石碑に刻まれた紋様が赤々と脈打ち始めた。それは灯籠の火のような安定した光ではなく、生き物の鼓動のように強弱を繰り返しながら、闇を押し広げていく。春香は胸を締めつけられるように感じ、思わず美奈の手を握った。美奈も怯えながら、その温もりに縋る。「……おかしい」古沢住職の額に冷や汗が浮かぶ。「印は本来、静かに封を保つものだ。こんな……呼応のような反応を示すはずがない……」その言葉と同時に、石碑の周囲の空気がゆらぎ始めた。冷気が渦巻き、土と落ち葉が小さな竜巻のように舞い上がる。祐真が懐中電灯を向けた瞬間、彼の目に映ったのは──石碑の前に、輪郭の定まらない“影”が立ち現れる姿だった。それは人の形をしていた。だが、顔は闇に溶け、手足はゆらゆらと煙のように崩れかけている。そして、口のような裂け目が開き、低く、湿った声がもれた。「……かえして……」春香は息を呑んだ。その声は、二十年前、最後に美桜を呼んだ“声”と同じ響きだったからだ。「……美桜……なの?」思わず名を呼んだその瞬間、影の輪郭が一瞬だけ少女の姿をかたどった。小さな腕、小さな瞳。──しかし、すぐにそれは闇に溶け、歪んでいく。美奈が悲鳴を上げた。「紅葉!?」確かに、影の中には紅葉の顔にも似た一瞬の像が浮かんだ。二人の少女の姿が、まるで重なるように交互に現れては消えていく。「やめろッ!」祐真が一歩前に出た。「お前は……何者だ!? 美桜でも、紅葉でもないだろう!」
Last Updated : 2026-08-23 Read more