晴子が「奥様」と声をかけた途端、まるで水を打ったように、ソファで笑い合っていた三人は一瞬にして表情をこわばらせ、ぴたりと口を閉ざした。宥里は口元にうっすらと笑みを浮かべた。スリッパに履き替えようとしたそのとき、自分用のスリッパを香織が履いているのが目に入り、すっかり履き替える気が失せてしまった。そのまま裸足でリビングへと踏み込んだ。彼女の足音が、乾いて響く。「ごめんなさいね。ずいぶんと楽しそうな家族団欒の邪魔をしてしまって」宥里は口を開いた。知輝が弾かれたようにソファから立ち上がった。宥里を捉えたその目の奥に、一瞬だけ動揺がよぎる。だが口をついて出たのは、冷ややかな叱責だった。「家族団欒だと?少しは頭を使ってから物を言ったらどうだ」宥里は思わず吹き出しそうになった。無論、呆れ笑いだ。服を乱したままの三人を指し示す。「じゃあ、私の勘違いってわけ?」香織が慌ててソファから身を起こした。その拍子に、もともと緩んでいた襟元がさらに大きくはだけてしまう。だが本人はまるで気づいていない様子で、ただ怯えた子犬のような目で宥里を見つめるばかりだ。「いや、その……違うんです。宥里さんが思っているようなことじゃなくて。もともとは陽太くんとふざけていただけで、それが、その……」「香織、あいつに説明などしてやる必要はない。心が汚れているやつには、何を見ても汚く見えるんだ」最後のひと言を、知輝は噛みつくように吐き捨てた。宥里は体の脇で拳を固く握りしめた。心臓の鼓動が耳の奥でうるさく鳴っている。知輝が何を言いたいのか、宥里には痛いほどわかっていた。七年前、二人の間に起きたあの行き違いのことだ。いや、宥里にとってそれは、ただの行き違いにすぎなかった。だが知輝にとっては、宥里が浅ましい下心から、わざと自分のベッドに潜り込んできた出来事だったのだ。その後どれほど証拠を並べ立て、言葉を尽くして潔白を訴えようと、知輝の中で宥里はとうに「有罪」と決まっていた。この七年間、彼が一度もその話を蒸し返さないのは、忘れたからでも水に流したからでもない。彼にとってそれは一生消えることのない汚点であり、口にするのさえ胸糞の悪くなる過去だったからだ。宥里は深く息を吸い込み、握りしめていた手をそっと開いた。これ以上何を言っても無駄だ。どうせ離婚す
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