ざわつく人垣の中で、誰かがぼそりと呟いた。「……やっぱり、あの“森”じゃねえのか」その一言が火種となり、村人たちの口から次々に古い噂が飛び出していった。「子どもが消えるのは、決まって祭りの頃だ」「そうだ。秋祭りの夜、森へ近づいた子は……必ず」「“呼ばれる”んだよな」春香の心臓が、強く跳ねた。──呼ばれる。それは二十年前、美桜が姿を消した時から、ずっと耳にしてきた言葉だった。「美桜ちゃんの時もそうだった。確か……祭りの夜だったな」「他にもいるだろう? もう三人、いや四人か……」「皆、年の近い子どもたちだ。不思議と年齢も重なるんだよ」春香の頭に、恐ろしい事実が浮かび上がっていく。消えた子どもたちは、皆──三歳前後。まるで、誰かに選ばれているかのように。美奈も春香の手を握りしめ、小声で囁いた。「……紅葉は十七歳だけど……“呼ばれる子”の共通点に当てはまらない……。 それなのに、なぜ……」その問いは、春香自身の胸にも突き刺さった。ざわめきの渦の中、誰かが祐真を睨みつける。「祐真、お前は……都会で逃げてたんじゃないのか?」「そうだろう、あの日の記憶から。なのに何で、また村に戻ってきた」祐真は顔をしかめ、唇を噛んだ。「……俺が望んだわけじゃない。異動の辞令で……たまたま、ここに……」「たまたま?」「いや、呼ばれたんじゃないのか?」「二十年前の“あの日”を、まだ森が許していないんだ」村人たちの言葉に、春香の背筋がぞくりと冷えた。
Last Updated : 2026-08-14 Read more