夜更けの本堂に、再び集まった面々。 住職・古沢透の低い声が、蝋燭の炎に揺れる空気を切り裂く。 「……橘家が抱えてきた因縁。祐真、そして春香。お前たちが立ち向かうべきものは、この村に根を張った“記憶の封印”なのだ」 その言葉に、春香は唇を強く噛んだ。 彼女の脳裏に、幼い日の記憶が断片的に浮かぶ。秋祭りのざわめき、紙灯籠の光、そして森へと駆けていった小さな背中──。 「……美桜……」 掠れた声で、春香は妹の名を呼んだ。 だが次の瞬間、胸を締めつける痛みに思わず頭を押さえる。記憶の奥に潜む何かが、強引に彼女を拒んでいる。 氷川美奈が慌てて肩を支える。 「春香さん、無理しないで……!」 古沢透は目を細め、ゆっくりと経を唱えはじめた。すると本堂の空気がわずかに緩み、春香の呼吸が落ち着いていく。 「記憶は力だ。しかし、同時に呪いにもなる」 古沢は深い声で続ける。 「橘家の娘──美桜が森で消えた日。秋祭りでくれはを失った日。二つの喪失は“結界”として積み重なり、この村を縛っている」 祐真は目を閉じ、心の奥底でその言葉を反芻した。 彼がこの事件に執着してきた理由。幼い頃から、失われた子どもたちの影が自分の人生の背後に潜んでいた。 彼の罪悪感は「守れなかった者がいる」という、理由なき自責と結びついていたのだ。 「だから、俺は──見届けなきゃならないんだ」 祐真の声は震えていたが、確かな決意が宿っていた。
Last Updated : 2026-08-04 Read more