花音はずっとうつむいたままだった。だから向かいの鏡に映る明臣が、冷たく澄んだ瞳で自分をじっと見つめていることには気づかなかった。「花音」花音は小さく「……うん」と返事をした。その瞬間、彼は花音を抱く腕にぐっと力を込め、彼女を見つめる瞳の奥に、静かな揺らぎが走った。「……元気がないな」低く澄んだ声。その声音からは、何を思っているのか読み取れない。花音の胸がきゅっと締めつけられる。それでも表情には何も出さなかった。「ごめんね、明臣。せっかく私のために用意してくれたウェディングドレスなのに、私が破いちゃって……」花音の声はさらに小さくなった。まるで悪いことをしてしまった子どものように、どうしていいかわからず、申し訳なさと悲しさがにじんでいる。花音のいつもと違う様子に抱いていた明臣の疑念は、蜘蛛の糸がほどけるように消えていった。そうか。気にしていたのは、ドレスが破れてしまったことか。花音は自分を誰より愛し、二人の結婚式を心から楽しみにしている。だからこそ、このウェディングドレスも大切に思っているのだ。明臣は向き直ると、両手で花音の頬を包み込んだ。少し赤くなった目尻と、不安そうに揺れる瞳を見つめた瞬間、胸がちくりと痛む。自然と声まで優しくなった。「前にも言っただろ。ドレス一着くらい、どうってことない。またデザイナーに頼んで、これよりもっときれいなのを作ってもらえばいい。な?」語尾を少し上げたその澄んだ声は、耳に心地よく響いた。花音はこくりとうなずく。目元をやわらかく細め、さっきまでとは打って変わって、目に見えてうれしそうな笑みが広がった。「うん、分かった」赤い唇がやわらかく開き、頭上の照明を受けてみずみずしい艶がきらりと光った。明臣の瞳がわずかに深みを帯びる。花音の手を握る力も、知らず知らずのうちに強くなっていた。「帰ろう」花音はうなずき、さりげなく里奈のスマホを手に取ると、口元にかすかな笑みを浮かべた。里奈がうっかりここに置き忘れていったのなら、もちろん自分で返してあげないと。二人が試着室を出ると、里奈はソファに座り、雑誌の写真を指さしながら店員と話していた。花音は目を細め、スマホを握る手にそっと力を込める。二人の姿に気づいた里奈は雑誌を脇に置き、笑みを浮かべながら近づいてき
اقرأ المزيد