するなら、彼らの頼るべき人はダリウスの方がよっぽど経験も上司としての器も大きいことを知っていた。ダリウスは、そんな俺の考えを見抜いているのだろう。カイルの考えを確認する。カイルは最終的に、ダリウスの指示に従うと答えた。「じゃあ、責任を持って俺が見張っておく。それでレオンハルトはどうだ?」そう言って、ダリウスはカイルの足にチェーンを巻きつけ、カチリとそのチェーンに錠を下ろした。先ほどミレイユから痛めつけられた感覚が冷たい
last updateLast Updated : 2026-08-27
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63 抱きしめ合う二人だけの夜

「ミレイユ、錬金するなら俺も手伝うよ」それは、口実だ。 一緒にいたい……ただ、みんなの手前それは控えた方が良いことは分かっていた。「ああ、レオンハルト、ミレイユは私たちの計画に欠かせない人材だ。護衛として夜はそばで守ってやってくれ」ダリウスなりの配慮だろう。そう言われると、周囲もレオンハルトがミレイユに付き添うことは必要な行為という目に変わっていく。レオンハルトは、申し訳ないと思いながら、ミレイユと共に塔に戻った。あんなに色んなことがあったのに、そこは何も変わらない風景。それなのに、自分たちは色々ありすぎて、心は、張り詰めた糸のように限界を迎えていた。まずミレイユのフォローをしないと....そう思っていたレオンハルト。 まずレオンハルトさんに師匠のこと話さないと...そう考えていたミレイユ。それなのに、塔に入ってすぐ、言葉よりも先に互いの唇が重なり合う。最初は、先ほどまでのお互いのギクシャクしてしまった後で、触れてもいいのだろうかと、おそるおそる確かめるように唇を重ねていく。だが、少し触れ合っていくうちに、それはすぐに激しさを増し、お互いに我慢できなくなった。「……レオンハルト...さん」「……ミレイユ」名前を呼ぶ声さえ、その声をお互いが奪い合うように、次の口づけを求めあう。唇を重ねるたび、お互いの熱が増していった。レオンハルトの手はミレイユの首筋から体の線に沿って触れていき絡みあう。一方のミレイユも、レオンハルトの背中に手を回し、離そうとしなかった。互いの息もあがり、声が吐息が混ざって漏れ、離れてはまるで喰らいつく勢いで、どちらからともなくまた求める。「……ごめん、止まらない」レオンハルトの手は、ミレイユの頬から耳元へ、そして、首筋に唇を這わせていく。いよいよ、レオンハルトの指先がミレイユの服の下に潜り込んで素肌を追い求めそうになった瞬間、ミレイユがびくりと震え
last updateLast Updated : 2026-08-28
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64 満月の贈り物は命懸け

レオンハルトがコーヒーに砂糖をひとかけら落として三階に上がったとき、ミレイユは机いっぱいにヘルカーンのペーストと材料を並べて、魔物よけのベルを作っていた。「鈴の予備がもうないので、思い切ってベルに変えてみようと思います。重いけど大きいからむしろいい効果が出そうなんですよね」「鈴は今あるので最後か?」魔物よけの鈴は、隊員たちに配る上で絶対必要な物になるが....レオンハルトは心配そうにミレイユに聞いた。「いえ、効果がなくなった鈴を返して貰えばまた加工可能ですから、エンドレスに作れます。リサイクルですよ」ミレイユは、すごいでしょうとドヤ顔でいう。「でも、鈴にこだわらず、魔物よけはたくさんあるに越したことはないですからね」魔法紙と呼ばれる魔力を含んだ紙に、以前作ってあったヘルカーンのペーストをペタペタ塗り広げ、ベルに貼り付けていく。そして、ミレイユが手を広げ、そこからベル全体を包むように魔力を広く強く魔力のベールで囲んでいく。「ぐ....」ミレイユの額に汗が流れ、思わず奥歯を噛み締めるような声が漏れる。それを5分ぐらい……その姿勢を崩さず集中していく。苦しそうに見えるミレイユに、なんとかしてあげたいと思ってレオンハルトは見つめるが、これが彼女のプロの仕事なのだ。手は出せないし、見守るしかない――苦しそうな顔を見つめて、気持ちを共有するしかないと、レオンハルトも固唾を飲んで見つめた。それが落ち着くと、ふっとミレイユは息をつく。「これで効果の定着するのを待つのみです。すぐには錬金できないのでひと休憩」ミレイユは、そう笑って言いながら、汗を拭ってコーヒーを飲み一息ついた。その手が少し震える。「無理に元気でいようとしなくていい。俺の前でぐらい、苦しいって言って」レオンハルトはその震える手にそっと触れた。外から月の光が漏れ込んでくる。「レオンハルトさん……では
last updateLast Updated : 2026-08-29
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65 愛する人は血まみれでもかわいい

「で、俺は信用されたんでしょうか?こんな隠れ家基地に連れてきていただいて?」翌朝――ミレイユが昨日作った魔物よけベルは、効果1日だそうだ。 それを鳴らして、レオンハルトと一緒に作業するパートナーは、まさかのカイル。二人は、一緒に昨日解体した月影狼の毛皮を洗っていた。「お前を信用するわけがない。塔にはお前は入れないからな。俺が信用しているのは、その前隊長が作った足元のチェーンだ」朝日が昇るまで、月影狼を二人で解体し続けた。そして、解体は終わったものの、あまりに膨大なので、その処理を相談したら、ダリウスから、まさかのカイルを渡されたのだ。「そんなツンデレなこと言ってたら、ミレイユちゃんにそっぽ向かれますよ。あーあ、そんな道具を持って、樹海の中でいちゃいちゃしてるんじゃ、タウンハウスを張っていても何も出てこないはずですよね」カイルは、レオンハルトのことを恨めしそうな目で見つめた。「ミレイユだって、お前を完全に信用はしていない。というより、俺を殺そうとしたやつのことなんて信用できるか。俺は、お前のこと信じていたのに……」レオンハルトは、ムスッとしながら毛皮を洗い続けた。結局、カイルに何か傷つけられたのかと言われたら、心が傷つけられたのだ。しかも、ミレイユを匿う時に、信頼出来る人として一番最初に頭に浮かんだカイルに……だが、同時に自分もカイルは軽薄で遊んでいるという先入観を持って接していたから、後ろめたい気持ちもあって完全に許さないと言い切れないのだ。だから、憎まれ口ばかり叩いて、結局はその後沈黙の中で作業した。 水場で多くの血を洗い流したため、あの綺麗な水が少し濁って見える。 その代わり、毛皮は昨夜以上に銀色に光り、かなりの魔力を含んでいることが触れるだけで感じ取れた。「こんな時でなかったら……これ一枚いくらで売れるんでしょうね?」カイルは感嘆の声を上げた。レオンハルトも、だいぶ樹海のものは見慣れたが、植物も魔物も一般的なものに比べて明らかに魔力の含有量が多いのを感じてい
last updateLast Updated : 2026-08-30
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66 王を操る王妃と隠された王太子

国王カールヴァインは、王妃に勧められた葉巻を口にくわえ、ゆっくりと煙を燻らせた。今日も、部屋中に白い煙が部屋に満ちる。隣で王妃も微笑みながら、それを楽しんでいる。煙を吸うたび、俺は誰よりも強く、誰よりも賢く、誰よりもすごい存在になった気がした。王妃マーガレットは後妻だ。前妻セリーナは気立てこそ良かったが、何かと口うるさく、俺の目にはただの目障りな存在だった。しかし、世継ぎを産む道具としてなら、愛がなくても成立する。男児が無事生まれ、セリーナは別棟に移らせた。義務は終わりだ。夫婦の会話は、当然のようになくなった。腹立たしいのは、そのセリーナとの間に生まれた息子だ。まず、俺に似ていない。栗毛の髪は、俺の嫌いな弟にそっくり。顔も、どこか弟の影を感じさせる。弟セドリックは性格穏やかで、座学も剣術も優れている。平民にさえ優しく、国民の人気も高い。貴族の反発も社交性でかわす。敵を作らず、誰にも徒党を組まない。しかも、国王派であることを隠さない自分のために周囲との干渉を最小限にしている――そんな風に俺は誤解してしまいそうになる。でも知っている。あいつは俺に忠誠を誓っていない。俺の行動を常に監視し、裁量で勝手に動くこともある。結果的には俺に有利なことが多く、それがまた腹立たしい。あいつが弟でなければ、間違いなく手を出している。だが、弟だからこそ、簡単にはできない。そして、その弟に似た子供を産んだセリーナへの怒りは、ますます募る。俺に言い寄る女性は多い。俺を理解し、力になりたいと言う女もたくさんいる。世の中にはもっと若く、美しく、どこに出しても羨ましがられる女がいる。王という立場なら、当然それを求められる。マーガレットは、その中で特別だった。俺を必要だとすがり、俺を立て、気持ちよく自信をつけさせてくれる。さらには若く、美しい。セリーナさえいなければ、この女と
last updateLast Updated : 2026-08-31
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67 魅了の王妃、マーガレット

王妃マーガレットは、魔力依存のある葉巻を王に渡していた。その葉巻は吸った者の精神に作用し、心にある疑念や感情を大きく膨れ上がらせる。王が今見ている自身の感情も、そのせいだわ。もともと心にあった些細な疑念が、ただ増幅されただけだし、なかったものを作り上げたわけではない。魔力依存の葉巻を渡すなんて悪い妻だろうか?いえ、そんなわけがない。それを使えば出来ないと思ったことが出来ることもある。ただし、出来もしないくせに、出来る力があると思い込めば……つまりは、渡した私が悪いのではなく、受け取った側の人間性の問題だ。(王は短絡的な男だっただけのことよね)マーガレットは、呆れたようにぼんやりとしている王を見下ろした。「妻は弟と不倫しているのではないか?」と疑えば、やがて本当にそう見える。「息子は弟に似ている」と思えば、「息子は弟の子だ」という確信に変わっていく。「自分は弟と違い、王政を担える素晴らしい人物だ」と言い聞かせても、心の中に「弟よりも劣っているのではないか」と思っていれば、不安感が増し増幅される。もともと疑い深い王だった。王と弟は兄弟なのだから、子供が遺伝子的に受け継ぐものが似ていても当たり前なのにね。そんな小さなことすら疑念にする方が問題なのよ。でも、そんな男だからこそ、葉巻の作用を受けやすかった。私は、その王の隠されることのない心の澱みを眺めながら、眉をひそめる。更には、この王は見栄っ張りだった。王が私に夢中なのは、私ではない事を私は知っている。私に求めているものも、愛ではない。王は、周りに羨ましい、こんな妻を持つ王は素晴らしいと思ってもらいたいのだ。それは、前妻にはない、若さであり、美しさである。自分に相応しい飾り物を、選び、自身の隣で飾り立てることで自分を大きく見せようと必死にあがいていることに本人は気づいていなかった。王にとって私は、前妻よりも見
last updateLast Updated : 2026-09-01
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68 狂った兄を討つべきか

五年前のこと。私の兄で、王のカールヴァインは、当時25歳だった今の後妻マーガレットと出会ってから、様子がおかしくなった。言葉は尊大になり、周囲を見下す傲慢な態度で接する。 私と目を合わせることも減った。兄は、王太子時代から決して出来が良いと言える人物ではなかった。まず、堅苦しい貴族のルールが苦手で、好き勝手に自分の解釈で変えてしまう。貴族のルールが、気に入らないと思うのは誰しも一度は持つ感情だ。しかし、様々な価値観が集う中で考えられて作られたものなのである。それを変えれば、貴族派からはすぐ不満が噴出する。しかも、熟慮せず、思いつきで行動するから、余計に兄をよく思わない者が出てしまうのだった。帝王学も学ばなかった。いろんな家庭教師たちの態度、教え方が気に入らないと首にする。結婚や後継ぎの義務も嫌い、若く美しい女性にすぐ手を出す。そんな兄の妻になりたいものなどなかなか見つからない。婚期も遅れる。周囲はヒヤヒヤしていたが、政治に関しては、極端に変化を求めるタイプでもないので、みんなでフォローすれば大丈夫だと思われていた。王になってからも不満は絶えなかったが、それは宰相や私、次男ダリウスが支えれば何とかなる程度だった。ところが、そんな兄も50才を過ぎ、後継問題もあって迎えられたのが、30歳の前妻セリーナ。30歳は国では相当遅い結婚だ。 だが、それでも兄より20歳若いので、年齢差のバランスを見て、出産も考えるならギリギリの年齢だ。でも、兄は、結婚適齢期を過ぎた上に、はっきり自分の意思を伝えるセリーナを受け入れられず、二人が心を交わすことはなかった。それでも男児は生まれ、周囲はひとまず安心した。しかし……兄の女遊びはその後、ますます激しくなる。子供が生まれて一年も経たないうちに、社交界で兄の隣にいるのは25歳の今の王妃マーガレット。そんなマーガレットを周囲は狂信的に持ち上げ、嫌な予感がしていた。色んな男性に手を出している噂も絶えず、怪しい魔力を感じる。私の防御魔法が、彼女の力を弾くくら
last updateLast Updated : 2026-09-02
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69 月影狼と対極する魔核

レオンハルトが昨夜狩った月影狼の肉を拠点に持ち帰っているころ、ミレイユはようやく目を覚ました。「ふぅ……少し疲れが取れたかな」頭の中に、いろんな出来事がぐるぐると回る。一番最初に浮かんだのは、昨夜の月影狼の恐怖体験とその解体作業だ。一生分の解体をした。そのぐらい、何個目玉を見て、何枚毛皮を剥いで、何個肉のブロックを積み上げたことか?そして……やはり、最後まではいかなくても、レオンハルトさんと気持ちが通じ合って、濃厚なスキンシップがあったことだ。「私……意外と肉食だった気がする」あんなに、お互いにがっつくように求め合うなんて、思いもしなかった。はしたないと思われてないかしら……もっと触れてほしい、一線も……そう思ったのに。最後までなかったのは……少しだけ肩透かしだった。「誠実な男性とお付き合いすると……欲求不満になる?」そう呟いて、何を私ってば思っているんだか!痴女すぎるわとバタバタ顔を叩き、暴れた。でも……最後に思い出したのは、ダリウスとアドリアンさん。「だめじゃないの。師匠、早く帰ってきてよ……私がここまで大きくしたって、アドリアンさんに胸張って伝えたかったんじゃないの?私はね、伝えたいこと、いっぱいあるんだから。無事でいてよ」溢れる涙を、慌てて堪える。今はまだ泣く時じゃない。苦しんでいる師匠を、少しでも早く助けなければならない。前とは違う。ちゃんと敵が見えている。魔術師団長ライナルに勝てるだけの戦力を、私が錬金術でみんなに付与して対抗しなければいけない時だ。「師匠……会いたい。みんな、師匠に会いたがってるのよ」命をかけてクーデターを起こしてでも師匠を取り戻そうとしている。アドリアンさんなんて、一度は
last updateLast Updated : 2026-09-03
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70 お互いに欲求不満?

で――そうなったわけだ。レオンハルトは、目の前で「すいません」と落ち込んでいるミレイユを見て、仕方ないなと少しだけ怖い顔をして、すぐ戻す。……毎度お馴染みの行動である。そのくせ、最近はこんなミレイユが可愛いと思っているのだから仕方ない。ただ、さすがに今回はちょっと事情が違う。振り返ればいつも返り血、血まみれなのはお馴染みだ。しかし、自らが血まみれは初パターンなのだ。◇レオンハルトが、狼肉と塔にあった調味料を拠点に運び、みんなでバーベキューの準備をしている時だ。塔に残っていたミレイユを迎えにきて声をかけ、その、振り向いた瞬間――「うわあああああっ!おい!?なんで、そんなに血まみれなんだ!!」先ほど暴発した加工石が、ミレイユの額を直撃したため、眉間の上から血が垂れ、赤く腫れた顔は痛々しい。それなのに、本人は全く気づかず、睡眠玉を楽しそうに作って並べている。「すぐポーション飲め!」「いえ、大丈夫です。時間が経てば治りますし……ポーションは貴重ですから」ミレイユは、何を馬鹿なことを言ってるんですか?ぐらいの雰囲気であっけらかんとしていた。「なに言ってんだ。女の子だぞ、それも顔だ!ここで使わなくて、いつ使うんだ!」「あー、猛スピードでしたからね」だが、さすがに渡された鏡の中の自分に、ミレイユも鏡の自分をガン見する。「ああ……これは……確かに腫れ方はひどい……かも」「ひどいのレベルじゃない。あの石が猛スピードで飛んできたんだろ。むしろ死ななくてよかったよ。あのペンダントがあったから助かったんじゃないか?」それは、ミレイユとレオンハルトのヘルカーンから作ったお揃いのペンダントだ。どうして、錬金術をやったら痛覚が鈍麻するんだと頭を抱えたくなる。「確かに、物理カットが効いてい
last updateLast Updated : 2026-09-04
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