All Chapters of 夫の浮気相手は、私の妹でした〜いまから夫の浮気を暴きます〜: Chapter 71 - Chapter 80

81 Chapters

70話

「何の話をしに行くの?」 母へ聞くと、電話の向こうで少し間があった。 「私と香織の、これからの話。美咲に会ってもらうためじゃないよ」 私は台に置いた皿を見た。 「帰りに来るのも、香織への返事を聞くためじゃない?」 「うん。あなたとご飯を食べたい。都合が悪ければ、別の日でいいの」 夕食なら、一緒に食べたかった。 「仕事から帰って、陽翔を迎えに行ったあとなら」 「じゃあ、その頃に。何か買っていくね」 私は必要な食材を伝えた。 妹のために何をしてあげるかではなく、明日の夕飯を何にするか。 話し終えてから、流しへ皿を運んだ。 …… 翌日、母は買い物袋を提げて来た。 陽翔が玄関へ駆けていき、私は後ろから、足元を見てねと声をかけた。 「ばあば、みて」 息子は描きかけの絵を取りに戻った。母は靴を脱ぎ、買い物袋を私に渡した。 鞄の口が開いたとき、私はつい中へ目をやってしまった。 手紙か、何かの写しか。預かってきたものがあるのではないかと、まだ身構えている自分がいた。 母が私の視線に気づいた。 「香織から、渡してほしいものは預かってないよ」 「……うん」 すぐに謝ることもできず、袋を台所へ持っていった。
last updateLast Updated : 2026-10-21
Read more

71話

彼と一緒にいたい。けれど、彼と一緒にいることだけを、自分の人生の答えにはしたくなかった。 金曜日の朝、私はそう書いたメモを、パソコンの横に置いた。 陽翔を園へ送って戻ると、打合せまであと10分あった。 洗ったマグカップにお茶を入れ、机の原稿をそろえる。 水曜の夜に送ったメールには、翌朝、日程の返事が来ていた。 こちらから相談したいと言ったのに、画面をつなぐ直前になると、連載だけでは足りないと言われるのが怖くなる。 机の端に追いやりかけたメモを、手元へ戻した。 「お時間ありがとうございます」 画面に担当編集者が映った。挨拶のあと、私は用意した章立てを送った。 これまでの連載を出来事の順に並べたものだった。 「離婚が成立するところまでは、この流れで読めますね」 担当者が最後の項目へ指を動かした。 「そのあとを、どう書きたいですか」 仕事。陽翔との生活。蓮司のこと。 挙げようと思えば、いくつもあった。でも、何が起きたかを並べるだけなら、今送ったものと変わらない。 「ちゃんと立ち直った、と書かないといけない気がしていました」 言ってから、画面の向こうを見た。 「今は、そう言い切れませんか」 「楽しい日もあります。でも、怖くなる日もあるので」 担当者は急いで励まさず、続きを待った。 私は横のメモに目を落とした。大きな成功があれば、最後の一章にでき
last updateLast Updated : 2026-10-22
Read more

72話

待合せの柱のそばで蓮司を見つけ、私はまっすぐ歩いていった。 「お待たせしました」 振り向いた彼の右隣に並び、蓮司の右手へ、私の左手を伸ばした。 指先が触れたとき、蓮司が私を見た。 「今日は、ここからですか」 「帰りだけにしなくても、いいかなと思って」 「僕は、その方が嬉しいです」 指が重なり、しっかり握り返された。言い出したのは私なのに、彼の顔を見続けられなくなった。 駅前の人の流れに合わせて歩く。いつもより少し近い肩を、離さなくてよかった。 母は約束どおり昼に来てくれた。 陽翔は祖母と何をして遊ぶか考えていて、出るときには手を振ってくれた。 17時までには戻る。その時間を確かめてから、私は家を出た。 今は、蓮司と映画館へ行く時間だった。 ……  入口でチケットを出すために手を離した。彼が画面を見せている横で、私は壁のポスターを眺めた。 暗い廊下の奥に、人影が立っている。 「思っていたより、怖そうですね」 蓮司も同じものを見ていた。 「そうですね」 「そこは、違いますよと言ってほしかったです」 笑ってしまった。 「今から別のにします?」 「いえ。今日はこれを見たくて来たので」 困ったよ
last updateLast Updated : 2026-10-23
Read more

74話

金曜日の朝、私は事業の担当者へ、保存していた文を送った。 【今回の出資の検討は、いったん区切っていただきたいです。今は書籍の原稿を優先したいと考えています】 夕食の夜から、1週間かけて何度も読んだ文だった。 先へ進める機会を、自分から閉じてしまってよいのか。送信する直前にも、指が止まった。 机に置いた予定表には、勤務日と園の予定、原稿の締切が書き込んである。 事業の作業を足すなら、今残っている時間をどこかで削ることになる。 私は予定表を閉じた。 一冊になるところまで、自分の文章を書いてみたかった。 しばらくして、担当者から受け取ったとの返事が届いた。 今回の検討は終了として扱い、再開するときには改めて相談することになった。 また始めれば必ず同じ条件がある、とは書かれていなかった。 私はその文を読み、了承したと返した。 ……  昼休みの時間に、蓮司から電話があった。 「担当から聞きました。書籍を先に進めるんですね」 「はい。両方を進めるつもりでしたが、今は難しいと思いました」 「分かりました。仕事の方は、届いた回答のとおりで」 声がよそよそしくなった気がして、私は一瞬、言葉を探した。 けれど、次に聞かれたのは別のことだった。 「今日の原稿は、何時頃までかかりそうですか」 「迎えに行く前には送りたいです。どうして
last updateLast Updated : 2026-10-25
Read more

75話

翌日、面会室へ入ると、陽翔は私の手を握り直した。 前と同じ部屋だった。机は壁際へ寄せられ、床には柔らかいボールが置かれている。 崇はひとりで来ていた。 「陽翔」 立ち上がりかけてから、また腰を落とした。 「一緒にやろうか」 息子は私を見た。私は手をほどき、隅の椅子を指した。 「ママ、ここにいるね」 陽翔が床へ座ってから、私も腰を下ろした。 支援員の人は、父子の横で見てくれている。ふたりの間に、ボールがひとつあった。 前回から4週間が経っていた。 その間に言葉で確認したことが、今日、守られるかどうかは、まだ分からない。 崇がゆっくりボールを押した。陽翔の膝に当たって止まる。 息子は両手で持ち、今度は父へ返した。 ……  初めのうち、陽翔はボールを送るたびに私の方を見た。 私は笑顔を作ってみせようとして、やめた。ただ、見ていると分かるように、顔を上げていた。 崇が両手を広げる。 「こっちまで届くかな」 少し強く押された球が、父の手の間を抜けた。 陽翔が笑った。崇が後ろへ回った球を取りに行くと、息子はもう次を待って、両手を床に置いていた。 その姿を見て、膝の上で握っていた指をほどいた。 しばらくして、球が脇へそれた。
last updateLast Updated : 2026-10-26
Read more

76話

「蓮司さんと、毎日同じ家に帰ってきたいと思いました」 土曜日の午後、飲み物が運ばれてきてから、私はそう切り出した。 蓮司はカップへ伸ばしかけた手を止めた。 「夕食のあと、ですか」 「はい。次も来てほしいって言いましたけど、それだけじゃなかったんです」 テーブルの木目を見つめ、顔を上げる。 今日は彼に話すために来た。 母には預かってもらう時刻を伝え、陽翔にも帰る時間を約束してある。 ここで別の話をして帰りたくなかった。 「帰ってくるのを待ちたいです。でも、待っているだけの人にはなりたくありません」 言葉を選ぶうち、少し早口になった。 「仕事も、書くことも続けたいし、ひとりで考えたい日もあると思います。そういう私のままで、一緒に暮らしたいです」 蓮司はすぐには答えなかった。 今の言い方では、してほしくないことばかりに聞こえただろうか。付け足そうとすると、彼が口を開いた。 「美咲さんが書いている間、僕は何をしていたらいいでしょう」 私は瞬きをした。 「……蓮司さんの、したいことを」 「隣の部屋にいても?」 「はい」 「読み終わった本の話を、あとで聞いてもらってもいいですか」 顔が少し緩んだ。 「締切の直前じゃなければ」 「では、その
last updateLast Updated : 2026-10-27
Read more

77話

日曜日の朝、私は陽翔の隣へ座った。 「少し、ママの話を聞いてもらってもいい?」 息子は描いていた絵から顔を上げた。私は使っていない色鉛筆を端へ寄せ、ふたりの間を空けた。 「ママ、蓮司さんと結婚して、一緒に暮らしたいと思っているんだ」 陽翔はすぐには何も言わなかった。 手に持った青い鉛筆を、絵の上で一度転がす。 嬉しいと言ってくれたら、きっと私は安心する。でも、その言葉をもらうために話し始めたのではなかった。 「れんじさん、きょうくるの?」 「今日は、あとで来てもらおうと思ってる。一緒に住むのは、もう少し先だよ」 「おとまり?」 「泊まりに来る日だけじゃなくて、この家で一緒に暮らすようにしたいの。準備して、いつからか決めたら、ちゃんと話すね」 その答えが、すぐに絵になるわけではないのだと思った。 陽翔は首を少し傾けた。 「パパは?」 私は息子の方へ体を向け直した。 「パパとは、今までみたいに会うための相談をするよ。蓮司さんと暮らすから、パパを好きじゃなくならないといけないわけではないよ」 「ボール、またする?」 「遊びたいことは、伝えようね。会う日は大人が相談して決めるから」 息子は絵へ視線を戻した。 すぐに笑ってくれたわけではなかった。それでも、気になることを私に聞いてくれた。私は、その問いへ答えるところから始められた。 「分からないこ
last updateLast Updated : 2026-10-28
Read more

78話

翌朝、陽翔を園へ送ってから、私は最初の章を開いた。 書き直した方がいいと思いながら、触れずにいた段落があった。 何をすべきだったかを、今の自分から過去の自分へ言い聞かせている。 読んだ人まで、同じようにしなければと思うかもしれない。 その段落を、あの日、自分が実際に見たものと、できなかったことから書き直した。 正しい結論を先に置くより、時間がかかった。 昼近くになって読み返すと、ようやく、迷っていた自分がそこにいた。 その先の一文を、今度は自分で書きたいと思えた。 ……  原稿を書き、担当者に読んでもらい、また直す。 既存の記事を使う範囲と書籍の契約条件も確認し、納得してから契約した。 名義は連載と同じものにした。家族の写真や、暮らす場所を知らせる内容は載せなかった。 週4日の仕事を続けながら書くと、予定どおりには進まない週もあった。 できたところまで送り、次の期限を相談した。 母と会長には、その間に結婚することを伝えた。 母は少し目を潤ませてから、どんな日にしたいのかと聞いた。 会長も、蓮司の話を聞いたあと、私へ同じことを尋ねた。 私は、近い人たちと落ち着いて祝いたいと答えた。 誰にどう説明すれば認めてもらえるかではなく、ふたりがどう過ごしたいかを話せた。 校正の戻しを終える頃には、式の日も決まっていた。 
last updateLast Updated : 2026-10-29
Read more

79話

翌週末、控室の扉を開けると、蓮司が窓のそばで待っていた。 私に気づき、手にしていた進行表を椅子へ置く。 私は部屋へ一歩入り、裾を踏まないように足元を確かめてから、彼を見た。 「どうですか」 少し早口になってしまった。 蓮司は私の顔から肩へ、白いドレスの裾へと視線を移した。それから、もう一度目を合わせた。 「きれいです。思っていたより、ずっと」 言ってから、彼も困ったように笑った。 「練習してきたことが、全部飛びました」 「練習してくれたんですか」 「何も言わなかったら気になると、言われたので」 覚えていてくれた。 私が欲しかった言葉を、義務だから用意したようには聞こえなかった。 彼はまだ、少し照れた顔で私を見ている。 頬が熱くなった。ちゃんと見てほしくてここに立ったのに、今度は目をそらしたくなる。 「蓮司さんも、素敵です」 濃い色の上着を着て、いつもより少し背筋を伸ばした彼が、すぐ目の前にいた。 「僕は、何を言われても平気だと思っていました」 「平気じゃないんですか」 「今、少し困っています」 声を立てて笑うと、彼の肩も緩んだ。 私から近づいて、差し出された手に指を重ねた。いつもの手だった。 それが嬉しくて、指の間を少し詰めた。 
last updateLast Updated : 2026-10-30
Read more
PREV
1
...
456789
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status