私は、深夜の恋愛相談番組で10年間、パーソナリティを務めてきた。今夜は番組の第521回。東都に初雪が降った日であり、法学教授の久世律人(くぜ りつと)と結婚して7年目の記念日でもあった。5分間のCM中、私はコンソールの上に置いた妊娠検査の結果を見つめ、思わず口元をほころばせた。用紙には、はっきりと記されていた。――妊娠8週。律人への、結婚7周年の贈り物にするつもりだった。いつも冷静で感情を表に出さない彼が、この知らせを聞いたらどんな顔をするだろう。驚き、喜ぶ姿を思い浮かべながら、私は律人に電話をかけた。1度目は、しばらく呼び出したあとに切られた。2度目は、すぐに拒否された。3度目には、電源が切られていた。律人は、規律を何より重んじる法学者だった。以前、どこにいても私からの電話なら、たとえ会議中でも中断して必ず出ると、真剣な顔で約束してくれたことがある。けれど今夜、ようやく授かった、ずっと待ち望んでいた子どものことを、胸を弾ませながら自分の口で伝えようとしたそのとき、律人とは連絡がつかなくなった。「水瀬さん、電話がつながりました!」ディレクターの小宮奈々(こみや なな)が、焦った様子で合図を送ってくる。私は深く息を吸い、妊娠検査の結果を大切にバッグへしまうと、マイクのフェーダーを上げた。電波の向こうから、若い女性の声が聞こえてきた。その声には、隠しきれない甘さと得意げな響きがにじんでいた。「水瀬さん、こんばんは。既婚者の大学教授を好きになったんです。今日は、その人の結婚7周年の記念日なんですけど、私がフルーツを切っていて指を切ったってメッセージを送ったら、奥さんを置いて、吹雪の中すぐに家まで来てくれたんです」なぜか、律人の顔が脳裏に浮かんだ。胸が大きく跳ねる。「そんな小さな怪我で相手の気持ちを試し、他人の家庭を壊そうとするのはよくありません。たとえ勝ったつもりでも、最後に追い詰められるのは自分ですよ」「でも、私の圧勝なんです。あの人、堅物で有名なのに、私にだけは……特別なんです」私の夫も、そういう人だった。周囲からは冷淡で禁欲的に見られているのに、私にだけは惜しみなく気遣いと愛情を向けてくれる。女性が弾むように笑った。「水瀬さん、知ってます?ついさっき、奥さんか
Magbasa pa